「適応障害とうつ病の違い」はご存知ですか?それぞれの診断基準も解説!【医師監修】
公開日:2025/09/27

適応障害とうつ病は、一見すると症状が似ているため混同されることがあります。職場や学校で強いストレスを感じて気分が落ち込んだり、眠れなくなったりしたときに、それが適応障害によるものなのか、うつ病によるものなのか、判断に迷う方も少なくありません。この記事では、適応障害とうつ病それぞれの特徴、区別するポイントや検査・診断の流れ、治療法を解説します。

監修医師:
前田 佳宏(医師)
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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。
目次 -INDEX-
適応障害とうつ病の違い
適応障害とはどのような病気ですか?
適応障害は、明らかなストレス因子に対する反応として、感情面や行動面に著しい不調が現れる精神疾患です。具体的には、次のような症状がみられます。
- 憂うつな気分(抑うつ気分)
- 不安感
- イライラ
- 集中力の低下
- 不眠
うつ病の概要を教えてください
うつ病は、抑うつ気分などの精神症状や、食欲がない、疲れやすい、などの身体症状が長期間続く病気です。日常生活に大きな支障をきたすほどの症状がほぼ毎日、少なくとも2週間以上続きます。具体的に次のような症状が挙げられます。
- 抑うつ気分
- 興味、喜びの喪失
- 不眠または過眠
- 気力の減少もしくは無価値感
- 体重の変化(減少、増加)
- 希死念慮、自殺企図
適応障害とうつ病は何が違いますか?
適応障害とうつ病の違いは、発症の原因と経過にあります。適応障害の原因は、ストレス因子(ストレスが強くかかる出来事)です。仕事上のトラブル、失業、人間関係の悪化、転居など、本人にとって大きな心理的ストレスとなる出来事が挙げられます。一見ポジティブな出来事(結婚や昇進、出産など)でも、適応障害を引き起こす場合があります。一方、うつ病は、精神的・身体的ストレスが指摘されることもありますが、はっきりしたきっかけがない場合も少なくありません。
そして、適応障害とうつ病はその経過にも大きな違いがあります。適応障害の場合、ストレス因子から離れると症状は徐々に改善します。しかし、うつ病は原因と考えられていた問題から離れても、気分が回復せず、症状が持続します。
適応障害とうつ病を自分で見分ける方法を教えてください
適応障害とうつ病を自分で見分ける方法は、原因となるストレスの有無と、症状が環境によって変化するかを確認することです。症状が出るきっかけとなった原因がはっきり思いつくときは、適応障害の疑いがあります。また、それらのストレス因子から離れるなどの環境調整で症状が改善するケースも、適応障害の可能性が考えられます。ただし、適応障害とうつ病を自分で見分けることは難しいことも多く、医師の診察が必要です。
病院での適応障害とうつ病の検査法と診断基準
適応障害が疑われる場合には病院でどのような検査が行われますか?
適応障害が疑われる場合、問診(症状の経緯やこれまでの病歴を聞き取る作業)が行われます。また、身体の病気による症状でないかを除外するために、必要に応じて身体検査や血液検査、画像検査が行われることがあります。
また、心理検査も実施される場合があります。心理検査とは、患者さんの気分や思考、行動の特徴や心理状態を質問紙や面接、課題などを通じて客観的に評価する検査のことです。病院ではこれらの問診、検査を実施して、適応障害かどうか、あるいはほかの病気の可能性がないかを評価します。
うつ病が疑われる際の検査方法を教えてください
うつ病が疑われる際も、適応障害と同様に問診が中心です。必要に応じて身体検査や血液検査、画像検査が行われ、また、心理検査も実施されます。特に、うつ病ではPHQ-9(患者健康質問票)やHAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)など、うつ病に関する心理検査があります。病院ではこれらの問診、検査を実施して、うつ病かどうか、ほかの病気の可能性がないかを評価します。
適応障害とうつ病の診断基準を教えてください
適応障害とうつ病の診断は、主に以下に示す、二つの国際的な診断基準に基づいて行われます。
- 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版(DSM-5-TR)
- 国際疾病分類第11版(ICD-11)
- ストレス因子に対して、不釣り合いな強い苦痛であること
- この症状によって社会的または職業的機能が大きく損なわれている。
- 抑うつ気分
- 興味、喜びの喪失
- 体重変化または食欲異常
- 不眠または過眠
- 精神運動の焦燥または制止
- 疲労感または気力減退
- 無価値感または過剰な罪悪感
- 思考力や集中力の低下、または決断困難
- 死についての反復思考や自殺企図
【適応障害とうつ病】治療法の違い
適応障害の治療法を教えてください
適応障害の治療はセルフケア、そして精神療法、薬物療法を組み合わせて行われます。まず原因となっているストレスから可能な限り離れることが大切です。仕事が原因であれば休職、学校が原因であれば学校を休むことを検討するなど環境調整を行います。ストレス因子そのものをなくすことが難しい場合でも、仕事の量を調整するなど、ストレスの影響を軽減するための対策をとります。
適応障害の治療として、精神療法が行われることがあります。精神療法は、医師や臨床心理士などとのやり取りを通じて、患者さんが自分の感情や考え方を見直し、問題を理解することで対処法をみつけ、克服しようとする治療法です。症状に応じて薬物療法が用いられることもあります。ただし、適応障害そのものを治す薬はありません。不眠や強い不安感、抑うつ気分などに対する対症療法として、医師の判断で薬が処方されることがあります。
うつ病はどのように治療しますか?
そのうえで、抗うつ薬による薬物療法が治療の中心です。抗うつ薬は、脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きを改善する薬剤です。抗うつ薬が効きにくい場合は、ほかの種類の抗うつ薬に変更したり、少量の抗精神病薬や気分安定薬を併用したりすることもあります。睡眠障害や不安が強ければ、睡眠薬や抗不安薬を補助的に使うこともあります。
精神療法も重要な治療手段です。代表的なものには認知行動療法があります。物事を悲観的、否定的にとらえてしまう考え方の偏りを修正していきます。なお、重症で薬物療法、精神療法に反応しない場合には、電気けいれん療法(ECT)や反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)などの治療法が検討されることもあります。
適応障害とうつ病の治療法の違いを教えてください
適応障害では、原因となっているストレス因子から離れることが根本的な治療です。一方、うつ病では、脳内の神経伝達物質の働きを改善させるための抗うつ薬が治療の柱です。適応障害でも薬物療法が選択されることはありますが、適応障害そのものを治すわけではなく、眠れないといったそれぞれの症状を和らげるために使用されます。
編集部まとめ
適応障害とうつ病の症状は似ている部分も多く区別が難しいですが、原因や経過、治療方針に違いがあります。ただし、いずれの場合でも症状がみられている場合は、医療機関への相談が必要です。適応障害もうつ病も病状が進行してしまう可能性があるため、気になる症状がある場合は、早めに病院を受診しましょう。


