「色覚異常のテスト」ってどんなことをするの?症状・原因・対処法も解説!
公開日:2025/10/13

色を見分ける力は、日常生活のさまざまな場面で欠かせないものです。しかし、なかには特定の色の区別が難しい色覚異常を持つ方もいます。学校健診や就職時の健康診断などで初めて気付くケースもあり、「自分は色覚異常なのか」「検査はどこで受けられるのか」と不安を感じる方も少なくありません。そこで本記事では、色覚異常の基礎知識から、実際に受けられるテストの方法やその正確性、診断基準などを解説します。

監修医師:
栗原 大智(医師)
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
色覚異常の基礎知識
色覚異常とはどのような状態ですか?
人間の網膜には、色を感じ取る錐体細胞という視細胞が3種類あります。赤に反応する錐体細胞をL錐体、緑に対応する細胞をM錐体、青に対応する細胞をS錐体とよびます。
色覚異常はこれら錐体細胞の働きに偏りや欠損があるために、特定の色同士が同じように見えてしまう状態です。例えば、M錐体(緑)の機能低下あるいは欠損によるものを2型色覚、L錐体(赤)の異常によるものを1型色覚と呼び、一般に赤と緑の識別がしにくい色覚異常(赤緑色覚異常)のほとんどはこの1型か2型に分類されます。
一方、S錐体(青)の異常は3型色覚と呼ばれますが、こちらは大変まれです。先天性の色覚異常は日本人男性の約5%、女性の約0.2%にみられ、男性に多いことが知られています。
参照:『先天色覚異常』(日本眼科学会)
色覚異常が生じる原因を教えてください
色覚異常の多くは先天性で、X染色体上の遺伝によって起こります。一方で、後天性の色覚異常もあります。目の病気、例えば、糖尿病による網膜症、緑内障、視神経の病気などによって色の感じ方に異常が生じる場合があり、これらはその病気の症状の一部として現れる後天色覚異常です。後天性の場合はまず原因となる病気への治療が優先されます。
色覚異常を治療することはできますか?
残念ながら、先天性の色覚異常を根本的に治す方法は現在ありません。色覚の感じ方は一生ほぼ変わらないとされ、トレーニングで正常な色覚に矯正することもできません。一部で色覚補助眼鏡が市販されていますが、特定の波長をカットして見分けにくい色のコントラストを高める補助具であり、正常な色覚に治すものではありません。一方、後天性の色覚異常の場合は、原因疾患の治療に伴って色覚の症状が改善することもあります。
色覚異常のテストを受ける方法と正確性、診断基準
色覚異常のテストはどこで受けられますか?
色覚異常の検査は見え方の異常のため、眼科で受けることができます。以前は学校健診で色覚検査が行われていましたが、現在は定期健診の必須項目から外されたため、現在は希望者のみの実施となっています。お子さんが学校などで色覚異常の疑いを指摘された場合は、一度眼科で精密検査を受けて確認することをおすすめします。
色覚異常のテストの内容を教えてください
色覚異常の検査にはいくつか種類があります。スクリーニング検査で用いられる検査が石原式色覚検査表で、色とびのある丸い模様の中に数字や線が隠されている表を見て答えるものです。赤や緑の識別が難しい方は、特定の数字が見えにくかったり違う数字に見えたりします。
次にパネルD-15テストといって、15枚のカラーチップを色の順番に並べてもらう検査があります。色覚異常がある場合、特定の色の並び方に誤りが生じるのが特徴です。
さらに精密な検査としてアノマロスコープという特殊な装置を用い、色を判別する能力を詳しく測る方法もあります。多くの眼科ではまず石原式色覚検査表やパネルテストでスクリーニングを行い、必要に応じて精密検査へ進みます。
色覚異常のテストはどの程度正確ですか?
