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「稽留流産」とは?原因やなりやすい人など医師が解説!

 更新日:2023/03/27
「稽留流産」とは?原因やなりやすい人など医師が解説!

妊娠が分かると、嬉しい気持ちと同時に、さまざまな不安が生じてきます。

その中の1つである流産は、残念ながら誰にでも起こりうるものです。その中でも稽留流産は流産の自覚症状がなく、妊婦健診で初めて流産していることを知るので、妊婦さんのショックは計り知れないものとなります。

今回は稽留流産の兆候・治療方法の他に、稽留流産と分かった場合のご家族のサポート方法についても詳しくご紹介します。

郷 正憲

監修医師
郷 正憲(徳島赤十字病院)

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徳島赤十字病院勤務。著書は「看護師と研修医のための全身管理の本」。日本麻酔科学会専門医、日本救急医学会ICLSコースディレクター、JB-POT。

稽留流産とは?

お腹に手を当てる女性

稽留流産とはどのような状況ですか?

稽留流産とは、出血や腹痛などの自覚症状はないものの、超音波検査で胎児の心拍が確認できなくなり、自然に胎児の成長が止まってしまった状況のことをいいます。
流産とは、妊娠22週未満に妊娠が継続できずに終了してしまうことです。流産が起こる時期によって、妊娠12週未満の「早期流産」、それ以降の「後期流産」とに分けられます。
稽留流産は、その多くが妊娠12週未満の早期に起こるものです。日本産婦人科学会によると、妊娠全体の約15%に流産が起こり、その80%以上が早期流産であることが分かっています。

稽留流産の兆候として現れる症状を教えて下さい。

稽留流産は、他の流産と違い出血や腹痛などの自覚症状がないので、自分で流産の兆候を見つけることは難しく、妊婦健診の超音波検査で初めて分かります。
例えば、妊娠したことに気づかないまま稽留流産となっている場合もあります。この場合は、胎児がお腹の中で亡くなっても気づかないので、受診もせず発見が遅れてしまうのです。
数日〜数週間経って、出血が始まり、発熱・腹痛などの症状が出て感染症を引き起こしてしまうため注意が必要となります。

通常の流産とはどう違うのでしょうか?

流産は、その症状によって稽留流産・進行流産の2つに分けられます。
先ほどお話ししたように、稽留流産は自覚症状がなく、胎児の心拍・成長が止まって子宮内容物(胎児をつくる組織・付属物)がそのままお腹の中に留まってしまっている状態です。それに対して進行流産とは、出血・腹痛などの自覚症状がみられ、子宮内容物が外に出てきてしまっている状態のことをいいます。
進行流産は、さらにその進行具合から完全流産・不全流産に分けられます。完全流産とは、子宮内容物がすべて自然に外に出てしまった状態です。この場合、出血・腹痛などの症状は治まっている場合が多いです。
不全流産とは、子宮内容物が外に出始めてはいますが、まだ子宮内に一部が残っている状態のことをいいます。この場合、出血・腹痛が続いている場合が多いです。

稽留流産になってしまう原因を知りたいです。

流産には、胎児側に原因がある場合と、母体側に原因がある場合が主な原因です。稽留流産を含む早期流産の原因の約70〜80%は、受精卵の染色体異常が原因です。
受精卵とは胎児側の原因で、受精した段階で流産がそうでないかが決まっています。初期の流産では、ストレス・喫煙・飲酒・薬の服用・運動・仕事などが原因ではないかと思ってしまうかもしれません。
しかし、それらが直接の原因で稽留流産を起こしてしまうわけではないことを知っておいて下さい。

稽留流産の特徴や診断・検査方法

病院風景

稽留流産になりやすい人の特徴や年齢が知りたいです。

妊娠した女性の年齢が高いほど、早期流産の発生率も高いことが分かっています。早期流産の発生率は、20歳代では10%であるのに対して40歳代では40%以上です。
染色体異常についても母体の年齢が高いほど発生率も増加します。日本産婦人科学会の調べでは、40歳以上の流産では80%以上が染色体異常であることが報告されています。
一般的に、流産になりやすいのは、子宮形態異常などの子宮疾患・多胎妊娠(2人以上の胎児を同時に妊娠すること)・血栓症を引き起こしやすい疾患を持っている人です。その他には、喫煙している人・ストレスのある人・アルコール摂取する人・カフェインを多く摂る人などもリスクとして考えられます。
しかし稽留流産の主な原因は、受精卵の染色体異常です。母体側ではなく胎児側の原因であるため、これらの人の特徴は直接の原因として考えにくいです。

稽留流産はどのような検査で分かるのでしょうか?

