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「梅毒」を発症すると「腕」にどんな症状が現れるかご存知ですか?【医師監修】

 公開日:2025/11/10
「梅毒」を発症すると「腕」にどんな症状が現れるかご存知ですか?【医師監修】

梅毒は、病状の進行とともに、全身にさまざまな症状を引き起こす性感染症です。しこりや発疹が出ますが、痛みなどもなく発見が遅れることがあります。腕を含む全身の発疹は、ほかの皮膚疾患と区別がつきにくいのが特徴です。この記事では、梅毒による腕の症状や進行のしかた、治療法を解説します。

林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)

梅毒とは

梅毒とは

梅毒とはどのような病気ですか?

梅毒は、梅毒トレポネーマと呼ばれる病原体が引き起こす感染症です。梅毒という名前は、患者さんに現れる赤い発疹(ほっしん)が楊梅(ヤマモモ)に似ていることにちなんで付けられました。梅毒は、さまざまな全身の症状を引き起こし、治療が遅れると重大な合併症を起こすことのある病気です。一方で、有効な薬があるため適切に治療をすれば症状の改善が期待できます。

梅毒の原因を教えてください

梅毒の原因は、梅毒トレポネーマという細菌です。主に性的な接触によって感染します(性感染症)。梅毒トレポネーマに感染すると、皮膚や粘膜に潰瘍(かいよう)や発疹(ぶつぶつ)などがみられるようになります。これらの潰瘍や発疹には梅毒トレポネーマがたくさん存在しており、この部分の性的な接触によって人から人へ感染します。具体的には、陰茎や膣(ちつ)、肛門、お口などの粘膜どうし、あるいは粘膜と皮膚どうしが直接触れる性的な接触(性交、オーラルセックス、アナルセックスなど)で感染します。

腕に生じる梅毒の特徴的な症状と進み方

腕に生じる梅毒の特徴的な症状と進み方

梅毒になると腕にどのような症状が現れますか?

梅毒に感染し、梅毒トレポネーマが血液を通じて全身に広がると、腕にも特徴的な発疹が現れることがあります。腕に見られる代表的な症状は、主に次の2種類です。 梅毒性バラ疹(ばらしん)は、淡い赤色やピンク色の小さな斑点(発疹)です。腕の皮膚にも出現し、痛みやかゆみを伴いません。 梅毒性丘疹(きゅうしん) は、やや硬さのある赤褐色や銅色の小さなぶつぶつです。こちらも通常、かゆみや痛みを伴いません

腕に生じる梅毒の症状と似た症状が現れる病気はありますか?

梅毒は、偽装の達人とも呼ばれるほどさまざまな症状がみられ、ほかの病気とよく似た見た目や経過をとることがあります。腕に生じる梅毒の症状と似た症状が現れる代表的な病気を説明します。

発疹を伴うウイルス感染症麻疹や風疹など)は、体幹から腕や足に発疹が広がることがあり梅毒の発疹と似ています。また、薬疹やアレルギー性の湿疹も、腕や体に赤い斑点が現れることがあり、梅毒と見た目が似ているケースがあります。アレルギー性の湿疹は、かゆみを伴うことが多く、新しく服薬を始めた後に発疹が出現します。

また、乾癬(かんせん)でも、腕に赤みを帯びた発疹が出現することがあります。この発疹の上には鱗屑(りんせつ)を伴うことがありますが、梅毒の発疹では通常、鱗屑はありません。

梅毒で腕以外に生じる症状を教えてください

梅毒の初期はⅠ期といわれ、梅毒に感染してからおおよそ3週間前後で初期症状が現れます。典型的な初期症状としては、感染が起きた部位(唇やお口の中、陰部、肛門)にしこりや潰瘍(かいよう)ができます。潰瘍はただれて深い傷のようになっている病変を指します。また、そのほかには、鼠径部(そけいぶ)といわれる足の付け根部分などのリンパ節が腫れることがあります。

梅毒の症状は段階ごとに変化していきます。治療をせずにⅠ期を過ぎ、感染から約3ヶ月以降になると、Ⅱ期となります。手のひらや足の裏、胸・お腹・背中など身体の中心部分など、全身の皮膚にさまざまな発疹が見られることがあります。また、扁平(へんぺい)コンジローマがみられるケースもあります。扁平コンジローマは、陰部にみられることが多く、平たく盛り上がった病変で、細菌をたくさん含んでいます。

