クローン病・潰瘍性大腸炎は、過剰な炎症によって腸が傷ついてしまう病気です。似た部分も多いですが、それぞれどのような病気なのでしょうか。
この記事では、2つの病気の違い・共通点のほか、原因や治療方法を詳しく解説します。
炎症性腸疾患について知りたい方や、身近に患者さんがいる方などもぜひ参考にしてください。
目次 -INDEX-
クローン病と潰瘍性大腸炎の違いは?
クローン病・潰瘍性大腸炎は、消化管に慢性的な炎症が起きることで痛み・出血・機能障害などがみられる「炎症性腸疾患」です。
はっきりとした病気の原因はわかっておらず、治療には長い時間がかかることが多いとされ、いずれも厚生労働省が指定する指定難病にあたります。
このように共通点の多いクローン病と潰瘍性大腸炎ですが、病気の発生部位・病気の進行にともなう症状などに違いがあります。
まず、発生部位の違いは下記のとおりです。
- クローン病 :消化管全体の複数個所
- 潰瘍性大腸炎:直腸から広がり大腸にとどまる
クローン病は「炎症性腸疾患」の1つですが、病気の発生部位は腸にとどまらず、消化管全体に炎症が起こり得ます。
炎症は小腸・大腸・肛門など腸を中心に表れますが、口腔に慢性の炎症・潰瘍がみられる症例もあります。また、炎症は1か所でなく複数の個所に起こる点もクローン病の特徴です。
そのため、炎症が起きた臓器・炎症の程度により現れる症状は異なるでしょう。
一方の潰瘍性大腸炎は、腸のなかで肛門に近い直腸から広がります。そのため、例えば「直腸には問題がなく上行結腸のみに炎症が起こる」ことはありません。
炎症が直腸だけにとどまっている潰瘍性大腸炎を直腸炎型、下行結腸まで炎症が広がっているものを左側大腸炎型、炎症が大腸全体に及ぶものを全大腸炎型と分類します。
両者を比較すると、クローン病の方が粘膜の深い部分まで炎症が広がることが多い傾向にあります。炎症が深部まで進むと、臓器に穴が開く穿孔(せんこう)が起こることもあるため注意が必要です。
また、隣接する臓器に炎症が広がり穿孔を起こした結果、本来はつながっていなかった臓器の間に瘻孔(ろうこう)という通り道ができる場合もあります。
その他、炎症・治癒を繰り返すことで腸が狭窄したり、粘膜が繰り返し傷ついて癌のリスクが高まったりする可能性があります。
発症年齢のピークについて
炎症性腸疾患は若い世代が発症しやすい病気です。ただし、クローン病・潰瘍性大腸炎の好発年齢を細かくみると、クローン病の発症ピークの方がやや低年齢であるとわかります。
クローン病
クローン病の発症年齢は男性が20~24歳、女性は15~19歳がピークです。女性の好発年齢は10代が中心で、男性よりも早く発症する傾向があります。
その後は加齢にともなって急速に発症者が減少し、30代で発症する方の割合はピーク時の半数以下となります。
なお、クローン病の患者さんは男性に多く、患者さんの性別比は男性2:女性1です。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎の発症は、男性で20~24歳、女性で25~29歳がピークとなります。男性の好発年齢はクローン病と同じです。
一方、女性の好発年齢は男性よりも遅くにピークを迎える点は、クローン病との違いです。
潰瘍性大腸炎も若年層での発症が多いですが、ピークを迎えた後もクローン病程急激に発症者数が減少することはありません。
この統計から、潰瘍性大腸炎は好発年齢以外の広い年齢層で発症しうる病気といえるでしょう。
クローン病と潰瘍性大腸炎で共通する症状
クローン病・潰瘍性大腸炎は異なる病気ですが、同じ「炎症性腸疾患」に分類され、共通する症状も多くみられます。
下痢
炎症性腸疾患による下痢の原因は、下記の2つです。
- 腸の炎症により水分を吸収する力が低下している
- 炎症による滲出液が排泄されている
潰瘍性大腸炎では下痢が代表的な症状となります。また、クローン病の場合は炎症の部位によって症状が変わりますが、半数以上の方に下痢がみられます。
血便
炎症により消化管の粘膜が傷つくと、出血を起こす場合があります。炎症が進行して出血量が増えてくると、後述のとおり貧血につながるため注意が必要です。
腹痛
炎症性腸疾患の初期にみられる腹痛は、多くが軽度・一過性です。しかし、炎症が進行すると痛みを感じる頻度が高くなったり、腹痛を感じる時間が長くなったりする場合があります。
また、強い炎症により腸管が狭窄している場合などは、食事で腹痛が増強する可能性があります。
発熱
炎症性腸疾患の症状が進行して、炎症が慢性化することで現れるのが倦怠感・発熱です。
なお、強い炎症により腸の機能が低下すると、腸内にガス・毒素などが貯まり「中毒性巨大結腸」という状態に陥ることがあります。
中毒性巨大結腸になると手術が必要になることも多いため、発熱のほかに頻脈がみられた場合は注意が必要です。
貧血
