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「胃潰瘍の初期症状」はご存知ですか?原因についても解説!【医師監修】

 公開日:2025/12/20
「胃潰瘍の初期症状」はご存知ですか?原因についても解説!【医師監修】

胃の痛みや不快感が続くと、「胃が荒れているだけ」と思ってしまう方も多いかもしれません。しかし、その症状の裏に胃潰瘍が隠れていることがあります。胃潰瘍は、胃の粘膜が胃酸や消化酵素によって深く傷つき、潰れたような状態になる病気です。放置すると出血や穿孔(胃に穴があくこと)など、命に関わる合併症を引き起こすおそれもあります。

ピロリ菌感染や鎮痛薬(NSAIDs)の長期使用が主な原因として知られており、生活習慣の乱れやストレスが発症や悪化の引き金になることもあります。初期の段階では症状が軽く、胃もたれや胸やけなどと区別しにくいため、早期発見が難しいのが特徴です。

この記事では、胃潰瘍の仕組みや原因、初期症状と進行時のサイン、さらに診断に至るまでの検査の流れについて解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

胃潰瘍の概要

胃潰瘍の概要

胃潰瘍とはどのような病気ですか?

胃潰瘍とは、胃の内側を覆う粘膜が深く傷つき、組織がえぐれたような状態になる病気です。胃のなかでは常に胃酸や消化酵素が分泌されており、食べ物を消化する大切な役割を果たしています。しかし、これらの強い消化液に対して粘膜を守る仕組み(防御因子)が弱まると、胃壁が自らの酸によって傷つけられてしまいます。その結果、炎症が進行し、潰瘍と呼ばれる深い傷が形成されます。

胃潰瘍は、浅い傷にとどまるびらん性胃炎よりも一段階重い病態です。症状の程度や範囲によっては、食事のたびに強い痛みを感じるほか、出血を伴って貧血や吐血を起こすこともあります。さらに進行すると、胃の壁が貫通し、腹膜炎を引き起こす穿孔へ進展する危険性もあります。

胃潰瘍の原因を教えてください

胃潰瘍を引き起こす主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染と、鎮痛薬(NSAIDs)の長期使用の2つです。

ピロリ菌は胃の粘液層にすみつき、炎症を起こして粘膜の防御機能を低下させます。特に長期間感染が続くと、潰瘍を繰り返したり、胃がんのリスクが高まったりすることもあります。

また、関節痛や頭痛などでよく使われるNSAIDs(ロキソプロフェンやイブプロフェンなど)は、痛みを和らげる一方で、胃粘膜を保護する物質の産生を抑えるため、胃酸によるダメージを受けやすくなります。そのほか、喫煙、過度な飲酒、強い精神的ストレス、睡眠不足、不規則な食生活も悪化要因です。

つまり、胃潰瘍は攻撃因子(胃酸・ピロリ菌)防御因子(粘液・血流・再生能力)のバランスが崩れたときにおこる病気といえます。

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の症状

胃潰瘍の初期症状を教えてください

胃潰瘍の初期には、みぞおちの痛みや違和感、胃もたれ、胸やけ、食後の膨満感といった軽い症状から始まることが多い傾向です。痛みは鈍く持続的で、食事をとると一時的に軽くなることもあります。このため、「疲れが原因」「食べすぎた」と誤解して放置されることも少なくありません。また、空腹時や夜間に痛みが強くなるのも特徴です。初期段階では痛みが断続的に出たり消えたりするため、気付かないまま慢性化することがあります。慢性的な胃潰瘍は再発を繰り返しやすく、胃壁の深部まで損傷が進行するおそれがあります。

胃潰瘍の初期症状と似た症状が現れる病気はありますか?

