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「一酸化炭素中毒」を発症すると「脳にどんな後遺症」が残るかご存知ですか?

 公開日:2025/12/15
「一酸化炭素中毒」を発症すると「脳にどんな後遺症」が残るかご存知ですか?

一酸化炭素中毒は、一酸化炭素が知らないうちに体内へ取り込まれ、酸素の運搬を妨げることで全身に深刻な影響を及ぼします。特に脳は酸素不足に弱く、意識障害や記憶障害、認知機能の低下など、後遺症が長く残る場合があります。中毒後に一見回復したようにみえても、時間をおいて症状が再び現れることもあります。本記事は、一酸化炭素中毒が脳に及ぼす影響と、その後の治療・リハビリテーションの重要性を解説します。

伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

一酸化炭素が脳に与える影響

一酸化炭素が脳に与える影響

一酸化炭素中毒とはどのような病気ですか?

一酸化炭素中毒は、一酸化炭素という無色・無臭のガスを吸い込むことによって発症する中毒症状です。体内で一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと強く結びつく性質があり、その結合力は酸素の200倍程度ともいわれています。そのため、酸素が全身に運ばれなくなり、脳や心臓など全身の酸欠状態が生じます。初期症状として頭痛吐き気めまいが生じ、重症化すると意識障害などが起こり命に関わります。

参照:『一酸化炭素中毒 (いっさんかたんそちゅうどく)とは』(済生会)

一酸化炭素が脳に与える影響を教えてください

一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと高い親和性で結合し、その結果、脳に運ばれる酸素量が著しく減少します。

酸素不足に陥った脳では、まず神経細胞の活動が低下し、記憶障害や注意障害、遂行機能障害などの認知機能低下が生じやすいです。重症例では大脳白質を中心とした脱髄性変化や基底核壊死など、構造的な損傷も報告されています。

MRI検査では慢性的な脳萎縮や白質変化が確認されることが多く、認知障害が長期間残る場合もあります。一酸化炭素中毒による脳障害の発症様式は大きく分けて,中毒直後から慢性期まで症状が継続する持続性脳障害、中毒後に無症候な時期をおいて2~3週後に神経精神症状を劇的に発症する遅発性脳障害の2つがあります。

参照:『一酸化炭素中毒間歇型への認知リハビリテーションの試み』(認知リハビリテーション)

一酸化炭素は脳以外にも悪影響を及ぼしますか?

一酸化炭素は脳だけでなく、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。体内に吸入された一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと強く結合し、酸素の運搬能力を著しく低下させます。

この結果、全身が低酸素状態となり、心臓や筋肉、肝臓など多くの臓器で障害が起こります。心臓には特に影響が現れやすく、胸痛、不整脈、心筋梗塞などの危険が高まるだけでなく、筋肉や腎臓でも筋肉障害や急性腎不全が発生する場合があります。重度では呼吸困難や肺水腫、昏睡状態、ひどい場合は死亡に至ることもあります。

参照:
『急性一酸化炭素中毒』(成田会・研究ジャーナル)
『過去5年間における一酸化炭素中毒のHBO 療法について』(日本農村医学会誌)

一酸化炭素中毒の症状と後遺症

一酸化炭素中毒の症状と後遺症

一酸化炭素中毒の主な症状を教えてください

初期には頭痛や吐き気、めまい、眠気、倦怠感などがあります。これらは風邪と似た症状のため気付かれにくいですが、中毒が進行すると判断力低下や集中力の障害、協調運動障害、意識もうろう、さらには痙攣(けいれん)や意識障害まで現れることがあります。

重症例では呼吸困難や血圧低下、そして呼吸停止や心停止に至るケースも報告されています。一酸化炭素中毒の特徴は、症状の進行が早く、濃度が高い場合や曝露時間が長い場合は、短時間で命に関わる重篤な状態に至る危険がある点です。

参照:『飲食店や食品工場などでの一酸化炭素中毒事故にご注意ください』(松山市)

一酸化炭素中毒は治療で完治しますか?

