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何を摂りすぎると「胃潰瘍」発症の原因になる?【医師監修】

 公開日:2025/12/28
何を摂りすぎると「胃潰瘍」発症の原因になる?【医師監修】

胃潰瘍は、胃の粘膜に深い傷ができる病気で、みぞおちの痛みや食欲不振などを引き起こします。かつてはストレスや食生活が主な原因と考えられていましたが、現在ではピロリ菌感染や薬の影響などが大きく関係していることがわかっています。胃潰瘍は放置すると出血や穿孔(穴があくこと)など重い合併症を生じることもあり、早期の発見と治療が欠かせません。また、症状が落ち着いても再発しやすい病気のため、治療後の生活習慣や薬の継続も大切です。

この記事では、胃潰瘍が起こる仕組みや原因、悪化させる要因、再発を防ぐための具体的な方法について解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

胃潰瘍が起こる仕組み

胃潰瘍が起こる仕組み

胃潰瘍とはどのような病気ですか?

胃潰瘍とは、胃の粘膜の防御機能が低下し、胃酸や消化酵素によって粘膜が深く傷ついた状態をいいます。通常、胃の内側は粘液重炭酸イオンによって強い酸から守られていますが、このバランスが崩れると潰瘍が形成されます。

初期にはみぞおちの痛みや食後の不快感として現れ、進行すると出血による黒色便や貧血、まれに穿孔を起こして激しい腹痛を伴うこともあります。慢性化すると胃の機能低下や食欲不振、体重減少を引き起こし、生活の質にも影響します。

胃潰瘍が生じるメカニズムを教えてください

胃潰瘍は、攻撃因子防御因子のバランスが崩れることで発生します。攻撃因子には胃酸やペプシン(消化酵素)、ピロリ菌、薬剤(特に非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)が含まれます。

これらは胃粘膜を直接傷つけたり、血流を低下させたりすることで粘膜の修復を妨げます。一方、防御因子は粘液・重炭酸分泌、胃粘膜の血流、細胞の再生能力などです。健康な状態はこれらが釣り合っており、多少の刺激があっても粘膜はすぐに修復されます。

しかし、ピロリ菌感染やNSAIDsの服用が続くと、この防御力が徐々に弱まり、胃酸の攻撃に耐えられなくなります。その結果、粘膜の深部まで損傷がおよび、潰瘍が形成されるのです。

胃潰瘍の主な原因と悪化させる要因

胃潰瘍の主な原因と悪化させる要因

胃潰瘍の原因を教えてください

胃潰瘍の原因として多いのが、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染と、NSAIDsやアスピリンの長期使用です。

ピロリ菌は胃粘膜に感染し、アンモニアを産生して粘液を弱め、慢性的な炎症を引き起こします。炎症が続くことで粘膜の再生力が低下し、胃酸による損傷を受けやすくなります。

NSAIDsやアスピリンは、痛みや炎症を抑える一方で、胃粘膜の保護物質であるプロスタグランジンの産生を減らします。その結果、胃の血流が低下し、粘液や重炭酸の分泌も減少して、粘膜の防御機能が損なわれます。ピロリ菌感染とNSAIDs使用が重なると、潰瘍ができるリスクはさらに高まります。

ストレスで胃潰瘍になるというのは本当ですか?

ストレスが胃潰瘍を引き起こすことがあります。強い精神的・身体的ストレスが長期間続くと、胃酸分泌の増加や自律神経の乱れによって粘膜の防御力が低下し、潰瘍を悪化させます。

特に重症の感染症や大手術、重度の外傷などによるストレス潰瘍は、短期間で出血や穿孔を起こすこともあります。精神的なストレスも胃の運動や血流に影響するため、ピロリ菌や薬剤の影響がある方は、潰瘍の悪化につながる可能性があります。

胃潰瘍と食生活の関係を教えてください

食生活も胃潰瘍の経過に関わります。刺激の強い香辛料やアルコール、コーヒー、炭酸飲料の摂りすぎは、胃酸分泌を促進して粘膜を刺激します。また、早食いや不規則な食事、夜遅い時間の飲食も胃に負担をかける要因です。

