「百日咳」ってどんな病気?かかりやすい年代や症状についても解説!【医師監修】

百日咳は、百日という名前のとおり、激しい咳が長く続く感染症です。
発症の初期は鼻水や軽い咳など、風邪とよく似た症状から始まるため、「とりあえず様子見しよう」と受診のタイミングが遅れてしまう方も少なくありません。しかし、症状が進行すると発作的な咳が繰り返し起こり、夜も眠れないほど続くこともあります。
本記事は百日咳の原因や症状の特徴、病院で行われる検査と治療方法、日常でできる感染対策を解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
目次 -INDEX-
百日咳の概要

百日咳とはどのような病気ですか?
百日咳は、発作的に起こる激しい咳が長期間続く、呼吸器の感染症です。
百日咳を発症すると、初期には風邪に似た症状が現れます。その後、乾いた咳が出始め、咳は次第に酷くなっていきます。
この咳は百日咳の特徴的な症状で、痰の絡まない短く鋭い咳がコンコンコンと連続して続き、息を吐ききってしまうほど咳き込むことがあります。このような咳を発作性咳嗽(がいそう)と呼びます。さらに、咳の後に息を吸い込もうとした際にヒューと笛のような音が出る点も特徴です。
咳は数週間から1ヶ月以上続き、一般的な風邪や肺炎などと比べて回復までに時間がかかることもあります。
参照:『百日咳(詳細版)』(国立健康危機管理研究機構)
百日咳の原因を教えてください
百日咳は、主に百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌によって引き起こされます。百日咳菌は、気道の粘膜にダメージを与える毒素を生産するため、感染初期の軽い症状が治った後でも、発作的で激しい咳が続く一因と考えられています。
百日咳の感染力は特に感染初期に強く、主に飛沫感染や接触感染によって人から人へ広がります。
飛沫感染とは、咳やくしゃみ、会話などの際に飛び散る唾液に含まれる菌を、周囲の方が吸い込むことで感染する経路です。
接触感染は、百日咳菌が付着した手指や物品などに触れ、その手で口や鼻、目を触ることで感染します。
参照:
『Pertussis』(WHO)
『Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases Chapter 16: Pertussis』(CDC)
百日咳にかかりやすい年代や性別はありますか?
百日咳は性別に関係なく、どの年代でも発症する可能性がありますが、年齢によってかかりやすさや重症化のリスクが異なります。
患者さんの多くは20歳未満で、なかでも学童期や思春期の子どもに多くみられます。2024年の発症者数のうち、5歳から20歳までの年齢層が全体の60%以上を占めていました。
重症化のリスクが高い年代は乳幼児です。特に1歳未満の乳児は、免疫機能が十分に形成されていないうえ、ワクチン接種が完了していません。そのため、無呼吸発作や肺炎などを起こしやすく、重症化や合併症のリスクが高まります。
参照:『百日咳の発生状況について』(国立感染症研究所)
百日咳の症状の進行と受診の目安

百日咳の症状はどのように進行しますか?
百日咳は、感染後1週間程度の潜伏期間を経て発症します。症状は経過によってカタル期、痙咳(けいがい)期、回復期に分けられます。
| 経過の段階 | 感染後の期間 | 症状の特徴 |
|---|---|---|
| (潜伏期間) | 約7〜10日間 | 自覚症状はほとんどない |
| カタル期 | 約2週間 | 風邪に似た症状が現れる ・鼻水 ・軽い咳 ・微熱 など |
| 痙咳期 | 約2〜6週間 | 発作的で激しい咳が繰り返し起こる。咳の後に嘔吐することもある |
| 回復期 | 約数週間〜数ヶ月 | 咳は徐々に減少するが、完全に治るまで時間がかかることがある |
このように、経過に応じて症状が変化し、感染から回復までに長い期間を要する場合があるのが百日咳の特徴です。
参照:『百日咳(詳細版)』(国立健康危機管理研究機構)
どのような症状がみられたら受診した方がよいですか?
発作的な咳が2週間以上続く場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。
特に、短い咳が連続して続き、息を吸い込む際にヒューと音が出るような症状がみられる場合は百日咳の感染を疑う目安です。
乳児(特に1歳未満)は重症化しやすいため、咳が続く場合は様子をみると判断せず、早めに小児科へ相談してください。息が苦しそう、哺乳ができない、顔色が悪い(唇が紫っぽい)などがあれば、期間にかかわらず受診を急ぎましょう。
成人は症状が軽いこともあり、気付かないうちに周囲へ感染を広げることがあります。咳が長引くときや、家族や職場に乳児・妊婦・基礎疾患のある方がいる場合は、早めに内科などで相談し、必要に応じて検査や治療につなげることが大切です。
百日咳の検査と治療法