軽度な場合は新鮮な空気や酸素を吸うことで自然に回復する例が少なくありません。重症の場合や長時間一酸化炭素を吸入した場合は、高圧酸素療法(通常よりも高い気圧環境での純酸素吸入で、体内に溶け込む酸素量を大幅に増やし、組織の回復を促す医療法)による治療が行われますが、それでも後遺症が残るケースがあります。

特に中枢神経障害や認知障害、運動障害などの遅れて出現する遅発性脳障害が問題となることがあります。これらの後遺症は数ヶ月から1年ほどでの軽快もありますが、重度の場合は完全な治癒が難しい場合もあります。したがって、すべての症例で完治が保証されるわけではなく、重症例では長期的なリハビリや経過観察が大切です。

参照:『一酸化炭素中毒(carbon monoxide poisoning)』(日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 )

一酸化炭素中毒には後遺症はありますか?

重症例では脳や神経に障害が残りやすく、記憶障害や認知機能低下、集中力低下、気分の変動、けいれんなどの神経症状が後遺症として現れます。また、遅発性脳障害として、数週間から数ヶ月経ってから症状の再出現が起こることがあります。

一酸化炭素中毒による高次脳機能障害について教えてください

一酸化炭素中毒による高次脳機能障害は、主に脳への酸素供給不足によって神経細胞が損傷されることで発症します。

この障害では記憶力の低下、集中力や判断力の障害、遂行機能障害(計画立案や行動調整が難しくなることの障害)、注意障害がよくみられます。さらに人格変化や感情コントロールの困難、自発性低下、見当識障害、失認・失行・失算・失書など、多岐にわたる症状が現れます。

日常生活では何度も同じことを聞く、順番を守れない、ぼんやりする、我慢できない、パニックを起こすなどの認知・行動の問題が目立ちます。また、症状は曝露後しばらくして現れる遅発性の場合や、加齢に伴う重篤化があります。

一酸化炭素中毒による後遺症の治療とリハビリ

一酸化炭素中毒による後遺症の治療とリハビリ

一酸化炭素中毒による後遺症は治療でもとの状態に戻りますか?

一酸化炭素中毒による後遺症は、治療やリハビリによって改善する場合もありますが、もとの状態に戻るとは限りません。特に脳や神経へのダメージが強いケースでは、長期間にわたり記憶障害や注意障害、運動障害などが残ることがあります。

ただし、近年では早期からのリハビリテーション導入と多職種チームによる包括的ケアにより、仕事や社会生活に復帰した例も報告されていますが、回復には個人差があります。

参照:
『一酸化炭素中毒間歇型への認知リハビリテーションの試み』(認知リハビリテーション』)
『目 次 Ⅰ.総括研究報告 CO 中毒による高次脳機能障害患者の経年変化や環境変化に対応し』(厚生労働省)

一酸化炭素中毒による後遺症のリハビリテーションについて教えてください

一酸化炭素中毒による後遺症のリハビリテーションは、脳や神経系への障害が残る場合に特に大切です。認知機能障害、記憶障害、注意障害、運動障害など多様な症状に対して、個別に対応したプログラムを作成し、多職種連携による包括的なケアが行われます。

認知リハビリでは記憶訓練、注意力トレーニング、問題解決能力の向上、社会的行動スキルの再習得が実施されます。運動療法では筋力やバランス機能の維持・回復を目指し、歩行練習や日常動作訓練を組み合わせます。

また、心理的支援や家族向けのサポートも提供され、患者さんが社会復帰・家庭内での自立へ近づけるよう支援します。リハビリは、早期開始と継続的な介入が回復につながるため、専門医療チームによるフォローが欠かせません。

参照:『一酸化炭素中毒間歇型への認知リハビリテーションの試み』(認知リハビリテーション)

編集部まとめ

編集部まとめ
一酸化炭素中毒は、脳への酸素供給が阻害されることで高次脳機能障害などの後遺症が生じやすい重篤な疾患です。記憶障害や注意障害、遂行機能障害、人格変化、集中力の低下など、生活への影響が残ることがあります。

治療とリハビリは早期・多職種連携での支援が大切です。継続的なリハビリにより機能の回復や社会復帰が期待できますが、症状が完全に戻らない場合もあります。後遺症に気付いたら、専門医療機関の診断とフォローを受けることが大切です。

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