老若男女問わず、皮膚や肌の悩みはちょっとした、しかし確実にストレスのたまるもの。吹き出物や、髭剃りによる肌荒れや冬の乾燥、陽灼け、寝不足や疲れがばればれのクマなど…。 他人から見る限り、「気にしすぎですよ」「言われなきゃわからないよ!」となることもしばしばですが、当人にすれば、コレがなければもっと機嫌よくいられるのに、と思うこともあるでしょう。
たとえば、腕に以前からある、痛くも痒くもないそのしこり。色も他の場所と変わらないけれど、なんとなく気になって、考え事をしているときなどに気づいたら触ってしまっている。そういえば、最近前より大きくなった気がする…もしかしたら粉瘤の初期症状かもしれません。本記事では、そんな悩みに関して詳しく解説していきます。
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粉瘤について
粉瘤について、皆さんはどのくらいご存じでしょうか。粉瘤は自己治癒することはありません。進行は遅いものが多いですが、悪化することはあれど、自然によくなることはありません。そんな粉瘤について、原因や治療法について紹介します。
粉瘤とは
粉瘤とは、アテロームまたは表皮嚢腫とも呼ばれています。皮膚の内側に向かって袋状の皮膚(嚢腫)ができることを言います。 通常であれば、皮膚から分泌される垢(古い角質)や皮脂は、自然に剥がれ落ちていくものですが、袋状になっているために蓄積していってしまいます。表皮であれば、洗って落とすこともできますが、粉瘤の場合、皮膚がめり込むように内側に向かって袋状になってしまうため、老廃物はたまる一方です。 初期は、しこりのような、あるいはニキビや埋没毛が起きている状態によく似ています。 しこりは皮膚の比較的浅い部分に形成されるため、老廃物が透けて見え、黒っぽく、あるいは青色や黄色を帯びて見えることもあります。さらに、しこりのてっぺんにはごく小さな穴(開口部)が見て取れ、それが黒ずんで見える場合もあります。
粉瘤の種類
粉瘤の初期は、前述のようにしこりやふくらみを感じる程度で、痛みも硬化も感じられず、周囲の健康な肌とほとんど色も変わりません。 しかし、内側にたまった老廃物が増えていくにつれ、だんだん大きくなり、痛みや炎症が現れることもあります。 また、細菌感染を引き落とすと、悪臭の原因となることもあります。
◆炎症性粉瘤
感染や炎症を起こし、赤くなる、熱を持つ、痛みを伴うようになった粉瘤のことです。
粉瘤の内容物が表皮に漏れ出たために炎症を起こしたり、開口部から細菌感染を起こすなどし、「今まで何ともなかったのに急に成長した、痛い」と症状を訴える場合があります。
かたいしこりだったものが、ぶよぶよとした感触に変わる場合には、膿が溜まっていることも考えられます。膿を含め、嚢腫の『中身』がたまりすぎると、悪臭がしたり、破裂することもあるので、医療機関での早めの受診が必要です。
他にも良性の皮膚腫瘍で粉瘤に類似したものとして、主に下記のようなものがあります。
・外毛根鞘性嚢腫(がいもうこんしょうのうしゅ)
トリキレンモーマとも呼ばれます。頭にできることが殆です。初期症状の粉瘤とよく似ていますが、やや固いことが特徴です。遺伝により、なりやすい人がいます。 殆どの場合は良性ですが、稀に悪性のものがあります。治療する場合には、手術による切除を行います。
・脂腺嚢腫
脂腺(表皮にある皮脂を分泌する腺)にできるものを呼びます。首や脇にできることが多いものです。小さいものがぽこぽこといくつもできるので、多発性脂腺嚢腫とも呼ばれます。粉瘤とは違い、開口部がありません。こちらも手術によって治療します。
粉瘤ができる原因
本来であれば、古い皮膚、角質は自然と剥がれ落ちていくものです。それがめりこむように皮膚の内側に袋状の腫瘍を形成してしまうことについて、単一且つ明確な原因についてはわかっていません。殆どの場合の原因は不明です。 老廃物がたまっていくと聞くと、不衛生にしていたのではないか、と考えてしまうかもしれませんが、関係ありません。また、先に挙げた外毛根鞘性嚢腫については、遺伝性のものも確認されています。 原因不明の次に多いのは、外傷が要因となった粉瘤です。 皮膚表面の小さな傷―例えば、ピアス痕やニキビ、虫さされによるかきこわしが刺激となり、皮膚を内側にめり込ませることがあると考えられています。
