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「シェーグレン症候群」を治療しないとどんな症状が現れる?【医師監修】

 公開日:2025/09/30
「シェーグレン症候群」を治療しないとどんな症状が現れる?【医師監修】

シェーグレン症候群は、自己免疫の働きによって涙や唾液の分泌が低下し、眼やお口の乾燥などの症状をもたらす病気です。放置すると、不快感が強まるだけでなく、むし歯口腔内感染視力への影響、さらには肺や腎臓などの全身の臓器にまで障害が及ぶ可能性があります。早期に適切な治療や生活習慣の工夫を行うことで、症状の進行を抑え快適な生活の維持ができます。本記事では、未治療の場合の経過と健康への影響、そして治療の選択肢を解説します。

伊藤 規絵

監修医師
伊藤 規絵(医師)

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旭川医科大学医学部卒業。その後、札幌医科大学附属病院、市立室蘭総合病院、市立釧路総合病院、市立芦別病院などで研鑽を積む。2007年札幌医科大学大学院医学研究科卒業。現在は札幌西円山病院神経内科総合医療センターに勤務。2023年Medica出版社から「ねころんで読める歩行障害」を上梓。2024年4月から、FMラジオ番組で「ドクター伊藤の健康百彩」のパーソナリティーを務める。またYou tube番組でも脳神経内科や医療・介護に関してわかりやすい発信を行っている。診療科目は神経内科(脳神経内科)、老年内科、皮膚科、一般内科。医学博士。日本神経学会認定専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本老年医学会専門医・指導医・評議員、国際頭痛学会(Headache master)、A型ボツリヌス毒素製剤ユーザ、北海道難病指定医、身体障害者福祉法指定医。

シェーグレン症候群について

シェーグレン症候群について

シェーグレン症候群はどのような病気ですか?

シェーグレン症候群は、自己免疫疾患の一つであり、本来は身体を守る免疫システムが何らかの原因で自身の唾液腺や涙腺などの外分泌腺を攻撃してしまうことによって発症します。その結果、お口の乾き(ドライマウス)や眼の乾燥(ドライアイ)などが主な症状として現れます。また、関節痛や全身のだるさ、皮膚の乾燥など、身体のさまざまな部位に不快な症状を引き起こすこともあります。原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因やウイルス感染、環境要因、女性ホルモンも関連すると考えられています。特に40〜60歳代の女性に多くみられる疾患(50歳代にピーク)です1)2)。症状の現れ方や重症度には個人差があり、日常生活に支障が出るケースもありますが、ほかの膠原病(関節リウマチなど)を合併しやすい特徴もみられます。

シェーグレン症候群の原因を教えてください

原因は、いまだ完全には解明されていませんが、複数の要因が発症に複雑に関与していると考えられています。遺伝的素因や環境要因(ウイルス感染や薬物、紫外線、ストレスなど)が発症のきっかけになることが指摘されています。また、免疫システムの異常により、自分自身の涙腺や唾液腺を誤って攻撃し、炎症や破壊が引き起こされ、乾燥症状が現れます。さらに、女性ホルモンの影響も重要であり、特に中年以降の女性に多く発症しホルモンバランスの変化が関与していると考えられています。よって、シェーグレン症候群は複数の要因が絡み合って発症する疾患です。

参照: 『シェーグレン症候群』(東京大学医学部アレルギーリウマチ内科) 『シェーグレン症候群』(指定難病53)

シェーグレン症候群を治療しない場合に起きること

シェーグレン症候群を治療しない場合に起きること

シェーグレン症候群はどのように進行しますか?

全身の外分泌腺、特に唾液腺や涙腺が徐々に障害され、乾燥症状が進行していきます。初期段階では眼やお口の違和感が現れますが、症状が徐々に悪化し、角膜障害やむし歯、口内炎などの合併症が増えます。また、進行すると乾燥は鼻腔や皮膚など粘膜全体に広がることがあり、女性は腟の乾燥による性障害を生じることもあります。一部の方では関節痛や筋力低下、慢性的なだるさなど全身症状が出現するほか、まれに悪性リンパ腫や間質性肺炎などの重篤な臓器障害を合併する場合もあります。病気の進行には個人差があり、長期間安定している方もいれば、徐々に新たな病変が現れるケースもあります。

シェーグレン症候群を治療しないとどのような症状が現れますか?

