緑内障(りょくないしょう)は中高年以降に増える目の病気で、日本人の失明原因の第1位です。しかし、早期に発見して適切な治療を受ければ、多くの場合は一生涯にわたり視野と視力を維持できる病気でもあります。ただし、治療には長期的な通院や点眼薬の継続、場合によっては手術が必要です。「治療費はいくらかかるのだろう」「手術や薬にどれくらいお金が必要か」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。本記事では、緑内障の概要と治療法を解説するとともに、手術や手術前後の通院、点眼治療にかかる費用の目安を解説します。
プロフィールをもっと見る
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
緑内障の概要と手術の種類
緑内障とはどのような病気ですか?
緑内障とは、目の内部を循環する房水の排出がうまくいかず、その圧負担により視神経が
障害される 病気です。進行すると
視野(見える範囲)が徐々に欠けて 狭くなり、最終的には失明に至る可能性があります。
初期から中期は症状に気付きにくい ため、検診や眼科受診で偶然指摘されるケースも少なくありません。
残念ながら緑内障による視神経のダメージはもとに戻せず 、今の医療では失った視野・視力を回復させることはできません。したがって、治療の目的は
眼圧を下げてそれ以上視野が悪くならないよう 、進行を抑えることです。
日本では40歳以上の
約20人に1人 、60歳以上では
10人に1人以上 が緑内障に罹患している、患者数の多い疾患です。しかし、早期発見や治療によって適切に眼圧管理すれば、
生涯にわたり視野と視力を保つことも可能 です。そのため、定期受診を欠かさず、主治医と協力しながら治療を継続することが大切です。
参照:『緑内障といわれた方へ―日常生活と心構え―』(日本眼科医会)
緑内障の主な治療法を教えてください
緑内障の治療は大きく分けて
薬物療法(点眼薬や内服薬) 、
レーザー治療 、そして
手術 の3種類があります。
通常は
まず眼圧を下げる点眼薬による治療 から開始し、それで眼圧コントロールが不十分で病状が進行する場合にレーザー治療や手術を検討します。薬物療法では、房水の産生を抑えるタイプや流出を促すタイプなど複数の作用機序の目薬を使い分けて眼圧を下げます。
点眼薬を複数併用しても眼圧が十分に下がらない場合や、点眼薬を指示通りに使えない場合などにはレーザー治療や外科的な手術を選択します。
緑内障の手術にはどのような種類がありますか?
緑内障の手術には
レーザーを用いる手術 と、メスで眼球に切開を加える
観血的手術 があります。まずレーザーによる手術には、
レーザー虹彩切開術(LI)と選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT) などが代表的です。
一方、メスを使う観血的手術には、
線維柱帯切開術(トラベクロトミー) や
線維柱帯切除術(トラベクレクトミー) などが挙げられます。
さらに、近年では
低侵襲緑内障手術(MIGS) といって、
極細のチューブやステントを挿入する方法 (トラベクトームやアイステントなど)や、特殊なマイクロフックで線維柱帯を切開する方法なども普及してきました。
MIGSは切開創が小さく白内障手術と同時に行える場合もあり、術後の回復が早いメリットがあります。ただし、眼圧下降効果が従来手術よりマイルドな傾向があり、症例に応じて使い分けられます。
緑内障手術の内容を教えてください
緑内障手術では眼圧を下げるために
房水の流出路を新たに作る 、あるいは
詰まりを改善する 処置を行います。例えば、線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)では、房水の出口を人工的に作ることで眼圧を下げることを図ります。局所麻酔下で顕微鏡を使い細かい器具で行われ、片眼あたりの手術時間はおおよそ30分~1時間程度です。
レーザー治療の場合は切開を伴わないため準備含め数分〜15分程度で終了し、点眼麻酔のみで外来で治療が可能です。手術内容は患者さんの目の状態によって選択されますが、
いずれの方法でも目的は眼圧を下げて視神経を守ること に変わりありません。緑内障手術を受ける際は不安も大きいかもしれませんが、わからない点は担当医に質問し、十分に納得してから治療を受けるようにしましょう。
緑内障の手術や手術前の通院治療などにかかる費用の概算
緑内障の手術にはどの程度の費用がかかりますか?