粉瘤の治療
冒頭で述べた通り、粉瘤は自然治癒することはありません。何事もないまま数年が経過するケースも珍しくありませんが、いつ細菌感染するかわかりません。自分で圧迫したり、つぶして中身を出したとしても、袋そのものはなくなるわけではありませんので、再発するおそれがあります。 また、市販の薬を使用することも推奨しません。
いわゆる「吸い出し軟膏」と呼ばれるものは、硫酸銅とサリチル酸で患部をやわらかくして傷口を開き、膿を排出する薬ですが、粉瘤には使用できません。膿の排出のみを行ったとしても一時的なもので、治療にはなりません。粉瘤の根本的な治療方法は手術を行うことです。炎症を起こしていた場合には、炎症に対して抗生物質を使用することはありますが、こちらも根本的な解決にはなりません。その場合には既に悪化してしまっているので、自己判断せず、必ず医療機関を受診するようにしましょう。
粉瘤の手術の種類
抗生物質などの内服薬で炎症には対応できます。しかし、嚢胞は残ったままであるため、根本的な治療には、必ず手術が必要となります。
粉瘤の手術とは
手術は以下の2通りの方法があります。いずれも局所麻酔を使用して行います。傷痕の大きさに違いがあるので、顔にできてしまっているときはくり抜き法、悪化してかなり肥大してしまっている場合には切開法など症状や部位によって手術方法を選択する医療機関もありますので、相談するとよいでしょう。
◆切開法(粉瘤の中身を出さず、袋ごと摘出する)
従来法とも呼ばれています。メスを使って切開し、粉瘤の袋を破らないように、そっくり丸ごと取り除きます。粉瘤の直径あるいはそれよりも大きく切開するので、取り残す可能性が低く、再発の可能性もより低くなります。また、5〜6センチほどまで大きくなってしまった粉瘤の摘出にも向いていると言われます。 一方で、切開部分の面積が大きくなるので、傷の治癒、痕が残る可能性などのリスクがあります。
◆くり抜き法(粉瘤の中身を出してから、空っぽになった袋を摘出する)
へそ抜き法とも呼ばれ、現在では、切開法よりも多く選択される手術方法です。丸い刃のついたメスで粉瘤に穴を開け、中身を抜き取ります。その後に、しぼんだ袋そのものを抜き取ります。傷跡が小さく済み、目立ちにくいという点がメリットです。 その代わり、小さな穴を開けて、そこで作業を行うので、確かな技術が必要であると言われます。医療機関によっては、縫合が不要な場合もあります。
粉瘤の手術にかかる時間
手術と聞くと大掛かりなものを想像してしまいますが、粉瘤の摘出手術は殆どの場合、日帰りで受けることができます。 発生している部位や症状、大きさ、数により変わってきますが、5ミリ程度の小さな粉瘤であれば、5分〜20分程度、大きなものであれば60分程度が目安となります。 但し、化膿や炎症を引き起こしてしまっている場合には、まずは炎症を収める治療をし、その後に手術を行います。
手術の流れ
まずは診察を受け粉瘤であるのか、それ以外のできものであるのかを診断します。エコー検査などで、大きさや形状、どのくらい皮膚の深いところにできているのかを検査し治療方法が決められます。手術は、局所麻酔のため日帰り手術で対応可能な場合が多いことから、医療機関によっては、改めて手術の予約を取らなくても診察後にそのまま手術をしてくれるケースもあります。
手術の際の注意事項
術後は患部にガーゼや絆創膏などを貼った状態で帰宅します。ガーゼは適宜自分で交換します。次回の診察までは傷口を露出させず、ガーゼ等を貼っておくようにします。また、出血の可能性があるため、手術当日、翌日にあまり血行をよくしないようにしましょう。具体的には、飲酒、運動は控え、入浴の際も、長風呂はしないなど、注意が必要です。術後の過ごし方については、医師から説明があるはずなので、しっかりと確認しておきましょう。
