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網膜硝子体手術とは?流れ・適応となる疾患・手術後の注意点

 更新日:2023/03/27
網膜硝子体手術

網膜硝子体手術は、眼科分野でも最も難しい手術の一つに挙げられます。近年では、手技や機械技術の向上などによって比較的安全に手術ができるようになってきています。

ところで、網膜硝子体手術といわれても、どんな手術かイメージがつく方はほとんどいないでしょう。それゆえ、なんとなく怖いイメージを持ってしまう方も少なくないのではないかと思います。

本記事では、網膜硝子体手術の概要や効果、メリット・デメリットなどについて説明します。

この記事の監修ドクター:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)

網膜硝子体手術とは

網膜硝子体手術は、網膜および硝子体にある病変に対して眼の中で行う手術のことをいいますが、はじめに網膜と硝子体について説明しておきます。

網膜とは、眼底一面に広がっている薄い膜状の組織のことで、光や色を感じるのに重要な神経細胞と神経線維からできています。

硝子体とは、目の大部分を満たしている無色透明でやや固いゼリー状の組織のことで、99%は水で、その他はヒアルロン酸、コラーゲンで構成されています。眼球の形を保つと同時に、入ってくる光を屈折させる役割があります。

この手術を必要になった原因疾患によって、膜が張っていればその膜を剥離や光凝固(レーザー照射)、ガスタンポナーデ(目の形を保つためにガスを入れること)などの治療を行います。

網膜硝子体手術の目的

簡単にいうと、硝子体に起こった目のトラブルを除去することが目的です。以下のように、さまざまな疾患に応じた目的や効果があります。

硝子体混濁の除去

硝子体混濁とは、炎症や出血などによって本来透明である硝子体が濁った状態です。硝子体混濁のため、視機能の低下や診断・治療に支障がある場合に手術適応となることがあります。

硝子体牽引の除去

硝子体牽引とは、硝子体が網膜を引っ張っている状態です。網膜は破れると失明につながります。硝子体黄斑牽引症候群、裂孔原生網膜剥離、増殖糖尿病網膜症、未熟児網膜症などでは、硝子体の牽引が病態を悪化させるため、切除が必要になります。

サイトカインの除去

サイトカインとは炎症性物質のことです。

増殖糖尿病網膜症(糖尿病により目の血管が脆くなったり、異常な膜ができたりする病気)、血管新生緑内障、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎などでは、硝子体腔にVEGF(新たな血管を作りやすくする物質)や炎症性サイトカインが高濃度に存在していることがあります。

硝子体を切除することで、これらを除去すると共に硝子体腔の循環を良くし、サイトカインがたまりにくい環境を作ることができます。

網膜下病変の除去

加齢黄斑変性(網膜の中心部である黄班部に出血などが起きる病気)や網膜細動脈瘤破裂(網膜内の細かい血管の破裂)に伴う網膜下出血を除去します。

また、増殖性硝子体網膜症(網膜と硝子体の間に、本来は存在しない膜(=増殖膜)ができる病気)における網膜下索状物などを除去します。

眼圧のコントロール

悪性緑内障や急性緑内障発作などで硝子体圧が高くなった場合に、硝子体を切除することで眼圧を低下させます。眼圧が高くなると神経を圧迫し、神経機能が損なわれるためです。

眼内異物の除去

外傷により眼内に異物が入った場合や眼内レンズ落下などがあった場合、異物に硝子体が絡むため、まず硝子体を切除してから異物を除去します。

感染巣の洗浄

眼内炎では細菌及びエンドトキシン(炎症性物質)を除去する目的で硝子体を切除します。硝子体腔のクリアランス(循環機能)が上がることで、細菌が残った場合も眼外に排出されやすくなります。

生検

硝子体混濁を認め悪性リンパ腫などが疑われる場合、硝子体生検を行い細胞診やサイトカイン濃度の測定を行います。

網膜硝子体手術の適応となる疾患

網膜硝子体手術の適応となる疾患は、下記の通りです。

  • 裂孔原性網膜剥離
  • 増殖糖尿病網膜症
  • 黄班上膜
  • 黄斑円孔
  • 網膜静脈閉塞症
  • 眼内炎
  • 加齢黄斑変性
  • 未熟児網膜症
  • 眼内異物
  • ぶどう膜炎

