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ピロリ菌感染が及ぼす影響とは。空腹時の胃の不調も関係ある?

 更新日:2023/03/27
ピロリ菌感染が及ぼす影響とは、空腹時の胃の不調も関係ある?

例えば、腐った物を食べればおなかが痛くなります。しかし、外的要因のない空腹時におなかがおかしいとしたら、胃の病気を疑うべきなのでしょうか。また、胃がんの原因とされる「ピロリ菌」の感染も考えられます。今回は空腹時の不調について、ほかの病気の可能性を含めてどのように対応すべきなのか、「福田内科医院」の福田先生を取材しました。

福田 信宏医師

監修医師
福田 信宏(福田内科医院 院長)

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近畿大学医学部卒業。近畿大学大学院医学研究科修了。大学病院で消化器内科や救命医療に従事した後の2020年、岐阜県瑞穂市に、父親より継承した「福田内科医院」をリニューアルオープン。大学病院での臨床経験を地域医療へ反映している。医学博士。日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本消化器病学会専門医、日本超音波医学会指導医・専門医、日本内科学会認定医。

ピロリ菌感染による影響とは

ピロリ菌感染による影響とは

編集部編集部

胃がんに関連して、「ピロリ菌」が注目されるようになってきました。

福田 信宏医師福田先生

そうですね。胃がんは、原因のほとんどが「ピロリ菌感染」と言っていいと思います。正確には、ピロリ菌感染が胃に成立すると慢性胃炎が生じ、次第に胃粘膜の萎縮が進んで胃がんの発生に至ることが知られています。

編集部編集部

ということは、ピロリ菌に感染していると、がんの前段階として胃炎の諸症状が現れるのですか?

福田 信宏医師福田先生

ピロリ菌感染によって胃炎が生じますが、なんの自覚もないまま経過することが多いですね。症状が出て受診したときには、かなり進行した胃がんになっていることがあります。ピロリ菌感染していても、ほとんどの患者さんは、自覚症状のないパターンです。また、胃もたれなどの症状があっても一過性で症状が続かないことも多いですね。ところが、水面下では、慢性胃炎や胃がんが進行している可能性があるのです。

編集部編集部

今回の主題は「空腹時の胃の不調」です。こちらもピロリ菌が原因なのでしょうか?

福田 信宏医師福田先生

胃の不調はピロリ菌感染以外でも起こりますから、なんとも言えませんね。ただし、「前の日に激辛ラーメンを食べたなどの暴飲暴食」といった心当たりがないのにも関わらず空腹時の胃痛などを感じるとしたら、胃に何かしらの異常が起きているのだと思います。そのため、ピロリ菌に限らず、まずは原因を調べましょう。

編集部編集部

「胃の不調」=「ピロリ菌の感染」とは限らないのですね。

福田 信宏医師福田先生

はい。なお、胃がんの発生するリスクは、ピロリ菌を除菌しても残ります。胃がんを生じさせるリスクは「ピロリ菌の感染期間の長さや胃炎の程度」で変わります。つまり、胃の不調がある場合、早く検査して原因を特定し、もしピロリ菌がいれば除菌しましょうということですね。

ピロリ菌のセルフチェックについて

ピロリ菌のセルフチェックについて

編集部編集部

ところで、自分の体内にピロリ菌がいるかどうかのセルフチェックシートって有用なのでしょうか?

福田 信宏医師福田先生

インターネット上などで「何項目該当するかでピロリ菌の感染リスクを判定するシート」の類があります。ただし、あくまでリスクの程度を判定するだけであり、リスクが低くても大丈夫とは言えません。リスクが高いと判定されたとき、内視鏡検査を受けたことのない人が検査を受けるきっかけとなればいいと思っています。あとは、便中抗原検査などの郵送検査キットがあります。セルフチェックで感染リスクが高いとき、自己検査でピロリ菌陽性と判定受けた人は、内視鏡検査を受ける必要があります。

編集部編集部

極論、1項目でも該当していれば、「感染リスクゼロ」とは言えないですもんね。

福田 信宏医師福田先生

そういうことです。内視鏡検査を受けて早期に病気を発見することも重要ですし、「何も異常はありませんでした、健康です」というお墨付きを得ることも受診の大きな目的であり、大切な観点です。

編集部編集部

なるほど。日頃の健康診断も同様ですよね。

福田 信宏医師福田先生

はい。繰り返しになりますが、胃の病気をピロリ菌の有無だけで判断することも危険です。例えば、食道がんや粘膜下腫瘍などピロリ菌に関係のない病気もあり、ピロリ菌の有無だけを検査しても安心はできないのです。

編集部編集部

だとすれば、胃の不調を市販薬で乗りきるのも危ないですか?

