「ブルガダ症候群」とは?検査法や治療法についても解説!
心臓病の一種で「ぽっくり病」とも呼ばれる、突然死を引き起こすブルガダ症候群という疾患があります。
ブルガダ症候群はほとんどのケースでは無症状であることが多いです。
しかし、発作が起こるとそれまで健康に暮らしていた方が何の前触れもなく死に至るケースもあります。
今回は、ブルガダ症候群の具体的な症状や原因などについて詳しく解説していきます。
監修医師:
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。
日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属
目次 -INDEX-
ブルガダ症候群の特徴
ブルガダ症候群とはどのような病気ですか?
- ブルガダ症候群は心臓に大きな異常がみられないのに、まれに発作が起こり意識を失うことや最悪のケースでは死に至ることもあります。
- スペインのブルガダ兄弟により報告された症例であり、特徴的な心電図の波形を持つ病気です。
- 日常生活で異変を感じることや他に心臓の異常が見つからないため、それまで健康に生活を送っていた方が急に亡くなってしまう場合もあります。
- ブルガダ症候群は主に東洋人の30~50歳ぐらいの男性に多くみられ、日本では約1000人に1人の割合で発症するといわれています。
- 心電図検査などによってブルガダ型心電図との判定を受けた場合でも、必ずしも致死性の高い症状を引き起こすとは限りません。多くの場合は無症状であり、特に治療を必要としないケースがほとんどです。
- しかし、過去に失神をした経験がある方や家族の中に同じ症状の方や若いうちに突然死してしまった方がいる場合は注意が必要です。
具体的な症状について教えてください。
- ブルガダ症候群は発作が起こると心室細動と呼ばれる、心臓が細かく震えて全身に血液が送れなくなる状態を引き起こします。
- 心室細動が起きた場合意識を失ってしまうことや睡眠中に発生すると呼吸がおかしくなることなどが主な症状です。
- 時間経過と共に自然回復する場合もありますが、発作が長く続き処置が遅れると死に至ることもあります。健康な生活を行っていた方が、就寝中に何の前触れもなく突然死に至るケースではブルガダ症候群の可能性が考えられます。
- 夜間睡眠中・食後安静時・満腹時などの副交感神経が亢進しているときに発生すると、失神や突然死を生じることがあります。
自覚症状はありますか?
- ブルガダ症候群は基本的に自覚症状はありません。不整脈の一種であるため動悸や息切れによって身体の不調を感じるケースもありますが、明確にブルガダ症候群と判断することは難しいです。
- 軽度な動悸・息切れ等は、特に大きな身体の異常がない場合でも加齢によって起こり得る症状です。
- そうした不安がある場合は一度病院で詳しく検査を行い、医師の診断を受けることをおすすめします。
どのような人に多い病気ですか?
- ブルガダ症候群は主に日本を含むアジア人に多くみられる病気です。また、男女比は9:1と圧倒的に男性が多く30~50歳で発症しやすいという特徴があります。
- 遺伝により発症する可能性があり、親族の中に45歳以下の若い年代で過去に突然死した方がいらっしゃる場合ブルガダ症候群の重篤な症状が出ることがあります。
- 過去に原因不明の失神を起こした経験がある方も心室細動の発作を起こす危険性が高いため注意が必要です。
原因について教えてください。
- 通常心臓は規則的な収縮を繰り返し、全身に血液を送り出すポンプの役割を担っています。
- 心臓の収縮機能をつかさどる心筋と呼ばれる細胞の中にはイオンチャネルというナトリウムやカルシウムなどのイオンの通り道があります。
- このイオンチャネルではそれぞれのイオンごとに通り道が分かれていますが、ブルガダ症候群はこのイオンチャネルの遺伝子変異が原因の1つです。
- 特にSCN5Aというナトリウムチャネルでの異常が、ブルガダ症候群の患者の20%程度に現れていると報告されています。
遺伝しますか?
- ブルガダ症候群は遺伝的要因によって発症する可能性があります。ブルガダ症候群を発症した症例のうち20%で突然死の家族歴があったとのデータが報告されています。
- しかし、突然死などの重篤な症状につながる明確な遺伝子というのは判明していません。ブルガダ症候群を発症した方で突然死された家族歴がある場合でも、心室細動などの大きな症状が発生する確率が高まるとは考えられていません。
- リスクの高い遺伝子として明確なものは判明していませんが、ブルガダ症候群の原因となる遺伝子は確認されています。家系によってその遺伝子が引き継がれてしまうため、遺伝によって発症する可能性はあります。
ブルガダ症候群の受診するタイミングや検査方法
受診するタイミングはいつが良いですか?