緑内障手術の費用は手術の種類や入院の有無などによって変わりますが、日本では公的医療保険が適用されるため、自己負担は原則1~3割です。自己負担3割の場合、片眼あたり3万~12万円程度が手術費用の一つの目安です。具体的には維柱帯切除術では3割負担でおよそ7~10万円前後、線維柱帯切開術なら約5~6万円、レーザー治療なら約3万円程度が相場となっています。実際の費用は術式や病院によって多少異なりますので、手術前に主治医や医療機関の窓口で見積もりを確認するとよいでしょう。
緑内障の手術前の通院にかかる費用の目安を教えてください
手術を決める前段階では、多くの方は点眼薬による治療と定期検査のための通院を続けます。手術前の通院回数や期間は症状によりますし、検査内容によって費用は多少変動します。3割負担の場合1回の診察あたり約1,500〜4,000円 が検査を含めた受診料の目安です。視野検査や光干渉断層計(OCT)など特殊検査を行うと数千円加算されることがあります。初診時には初診料が別途かかるなどの違いもあるため、費用について心配があれば医療機関に事前に確認しておくとよいでしょう。
緑内障の点眼治療にはどの程度の費用が必要ですか?
点眼薬による治療費用は、使用する薬の種類や本数によって大きく異なります。緑内障点眼薬にはジェネリック医薬品も含めて多数の種類がありますが、1本あたりの価格は保険適用で数百円~数千円です。1本で通常4週間程度使用できるため、例えば1種類の点眼を片眼に毎日使う場合は月に数百円~1,000円台の自己負担で済むケースが多いでしょう。2~3種類を併用すると月に数千円程度です。また、病状に応じて薬剤の増減がありますが、点眼治療は長期間継続すると、数万円から数十万円 かかります。
緑内障手術の治療費の負担を軽減できる制度を教えてください
日本では緑内障の検査と治療は基本的に
公的医療保険の適用 となるため、自由診療と異なり、大きな経済的負担を強いられるケースは少なくなっています。さらに、高額な医療費がかかった際には
高額療養費制度 を利用して自己負担額の上限超過分の払い戻しを受けることが可能です。
例えば、1ヶ月の自己負担医療費が規定の上限を超えた場合、超過分は後から
高額療養費 として健康保険から支給されます。緑内障手術で入院や手術費用が高額になっても、この制度により自己負担の実質的な軽減が図られます。制度を利用する際は、加入している健康保険組合などに申請が必要です。事前に
限度額適用認定証 を発行してもらえば、窓口での支払いを上限額までに抑えることもできます。
加えて、民間の
医療保険 に加入している場合には、緑内障の手術が保険の定める給付対象となることがあります。該当すれば
保険会社から手術給付金が支給 され、自己負担分の補填に充てられるでしょう。給付条件や金額は契約内容によりますので、事前に保険会社へ確認しておくとよいでしょう。
緑内障の手術後にかかる費用の目安
緑内障の手術を受けた後も通院する必要はありますか?
はい、手術後も定期的な通院が必要です。手術はあくまで眼圧を下げる治療であり、その後も適切な眼圧を維持できているか経過観察する必要があります。術後直後から退院後しばらくは特に受診頻度が高く、例えば手術翌日、数日後、1週間後といった具合に最初の数週間は毎週あるいは週に複数回のペースで診察を受けます。
この間に眼圧や傷口の状態をこまめにチェックし、必要に応じて点眼治療の調整や合併症の対応を行います。術後早期を過ぎて経過が安定した後も、数週間おきから数ヶ月おきというように徐々に通院間隔を延ばしながら、定期検査と治療の継続が求められます。
緑内障手術の後に通院する場合の治療費の目安を教えてください
手術後の通院にかかる費用も、基本的には1回あたり数千円程度 と術前と大きく変わりません。術後しばらくは受診回数が多くなるため、例えば、退院後1ヶ月で数回通院した場合、その月は合計で1万円前後の自己負担となるかもしれません。しかし、前述の高額療養費制度 が適用される所得区分の方であれば、1ヶ月に複数回手術後検診を受けて費用がかさんでも自己負担額は上限までに抑えられます。手術後も治療は継続するため定期的な医療費が発生しますが、その額は術前の通院時と同程度か徐々に少なくなる傾向があります。
編集部まとめ
緑内障は決して珍しい病気ではなく、特に中高年以降では多くの方が発症しうる眼の疾患です。日本では失明原因の第1位とされていますが、早期に発見して適切な治療を続ければ、ほとんどの場合は失明を防ぐことができます。治療の基本は点眼薬による眼圧コントロールで、必要に応じてレーザー治療や手術が行われます。緑内障は完治しない慢性疾患ですが、医師の指導に従い根気強く治療を続けることで、視力や視野を一生保つことも可能です。経済的な負担を軽減する制度も整っているため、費用面で治療を諦める前に本記事が参考になれば幸いです。
栗原 大智 医師
監修記事一覧
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。