福田 信宏医師福田先生

そうですね。自覚症状が改善しても、がんのような病気が残っているかもしれないので、繰り返すときは根本的な解決を図りましょう。ただし、受診するまでの一時的な対応としては市販薬の服用もいいでしょう。胃粘膜が修復し重症化を抑えられることもあります。もっとも、耐えられないようなつらさや痛みなら、仕事を休んででも医療機関で調べてもらいましょう。

ピロリ菌に感染している人の特徴

ピロリ菌に感染している人の特徴

編集部編集部

「診断は医師の仕事」だとしても、ピロリ菌の感染が疑われる人の傾向だけでも知っておきたいです。

福田 信宏医師福田先生

ピロリ菌は、おおむね3~5歳までに感染し、その後は持続感染します。ピロリ菌のいない大人の胃は胃酸が強く、ピロリ菌が入ってきても死滅してしまいます。しかし、幼いお子さんの時期は、胃酸が十分でないためピロリ菌が入っても死滅せずに増えていきます。そして、ピロリ菌は自分が生き延びていくために胃の環境をつくり変えてしまいます。つまり、ピロリ菌の生むアルカリ性のアンモニアで胃酸を中和してしまうのです。したがって、大人の感染者は幼児期からの持続感染なのです。

編集部編集部

その際のピロリ菌の感染経路は「口」ですよね?

福田 信宏医師福田先生

はい。親から子などへの家庭内感染が疑われていますので、大人から小さい子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。ほかにも、ピロリ菌に感染した同世代のお子さんからもうつる可能性はあります。

編集部編集部

つまり、親世代がピロリ菌を除菌することで、お子さんの感染を防ぐことができるということですね。

福田 信宏医師福田先生

そういうことです。繰り返しになりますが、胃がんリスクは一般にピロリ菌の感染期間が長ければ高くなります。感染するとしたら5歳以下なので、仮に20歳で感染が判明したとしても「約15年間は、感染し続けている」ということです。50歳なら45年間の感染期間となり、着々と胃がんリスクが高くなっているということなので、まずは胃の検査を受けましょう。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

福田 信宏医師福田先生

セルフチェックに関連して、ピロリ菌の自己判定キットもありますが、「検査でピロリ菌が陰性なら胃の病気はない」わけではありません。ピロリ菌によって胃炎が進むと、最終的にはピロリ菌自身が住めなくなり消滅することが知られています。このピロリ菌がいなくなった状態は、胃がんになる危険性がかなり高いと言えます。さらに言えば胃以外の病気、例えば食道がんのリスクをピロリ菌の自己判定キットでは拾えません。そのため、不快な自覚症状があったら、まずは最寄りの医師にご相談ください。とくにピロリ菌の有無が確認できていない人は、内視鏡検査でがんの有無を検査しつつ、必要に応じて除菌しておきましょう。

編集部まとめ

空腹時の胃の不調に対して、「ピロリ菌に感染しているのでは?」と疑いをもつことは重要です。違和感を覚えたら、受診して確認しましょう。一方、ピロリ菌感染のセルフチェックの該当項目数を目安に、「感染していなかった」と安心するのは早計とのことでした。なぜなら、感染していないことの立証ができていないからです。さらに、胃がん以外の病気の可能性は、何一つ洗いきれていません。胃の調子がおかしかったら、とにかく受診して医師の指示に従いましょう。

医院情報

福田内科医院

福田内科医院
所在地 〒501-0236 岐阜県瑞穂市本田1017-1
アクセス 樽見鉄道樽見線「美江寺駅」からバスで11分
東海道本線「穂積駅」からバスで18分
診療科目 内科、小児科、循環器内科、消化器内科

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