胃潰瘍の症状は、胃炎機能性ディスペプシア(検査で異常がないのに胃の不快感が続く病気)、さらには胃がんの初期症状ともよく似ています。特に中高年の方は、同じようなみぞおちの痛みや食欲不振、吐き気が現れることがあります。自己判断で胃薬を使って症状を抑えてしまうと、重大な疾患を見逃すこともあるため、早めの受診が大切です。

また、心臓の狭心症や胆のうの病気もみぞおちの痛みを感じることがあるため、痛みの部位やタイミングだけでは区別が難しいこともあります。

進行した胃潰瘍の症状を教えてください

潰瘍が深くなると、胃酸が血管を傷つけて出血を起こすことがあります。その場合、黒っぽい便(タール便)吐血がみられ、貧血によるめまい、息切れ、倦怠感などが現れます。また、潰瘍が胃の壁を突き破る穿孔になると、突然の激しい腹痛が起こり、腹膜炎のような緊急事態に至ることもあります。

さらに、慢性的な潰瘍が瘢痕化すると、胃の出口(幽門部)が狭くなり、食べ物が通過しづらくなる幽門狭窄を引き起こすことがあります。食後の吐き気や大量の嘔吐、体重減少などが続く場合は、重症化している可能性があります。

胃潰瘍が命に関わることはありますか?

胃潰瘍そのものは適切に治療すれば回復しますが、出血や穿孔などの合併症を伴うと命に関わる危険性があります。特に高齢の方や、心臓・腎臓などに慢性疾患を持つ方は、出血によるショックや全身状態の悪化を引き起こすこともあります。症状が軽くても油断せず、早期に医療機関を受診して診断を受けることが大切です。

胃潰瘍の受診の目安と検査、診断の流れ

胃潰瘍の受診の目安と検査、診断の流れ

どのような症状が現れたら受診すべきですか?

みぞおちの痛みや胃もたれが数日以上続く場合、または空腹時や夜間に痛みが繰り返し出る場合は、早めに消化器内科を受診しましょう。特に、黒っぽい便(タール便)吐血急な貧血食後の吐き気体重減少食欲不振がある場合は、出血や進行した潰瘍の可能性もあるため、早急な検査が必要です。また、NSAIDsを長期間服用している方や、ピロリ菌感染の既往がある方も注意が必要です。

胃潰瘍が疑われるときに行われる検査方法を教えてください

胃潰瘍の診断には、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)が有効です。内視鏡を使って直接胃の内部を観察し、潰瘍の位置や大きさ、深さを確認できます。出血がある場合は、その場で止血処置を行うことも可能です。

検査は同時に胃粘膜の一部を採取して病理検査を行い、がんとの区別を明確にします。さらに、ピロリ菌の有無を調べるために、尿素呼気試験、抗体検査、便中抗原検査などを行うことがあります。

胃潰瘍と診断されたらどのような治療が行われますか?

治療の基本は、胃酸の分泌を抑える薬を用いて潰瘍を治すことです。プロトンポンプ阻害薬(PPI)カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)が代表的で、胃酸を抑えることで潰瘍の自然治癒を促します。出血がある場合は、内視鏡的止血処置を行い、重度の穿孔や狭窄があるときは外科的手術が選択されることもあります。

ピロリ菌が検出された場合は、除菌療法を行います。抗菌薬と酸分泌抑制薬を組み合わせ、1週間程度で治療します。除菌に成功すれば再発のリスクが減ります。NSAIDsが原因の場合は、薬の中止や変更を検討し、必要に応じて胃粘膜保護薬を併用します。

編集部まとめ

編集部まとめ
胃潰瘍は、胃酸やピロリ菌、薬の影響などによって胃粘膜が深く傷つく病気です。初期には軽い胃痛や胃もたれなどの症状しかないこともあり、放置すると出血や穿孔など重篤な合併症を引き起こすおそれがあります。診断には内視鏡検査が欠かせず、治療では胃酸の分泌を抑える薬やピロリ菌の除菌が中心です。薬の自己中断や再感染を防ぐためにも、症状が改善しても定期的なフォローが大切です。

再発を防ぐには、禁煙、節酒、食事のとり方や睡眠リズムの見直しが有効です。特に、痛みが繰り返す、黒い便が出る、食後に吐き気がある場合は早めに受診してください。早期に対応すれば、胃潰瘍は回復をめざせる病気です。

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