消化管内での出血が続くと、徐々に貧血が進行します。貧血の主な症状は、めまい・息切れ・立ちくらみ・ふらつきなどです。
また、炎症性腸疾患が深部・広範囲にわたることで大量出血を起こすことがあります。急激に大量の血液を失うと顔面蒼白・冷や汗・血圧低下・意識消失などの出血性ショックにつながります。
体重減少
炎症性腸疾患が進行すると、十分な栄養を吸収できず栄養障害に陥り、体重減少がみられる場合があります。炎症性腸疾患による栄養障害の主な原因は下記のとおりです。
- 食事摂取量の低下
- 消化・吸収機能の低下
- 下痢・出血による必要な成分の喪失
- 組織の修復にともなう必要エネルギーの増加
クローン病と潰瘍性大腸炎が含まれる炎症性腸疾患の原因
炎症性腸疾患の原因は、はっきりわかっていません。しかし、細菌による感染などがないにも関わらず炎症が起こることから、免疫機能が発症に関わっていると考えられます。
免疫は、本来であれば身体の外から侵入した異物を攻撃し、自分の身体を守るための機能です。
この免疫機能が何らかの原因で過剰な反応を示すようになり、自分の体まで攻撃してしまうことが炎症性腸疾患の1つの原因と考えられます。
ただし、どのようなことをきっかけに免疫機能に異常が起こるのか、免疫は何に対して攻撃を行っているのかなどは明らかになっていません。
なお、健康な方と比較すると、炎症性腸疾患の患者さんの近親者には同様の疾患を抱える方が多いとされています。
また、発症に関与していると考えられる遺伝子が複数報告されていますが、この遺伝子を持った方のなかには炎症性腸疾患を発症しない方もいるのです。
そのため、遺伝は発症要因の一部ではあるものの、その他の病歴・環境的要因などが複雑に影響し合って発症に至るのではないかと考えられます。
発症・悪化と関連性のある環境的要因が喫煙です。クローン病・潰瘍性大腸炎のどちらも、喫煙者と比較して非喫煙者の方が発症率が低いとされます。
また、クローン病は動物性脂肪・タンパク質の摂取が多い方が発症しやすいこと、ほかの病気により虫垂切除をした方は潰瘍性大腸炎の発症率が低いことなどがわかっています。
クローン病の治療法
炎症性腸疾患の治療は、炎症を抑えるための薬物療法(内科的療法)と、薬だけでは対処が困難な場合の外科治療の2つです。
しかし、クローン病の場合は栄養療法も併せて行うことが多いでしょう。ここからは、それぞれの治療内容を詳しく解説します。
栄養療法
私たちの腸は、主に小腸で水分・栄養を吸収しています。そのため、小腸に炎症が起こるクローン病では栄養状態の維持・改善が大きな課題です。
クローン病の栄養療法には経腸栄養・中心静脈栄養の2種類があります。いずれも、目的は栄養状態を改善すること・消化管を休めて症状の悪化を防ぐことです。
経腸栄養とは、食事の代わりに経腸栄養剤を飲んで栄養を摂ることで、腸の機能が低下しているものの「腸から栄養分の吸収が可能」と判断された場合に行います。
経腸栄養剤は消化がほぼ必要なく吸収できるため、食事と比較すると消化管の負担を大きく軽減できる方法です。
クローン病は脂肪分・タンパク質により症状が悪化することが知られているため、経腸栄養剤は脂肪分・タンパク質を抑えて炎症に影響しにくいアミノ酸などを主体としています。
一方、腸管の狭窄が高度・小腸の炎症範囲が広いなどの理由から消化管に栄養剤を通すことが適切ではないと判断された場合に行うのが中心静脈栄養です。
中心静脈栄養は、太い静脈(中心静脈)にカテーテルを留置して高カロリー輸液を投与する治療法です。中心静脈栄養に使用する代表的な血管には、鎖骨下静脈があります。
腕・脚などの末梢静脈でなく中心静脈を使うことで、高カロリー輸液による血管炎のリスクを抑え、長期にわたりカテーテルを留置できます。
薬物療法
クローン病に対する薬物療法では、炎症を抑えるためにステロイドなど免疫を抑制する薬のほか、下記のような薬を使用します。
- 5-ASA製剤
- 免疫調整剤
- 抗体医薬品
5-ASA(アミノサリチル酸)製剤は、免疫を抑制せずに腸の炎症を抑えられる薬です。しかし、薬が体質に合わない場合は腹部症状が悪化する可能性もあります。
また、免疫調整薬とは免疫の異常な働きを正常化する薬です。免疫抑制剤よりも炎症を抑える効果は弱く、クローン病の治療では炎症がおさまった後に寛解状態を維持する目的で使用します。
寛解状態とは、治癒はしておらず症状が再燃する可能性があるものの、病気の状態が落ち着き自覚症状・数値の異常などがない状態のことです。
3つめの抗体医薬品とは、免疫に関与している「抗体」を利用して作られた薬の総称です。クローン病の場合は、特定の免疫機能を抑える薬剤が使用されます。
外科治療
繰り返す炎症により腸管の高度な狭窄・穿孔・膿瘍・痔瘻がみられた場合に行うのが、狭窄形成術・切除術・シートン法などの外科治療です。
