本やスマートフォンを離さないとピントが合わなくなっていませんか?それは老眼の症状かもしれません。老眼は主に40代前後になれば誰にでも起こりうる症状で、目のピント調節力の低下が原因です。「年だから仕方ない」と放置すると、見えづらさから肩こりや頭痛につながることもあります。本記事では老眼の基礎知識や原因、老眼は自然によくなるのかといった疑問に答えます。さらに、視力矯正手術であるレーシックで老眼が治せるのか、その仕組みや費用、メリットや注意点について解説します。
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
老眼の基礎知識
老眼とはどのような状態ですか?
老眼とは、カメラのレンズのような役割をする水晶体が年齢とともに硬くなり、併せてピントを合わせる能力が低下して近くのものに焦点を合わせにくくなる状態です。目の老化現象であり、目のよし悪しに関係なく40代前後から多くの方が老眼を自覚し始めます。遠くは見えるのに手元がぼやける、細かい文字が読みにくい といった症状が代表的です。老眼自体は病気ではなく失明につながることもありませんが、放置すると近くを見る際に目に力が入って眼精疲労 やかすみ目、肩こりなど日常生活への支障をきたすことがあります。
老眼の原因を教えてください
老眼の主な原因は
加齢による水晶体の硬化 です。若い頃は水晶体が柔軟で、遠くを見るときは薄く、近くを見るときは厚く変形させてピントを合わせられます。ところが年齢を重ねるにつれ水晶体は徐々に弾力を失い硬くなっていき、厚みを変化させにくくなるため、近くの物にピントが合わなくなります。この水晶体の硬化と調節力低下こそが老眼の正体です。
また、もともと遠視や正視の方は近くにピントを合わせる負担が大きいため、老眼を早く自覚しやすく、逆に近視の方は近くを見る際は裸眼で見えることも多く老眼の発見が遅れがちです。しかし、
水晶体の老化現象そのものは誰にでも等しく起こります 。そのため、基本的には加齢による生理現象として避けられないものです。
老眼が自然に治ることはありますか?
いいえ、残念ながら老眼が自然に元通り治ることはありません 。 老眼は加齢に伴う生理現象ですので根本的に治す方法はなく、老眼鏡などで矯正する以外に手段はありません。ピント調節の能力は一度低下すると加齢とともにさらに衰えていき、自然に回復することはないのです。また、現時点で老眼を根本的に治す目薬やサプリメントも存在していません。老眼は進行を完全に止めることも難しいため、見えづらさを放置せず眼科で相談し、自分に合った老眼鏡や遠近両用メガネなどの矯正器具を用いることが重要です。
レーシックの仕組みと老眼治療
レーシックとはどのような治療ですか?
レーシック(LASIK)とは、エキシマレーザーという特殊なレーザー光を目の表面の角膜に照射し、角膜の形状を削って矯正することで
近視・遠視・乱視 などの屈折異常を改善する視力矯正手術です。
角膜を削る量や形を調整して光の屈折力を変化させることで、ピントの位置を網膜上に合わせ直し、裸眼での視力を回復させます。手術は片眼10分程度で完了し、その日のうちに帰宅できます。術後の回復も早く、翌日には裸眼での視力回復を実感できるほどで、安全性も確立された実績の多い手術として知られています。
レーシックで視力がよくなる仕組みを教えてください
人の目は本来、角膜と水晶体で光を曲げて網膜上にピントを合わせています。近視や遠視はこのピント位置が網膜からずれている状態ですが、レーシックでは角膜のカーブ(屈折力)をレーザーで再成形することにより、ずれたピントを網膜上に合わせ直します。
例えば、近視の場合は角膜を平坦に削って焦点距離を伸ばし、遠くの像が網膜に合うようにします。遠視の場合は角膜を中央部で相対的に厚く削って屈折力を高め、近くの像が網膜に届くよう調整します。このように角膜を物理的に加工することで眼球全体のピント調節力を補正し、メガネやコンタクトレンズなしでもはっきり見えるようにするのがレーシック手術の仕組みです。
レーシックで老眼を治療することはできますか?
