「マイコプラズマ肺炎」で使用される「薬」はご存知ですか?種類についても解説!
公開日:2025/11/17

マイコプラズマ肺炎は、子どもから大人まで幅広い年代でかかる呼吸器感染症です。発熱や咳が長引くのが特徴で、時になかなか治らない風邪として受診されます。「すぐに治る薬はあるのか?」「抗菌薬は必要なのか?」と気になる方も多いでしょう。

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
プロフィールをもっと見る
浜松医科大学卒業。初期研修を終了後に呼吸器内科を専攻し関東の急性期病院で臨床経験を積み上げる。現在は地域の2次救急指定総合病院で呼吸器専門医、総合内科専門医・指導医として勤務。感染症や気管支喘息、COPD、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする呼吸器疾患全般を専門としながら一般内科疾患の診療に取り組み、正しい医療に関する発信にも力を入れる。診療科目
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
マイコプラズマ肺炎の原因と症状
マイコプラズマ肺炎の原因を教えてください
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエという病原体によって起こります。細胞壁を持たない細菌であり、β-ラクタム系(ペニシリン/セフェム系)の抗菌薬は無効です。咳や飛沫を通じて人から人へ感染するため、流行期には学校や家庭で広がりやすい特徴があります。
マイコプラズマ肺炎に感染するとどのような症状が生じますか?
マイコプラズマ肺炎の症状は、風邪と似ている部分が多いため、初期の段階ではただの風邪かなと思われて受診が遅れることもあります。典型的には、数日から1週間以上続く発熱と、なかなか治まらないしつこい咳が特徴的です。この咳は昼夜を問わず続きますが、特に夜間や身体を動かしたときに悪化することが多く、睡眠や日常生活に支障をきたすほど強いこともあります。
また、全身のだるさ(倦怠感)、頭痛、喉の痛みといった感冒様の症状も伴いやすく、患者さんによっては声がかれたり、耳の痛み、中耳炎などを併発したりする場合もあります。小児では特に咳が強く長引きやすく、成人に比べて解熱にも時間がかかる傾向があります。
特徴的なのは、肺炎であるにも関わらず、胸部レントゲンでの肺炎像がそれほど重度にみえないことです。つまり、画像所見と自覚症状の強さにギャップがあるのがマイコプラズマ肺炎の大きな特徴で、このことから歩く肺炎(walking pneumonia)と呼ばれることもあります。これは、症状があるにも関わらず元気そうにみえてしまうため、気付かれずに学校や職場で感染が広がってしまう要因にもなっています。
マイコプラズマ肺炎の治療に使われる薬の種類と効果
マイコプラズマ肺炎の治療にはどのような薬が使用されますか?
治療の基本は抗菌薬と症状をやわらげる薬です。抗菌薬を用いて原因菌の増殖を抑えながら、同時に解熱鎮痛薬や咳止めなどを併用して発熱や咳による苦痛を軽減します。これにより、病気そのものの進行を防ぐと同時に、患者さんが少しでも楽に日常生活を送れるようにすることを目指します。
マイコプラズマ肺炎の治療に用いられる抗菌薬の種類を教えてください
マイコプラズマは、ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬が無効であるため、別の種類の抗菌薬を用います。第一に選ばれるのはマクロライド系抗菌薬で、クラリスロマイシンやアジスロマイシンなどが代表的です。これらは小児でも使いやすく、安全性も高いため、特に小児や若年者に対して広く使用されます。
効果が不十分である場合には、テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)やニューキノロン系抗菌薬(レボフロキサシンなど)への切り替えを考えます。ただし、テトラサイクリン系は8歳未満および妊娠で原則禁忌であり、フルオロキノロン系は小児では原則避けるべきであるなど、年齢や妊娠による安全性に留意が必要です。また、近年はマクロライド系に耐性を持つマイコプラズマ菌が増えております。
マイコプラズマ肺炎は抗菌薬を服用しなくても治りますか?