また、狭窄の部位・度合いによっては外科治療でなく内視鏡的に狭窄を広げる場合があります。
潰瘍性大腸炎の治療法
潰瘍性大腸炎の治療も、基本的にはクローン病と同じく内科的治療を基本として、薬では治療ができない場合に外科的治療を行います。
内科的治療
潰瘍性大腸炎も完治は困難であり、クローン病と同じく薬によって炎症を抑えて、寛解を目指すことが治療の中心です。
使用する薬剤もクローン病と同じものが多く、副作用・効果などを確認しながら薬の切り替え・調整をしていきます。
また、内科的治療は薬物療法のほかに「血球成分吸着除去療法」が挙げられます。
血球成分吸着除去療法は、ひじの近くにある太い静脈から血液を体外に出し、フィルターを通して再び体内に戻す治療法です。
このフィルターで炎症に関与している血中の成分を除去することで、血球成分吸着除去療法を繰り返すうちに炎症を抑える効果がみられます。
血球成分吸着除去療法はクローン病にも適用される治療法で、薬物療法で効果が得られない・副作用などにより薬物療法ができない場合などに施行が検討されます。
外科的治療
臓器の機能面から、小腸をすべて摘出することはできませんが、大腸は全摘が可能です。そのため、潰瘍性大腸炎の重症例では大腸全摘術を行う場合があります。
潰瘍性大腸炎で手術が適用されるのは、下記のような場合です。
- 副作用により薬剤療法が行えない
- 内科治療が無効な重症例
- 潰瘍による大量出血・穿孔
- 合併症としての癌
これまで、大腸をすべて摘出した場合は小腸に人工肛門を作っていました。人工肛門とは、腸・肛門の状態などにより肛門からの排泄が困難になった場合に、手術により腹部に増設した人工の排泄口です。
人工肛門に残存した腸の末端をつなげることで、もともとの肛門を経ずに排泄ができるようになります。
しかし、人工肛門には腸の末端に排泄物を溜める・括約筋で排泄をコントロールするなどの機能がありません。
そのため、人工肛門の排泄口に合わせて専用のパウチを貼り、定期的に排泄物の溜まったパウチを破棄するなどの管理が必要になります。
もちろん人工肛門があっても健康な方とほぼ変わらない社会生活を送れますが、排泄・パウチの管理などに関しては、患者さん自身が不便に感じることもあるかもしれません。
この人工肛門の造設に代わる方法として、近年では小腸に「回腸嚢(かいちょうのう)」を作り肛門へつなげる方法が一般的になりつつあります。
回腸嚢を作った場合、肛門からの排便が可能になるため人工肛門よりも健康な方に近い生活を送ることが可能です。
まとめ
潰瘍性大腸炎・クローン病は腸を中心とした慢性的な炎症が起こる病気で、完治が難しい「指定難病」とされています。
強い症状があれば入院が必要になる場合もありますが、治療により炎症をコントロールできれば、寛解状態を維持して通学・就労など健康な方と同様の生活を送ることが可能です。
炎症性腸疾患を疑う症状がみられたら、まずは消化器内科を専門とする医療機関に相談することをおすすめします。
参考文献
- 病気の解説(一般利用者向け)クローン病(指定難病96)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- 病気の解説(一般利用者向け)潰瘍性大腸炎(指定難病97)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- FAQ(よくある質問と回答) 潰瘍性大腸炎(指定難病97)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- FAQ(よくある質問と回答) クローン病(指定難病96)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- 寛解|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター
- 免疫系の老化|公益財団法人長寿科学振興財団
- 静脈栄養の適応と管理|公益財団法人長寿科学振興財団
- 消化管の部位とはたらき|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
- クローン病|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
- 潰瘍性大腸炎|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
- 免疫調整剤(HCQを含む)|一般社団法人 日本リウマチ学会
- 抗体医薬品・Fc融合タンパク質|国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部
- 中毒性巨大結腸癌と穿孔を合併した再燃劇症型潰瘍性大腸炎の1例
- 貧血|国立研究開発法人国立がん研究センター