治療しない場合、まず眼やお口が乾くドライアイやドライマウスの症状が強く出現します。ドライアイでは眼がゴロゴロしたり痛みが出たりして、角膜に傷がつきやすくなり、重症化すると視力への影響もあります。ドライマウスが進行すると、お口がねばつき飲み込みにくくなったり、会話がしにくくなったり、むし歯や歯周病、口内炎が増えたりするなど口腔内トラブルが生じます。乾燥は眼やお口だけでなく、鼻腔や皮膚、腟など全身の粘膜に拡がり、女性では性交痛の原因となる場合もあります。また、唾液腺や耳下腺の腫れ、皮疹、関節痛、強い倦怠感や微熱など、多彩な全身症状が現れやすいです。まれにリンパ節腫脹や神経障害、間質性肺炎、腎炎、悪性リンパ腫など重篤な合併症の発症も報告されています。

シェーグレン症候群を治療しなかった場合に生じる健康への影響を教えてください

治療せずに放置すると、まずドライアイやドライマウスなどの乾燥症状がさらに悪化し、角膜障害や視力低下、口腔内ではむし歯・歯周病・口内炎の増加などのリスクが高まります。また、乾燥は鼻腔や皮膚、腟など全身の粘膜にもおよび、皮膚疾患や女性の性機能障害、頻尿などの症状が現れることもあります。加えて、関節痛や強い倦怠感、微熱、記憶力低下などが生じるほか、耳下腺や唾液腺の腫れ、皮疹、紫斑、髪の毛の脱毛など身体の広範囲に影響を及ぼします。まれに間質性肺炎や腎障害、悪性リンパ腫などの重篤な臓器障害・合併症を引き起こす可能性もあり、長期的には生活の質(QOL)が著しく低下する危険性があります。

シェーグレン症候群の治療法と費用の目安

シェーグレン症候群の治療法と費用の目安

シェーグレン症候群はどのように治療しますか?

現時点では病気そのものを根本的に治す方法はありませんが、症状の緩和を図る対症療法が中心です。主に、眼の乾燥にはヒアルロン酸点眼薬や人工涙液を使い、ドライマウスには唾液分泌を促進する薬や人工唾液、こまめな水分補給などで対応します。また、全身症状が強い場合や臓器障害が現れた場合には、ステロイドや免疫抑制薬などが用いられます。症状の程度によって治療法を選択し、合併症や生活の質(QOL)に配慮した継続的なケアも重要です。近年では新薬の開発も進んでおり、主治医と相談しながら治療を受けることがすすめられています。

シェーグレン症候群を治療をする場合の通院頻度を教えてください

通院頻度は症状の重さや治療内容によって大きく変わりますが、全国平均では年間11回程とされています3)。多くの方は1〜2ヶ月に1回程度、定期的に通院し、症状の確認や必要な検査、薬の処方などを受けます。膠原病内科では年間7回ほど、眼科は5回、歯科は13回、口腔外科は10回程度など、複数の診療科に並行して通院するのが一般的です3)。重症度や合併症の有無により、通院回数が増える場合もあり、症状が安定していれば3ヶ月に1回の通院で済むこともあります。治療方針や通院間隔は主治医と相談しながらの決定が重要です。

シェーグレン症候群を治療した場合の予後を教えてください

治療を行った場合、症状の進行や合併症の発生を抑制し、生活の質(QOL)の維持が可能です。治療自体は根本的な完治には至りませんが、乾燥症状(ドライアイ・ドライマウス)などの不快感を緩和し、日常生活での支障を大きく減らすことが期待できます。合併症や重症化を防ぐことで、長期的にも安定した経過が得られることが多く、眼やお口だけでなく、全身の器官障害や悪性腫瘍などの重大な合併症リスクも減少します。個人差はありますが、適切な治療と定期的な管理により、予後は良好に保たれるケースが少なくないです。主治医との相談と定期的なフォローが予後改善のために重要です。

シェーグレン症候群の治療はどの程度の費用がかかりますか?

治療にかかる費用は、症状や治療内容、通院先によって大きく変動します。軽症で主に対症療法を行う場合は、点眼薬や人工唾液、通院の診察料などで月に数千円から一万円程度が目安ですが、合併症や全身症状がある場合は、投薬や検査、入院費用もかかることがあります。ただし、日本ではシェーグレン症候群は指定難病に認定されているため、重症(主にESSDAI(EULAR Sjögren’s Syndrome Disease Activity Index)という国際的な活動性指標で合計5点以上の場合)と認定された場合には医療費助成制度が適用され、自己負担割合が通常の3割から2割に軽減されます。さらに、所得や重症度に応じて月の自己負担上限額が設定されており、経済的な負担を大きく抑えることができます。自己負担の目安や助成の適用範囲は、通院先の窓口や自治体の難病担当窓口で相談します。

参照: 『シェーグレン症候群患者調査 結果報告書』(株式会社QLife) 『障害年金を請求する方の手続き』(日本年金機構) 『指定難病患者への医療費助成制度のご案内』(難病医学研究財団/難病情報センター)

編集部まとめ

編集部まとめ

シェーグレン症候群を治療せずに放置すると、はじめは眼やお口の乾燥から始まり、進行するとむし歯や視力低下、口内炎など日常生活に支障をきたす症状が増えていきます。さらに、倦怠感や関節痛、皮膚・鼻・腟の乾燥など全身症状も現れやすいです。まれに腎臓・肺・リンパ節などの全身の臓器に障害が及ぶことや、悪性リンパ腫を発症するリスクが高くなる場合もあります。根本的な治療法はありませんが、対症療法によって症状の緩和や合併症の予防が可能です。早期から医療機関(膠原病内科や眼科、皮膚科など)で適切なケアと継続的な経過観察を受けることが大切です。

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