病院で行われる百日咳の検査の内容を教えてください
百日咳が疑われる場合、症状の確認や経過の聞き取りに加え、いくつかの検査を組み合わせて診断を行います。
現在の診療現場で中心となっている検査は、鼻の奥や喉から採取した検体を用いて百日咳菌の遺伝子を調べる遺伝子検査です。発症初期から実施でき、短期間で結果が得られるため、百日咳の診断に広く用いられています。
発症から時間が経過している場合には、血液検査によって百日咳菌に対する抗体の量を調べる血清学的検査が行われることがあります。ただし、ワクチン接種歴の影響を受けることがあるため、結果は症状や経過とあわせて慎重に判断されます。
ほかにも、採取した検体から百日咳菌を培養して確認する培養検査が行われることがあります。培養検査は診断の確定に有用ですが、結果が出るまでに時間がかかり、専用の設備が必要なため実施できる施設が限られます。
参照:
『病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版』(国立感染症研究所)
『小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2022 百日咳に関する追補版』(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会)
百日咳はどのように治療しますか?
百日咳の治療の基本は、抗菌薬の服用です。
抗菌薬治療の主な目的は、体内の百日咳菌の増殖を抑えることと、周囲への感染拡大を防ぐことにあります。
百日咳は、発症初期のカタル期に有効な抗菌薬を投与することで、百日咳菌の増殖が抑えられるだけでなく、症状の改善も期待できます。
一方、咳が強く出る痙咳期に入ってから抗菌薬を投与しても、症状の明らかな改善は期待しにくいとされています。この時期の抗菌薬治療は、主に周囲への感染拡大を防ぐ目的で行われます。
抗菌薬の第一選択として、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられます。なかでもアジスロマイシンは副作用が少なく、乳児にも使用しやすい薬剤です。薬剤は、患者さんの年齢やワクチン接種歴などに応じて処方されます。
服用期間は、薬剤によって異なりますが、アジスロマイシンは通常5日間、クラリスロマイシンやエリスロマイシンは7~14日間とされています。指示された服用期間を守り、最後まで飲み切りましょう。
参照:『小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2022 百日咳に関する追補版』(日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会)
長引く咳を病院の治療で緩和させることはできますか?
現在、百日咳の激しい咳の症状をすぐに止める治療方法は確立されていません。これは、咳の原因となる気道の炎症が、抗菌薬による菌の抑制後もしばらく残るためです。
ただし、咳の症状を和らげるために鎮咳薬や去痰薬、気管支拡張薬などが処方されることがあります。咳は活動後や就寝前、夜間に出やすいため、室内の加湿を行い、安静と休養を心がけましょう。百日咳の予防と感染対策

百日咳を予防できるワクチンはありますか?
このワクチンは赤ちゃんの健康を守るために重要な定期予防接種のひとつで、1本の接種で百日咳を含む5つの感染症を同時に予防できます。
ワクチンの効果はどの程度続きますか?
ワクチンの効果は時間とともに徐々に低下します。個人差はありますがおよそ4年〜12年で効果が弱まるといわれています。百日咳の患者さんに5歳から20歳までの年齢が多いのはそのためです。
百日咳のワクチンは、自費で追加接種を受けることも可能です。追加接種により免疫を維持し、感染や重症化のリスクを防ぐことができます。
参照:『病原体検出マニュアル 百日咳 第4.0版』(国立感染症研究所)
普段の生活のなかでできる感染対策を教えてください
百日咳は主に飛沫感染で広がるため、感染対策の基本は咳エチケットと手洗いです。
咳やくしゃみをするときは鼻とお口をマスクやハンカチ、服の袖などで覆い、飛沫の飛散を防ぎます。手洗いは石けんを使い、帰宅時や食事前だけでなく、こまめに行います。
編集部まとめ

百日咳は、発作的で激しい咳が長く続く感染症です。発症初期は風邪と見分けがつきにくいものの、早期に受診し治療を開始することで、重症化や周囲への感染拡大を防ぐことができます。
百日咳は特に乳幼児で重症化リスクが高いため、流行状況を確認し、手洗いやうがいなどの感染対策を怠らずに行いましょう。正しい知識と日常の感染対策が、自分と周囲を守ることにつながります。
参考文献