軽症のマイコプラズマ感染症では、必ずしも抗菌薬が必要になるわけではありません。気管支炎や上気道炎のように肺炎まで進行していない場合には、自然に回復することが多く、この場合は抗菌薬を使用しなくても治癒が期待できます。
一方で、肺炎まで進行している場合には抗菌薬を使用することが望ましいとされています。つまり、マイコプラズマ感染症では軽症であれば自然治癒も十分ありえますが、肺炎を起こしている場合には抗菌薬での治療が必要になるというのが基本的な考え方です。
マイコプラズマ肺炎の抗菌剤は処方されたものをすべて飲み切る必要がありますか?
症状が改善しても途中で内服をやめてしまうと、体内に菌が残って再び症状が悪化し、抗菌薬が効きにくい耐性菌が生まれる原因になります。そのため、処方された抗菌薬は自己判断で中止せず、必ず処方どおりに服用することが大切です。これは患者さん本人の治療を効果的にするだけでなく、社会全体での耐性菌の増加を防ぐという意味でも重要です。
マイコプラズマ肺炎の対症療法
マイコプラズマ肺炎の症状はどのような薬で治療しますか?
マイコプラズマ肺炎の治療では、原因菌に対する抗菌薬だけでなく、症状をやわらげるための薬も重要です。例えば、発熱が続いて身体のだるさや頭痛が強いときには、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を使用して症状を緩和します。咳が強く夜間の睡眠を妨げる場合には、咳を抑える鎮咳薬や痰を出しやすくする去痰薬が処方されます。また、喉の痛みがあるときには鎮痛薬やトローチなどを使用し、日常生活が少しでも快適に過ごせるように対症療法を行います。
さらに、マイコプラズマ肺炎は免疫反応が強く出やすい感染症であり、体内でサイトカインと呼ばれる炎症性物質が過剰に分泌される高サイトカイン状態になることがあります。このような経過で重症化や難治化した場合では、副腎皮質ステロイドを併用することがあります。しかしルーティンでの使用は推奨されておらず、個別の重症度・合併症・酸素化を踏まえ、専門医の判断で適応を検討します。ステロイドは免疫の過剰反応を抑え、肺の炎症を和らげることで回復を助ける効果が期待できます。
マイコプラズマ肺炎の咳は薬を飲むことで早く治りますか?
抗菌薬を内服しても、マイコプラズマ肺炎に伴う咳はしばらく続くことが珍しくありません。特に夜間や身体を動かしたときに咳が強く出ることがあり、患者さんにとっては大きな負担となります。これは気道の炎症が完全に収まるまでに時間がかかるためで、抗菌薬で菌の増殖を抑えても症状がすぐに消えるわけではないのです。そのため、治療の中心は咳止めや去痰薬を使って咳を抑え、和らげることです。
マイコプラズマ肺炎による長引く咳の治療法を教えてください
マイコプラズマ肺炎では、抗菌薬を適切に服用していても、炎症の影響で咳が数週間にわたり残ることがあります。このような場合には、まずは咳止めや去痰薬を継続して使用し、症状を少しずつ和らげていきます。
さらに、部屋の空気が乾燥していると咳が悪化しやすいため、加湿器を用いたり水分をこまめに摂ったりして気道を潤すことが有効です。十分な休養も重要で、身体を安静に保つことで回復を早められます。加えて、一部の患者さんではアレルギー反応が関わっていることもあり、その場合には抗ヒスタミン薬や吸入薬を使うことで症状の改善が期待できます。咳が長引いてつらいときには、自己判断せずに医師に再度相談することが大切です。
編集部まとめ
マイコプラズマ肺炎は、特効薬ですぐに完治する病気ではありません。症状や重症度に応じた治療介入により回復を早めつつ、咳や発熱などについては症状を和らげる対症療法を行いながら療養をすることが大切です。特に小児や高齢の方では長引くこともあり、自己判断で薬を中止しないようにしましょう。
参考文献
- 『2024年のマイコプラズマ肺炎の流行と分子疫学的な背景』(バムサジャーナル)
- 『Epidemiology of MycoplasmaPneumoniaeinfections in Japan and therapeutic strategies for macrolide-resistant M.pneumoniae』(Yamazaki T, Kenri T)



