「網膜剝離の前兆となる初期症状」はご存知ですか?セルフチェック法も解説!
公開日:2025/12/09

視界に突然、虫やゴミのような影が見えたり(飛蚊症)、暗い場所で光が走るように感じたり(光視症)したら要注意です。それは網膜剥離という目の病気の前兆かもしれません。網膜剥離は進行すると失明につながる危険もある疾患ですが、初期の段階で発見し適切な治療を受ければ視力低下を防げる可能性が高まります。本記事では、網膜剥離とはどのような病気か、前兆となる症状、セルフチェックの方法、そして緊急に受診すべきサインや治療の見通しを解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
網膜剥離の前兆と初期症状
網膜剥離とはどのような病気ですか?
網膜剥離とは、目の奥にある網膜が何らかの原因で眼球の壁から剥がれてしまった状態を指します。この網膜が剥がれると、その部分では光を感じられなくなるため視野に見えない部分が生じたり、視力が低下したりします。
網膜が剥がれる原因としてもっとも多いのは裂孔原性網膜剥離といって、網膜に小さな孔(裂け目)が開き、目の中のゼリー状の物質(硝子体)が液化してその孔から入り込むことで網膜が裏側から剥がれていくケースです。そのほか、糖尿病網膜症に伴う牽引性や、ぶどう膜炎などに伴う滲出性網膜剥離もあります。
このなかでも特に、裂孔原性網膜剥離は放置すれば網膜全体が剥がれ、失明に至る可能性が高い目の病気です。
網膜剥離の前兆を教えてください
網膜剥離の前兆として代表的なのは、飛蚊症と光視症です。
飛蚊症とは、視界に蚊やホコリのような小さな黒い影が浮いて見える症状で、虫が飛んでいるように見えることから名づけられています。網膜に裂孔が生じた際、その部分から出血した微小な血液や網膜の色素細胞の破片が硝子体中に散ることで影が発生し、突然こうした浮遊物が見えることがあります。
一方、光視症とは視界のなかにチカチカとした光の点滅や、暗い場所で稲妻のような閃光が走るように見える症状です。硝子体が網膜を引っ張る刺激が視細胞に伝わり、実際には光がないのに光を感じてしまう現象です。
これらの症状が網膜剥離発症のサインとなることがあります。特に、今まで気にならなかった飛蚊症が急に増えたり、大きさ・量が変化したりした場合、あるいは光視症が頻繁に起こるようになった場合は注意が必要です。
ただし、網膜剥離の初期には自覚症状がまったくない場合もあり、知らないうちに進行していることもあります。飛蚊症や光視症自体は加齢や生理的な硝子体変化でも起こるため、必ず網膜剥離になるというものではありません。しかし、いつもと違う飛蚊症や光視症を感じたら前兆の可能性がありますので、早めに眼科で検査を受けるようにしましょう。
網膜剥離の初期症状を教えてください
網膜剥離が発生し始めると、症状が進行するにつれて次第に次のような視覚異常が現れます。
- 視野の一部が欠ける
- 視力が下がる
- 物が歪んで見える
網膜剥離のセルフチェック
網膜剥離のセルフチェック方法を教えてください
網膜剥離は初期には自覚しにくいこともありますが、日常的なセルフチェックによって見え方の異常にいち早く気付ける場合があります。ご自身で違和感を覚えたときには、以下のポイントを確認してみましょう。
- 片目ずつ見え方に違いがないか
- 明るい背景で浮遊物の有無
- 暗い場所で閃光が見えないか
- 視野の端に異常がないか
- 急激な視力低下がないか
網膜剥離と似ている症状が現れる病気はありますか?
網膜剥離と似た症状を起こす目の病気はいくつかあります。
例えば硝子体出血です。硝子体出血は眼球内の硝子体への出血で、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などの網膜の病気で起こることがあります。硝子体出血が生じると視界に突然大量の飛蚊症が現れたり、視界全体がかすんで見えにくくなったりすることがあり、網膜剥離と症状が似ています。
また、目の中の炎症(ぶどう膜炎)でも硝子体が濁るため、飛蚊症の症状が現れることがあります。さらに、網膜剥離と同様に視野が欠ける疾患として緑内障があります。緑内障は進行すると視野が徐々に狭く欠けていく病気ですが、網膜剥離のように急速に広がることはなくゆっくり進行します。
このほか網膜静脈閉塞症や網膜動脈閉塞症などの血管障害でも、突然片目の視野が欠ける症状が起こることがあります。しかし、これらは網膜への血流障害によるもので、網膜自体が剥がれる網膜剥離とは原因が異なります。
網膜剥離で緊急受診が必要な状況と眼科での対応
網膜剥離で緊急受診が必要になるのはどのようなときですか?