手術の費用
粉瘤の手術は、健康保険の適用が受けられます。粉瘤のできた部位や大きさにもよるので、事前に確認することを推奨します。また、手術以外に検査料などの費用が必要な場合もあります。2〜3センチ程度のものであれば5000円〜6000円、4センチ以上のものであれば10000円〜1万4000円程度であることを目安にしておくと良いでしょう。 保険会社や共済保険などに加入している場合には、その内容によっては、給付を受けられることもあります。申請に必要な書類を確認するようにしましょう。
粉瘤の自分でできる治療法
繰り返しになりますが、粉瘤は自然治癒できず自力で治すこともできません。市販の薬も、使用したとしても、炎症や痛みを一時的に抑えることしかできません。粉瘤の多くは、その原因がわからず、誰にでも起きうる良性の皮膚腫瘍です。傾向として、背中や首、顔にできやすいので、折に触れて見る・触れるなどして、初期のうちに医療機関に相談できるようにしておきましょう。
粉瘤の手術以外の治療法
粉瘤で手術以外の治療ができるケース
根本的には手術以外の治療法はありません。外用薬や内服薬で治療ができるものは粉瘤ではなく、形状のよく似た皮膚腫瘍であることが考えられます。
粉瘤と似た症状が出る疾患
脂肪腫
顔や頭皮、足に現れることは少なく、体幹に多く現れると言われています。痛みなどの自覚症状はなく、しこりのようなものができます。基本的な治療方法は、手術によって摘出します。 ゆっくりではありますが、徐々に大きくなるもので、自然になくなるということはありません。大きくなると摘出する手術のリスクも高くなり、また、稀に悪性の腫瘍である場合もあるので、早めに医療機関で診断を受けるようにしましょう。 粉瘤とのおもな違いは、粉瘤が、体・顔・頭などどこにでもできうるのに対し、体幹に現れることが多いです。また、粉瘤の中身が皮膚の老廃物であるのに対し、脂肪腫は脂肪でできているためしこりの感触はやややわらかいものとなります。
化膿性汗腺炎
脇の下や鼠径部、乳首、肛門周辺などの毛包がふさがってしまうもので、炎症を起こすため痛みを伴います。進行すると細菌感染のリスクがあり、腫れた毛包が破裂すると、圧痛や悪臭が生じることがあります。 治療方法は、重症度によって組み合わせ方が異なりますが、内服薬や外用薬(クリーム状、軟膏上の薬)が多く用いられます。場合によっては、切開や、患部の切除・修復などの外科的処置を行う場合もあります。粉瘤とのおもな違いは、粉瘤には開口部(小さな穴)が開いている点や、化膿性汗腺炎には、投薬による治療方法もあるという点が挙げられます。(ただし、手術による治療で効果が思わしくなかった場合になります。)
おでき
おできは黄色ブドウ球菌が毛穴の内部や皮脂腺、その周囲から感染するものです。黄色ブドウ球菌は常在菌なのですが、体調不良や疲労によって免疫力が落ちていると感染を起こしてしまうことがあります。おできは発生してすぐに痛みがあり、熱を持ちます。 腫れてから数日で膿が出てきます。悪化してたまった膿は、切開して取り除き、そのあとを洗浄・消毒します。粉瘤とのおもな違いは、粉瘤は沈黙が長く、これといった症状が出ないことが多いですが、おできは発生してすぐから痛みます。また、汗をかきやすい部位、蒸れやすい部位によくできるという特徴があります。
まとめ
本記事では、粉瘤のメカニズム、見分け方、原因から治療方法までを説明しました。粉瘤は何事もなければただの皮膚のふくらみ、ちょっとしたしこりに過ぎず、ほとんどの場合は急を要するということはありません。数年越しに粉瘤を抱えたまま過ごす人も少なくありません。しかし、なにかのきっかけで感染症を起こすことがあります。そのときに、粉瘤が大きくなってしまっていた場合には、それを取り除く手術が、より大掛かりなものとなってしまい、その分リスクも増えます。皮膚疾患に限ったことではありませんが、普段から自分の体の変化に注意をする、違和感を覚えたらすぐに医療機関を受診するなど、自分の体のサインに敏感でありたいものです。
参考文献