目の具合が悪く、診察を受けた時。はたまたインターネットで気になる目の症状を検索した時、「硝子体手術の可能性がある」と聞くと、どう思うでしょうか。
そもそも「硝子体手術」とは何なのか、不安を感じることでしょう。
本記事では、硝子体手術の概要・流れから費用、手術が必要となる具体的な症例、術後の注意点などを詳しく解説しています。
「硝子体手術を受けたほうが良いと言われたがどんなことをするのかわからない」と不安を抱えている方、「術後はどんなことに気を付ければいいか知りたい」という方、「手術を受けたいが仕事はどれくらい休めば良いのだろう」と悩んでいる方はぜひ参考にしてみてください。
目次 -INDEX-
硝子体手術とは
硝子体とは、水晶体と網膜の間にある、水とコラーゲンでできた組織のことです。さまざまな役割を担っており、加齢や疾患によって変質し、網膜を引っ張るようになったり出血したりすると、何らかの目の障害を引き起こす可能性があります。この変質してしまった硝子体を除去するのが「硝子体手術」です。
患者さんの状態によって差はありますが、手術自体は30分から2時間程度で終了するため、入院する必要がなく、その日のうちに帰宅できる場合がほとんどです。
なお、硝子体手術は合併症を引き起こすリスクがあるため、注意深く行う必要があり、術中・術後のケアも大切です。
合併症として、最も気をつけるべきものは術後眼内炎です。これは、点眼をきちんと行うことなどでかなり予防できるので、術後の決まりをきちんと守るようにしましょう。その他には、硝子体を除去するときに網膜に穴が開いてしまう網膜裂孔や黄斑裂孔、手術中に血圧が上がったりせきをしたりすることで起きる駆逐性出血などがあります。さらに、一時的に眼圧が上がって緑内障の症状が現れたり、硝子体出血によって視力が下がったりすることもあります。
ただ、術後の見え方に大きく影響を及ぼすような合併症は少なく、適切な治療を行うことでほとんどの疾患の症状緩和が目指せます。
硝子体手術の費用
硝子体手術は基本的に保険が適用されます。費用は1割負担の方で約35,000〜60,000円、2割負担の方で約70,000〜120,000円、3割負担の方で約100,000〜180,000円となっています。
なお、これらは片目の手術を行う場合の金額のため、両目の手術を行う場合は倍の費用が必要となります。もし、経済的な負担が大きく手術を受けるかためらっているという方は、1カ月の医療費が一定の金額を超えた場合に払い戻してくれる高額医療制度の利用も検討してみると良いでしょう。
硝子体手術が必要となる症例
では、どのような疾患に対して硝子体手術が適応となるのでしょうか。ここからは硝子体手術によって症状改善が見込まれるさまざまな症例の中から、網膜剝離、黄斑疾患、糖尿病網膜症、網膜静脈分枝閉塞症の4つについて、どのようなものなのか詳しく説明していきます。
網膜剝離
目の奥には「網膜」という組織があります。角膜から入った光や情報を脳に伝える役割を果たしていますが、網膜に穴が開いてしまったり硝子体が網膜を引っ張ったりすることで剝離を引き起こすことがあります。
網膜は、眼底にある毛細血管から酸素や栄養を受け取っているため、剝離を起こすとそれらが供給されなくなり、視力低下や視野欠損につながります。適切な処置が行われないままでは症状が進行し、やがて失明する可能性がある状態です。
早期に発見できればレーザーで治療できることがほとんどですが、ある程度進行してしまった場合は硝子体手術が必要になります。
黄斑疾患
網膜の中心部には、機能が高く精細な働きをする「黄斑」という部位があります。その黄斑の上に膜ができる疾患を黄斑上膜、黄斑部に穴が開いてしまう疾患を黄斑円孔と言います。
どちらも物がゆがんで見えたり、視力が低下したりするなどの症状が現れる疾患です。また、症状の進行によって視野の中心が暗く見えてしまうこともあります。黄斑上膜の原因はほとんどが加齢によるもので、硝子体手術によって膜を除去しない限り症状が緩和されることはありませんが、緊急性は低いのが特徴です。