結論からいうと、通常のレーシック手術だけで老眼を
根本的に治療することはできません 。先述のとおりレーシックは角膜の屈折矯正手術であり、加齢で硬くなった水晶体そのものをやわらかくしたりピント調節力を取り戻すことはできないためです。
ただし、いくつか例外的なアプローチがあります。ひとつは
モノビジョンレーシック と呼ばれる方法です。これはレーシックで片方の目を近くが見えるように矯正し、反対の目は遠くが見えるように矯正するものです。左右で役割を分けることで両目で見たときに遠近とも見やすくし、老眼鏡への依存を減らす手術ですが、片目ずつの見え方が異なるため慣れが必要になります。
もう一つは
多焦点レーシック といわれる方法です。角膜に特殊なレーザー照射を行い一つの目で遠くも近くも見える多焦点の形状を作り出すレーシックで、近年一部の機器で導入され始めています。この遠近両用レーシックが適用できれば、40代以上で老眼の出始めた方でもレーシックで遠近の視力改善を図れる可能性があります。
とはいえ多焦点レーシックは高度な技術で万人に有効とはいえず、行える施設も限られた自由診療での治療です。なお、レーシック以外にも老眼を矯正する方法はあります。自分にどの方法が適しているかは目の状態やライフスタイルによるため、老眼の悩みがある方はまず眼科で相談するとよいでしょう。
レーシックの老眼治療にかかる費用の目安を教えてください
老眼目的のレーシックは
公的保険の利かない自由診療 です。そのため、費用はクリニックによって異なりますが、目安として
両眼で50万円前後 かかります。
一方、片眼ずつ遠近を分担させるモノビジョンレーシックの場合も、両眼トータルで40万円台~50万円程度かかります。いずれも手術内容やオプションによって前後します。また、医療費控除の対象になったり、割引プランが用意されていたりする場合もあります。費用面が気になる場合は、事前に希望の施設で料金体系を確認するとよいでしょう。
レーシックの老眼治療を受けるメリットと注意点
レーシックで老眼治療を受けるメリットを教えてください
老眼の矯正を目的にレーシックを受ける最大のメリットは、
老眼鏡や遠近両用メガネに頼る頻度を減らせる ことです。日常生活で近くを見るときだけ老眼鏡をかける、いちいちメガネをかけ替える、といった煩わしさが軽減されるため、スマートフォンの操作や読書、細かな作業も裸眼でスムーズに行えるようになります。
一方、多焦点レーシックのメリットは
両目とも遠近の視力を確保できる 点です。左右の目で遠近を分担しないため立体視を保ちやすく、より自然で違和感の少ない見え方になる可能性があります。
レーシックの老眼治療に合併症や後遺症はありますか?
レーシックは安全性の高い手術ですが、手術である以上
合併症や後遺症のリスクがあります 。老眼目的のレーシックに特有なものは少なく、通常のレーシック手術と共通の合併症があります。
例えば、手術後に
ドライアイ の症状が強くなったり、夜間に光がにじんで見える
ハロー・グレア現象 が生じたりすることがあります。また、角膜を削ることでわずかに乱視が残ったり、再手術やメガネでの矯正が必要になったりすることもあります。
また、モノビジョンレーシックのデメリットとして、遠方専用の目と近方専用の目を作るために
立体視が低下する ことがあります。一方、多焦点レーシックの場合は角膜に複数の焦点を持たせる性質上、
コントラスト感や暗所視力が低下 することがあります。
いずれの場合も、一度削った角膜はもとに戻せないため、手術の適応検査で十分に自分の目の状態を把握し、眼科医と相談のうえでメリットとリスクを天秤にかけて判断することが大切です。
レーシックの老眼治療を受けた後の注意点を教えてください
レーシック手術後は、合併症予防と良好な視力維持のために
眼科医の指示に沿った経過観察 を行うことが不可欠です。まず手術直後から数日は目を強くこすることや、水が入るような行為は厳禁です。特に、就寝時は
保護用の眼帯やゴーグル を装着し、無意識に目を触らないようにします。また、1週間ほどはスポーツや激しい運動、サウナや温泉、飲酒なども眼科医の許可が出るまで控えてください。
そして、処方された
抗生剤や消炎剤の目薬 を決められた期間きちんと続けることが大切です。定期検診にも必ず通い、術後の経過観察と必要な治療を受けましょう。治療後は見え方に違和感を覚えることもあるため、特に夜間の運転などは慎重に行い、無理をしないことが肝心です。こうした注意点を守れば、多くの方はレーシック後の視力を良好に保ち、快適な裸眼生活を送ることができるでしょう。
編集部まとめ
老眼は年齢を重ねると誰にでも訪れる目のピント調節力の衰えであり、目の老化現象の一つです。近くが見えにくくなるのは避けられないことですが、適切に対処すれば日常生活の不便さは大きく軽減できます。また、最近では遠近両用のレーシックや多焦点眼内レンズなど老眼治療の選択肢が広がっていますが、どの方法にもメリットとデメリットがあります。大切なのはご自身の目に合った手段を眼科医と一緒に見極めることです。老眼鏡を上手に活用するのも立派な対策ですし、どうしても裸眼にこだわる場合は慎重に検査やカウンセリングを受けてから行うようにすることが大切です。不安なこともあると思いますが、本記事が皆さんの不安を一つでも解決する一助になれば幸いです。
栗原 大智 医師
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。