目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. 病気Q&A(医科)
  4. 「網膜剝離」の「治療」にかかる期間はどれくらい?治療後の注意点も解説!

「網膜剝離」の「治療」にかかる期間はどれくらい?治療後の注意点も解説!

 公開日:2025/12/26
「網膜剝離」の「治療」にかかる期間はどれくらい?治療後の注意点も解説!

網膜剥離は珍しくない目の病気ですが、早期発見と適切な治療が視力の予後を大きく左右します。網膜剥離を放置すると失明の危険もありますが、手術によってもとの位置に復元できる可能性があります。本記事では網膜剥離の基礎知識から治療法の種類、手術費用の目安、治療期間や術後の注意点について解説します。

栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

プロフィールをもっと見る
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

網膜剥離の基礎知識

網膜剥離の基礎知識

網膜剥離の症状を教えてください

網膜剥離の初期には、視界に黒い点や虫のようなものが飛んで見える飛蚊症や、暗い場所で光が走るように感じる光視症といった症状が現れることがあります。ただし、初期の頃は自覚症状がない場合もあり、これら症状に気が付かないこともあります。

網膜剥離がさらに進行すると、視野の一部が見えなくなる視野欠損や、ものが見えにくくなる視力低下が起こります。なお、網膜自体には痛みを感じる神経がないため、網膜剝離だけであれば痛みは伴いません。これも自覚症状を感じづらい理由となっています。

なぜ網膜剥離になるのですか?

網膜剥離の多くは裂孔原性網膜剥離といって、網膜に穴(裂孔)が開くことで始まります。加齢によって眼球内のゼリー状の物質(硝子体)が縮む変化や強度近視目の外傷などで硝子体が網膜を引っ張り、網膜に裂け目が生じることがあります。その裂け目から液化した硝子体が入り込み、網膜を剥がしてしまうと網膜剥離が起こります。このタイプの網膜剥離を裂孔原性網膜剝離と呼びます。

一方、糖尿病網膜症などで網膜表面に増殖膜ができて網膜を引っ張る牽引性網膜剥離や、ぶどう膜炎など炎症や腫瘍による滲出液で網膜が浮き上がる滲出性網膜剥離もあります。

このように、網膜剝離は網膜に裂け目ができたり、糖尿病やぶどう膜炎などの病気が原因で起こったりするのです。

網膜剥離の検査方法と診断基準を教えてください

網膜剥離は外見からはわからないため、目の奥を見る眼底検査が不可欠です。眼科では瞳孔を広げる散瞳薬を点眼してから、ボンノスコープや細隙灯顕微鏡で網膜に裂孔や剥離がないかくまなく観察します。

場合によっては超音波検査(エコー)を用いて、眼底が直接見えにくいときでも網膜が剥がれていないか確認します。診断は医師が瞳孔を開いて直接網膜を見ることで行われ、網膜に裂孔の有無剥離範囲、網膜の中心部(黄斑)が剥離しているかどうかなどを総合的に評価します。

また、視力検査や眼圧測定なども併せて行い、網膜剥離以外の眼の状態も確認します。網膜に穴のみがみつかった場合は網膜裂孔と診断され、剥離が始まっていれば網膜剥離と診断されます。

網膜剥離の治療法

網膜剥離の治療法

網膜剥離の治療にはどのような種類がありますか?

網膜剥離の治療は、網膜の状態によって方法が異なります。網膜に小さな穴(裂孔)があるだけで、まだ剥離が起きていない初期段階であれば、レーザー光凝固術を行います。レーザーによって穴の周囲を焼き固め、これ以上網膜が剥がれないようにする治療が行われます。

一方、すでに網膜が剥がれて網膜剥離が起きてしまった場合は、多くの場合、手術による治療が必要です。手術には大きく分けて強膜内陥術硝子体手術の2種類があります。どちらを選択するかは眼科医によって判断は異なりますが、一般的に年齢や網膜剝離の状態などによって判断します。

網膜剥離で手術が必要なケースを教えてください

網膜が剥離していると診断された場合は、基本的に緊急手術の適応です。特に剥離が黄斑に達してしまうと、手術で網膜をもとに戻せても視力が十分に回復しなかったり、物が歪んで見える症状(変視症)が残ったりすることがあります。

黄斑まで剥がれていない段階であれば、黄斑に剥離が及ぶ前に治すことが望ましいとされています。したがって、網膜剥離と診断されたら基本的には手術が必要であり、軽微な網膜裂孔のみで剥離が起きていない場合に限ってレーザー治療などで経過を観察することがあります。それ以外にも、牽引性網膜剥離の場合や、広範囲に及ぶ剥離、硝子体出血を伴う場合なども手術が必要です。