対して黄斑円孔は、何らかの理由で硝子体が網膜を引っ張ることが原因とされています。この疾患も緊急性は低いですが、放置すると視野の中心部が欠けてしまい日常生活に支障を来す場合があるため、早い段階で手術を受けることを検討しましょう。
糖尿病網膜症
糖尿病の三大合併症の1つである糖尿病網膜症は、糖の代謝異常に伴って網膜が出血したり閉塞を起こしたりとあらゆる症状を招く疾患です。
糖尿病になってから数年~10年以上経過してから発症すると言われており、最終的には網膜剝離と同様、失明に至るリスクもあるため、早期に治療を行うことが大切です。
糖尿病網膜症に対して、初期の段階では血糖コントロールが行われますが、進行すればレーザー光凝固術や硝子体手術が適用となります。また、糖尿病網膜症の手術においては、HbA1cの数値も重要です。10以上など高い状態(血糖コントロールが悪い状態)では、手術後の感染リスクなどの観点からしばらく内科の治療に専念し、状態が落ち着いてきたところで眼の治療に移行するという場合も少なくありません。
糖尿病網膜症は自覚症状が少ないため、糖尿病と診断された場合は眼科で定期的に検査を受けるようにしましょう。
硝子体手術の流れ
ここからは、硝子体手術についてより理解を深めていただくため、手術を行う際に必要な検査や実際の流れを説明していきます。
各種検査を行う
硝子体手術を受けるには、視力検査や眼圧検査、屈折検査、眼底検査、蛍光眼底造影検査といった複数の検査を行う必要があります。また、角膜の内皮細胞の減少度合いや、水晶体がどの程度混濁しているかなども確認します。
また、目の検査だけでなく、手術を行えるかどうか、血液検査や血圧測定なども必要です。患者さんの状態を詳細に把握し、手術が適用すると判断した場合は手術日を決定し、手術当日は血圧測定や眼圧測定などを行い、その日の体調を確認します。
局所麻酔を行う
手術の前処置として、まずは瞳を大きく広げるために散瞳薬を点眼します。次に眼球の消毒を行い、点眼麻酔を施したうえで手術を開始します。この麻酔は局所麻酔のため、手術中の意識ははっきりとしていて、周りの声も聞こえる状態です。恐怖心や不安感が強い場合は静脈麻酔を投与してくれる医療機関もあるため、遠慮せず医師に相談してみましょう。
白目にごく小さい孔をあける
麻酔が効いたことが確認できたら、白目に手術機器を挿入するための小さな穴(孔)を3つあけます。これは、手術中に目の中を照らす照明を入れるものと、手術中に眼球の形を維持するためのかん流液を注入するもの、メスやレーザーなどの機器を挿入するためのものです。この穴は極めて小さく、術後は自然にふさがります。
硝子体を切除する
目に挿入した機器を用いて、硝子体を切除・吸引していきます。その後に、網膜の上にできてしまった膜をピンセットのような器具でめくりとったりレーザーを照射して穴をふさいだりと、疾患および状態に応じた処置を行います。
網膜を眼底に圧着させる
網膜剝離や黄斑円孔といった網膜に処置を施す疾患では、手術の最後に網膜を眼底に圧着させる必要があります。そのため、手術中に注入していたかん流液をガスに置き換えて網膜を圧着させ、手術は完了となります。個人差はありますが、ここまでで手術にかかる時間は30分〜2時間程度です。
仕事復帰に至るまで:硝子体手術後の注意点
硝子体手術を受けた場合、術後に気を付けなければならない点がいくつかあります。注意点や安静を要する期間について詳しくご紹介しますので、硝子体手術をいつ受けるかなどの参考にしてください。
保護メガネの着用と点眼
手術の翌日からは、衝撃や感染症のリスクなどから目を守るため、術後1週間は保護用メガネを着用しましょう。起きているときだけでなく、就寝時も装用することが大切です。また、医師から処方された点眼薬を1日4回程度、約1〜3カ月続ける必要があります。
