治療前に知っておきたい矯正治療後の「後戻り」 歯科医が教える原因と対策
「せっかく費用や時間をかけて手に入れた歯並びが、矯正治療からしばらくしたら元に戻ってしまった……」。にわかには信じられない話ですが、矯正治療における「後戻り」はこれから治療を受ける人、すでに治療を受けている人であれば誰しも起こり得る現象です。今回は矯正治療に起こる後戻りの原因や対策などを「くろさき歯科」の宮島先生に詳しくお聞きしました。
監修歯科医師:
宮島 悠旗(くろさき歯科)
歯列矯正の「後戻り」の原因とは?
編集部
なぜ、矯正治療で綺麗に並んだ歯が治療後に元に戻ってしまうのでしょうか?
宮島先生
まず、歯ぐきにはゴムのような性質があり、最初のガタガタした歯並びの時がゴムの緊張がない状態だと想像してください。矯正治療では、この状態から装置で歯を動かしていきます。治療で歯並びや噛み合わせが整うと見かけ上は綺麗ですが、歯ぐきはというとまだゴムがピーンと張った状態になっています。つまり、矯正装置を外してしばらくは、ゴムに引っ張られて元に戻ろうとする力が歯に働いているわけです。
編集部
ゴムをピーンと伸ばして、パッと手を放した状態に近いわけですね。
宮島先生
メカニズムとしてはもう少し複雑ですが、これが後戻りの基本原理です。矯正治療ではこうしたことが起こらないように「リテーナー」という装置をお口に入れて歯並びがずれないように、正しい位置をキープできるようにしていきます。これが一般に「保定(ほてい)」と呼ばれる処置になります。
編集部
つまり「保定」をしっかりおこなわないと、後戻りが起こるのですね。
宮島先生
はい。歯は動かしたら必ず元に戻ろうとするので、保定をしなければ徐々に歯並びは元に戻っていきます。さらに、一度伸ばしたゴムの力はだんだんと弱くはなるものの、「ゼロ」になることはありません。したがって、矯正治療後は歯並びが元に戻らない程度にリテーナーを装着しておく必要があります。
編集部
「保定」以外に、後戻りが起こる原因はあるのでしょうか?
宮島先生
舌を前に突き出すクセや口呼吸など、一般に「悪習癖(あくしゅうへき)」と呼ばれる歯並びを悪くするクセや習慣、さらに姿勢なども後戻りの原因になり得ます。
編集部
日常によくありそうな「クセ」や「姿勢」も後戻りの原因になり得るのは意外です。
宮島先生
これは「そもそもなぜ、歯並びが悪くなるのか?」というところにも関係しています。U字型の歯並びは頬や唇などお口の筋肉が外から内側に押す力と、舌が内から外側や前方に押す力のバランスでその形が決まっています。例えば、舌が上の前歯を押すと「出っ歯」になりますし、下の前歯を押すと「受け口」になってしまうわけです。歯を正しい位置にキープするためには、このような舌やお口の筋肉のバランスがとても重要で、そのバランスが悪いままだと歯が綺麗に並んでも結局は元に戻ってしまいます。
編集部
つまり、矯正治療では歯を綺麗に並べるだけでなく、舌やお口周りの筋肉を整えることも大切なのですね。
宮島先生
そうですね。したがって、矯正治療では歯を動かす治療とあわせて、舌のトレーニングや姿勢・クセを改善する取り組みなどをおこなっていきます。
歯列矯正治療後に「後戻り」したときの対処法
編集部
矯正治療後に後戻りした歯並びが、自然に治ることはあるのでしょうか?
宮島先生
後戻りした歯並びが自然に治ることはありません。ごく初期の後戻りの場合はリテーナーをはめることで元の状態に戻せることもありますが、大きくズレてしまったケースは矯正の「再治療」が必要になります。
編集部
矯正の「再治療」となると、やはり気になるのは費用面や治療期間です。実際、再治療になるとどのぐらいかかってしまうのでしょうか?
宮島先生
どのぐらい歯並びがズレたか、治療から何年経っているかなどケースバイケースですが、治療期間については最初の治療よりも早く終わるのが一般的です。同様に、費用についても「最初の治療より高くなる」というのは非常に稀なケースだと思います。
編集部
もし後戻りした場合は、最初に通っていた矯正歯科を受診したらいいのでしょうか?
宮島先生
基本的には、治療を受けた矯正歯科を受診するのが理想的です。これまでの治療経過や管理状況などの記録が残っていますからね。もし治療した医療機関とは別の矯正歯科で再治療を希望する場合は、治療が最初からになってしまいます。費用も新規の料金となりますので、その点はご注意ください。
矯正後の後戻り・再治療を防ぐためには?
編集部
矯正治療後の後戻りを防ぐには、どのような点に気をつけたらいいでしょうか?
宮島先生
まずは、「歯科医の指示に従って、きちんとリテーナーを装着すること」「通院の予約もきちんと守ること」は徹底いただければと思います。
編集部
リテーナーは1日何時間、いつまで装着するものなのでしょうか?
宮島先生
矯正装置が外れて最初の1年ぐらいは、1日20時間を目安に装着していただきます。それ以降は、状況をみて装着時間を短くしていくようなイメージです。ただし、先ほどもお話ししたように、歯ぐきのゴムの力はゼロにはならないので「週1回程度・夜だけ」というのはずっと続くと思っていてください。
編集部
日常生活で気をつけることはありますか?
宮島先生
一人ひとりに歯並びが悪くなる習慣があるので、改善に努めることも大切です。「歯ぎしり」や「食いしばり」のように自分でやめようと思ってもやめられない習慣については、専門的な施術を受けることが有効です。
編集部
自身の取り組みで改善できるものとして、具体的にどのような習慣やクセなどがありますか?
宮島先生
「食事や会話以外で口をポカンと開けている(口呼吸)」「寝る時にうつ伏せや横向きで寝る」などは、後戻りの原因になるので気をつけていただきたいですね。あと、近年はスマートフォンをうつむき姿勢で見るのも要注意です。スマートフォンを見るときは、できるだけ姿勢を真っ直ぐするようにしてください。
編集部
そのほかに、後戻りを防ぐうえで重要なことは何ですか?
宮島先生
矯正治療では基本的に治療が終わっても定期的に通院していただき、自身で気づいていないところで歯並びがズレていないか、リテーナーが壊れていないかなどをチェックしています。後戻りをしそうな予兆がある場合は、その時点で修正すれば後戻りのリスクも軽減できます。したがって、後戻りが心配な人は治療後も継続して通院することが重要です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
宮島先生
せっかく高い費用や長い期間をかけて歯並びを治すわけですから、その綺麗な歯並びが元に戻らないようにキープしていただきたいと思います。そのためにも、「歯科医の指示を守ってリテーナーを決められた時間と期間に装着する」「定期的に通院する」などを徹底しましょう。
編集部まとめ
矯正治療で歯を動かした場合、その歯が元に戻ろうとする力は時間が経ってもゼロになることはないようです。したがって、綺麗な歯並びを維持するためには、治療後も継続して後戻りのリスクを減らしていくことが重要になります。まずは、ドクターの指示に従いリテーナーを入れること、決められた日に通院することは必ず守るようにしましょう。
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