「胃下垂」の人が「食後」にお腹が出る原因はご存知ですか?【医師監修】

食事の後に下腹部がぽっこりと膨らんでしまうことに心当たりはありませんか?「もしかして胃下垂かも?」と不安になる方もいるでしょう。胃下垂そのものは病気というより体質的な特徴で、痩せ型の方に多いとされています。
症状がまったく出ない方も多く、胃下垂だからといって必ず治療が必要なわけではありません。しかし、人によっては胃下垂に伴って胃の働きが弱まり、食後の胃もたれや膨満感など不調に悩まされることもあります。本記事では胃下垂とはどのような状態か、その原因をはじめ対処法、受診の目安などについて解説します。

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
胃下垂とは

胃下垂とはどのような状態ですか?
これは胃そのものの構造異常ではなく、胃を支える筋肉や靭帯、脂肪の量など身体の構造上の要因によって位置が下がっています。
胃下垂自体は病気とみなされることは少なく、自覚症状がないことも多いです。ただし、胃の位置が下がることで胃の動き(蠕動運動)が低下すると、胃もたれや消化不良などの症状が出ることがあります。極端な胃下垂では、みぞおち付近がへこんでへそ周りや下腹部が前に突き出る体型上の変化がみられる場合もあります。
胃下垂の原因を教えてください
そのほかにも、急な体重減少、複数回の出産経験、過度の暴飲暴食や早食い・夜食中心の不規則な食生活、慢性的なストレスなどが複合的に関わり、胃下垂を引き起こすと考えられています。
胃下垂で食後にお腹がぽっこりしやすい理由とほかの病気の可能性

胃下垂の人は食後に下腹部が出やすいですか?
通常であれば、食後しばらくすると胃の内容物が小腸に送られて膨らみは収まっていきます。一方で、胃下垂の方は、胃の位置が低く周囲の筋肉による支持が不足しているため、ぽっこり感が強く出て長引く傾向があります。
特に、胃の動き自体が弱っている場合は、胃の排出に時間がかかり膨らみやもたれが何時間も続くこともあります。ただし、すべての胃下垂の方が明らかにお腹が出るわけではなく、症状の程度は個人差があります。
胃下垂の人が食後にお腹がぽっこりしやすい理由を教えてください
また、胃下垂の方は胃の筋緊張が低下した状態(胃アトニー)を伴っていることがあります。胃の筋力が弱っていると食べ物を小腸に送り出す動きが鈍くなり、食後に胃に内容物が長く滞留します。
結果として胃が膨らんだ状態が持続し、下腹部の膨隆感が強く出てしまうのです。早食いや一度に大量に食べる習慣がある場合は、消化に時間がかかり余計に胃に負担がかかるため、胃下垂によるぽっこりが目立ちやすくなります。
胃下垂以外に食後にお腹が出る病気はありますか?
- 機能性ディスペプシア(FD)
- 瀑状胃
- 便秘症
- 過敏性腸症候群(IBS)
以上のようにさまざまな原因がありえます。単なる体質による一時的な膨らみなのか、ほかの疾患によるものかを見極めるため、腹痛や下痢などほかの症状の有無も含めて注意深く観察することが大切です。気になる場合は消化器内科で相談し、必要に応じて検査を受けるとよいでしょう。
胃下垂の人にみられる食後の症状と対処法

胃下垂には食後にお腹が出る以外にどのような症状がありますか?
- 胃部の膨満感や張った感じ
- 少量の食事で満腹感を感じてしまう
- 食後に下腹部が膨らむ感じがする
- 食欲不振や吐き気、げっぷなど消化不良に伴う不快感
これら症状の出方には個人差がありますが、日常生活に支障が出るほど胃の不調が続く場合には対策が必要です。
胃下垂による食後の症状への自分でできる対処法を教えてください
- 油っぽいものや甘いものは控えめにする
- 野菜やタンパク質(肉・魚・大豆製品など)をバランスよく取り入れる
- 少量の食事を回数多くとる
- よく噛んでゆっくり食べる
これらの食事のとり方を見直すと同時に、運動習慣も見直しましょう。
- 腹筋運動など適度な運動を習慣づける
- 十分な休養とストレス管理を心がける
- 極端なダイエットを避けて適正体重を維持する
胃下垂そのものを治す薬はありませんが、腹筋や背筋を鍛える適度な運動によって内臓を正しい位置に支える筋肉を強化できます。加えて、ストレスの軽減も大切です。ストレス自体が胃腸の動きを低下させるため、十分な睡眠を取りリラックスできる時間を持つことも症状改善につながります。これらのセルフケアによって多くの場合、胃下垂による不調は緩和できます。
胃下垂で病院に行った方がよい症状を教えてください
- 胃痛や激しい腹部の痛みがある
- 嘔吐や下痢を伴う
- 血便・吐血がある
- 体重減少や貧血
- 膨満感が徐々に悪化する
以上のような症状がみられたら、単なる胃下垂のせいと放置せず消化器内科など医療機関を受診するとよいでしょう。医師にこれまでの経過や症状を詳しく伝えることで、必要な検査を行い、原因疾患の有無を評価してもらえます。
病院では胃下垂の食後の症状に対してどのような治療を行いますか?
基本は先述の生活習慣の改善指導ですが、症状が強い場合には薬物療法も検討されます。胃アトニーなどで胃の動きが低下している場合には胃腸機能調整薬や消化酵素薬などが用いられ、消化を助けます。胃酸過多が疑われる場合には、胃酸の分泌を抑える薬が使われることもあります。
編集部まとめ

胃下垂そのものは病気ではないため、症状がなければ経過を観察するだけで問題ありません。しかし「少し食べただけですぐお腹が苦しくなる」「食後に下腹部がぽっこり出て恥ずかしい」といった不調がある場合、胃下垂による胃機能低下が起きている可能性があります。まずは食生活の改善や運動など、自分でできる対処を実践してみましょう。
そして、食後のお腹が気になる方は医療機関を受診し、正確な診断を受けるとよいでしょう。適切な指導や必要な薬物療法によって症状は和らぎ、日常生活の質も向上します。早めの対応と生活習慣の工夫で、胃下垂による不調を軽減し健やかな毎日を過ごしましょう。

