「ストレス性胃腸炎」の自覚症状はご存知ですか？発症後の注意点も解説！

　公開日:2025/12/08

現代では、仕事や学業、人間関係などのストレスを抱えながら生活している方が少なくありません。強い緊張や不安が続くと、心だけでなく胃や腸にも影響が現れることがあります。食欲が出ない、みぞおちが重い、便通が安定しないといった症状が長引くのに、検査では異常が見つからないと告げられ、戸惑うこともあります。こうしたときに考えられるのが、ストレスによって消化器の働きが乱れるストレス性胃腸炎です。慢性的な痛みや不快感が続くことで、仕事や勉強、家庭生活に支障が出ることがあります。症状が軽くても、長く続くと食事や睡眠のリズムが崩れ、心身の不調が重なりやすくなります。

本記事では、ストレス性胃腸炎の特徴や似ている病気との違い、診断や治療の流れ、生活の工夫を解説します。

監修医師：
林良典（医師）

プロフィールをもっと見る

名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科（角膜外来）

目次 -INDEX-

ストレス性胃腸炎の特徴
- ストレス性胃腸炎とはどのような病気ですか？
- ストレス性胃腸炎の原因を教えてください
ストレス性胃腸炎の症状とほかの病気との見分け方
ストレス性胃腸炎の検査と診断、治療法と日常生活の注意点
編集部まとめ

ストレス性胃腸炎の特徴

ストレス性胃腸炎とはどのような病気ですか？

ストレス性胃腸炎は、心身のストレスによって胃や腸の働きが一時的に乱れることで起こる病気です。検査をしても潰瘍や炎症が見つからないのが特徴で、胃の運動や分泌のバランスが崩れ、みぞおちの痛みや胃もたれ、腹部の違和感が生じます。

緊張や不安が高まると交感神経が優位になり、胃腸の血流が減少して消化機能が低下します。その結果、食べ物を受け付けにくくなり、胃が張るような感覚や食後の不快感が現れます。症状の強さや続く期間は人によって異なり、ストレスが軽減すると自然に症状が落ち着く場合もあります。精神状態と消化機能の変化が密接に関係している点が、この病気の特徴です。

ストレス性胃腸炎の原因を教えてください

主な原因は、精神的緊張や不安、過労、睡眠不足などによる自律神経の乱れです。これにより胃酸分泌や腸の動きが不安定になり、痛みや吐き気、下痢、便秘といった症状が現れます。

さらに、夜遅い食事、脂っこい料理、カフェインやアルコールの摂り過ぎ、喫煙などの生活習慣も胃腸への負担を増やします。腸内環境の変化によってガスやお腹のハリが続くこともあり、こうした要素が重なると胃腸が過敏な状態になります。

ストレス性胃腸炎の症状とほかの病気との見分け方

ストレス性胃腸炎になるとどのような自覚症状がありますか？

ストレス性胃腸炎では、みぞおちの痛みや胃もたれ、吐き気、げっぷ、腹部のハリといった胃の不快感が見られます。食後に症状が強まることが多く、少量の食事でも満腹になりやすくなります。下痢や便秘が交互に起こることもあり、残便感や急な便意が続く場合もあります。

また、症状はストレスや緊張の影響を受けやすく、休養をとると軽くなるのが特徴です。朝の通勤前や発表の直前に腹痛や下痢が出るなど、心理的な負担が身体に反映されることもあります。さらに、食欲の低下や眠りの浅さなど、心身の不調が同時に現れることも少なくありません。

ストレス性胃腸炎に似ている病気を教えてください

似た症状を示す疾患には、胃・十二指腸潰瘍、急性胃腸炎、胆石症、胆のう炎、膵炎などがあります。潰瘍では夜間や空腹時の強い痛み、吐血、黒色便がみられます。急性胃腸炎は感染によるもので、発熱や急激な下痢が特徴です。胆石や膵炎では右上腹部から背中にかけての痛みが出やすく、食後に悪化します。炎症性腸疾患では血便や体重減少を伴うことがあり、慢性的に続く場合が多いです。