網膜剥離の手術の種類と方法を教えてください

網膜剥離の手術には強膜内観術と硝子体手術があります。

まず、強膜内陥術は、眼球の外側にシリコンスポンジやシリコンバンドといったあてもの(バックル)を縫い付けて押し込み、眼球壁を内側に陥没させることで網膜の裂孔部分を塞ぎます。

裂孔周囲にはレーザー光凝固や冷凍凝固を行い、網膜を固着させ剥がれにくくします。さらに、剥がれた網膜を内側から押し付けるために眼球内に空気やガスを注入することがあります。

一方、硝子体手術では、剥離の原因となった硝子体の濁りや牽引力を取り除くために硝子体の切除を行います。眼球内を満たす硝子体を特殊なカッターで吸引切除し、網膜を引っ張っている増殖膜や膜状組織も除去します。次に、剥離した網膜をもとの位置に戻して網膜復位を図ります。

網膜が所定の位置に復位したら、裂孔周囲をレーザーで凝固し、網膜と下の組織を接着させます。硝子体手術でも眼内ガスもしくはシリコンオイルを手術の最後に眼球内に注入して網膜を内側から押さえつける処置を行います。

網膜剥離の手術にはどの程度の費用が必要ですか?

網膜剥離の手術は公的医療保険が適用されるため、年齢や所得に応じ異なりますが、患者さんの自己負担は1~3割です。費用は手術の内容や入院の有無によって変動しますが、自己負担3割の場合で片目あたり約10~18万円が目安です。これは日帰り手術の場合の手術費用であり、入院をすれば別途入院費がかかります。

なお、日本には高額療養費制度があり、1ヶ月の自己負担額が一定の上限額を超えた場合、超過分が後日払い戻されます。そのため、長期入院や高額の手術費用が発生した場合でも、条件を満たせば自己負担額が軽減される仕組みがあります。具体的な費用は治療内容や病院ごとに異なるため、事前に医療機関で見積もりや説明を受けておくとよいでしょう。

網膜剥離の治療期間と注意点

網膜剥離の治療期間と注意点

網膜剥離の治療にかかる期間の目安を教えてください

網膜剥離の治療期間は、治療方法や病状の重さによって大きく異なります。網膜に穴があるだけで剥離が起きていない場合のレーザー治療であれば、処置自体は短時間で入院の必要もなく、経過観察期間も含めて数日~数週間程度でひとまず治療完了します。

これに対し、手術が必要な網膜剥離では、一般的に手術時間は1~2時間程度ですが、その後の入院期間が必要です。入院期間はケースによりますが、1週間から長い場合で2~3週間程度が目安です。ただし、入院期間は患者さんの状態や術後経過によって異なり、術後早期に網膜が安定すれば1週間以内で退院できる場合もあります。

参照:『網膜剝離』(日本眼科学会)

網膜剥離の治療後はどのようなことに気を付けるとよいですか?

網膜剥離の術後は、医師の指示に従い姿勢(うつ伏せなど)を保ち安静に過ごすことが大切です。また、洗顔や入浴、運動、車の運転なども一定期間は制限され、点眼薬は清潔に正しく使い続けることが重要です。

特に、ガスが眼内に残っている間は飛行機や高地の移動は禁止されます。退院後も定期的に眼科を受診し、再剥離や合併症の早期発見に努めましょう。もし経過観察中に違和感や見え方の変化があれば、できるだけ早めに主治医に相談することが大切です。

編集部まとめ

編集部まとめ

網膜剥離は決してまれな病気ではなく、加齢や強度近視でも起こりうる目の病気です。しかし、初期には自覚症状に乏しく見過ごされがちで、症状に気付いたときにはすでに進行している場合もあります。本記事で解説したように、網膜剥離の程度によって治療方法や期間、費用は大きく異なります。初期の段階であればレーザー治療など簡便な処置で入院も不要で済みますが、剥離が進行してしまうと緊急手術や長期の入院安静が必要となり、視力への影響も大きくなります。したがって、飛蚊症や光視症、視野の異変に気付いたら、できるだけ早く眼科を受診するようにしましょう。治療後も再発予防のため定期検診を受け、日々の生活で目を保護する習慣を心がけてください。大切なのは予防と早期発見、早期治療です。自分の目に現れるサインを見逃さず、違和感があれば眼科を受診することで、将来の視力を守ることにつながります。

この記事の監修医師