自覚症状のない稽留流産は、超音波検査の結果で診断されます。胎児の心拍が確認できるのは、妊娠5週の終わり頃からです。
しかし、超音波で明らかに胎児の存在が確認できるにもかかわらず、確認できていたはずの心拍が描出されない場合や胎児の成長が見られない場合に稽留流産と診断されます。診断は1回だけの超音波検査で確定されるものではなく、何度か検査を行い、慎重に確認して判断します。

稽留流産の治療方法

悩みを抱える女性

稽留流産だった場合どのような治療を行うのか教えて下さい。

稽留流産と分かった場合の治療方法は自然に排出されるのを待つ方法と手術の2通りがあります。
子宮内容(胎児とその付属物)が自然に排出されるまで待つ場合は、自然な回復が望める場合が多く、手術・麻酔を行うことで生じるトラブルもありません。また、妊婦さん自身に流産という現実を受け止める時間を作ることもできるでしょう。
しかし、いつ自然に排出されるのかが予測できないため、排出されるのを待っている間に大量の出血・強い腹痛・感染症などを起こす危険があります。自然に排出される様子がない場合は、結局手術となります。したがって、それらを予防する目的で、診断がついた時点で手術を選択する場合が多いです。
その手術を子宮内容除去術といい、子宮内から子宮内容を取り出し、きれいにする方法となります。子宮内容除去術は静脈麻酔で行われるため、眠っている間に手術は終了し、手術中に痛みを感じることはありません。手術自体は通常15〜20分程度で終了します。
流産は大変残念なことですが、手術をして子宮内をきれいにすることで、次の妊娠に向けて心・身体づくりを促すという目的があります。

稽留流産を経験してから流産しやすくなってしまうといったことはあるのでしょうか?

稽留流産を経験したからといって、流産しやすくなることはありません。稽留流産の原因のほとんどは受精卵の染色体異常です。
染色体異常の確率は流産経験ではなく、女性の年齢が高いことに比例して上昇するため、高年齢では流産の確率も高くなります。また今回の稽留流産が初めての流産であれば、一般的な同年代の女性と比べて、次の妊娠で流産の可能性が高くなるとはいえません。流産が2回繰り返し起こった場合を「反復流産」、3回以上繰り返し起こった場合を「習慣流産」といい、反復流産の頻度は2〜5%で習慣流産の頻度は1%程度です。
早期流産が連続して起こった場合には、何らかの不育症の原因(夫婦の染色体異常・内分泌疾患など)も考えられるため、専門医を受診して検査をすることもあります。ただし、検査をしても不育症の原因を特定できないことも多く、その場合は原因不明の流産ではなく、受精卵の染色体異常が繰り返し起こったことによる流産である可能性が高いと判断されます。

稽留流産を予防する方法があれば知りたいです。

先ほどもお話ししましたが、稽留流産を含む早期流産の主な原因は受精卵の染色体異常です。したがって、流産かどうかは受精した段階ですでに決まっているとも考えられるため、残念ながら予防する方法はありません。
しかし、高年齢の女性では受精卵の染色体異常も多いことが分かっているので、妊娠・出産年齢については考えたほうが良い点となります。
予防することは難しいですが、まれに母体側の疾患が早期流産に関係している場合もあり、抗リン脂質抗体症候群などの血液凝固異常で血栓症を起こしやすい人・内分泌疾患・子宮形態異常などをお持ちの人は、治療について担当医とよくお話しすることが大切です。

手術費用の相場はいくらくらいですか?

稽留流産の場合、一般的に行われるのは子宮内容除去術です。これは、必要な治療行為に当たるので健康保険の高額療養費制度が適応されます。
この制度を利用すると、所得によって上限額の差はありますが自己負担額が減ります。費用は各医療機関や母体の状態によって変わりますので、分かるようであれば事前に病院に確認しておくと、安心できるでしょう。
また、日帰りか入院かによっても異なります。医療保険や生命保険に個別に加入していれば、給付金の対象になる場合があるので、保険会社に確認しましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

稽留流産は、現代の医学では残念ながら防げないとされています。流産の兆候をあらわす自覚症状がなく超音波検査をして初めて分かることが多いため、妊娠の喜びが一気に落胆へと変わってしまい、その悲しみは図り知れません。
しかし、稽留流産は胎児側の原因で起こることがほとんどであることが分かっています。そして、妊娠全体の約15%、つまり10人に1〜2人が経験するほどまれなことではないのです。
不安や疑問などは抱え込まずに、産婦人科医にご相談下さい。流産の悲しみからすぐに立ち直ることは難しいかもしれませんが、ご家族のサポートを受けながら次の妊娠に向けて少しずつ気持ちを切り替えていきましょう。

編集部まとめ

ピンク色の小花を握る2人の手
稽留流産について、兆候・原因・治療などについて詳しくご紹介いたしました。

妊娠初期に起こってしまう稽留流産は、未然に防ぐことが難しいものであることがお分かりいただけたと思います。

流産は、女性にとって人生の中で大変なショックとなる出来事の1つといえますが、起きてしまった後は、母体の安全を一番に考えることが大切です。

その人に合ったより良い治療を選び、安定した経過を辿って、ゆっくりと気持ちを切り替えながら次の妊娠に備えていきましょう。

この記事の監修医師