などです。

網膜硝子体手術の方法・流れ

医療機関によって異なりますが、一般的な手術の方法や流れを紹介します。

手術の準備・麻酔

手術では、ベッドに仰向けになり、消毒の後、清潔な布などを顔にかけて行います。多くの場合、目だけの痛みをとる局所麻酔で行います。点眼による麻酔(点眼麻酔)と、眼球壁に沿って眼球の奥に麻酔薬を流す方法(テノン嚢下麻酔)との2種類の麻酔を行います。

手術開始

硝子体手術では、まず白目の部分に手術機器を挿入する小さな穴を、下記のように3ヶ所あけます。

  • ①術中に眼球の形態を保つための灌流液を入れるためのもの
  • ②眼内を照らす照明を入れるためのもの
  • ③硝子体を切除するカッターなどを入れるためのもの

その後、濁った硝子体を切除し、疾患によって網膜に追加操作を行います。濁った硝子体はカッターといわれる装置で切除しますが、必要に応じて、眼内染色液を使用します。

網膜への手術操作には、網膜上の膜除去、レーザー凝固などがあります。疾患や眼内の状況に応じて、空気やガス、シリコンオイルなどを眼内に入れる場合があります。

手術時間は目の病状次第であり、30分から2時間程度です。

手術後

うつむきの姿勢が必要となります。空気は数日から2週間程度で眼内の水に置き換わります。シリコンオイルは、より重症例に使用され、眼内の状態が落ち着いたら再手術により除去します(2-3ヶ月を目安に)。

術後は適時、診察と検査を行います。目の状態が安定するまでの約1-3ヶ月間の点眼治療が必要になります。

網膜硝子体手術後の注意点

ガスが眼内にある間は、24時間のうつむきが必要になるので、健康な成人でもかなり辛い思いをします。これは、浮力の力でガスが網膜を圧迫するように体勢を調整する必要があるからです。

整形外科疾患や循環器疾患などで長期の伏臥位が困難な方、認知症などを有し長期間に渡り同じ体勢を継続するのが困難な方は、ガスタンポナーデが有効に作用しない場合が多く、かえって全身状態の悪化などにつながるため、手術ができないことがあります。

硝子体手術の場合、視力が安定するまで2-3ヶ月はかかります。激しいスポーツや飲酒、長期の旅行などは、医師の許可が出てからにしてください。

網膜硝子体手術を受ける際の注意点

この手術を必要とする状況は、元々の病気が重症であることが考えられます。そのため、以前の状態への復帰が難しいことが多く、期待される結果と異なることが少なくありません。手術に臨む際には、事前に担当医とよく相談してください。

硝子体手術をおこなうと白内障が進行します。白内障手術を同時に行うと、硝子体手術がより安全・確実に行えるという長所があるので、多くの場合で白内障手術を同時に行います。

手術中の時間は、仰向けの姿勢でいることと寝ないで起きていることが必要になります。寝ると眼球が上を向いたり、ピクッと動いてしまったりするためです。可能であれば手術前に休息してください。

硝子体手術は数マイクロメートルの膜に触れる手術です。わずかな体動でも大きな影響を及ぼしますので、できる限り手術中は動かないよう努力をしましょう。

まとめ

網膜硝子体手術について説明しましたが、最初の状態と比べてイメージがわくようになりましたでしょうか?

手術はできる限り受けたくないものですので、日頃から予防に努めることに越したことはありません。仮に、現在何らかの病気にかかっている場合であっても、病状の進行を防ぐことができるものであれば、意識を高めて治療に臨むことは大切です。

糖尿病などの基礎疾患がある場合や、急な飛蚊症が出てきた場合には、網膜硝子体手術を要する状態になる前に、血糖コントロールやレーザー治療を行うことなど、前段階で治療できることもあります。早めに眼科を受診することをおすすめします。

この記事の監修ドクター

この記事の監修医師