さらに、甲状腺の異常や婦人科系の病気でも腹部不快感や便通の変化が起こることがあるため、症状だけで判断するのは難しいです。

ストレス性胃腸炎とほかの病気はどのように見分けますか？

ストレス性胃腸炎は、症状が胃潰瘍や胃がん、炎症性腸疾患などの消化器疾患と似ているため、慎重な評価が必要です。まず、症状の出方や経過、ストレスとの関係を聞き取り、必要に応じて血液検査で炎症や臓器機能の異常を調べます。みぞおちの痛みが続く場合は胃カメラで胃潰瘍や胃がんを、便通異常がある場合は大腸内視鏡で炎症性腸疾患や大腸がんを確認します。黒色便や血便、急な体重減少などの症状があるときは、重大な病気の可能性があるため、早めに精密検査が必要です。

一方で、検査で明らかな器質的異常がない場合には、症状の経過やストレスの影響を慎重に観察します。症状がストレスの増減と連動して変動する場合や、検査で異常がなくても日常生活に支障をきたす場合は、ストレス性胃腸炎の可能性を検討します。

ストレス性胃腸炎の検査と診断、治療法と日常生活の注意点

ストレス性胃腸炎の検査方法と診断基準を教えてください

検査は、血液検査では炎症や貧血、臓器の異常を調べ、便の検査で感染や出血の有無を確認します。腹部超音波では、胆のうや膵臓などの消化器の状態を評価します。

みぞおちの不快感や胃もたれが続く場合は、胃カメラで潰瘍や腫瘍などの器質的疾患を除外します。異常がみられず、胃のもたれや早期満腹感、みぞおちの痛みなどが3ヶ月以上続き、発症が6ヶ月以上前にさかのぼる場合には、機能性ディスペプシア（FD）が疑われます。FDは胃の運動や知覚の過敏が関係し、ストレスによって症状が強くなる傾向があります。

一方、腹痛と便通の変化が中心の場合は大腸内視鏡検査を行い、炎症性腸疾患や腫瘍を否定します。器質的な異常がなく、腹痛が3ヶ月以上続き、排便によって症状が変化する、または便の回数や形状が変わるときは、過敏性腸症候群（IBS）と診断します。IBSも発症から6ヶ月以上経過していることが条件で、ストレスや生活リズムの乱れが症状の変動に関与します。

このように、ストレス性胃腸炎の診断は、単に異常がないことを確認するのではなく、症状の持続期間・特徴・心理的要因を総合的に判断します。

参照：
『機能性消化管疾患診療ガイドライン 2021―機能性ディスペプシア（FD）（改訂第 2 版）』（日本消化器病学会）
『機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群（IBS）（改訂第 2 版）』（日本消化器病学会）

ストレス性胃腸炎と診断されたらどのような治療が行われますか？

治療は、薬物療法と生活習慣の調整を組み合わせて行います。胃痛や胃もたれには胃酸分泌を抑える薬や胃の運動を整える薬を、便通異常が中心のときは整腸剤や便秘薬を用います。症状が長引いて神経の過敏さが目立つ場合には、少量の抗うつ薬を使って痛みの感じ方をやわらげる治療も行います。

また、ストレスそのものへの対応も欠かせません。カウンセリングや認知行動療法を通してストレスと症状の関連を整理し、ストレス反応を軽減することで再発を防ぎます。睡眠不足や過労が続くと回復が遅れるため、休息を確保することも治療の一環です。症状が慢性的に続いても、医師と相談しながら治療を継続することで、徐々に症状が落ち着くケースは多くあります。

ストレス性胃腸炎の人が日常生活で気を付けることを教えてください

規則正しい生活と消化がよい食習慣が基本です。三食を一定の時間にとり、よく噛んで食べましょう。脂っこい料理や香辛料、アルコール、カフェインは胃を刺激するため控えめにします。夜遅い食事や就寝前の飲食は胃酸の逆流を招きやすく、症状を悪化させる原因です。夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませるとよいでしょう。

さらに、適度な運動や休養も大切です。散歩や軽いストレッチ、深呼吸などは自律神経を整え、胃腸の働きを助けます。ストレスを溜め込まないためには、趣味や人との交流など、気持ちを切り替える時間を意識的に持つことが効果的です。症状が出たときには焦らず、ストレスと症状の関係を理解して生活を見直しましょう。