入浴やメイク、飲酒喫煙、運転は禁止
術後1週間は、入浴や洗顔・洗髪・メイク・運転は控えるようにしましょう。シャンプーやお湯、化粧品の成分などが目に入ってしまうと、感染症を起こしてしまう可能性があります。
「体を洗わないのは気持ち悪い」という方は、ぬれたタオルで体を拭くことをおすすめします。車の運転は、両目で見た視力が0.7以上と法律で定められているため、いつ運転できるようになるかは患者さんによって異なります。
また、飲酒は術後の炎症が強くなってしまうため控えるべきでしょう。術後1週間以降は仕事や家事・入浴・メイクなどを普段通り行えるようになります。ただし、体調を考慮したり、目を強く押したりこすったりすることがないよう気を付けましょう。
症例によっては「うつぶせ」を指示される場合も
硝子体手術で眼内にガスを注入した場合、そのガスの浮力によって網膜を眼底に押しつけて定着させます。そのため、排尿・排便時と食事以外はうつぶせの姿勢で過ごす必要があります。
顔が地面と水平になるのが理想的で、うつぶせの期間は手術直後から短くても24時間、長くて2週間です。この期間は疾患や患者さんの体の状態によって変動し、外出はもちろん、お仕事や車の運転、入浴、食事の用意などはできません。飛行機にも一定期間乗れません。上空で眼内に残ったガスが膨張する可能性があるからです。術前から飛行機に乗らなければならない予定がわかっている場合は、必ず主治医に相談するようにしましょう。
もし1人暮らしなどで家族からのサポートを得られないという場合は、近隣の医療機関に入院することをおすすめします。うつぶせの姿勢を少しでも楽にするポイントとしては、穴あきの枕を使用することです。医療機関によっては枕を貸し出ししたり販売したりしているところもあるので、ぜひ確認・検討してみてください。
硝子体手術後はいつから仕事復帰が可能?
最後は、硝子体手術を受けた際の仕事復帰までの目安期間についてです。手術時にガスを注入するかしないかで復帰までの期間は大きく変わるため、それぞれの期間とその理由についてご説明します。
ガスを入れているかで違う
先ほども記述したように、硝子体手術のあとは網膜をガスの浮力によって圧着させます。そのため、1〜2週間程度はうつぶせ・うつむきが基本姿勢となります。この状態を維持できない場合、網膜剝離が再発して再手術となってしまいます。これらのことから、目の中にガスを注入した場合は2週間後くらいから仕事に復帰できることが予想されるでしょう。
ガスを入れていない場合は3日目から仕事復帰が可能
一方で、ガスを入れていない場合は術後3日後から仕事に復帰できる場合がほとんどです。ただし、パソコンや小さい文字を長時間見るなどの目を酷使するような作業や、重い荷物を持つ、長い時間歩くといった体に負担のかかる内容の仕事は避けるようにしましょう。座ったまま行える事務作業などから始めることをおすすめします。
術後は数回の通院が必要
硝子体手術を終えたあと、すぐに見え方が改善されるわけではありません。どれくらいの期間がかかるかは個人差がありますが、見え方が安定するまで半年から1年ぐらいかかる場合も想定されます。なお、合併症や感染症を引き起こしていないかを確認するため、術後は定期的に通院し、再発防止や別の疾患の予防に努めましょう。
まとめ
硝子体手術について理解を深めていただくことはできたでしょうか?目の手術を受けることに対して「怖い」というイメージを抱いている方も多いかと思いますが、治療を受けずに放っておくと物が見えにくくなるだけでなく、失明の可能性も高くなっていきます。目が見えなくなると日常生活の質が著しく低下してしまうため、長く健康的に過ごすためにも早めに治療に取り組むことをご検討ください。また、治療や手術を受ける際は、日本眼科学会認定 眼科専門医など目に関する知識を豊富に持ち、手術経験を積んでいる医師が在籍している医療機関を選ぶことをおすすめします。
参考文献