網膜剥離が疑われる症状を自覚したら、少しでも早く眼科を受診する必要があります。特に、視野の端に黒い幕がかかったように見える場合は、網膜剥離がかなり進行しているサインであり緊急性が高い状態です。
また、突然大量の飛蚊症が発生した、閃光が繰り返し見えるといった症状も、網膜に裂孔や剥離が生じ始めている可能性があるため放置せず早めに検査を受けるようにしましょう。
なかには網膜剥離が数日のうちに急速に進行することがあり、「まだ大丈夫かも」と様子をみないようにしましょう。特に、網膜の中心である黄斑にまで剥離が及んでしまうと、手術で網膜をもとに戻しても視力が回復しないおそれが高まります。
網膜剥離の疑いがあるのに放置をするとどうなりますか?
網膜剥離を治療せず放置すると、剥離した範囲がどんどん広がっていきます。最初は網膜の一部だけが剥がれて視野の一部が欠ける程度でも、時間とともに剥離が拡大し、最終的には網膜全体が剥がれてしまうこともあります。
網膜から視細胞への栄養供給が絶たれるため、剥離した部分の網膜機能は徐々に低下していきます。特に、黄斑まで剥がれてしまうと、視力が大きく下がり、黄斑が剥離していた期間が長いほど視力の戻りも悪くなります。
さらに、長期間放置した網膜剥離では、網膜上に細胞膜が増殖して網膜を強く引っ張る増殖硝子体網膜症へ進行し、複数回の手術を行っても網膜を付けられなかったり、最終的に失明したりしてしまう危険性もあります。
網膜剥離疑いで受診した場合の検査方法を教えてください
網膜剥離が疑われる症状がある場合、眼科ではさまざまな検査を行います。
具体的には、視力検査や屈折検査などの基本的な検査、そして眼底検査を行います。眼底検査は、目薬で瞳孔を大きく開いてから、目の奥(眼底)をすみずみまで観察する検査です。眼底検査により網膜に裂孔や剥離が起きていないか直接確認しますが、もし出血などで眼底が見えにくい場合には超音波検査を行って網膜の状態を調べます。
また、網膜の中心部(黄斑)の状態を調べるために光干渉断層計(OCT)検査で網膜の断面像を撮影します。
これら検査結果を踏まえて、症状が網膜剝離によるものか、あるいはそれ以外の病気による症状なのかを判別します。
網膜剥離は治療すれば治りますか?
適切な治療を受ければ、網膜剥離の多くは治すことが可能です。早期に発見された場合は、網膜が剥がれきる前の網膜裂孔の段階で治療介入できることもあります。その場合、レーザー光線を網膜の裂孔周囲に照射して接着させるレーザー光凝固術を行うことで、網膜剥離への進行を食い止められることがあります。
一方、網膜剥離が起こってしまった場合は基本的に手術が必要です。手術には、大きく分けて2種類の方法があります。一つは強膜内陥術といって、眼球の外側からシリコンのバンドやスポンジで眼球壁を押し込んで網膜の裂孔部分を支え、併せて裂孔周囲をレーザーや冷凍で固める方法です。
もう一つは硝子体手術といって、眼球に小さな穴を開けて器具を挿入し、濁った硝子体を取り除いてから眼内にガスやシリコンオイルを入れて内側から網膜を押さえつける方法です。どちらの術式になるかは年齢や剥離の状態によりますが、いずれも網膜をもとの位置に復位させることを目的とした手術です。
網膜剥離と診断された場合は眼科医の指示に従い安静を保ち、可能な限り速やかに適切な治療に臨むことが大切です。
編集部まとめ
網膜剥離は決して珍しくない目の病気ですが、その程度によって必要な治療や視力への影響は大きく異なります。初期段階では飛蚊症や光視症といったわずかな異変しかなく、自覚症状が乏しいため見過ごされることもあります。
しかし、網膜に裂孔ができていたり、網膜剥離が始まっていたりする可能性があります。症状が軽いうちに発見できればレーザー治療など負担の少ない処置ですむのに対し、進行してしまうと入院が必要な手術や長期の通院が避けられず、視力の回復も限定的になってしまう場合があります。見え方に違和感を覚えたら、決して放置せず早めに眼科を受診しましょう。小さなサインも見逃さず適切に対処して、大切な視力を維持しましょう。