- ブルガダ症候群は健康診断などで心電図検査を行った際に、その波形によって診断されるケースが多くみられます。
- ブルガダ症候群の所見が認められた場合でも、失神などの症状がなければ基本的には経過観察となることが多いです。
- しかし、発症した場合には重篤な症状を引き起こす疾患であるため、定期的に心電図検査を行うなど専門医の診断を受けることをお勧めします。
どのような検査を行いますか?
- ブルガダ症候群の検査では、心電図検査・心エコー検査・ホルター心電図などが用いられます。特に心電図検査で特徴的な波形を示すことが多いです。
- その特徴的な波形はブルガダ型波形と呼ばれ、正常な波形に比べてST部分という特定な箇所で波形が上昇する傾向がみられます。
- 心電図で異常がみられた場合などでは、さらに詳細な検査として24時間ホルター心電図を行うことがあります。これは小型の心拍を記録する装置を24時間身に付けて、日常生活での心電図の波形の変化を検査するものです。
- 心電図等の検査によって不整脈の疑いが強まった場合では、入院をしてモニター心電図による監視でより詳しく検査をしなければならない場合もあります。
診断基準について教えてください。
- ブルガダ症候群は、心電図検査を行った際にみられる特徴的な波形と共にブルガダ症候群の診断基準を満たす場合に診断されます。
- 不整脈を起こす可能性がある程度高いと判断されれば、入院して心室細動が誘発されるかどうかの確認のための検査(心臓電気生理検査)、心電図がはっきりしない患者さんに、Brugada症候群が疑われる場合にはナトリウムチャネル遮断薬を注射して心電図変化によって調べることもあります。
- この検査は、入院して実施します。心電図の波形だけで判断されるのではなく、診断基準を満たした場合に初めてブルガダ症候群と診断されます。
ブルガダ症候群の治療法や日常生活で気をつけるべきこと
何科を受診すれば良いですか?
- 健康診断などでブルガダ症候群の可能性を指摘され病院を受診する場合は循環器内科の受診をお勧めします。
- 循環器内科では、心臓や血管などの体液を身体に循環させるための器官に関連する病気を専門に扱っています。心臓病についても専門に取り扱う科であるため、精密検査や治療を行う設備を持ち、知識やノウハウを有する医師が多数在籍する科です。
- ブルガダ症候群で病院を受診する場合では、循環器内科の中でも特に心臓病関連に強いクリニックを探すと良いでしょう。
どのような治療を行いますか?
- ブルガダ症候群は残念ながら完治することはありません。しかし、突然死を予防するために発作を抑制させたり植込み型除細動器(ICD)を使用して心室細動の発作を止めたりすることは可能です。
- 予防には不整脈を防ぐ薬を使った薬物治療や、身体の中に植込み型除細動器を埋め込み不整脈を常時監視することがあります。植込み型除細動器は不整脈など心臓の動きの異常を感知すると、電気ショックをかけて確実に止めるように作動します。
- また、発作の頻度が高い患者さんの場合には手術も必要です。カテーテルアブレーションと呼ばれる心臓の筋肉の一部を焼いて心室細動の発生を抑止します。
日常生活で気をつけるべきことについて教えてください。
- ブルガダ症候群の診断を受けた場合には日常生活でも注意が必要です。
- 過度な飲酒は体温の上昇につながり心電図異常が強まる傾向があるため避けたほうが良いでしょう。
- 植込み型除細動器(ICD)を使用している場合には、機器が誤作動してしまうと命に関わる危険があります。そのため、電子調理器や大きな発電機などに近づかないよう気を付けなければなりません。
- 高熱が出ると発作が起こる可能性が高まるため、速やかに解熱を図る必要があります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- ブルガダ症候群は完治が難しい病気ではありますが、薬物治療などで症状を抑制することも可能です。
- 失神や心室細動などの症状がある場合には、植込み型除細動器(ICD)を使用して心臓の異常な動きを止めることもできます。
- また、ブルガダ症候群の診断を受けた場合でも必ず症状が発生するとは限りません。ほとんどの場合は無症状であり、突然死といった大きなリスクが発生する可能性は低いです。
- 診断を受けた場合でも過剰に不安にならずに、定期的な検査を行い現状の症状について医師の判断を仰ぐことをおすすめします。
編集部まとめ
ブルガダ症候群は私たち日本人を含むアジア圏の特に男性に多くみられる病気です。
特に大きな異常がなく健康に暮らしていた方が、突然の発作により最悪の場合では死に至るケースもあります。
完治させるのは難しい病気であり、遺伝により発症する可能性なども報告されています。
症状が酷い場合には失神や心室細動という発作を起こすこともありますが、通常では自覚症状がほとんどない病気です。
健康診断などの心電図検査でブルガダ症候群の疑いが認められた場合には速やかに循環器内科を受診し医師の診断を受けることをおすすめします。
参考文献