一方で、食事を抜くと胃酸が直接粘膜を刺激するため、規則正しい食事を心がけることが大切です。バランスの取れた食事と十分な休養は、胃の回復を助ける基本です。さらに、脂質の多い食事や揚げ物が続くと消化に時間がかかり、胃にとどまる時間が長くなるため、不快感が続きやすくなります。食後すぐ横になる習慣も負担につながるため、軽い散歩やゆっくりした時間を挟むとよい状態を保ちやすいです。

胃潰瘍の予防法と診断後の再発防止策

胃潰瘍の予防法と診断後の再発防止策

胃潰瘍にならないために気を付けることを教えてください

胃潰瘍を防ぐためには、胃の粘膜を守る生活習慣を整えることが基本です。まず、食事は規則正しく、よく噛んで食べることが大切です。空腹の時間を長くしすぎると胃酸が粘膜を刺激するため、1日3食を目安にリズムを整えましょう。

アルコールや強い香辛料、コーヒーなど刺激の強い飲食物の摂りすぎも避けます。また、睡眠不足や過労、ストレスの蓄積も胃酸分泌を増やすため、適度な休息と気分転換を意識することが重要です。喫煙も粘膜の血流を悪化させ、治りにくくする要因になるため、禁煙が推奨されます。

ピロリ菌を除去することで胃潰瘍は防げますか?

ピロリ菌を除菌することで、胃潰瘍の再発を減らすことができます。ピロリ菌陽性の方には、除菌療法が推奨されています。治療は、胃酸分泌を抑える薬と複数の抗菌薬を一定期間組み合わせて使用します。

除菌が成功すると、胃粘膜の炎症が改善し、潰瘍が再び起こる可能性が下がります。ただし、薬剤耐性の問題や服薬の状況によって効果が左右されるため、治療後に検査を行い、除菌できたかどうかを確認することが大切です。

参照:『消化性潰瘍診療ガイドライン 2020』(日本消化器病学会)

胃潰瘍は再発する病気ですか?

胃潰瘍は、原因が残っている場合に再発しやすい特徴があります。特にピロリ菌感染を放置している場合や、NSAIDsなど胃粘膜に負担をかける薬を継続している場合は、治癒後も潰瘍ができやすい状態が続きます。一方で、原因を適切に取り除くことで再発の頻度は大幅に減ります。内視鏡検査で粘膜の状態を確認しながら、継続的に治療を進めることが望まれます。

胃潰瘍の再発を防ぐためにできることを教えてください

再発を防ぐには、薬の服用を自己判断で中断しないことが大切です。痛みが治まっても、胃粘膜の回復には時間がかかります。治療薬を指示どおり続け、医師の再診を受けてから中止の判断をします。また、NSAIDsを服用している方は、胃酸を抑える薬を予防的に併用することで潰瘍発生のリスクを減らせます。さらに、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレスの軽減を意識し、胃に負担をかけない生活を継続することが重要です。

編集部まとめ

編集部まとめ
胃潰瘍は、胃の粘膜が胃酸などの刺激により深く傷つく病気で、ピロリ菌感染や薬の影響が主な原因です。痛みや不快感が一時的におさまっても、治療を中断すると再発しやすく、出血や穿孔といった重い合併症につながるおそれがあります。治療の中心は、胃酸の分泌を抑える薬や粘膜を保護する薬の服用、そしてピロリ菌除菌療法です。再発を防ぐためには、医師の指示に沿った服薬の継続に加え、規則正しい食生活や禁煙、ストレスのコントロールなど日常の工夫も欠かせません。

胃の不快感や黒い便、原因不明の貧血がある場合は、早めに消化器内科を受診し、内視鏡検査を受けることが安心感につながります。さらに、既往に胃潰瘍がある方やNSAIDsを使用している方は、定期的な診察を受けて胃の状態を確認し、症状の変化を見逃さないことが大切です。

この記事の監修医師