石原式の検査表は、短時間で多くの方のスクリーニングすることに適しており、赤緑の色覚異常の有無を見つける精度は高いとされています。ただし、異常の種類や程度までは詳しく判定できません。そのため色覚異常の疑いありと出ても、必ずしも重度とは限らず、精密検査であらためて確認する必要があります。
一方、パネルD-15やアノマロスコープはより正確にタイプや重症度を判定できますが、実施できる施設は限られています。つまり、石原式色覚検査表で色覚異常の可能性があるとなった場合、眼科で追加検査を受けることで色覚異常の種類と程度を診断することができます。
色覚異常の診断基準を教えてください
診断は、検査の結果を総合的に判断して行われます。石原式色覚検査表で複数の誤答がみられた場合に色覚異常の可能性があるとされ、パネルテストで特有の並び間違いが確認されると異常の種類が確定します。赤に関する異常であれば1型色覚異常、緑に関する異常であれば2型色覚異常、青に関する異常であれば3型色覚異常と診断します。
さらにアノマロスコープでは、どの波長の光をどのように混ぜたら同じ色に見えるかを調べることで、異常の程度を数値的に評価できます。どの型に属するか、両眼にあるか、程度が軽度か強度かを判断し、眼科医が最終的に色覚異常の程度と種類を診断します。
色覚異常への対処法
見分けにくい色の例を教えてください
色覚異常があると、その種類によって見間違いやすい色の組み合わせが存在します。例えば、2型色覚異常であれば黄緑とオレンジ、緑と茶色(灰色)、青と紫、ピンクと灰色などが混同しやすくなります。
また、1型色覚の場合は上記に加えてピンクと水色も紛らわしく、赤色が全体に暗く見えることもあります。一方、青系統の色と黄色系統の色を取り違えることはありません。このように、色覚異常の種類によって、自分の見えづらい色のパターンがあります。自分の色の見え方のパターンを把握しておくことで、日常生活では多くの場合問題なく適応できます。
見分けにくい色がある場合、どのようなことに気を付けるとよいですか?
見分けにくい色がある場合、日常生活のなかでいくつか注意しておくとよいでしょう。
例えば、服装では、本人には似た色の靴下や洋服が同じように見えてしまうことがあります。左右で違う色の靴下をうっかり履いてしまわないように、紛らわしい色の靴下にはあらかじめ印をつけて区別しておくと便利です。服やネクタイの色合わせに不安があるときは、周囲の方に確認してもらうとよいでしょう。
交通の場面では、夕暮れ時や雨の日などは赤信号と黄信号の区別が難しくなることがあります。特に点滅信号や遠くの小さな信号灯は判別しづらく注意が必要です。1型色覚では、夜間に前の車の赤いテールランプに気付きにくかったり、昼間にブレーキランプの点灯が目立ちにくくなったりする場合もあります。そのため、安全のためには車間距離を十分にとるなど、運転時の工夫が欠かせません。
資料やノートを作成するときには、色だけで情報を区別するのではなく、記号や文字を併用すると見やすくなります。赤と緑のように識別しにくい配色は避けることが望ましく、誰にとっても情報が伝わりやすい工夫が重要です。
カラーユニバーサルデザインについて教えてください
色覚の違いによって情報が正しく伝わらないことがないよう、できるだけ多くの方に見分けやすい配色を選ぶ、色以外の手がかりも用いるといった工夫を取り入れるデザインのことをカラーユニバーサルデザインと呼びます。
この考え方を取り入れることで、色覚に不安がある方でも情報を正しく認識でき、ミスを防ぐことが期待できます。学校教育の場でも関心が高まり、色覚に配慮した教科書や特殊な色チョークを採用する動きも始まっています。
編集部まとめ
色覚異常は本人にとって見え方の個性の一つですが、早めに知って対策を考えることで生活上の困りごとを減らすことができます。小さい頃に色覚検査で指摘を受けたら、眼科できちんと診断を受け、家族や教師が協力して日常生活をサポートすることが重要です。本人も自分の色覚の特徴を自覚することで、色以外の手がかりを使って色を判断する能力が身に付いてきます。
先天性の色覚異常そのものは治せませんが、社会の側で色の使い方を工夫することによって十分対応可能です。厚生労働省も企業に対し色覚異常者への不合理な採用制限を行わないよう指導しており、教育現場でも色覚に配慮した教材が出てきています。色覚は人それぞれ異なるという多様性への理解を深め、検査や知識の普及、そしてカラーユニバーサルデザインの推進によって、誰もが暮らしやすい色のバリアフリー社会を目指していきたいものです。