その後、さらに病状が進行しⅢ期になると、ゴム腫が発生する可能性があります。やわらかいゴムのような膨らみで、頭、顔、体幹(胸、お腹、背中)などさまざまな部位にみられ、ほぼすべての臓器に発生する可能性があるとされています。また、大動脈瘤、麻痺、認知症のような精神症状など、命に関わる重大な合併症を引き起こすケースもあります。ただし、現代ではⅢ期まで進行するのはまれだとされています。

腕から梅毒が感染することはありますか?

梅毒の主な感染経路は、性的な接触であり、性器、肛門、お口などの粘膜や皮膚の傷を通じて感染します。このため、日常生活で腕に触れるなどの行為で感染するリスクは、ほとんどないと考えられています。ただし、次のような状況ではまれではありますが、腕から梅毒が感染する可能性があります。

感染した方の腕に潰瘍を伴う発疹があり、そこから滲みでた分泌液に梅毒トレポネーマが含まれている場合です。この分泌液が、非感染者の傷のある皮膚や粘膜に直接触れると感染のリスクが生じます。また、感染した方の性器や口腔内などにある病変部、あるいは血液が、腕の傷口に直接触れると、感染する可能性があります。

腕に梅毒のような症状が現れたときの対処法

腕に梅毒のような症状が現れたときの対処法

腕に梅毒とみられる症状が現れたときの診療科を教えてください

腕に、梅毒かもしれないと思われる症状が出たら、皮膚科を受診しましょう。このほかにも、性感染症の診療を行っている病院や、産婦人科泌尿器科なども挙げられます。ただし、腕の症状はほかの皮膚疾患の可能性もあるため、まずは皮膚科の受診を検討するのが一般的です。判断に迷う場合は、受診前に医療機関へ相談してみましょう。

腕の梅毒はどのように治療しますか?

梅毒は、抗菌薬によって治療されます。まず、ペニシリンといわれる抗菌薬が検討されます。従来は飲み薬で治療されていましたが、2021年9月には、世界的な標準治療薬である注射剤も日本で承認されました。ベンジルペニシリンベンザチンという薬剤です。

ペニシリンに対してアレルギーがあるなど、ペニシリンが使用できない場合は、テトラサイクリン系といわれる種類の抗菌薬が検討されます。いずれが選択されるかは病状や患者さんの状況によって異なります。

参照:梅毒に関するQ&A(厚生労働省)

腕の梅毒の治療期間を教えてください

腕の梅毒の治療期間は、感染の時期や病状の進行度によって異なります。腕に発疹が出ている場合は、第Ⅱ期の梅毒のことが少なくありません。適切な抗菌薬による治療を行えば、おおむね2~4週間ほどの治療期間となる可能性があります。ただし、個々の症例によって病状はさまざまであるため、治療期間が長くなるケースもあります。また、梅毒は一見症状が治まっても、体内に菌が残っていることがあるため、血液検査で治療効果(抗体価が治療前の1/4以下)を確認するまで治療を継続することが重要です。自己判断で中止せず、医師の指示に従いましょう。

参照: 『梅毒』(性感染症診断・治療ガイドライン 2020) 『梅毒診療の考え方』(日本感染症学会)

腕の梅毒は治療するともとどおりになりますか?

初期の梅毒で適切な治療を受けた場合、多くの方で完治が期待できます。腕の梅毒も、早期の段階で治療をすればきれいになるケースが少なくないでしょう。病状が進行する前に治療できれば、将来的な健康への影響はほとんど心配ないといわれています。医師の指示どおり十分な期間治療を続けることが大切です。

編集部まとめ

編集部まとめ

梅毒は、感染の初期には気付きにくいことが多い一方で、放置すると全身に広がり、重い合併症を引き起こすおそれがあります。腕に赤い発疹やぶつぶつが出てかゆみがない場合は、梅毒の可能性も考えられます。早めに皮膚科を受診することで、早期発見・早期治療につながります。梅毒は、現在では有効な治療薬があり、適切な治療を早期に受ければ治癒が期待できる感染症です。気になる症状があるときは自己判断せずに、医療機関に相談しましょう。

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