「胃腸炎」の際におすすめの「食べ物や飲み物」はご存知ですか?【医師監修】
公開日:2025/10/03

突然の吐き気や下痢、腹痛に襲われる胃腸炎は、誰にとってもつらく、不安なものです。ご自身が罹患した場合だけでなく、ご家族、特に小さなお子さんやご高齢の方がかかった際には、どのように対処すればよいか戸惑うことも多いでしょう。 本記事では胃腸炎の基本的な知識から、ご家庭でできる具体的な対処法、そして感染を広げないための予防策まで解説します。

監修医師:
高宮 新之介(医師)
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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。
胃腸炎の概要
胃腸炎の主な症状を教えてください
胃腸炎の代表的な症状には、吐き気や嘔吐、下痢、腹痛が挙げられます。発熱を伴うこともありますが、たいていは微熱程度です。症状の多くは1~3日程度続きますが、その後徐々に治まり、通常は後遺症なく回復します。
なぜ胃腸炎になるのですか?
胃腸炎の多くはウイルスや細菌など病原体への感染が原因です。冬場に流行するノロウイルス、ロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎や、食中毒の原因となる病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクターなどの細菌に汚染された食べ物、水をお口から摂取することで、胃腸に感染します。
感染経路は大きく二通りあり、人から人へうつる場合(感染者の便や嘔吐物に触れた手を介した二次感染や飛沫を吸い込むなど)と、食べ物や水を通じてうつる場合があります。
例えばノロウイルスでは、調理する方がウイルスに感染していて食品を汚染してしまったり、十分に加熱されていない二枚貝(牡蠣など)を食べたりして感染することがあります。
なお、まれに細菌以外の原因(寄生虫感染や、特定の薬剤やアルコールの大量摂取など)で胃腸炎症状が起こることもありますが、一般的にはウイルス性か細菌性の感染症が原因となる場合がほとんどです。
胃腸炎の治療法を教えてください
胃腸炎に対しては、特効薬による治療というよりも対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。ウイルス性胃腸炎の場合、直接ウイルスを退治する薬はないため、吐き気止めや整腸薬を用いて症状を軽減しながら、脱水に注意して回復を待ちます。
一方、細菌性胃腸炎の場合は原因菌に応じて抗菌薬が使われることもあります。ただし症状が軽い場合はウイルス性の場合と同様に水分補給と安静で改善することが多く、すべての細菌性胃腸炎で抗菌薬が必要になるわけではありません。いずれにせよ、胃腸炎では十分な水分、塩分補給と胃腸を休めることが大切です。
胃腸炎におすすめの食べ物や飲み物と調理法
胃腸炎で下痢がひどいときに推奨される食べ物を教えてください
水分が多くやわらかい食品を少量ずつ摂るようにします。例えば主食では、お湯でやわらかく煮たおかゆ、やわらかく煮込んだうどんなどがよいでしょう。おかずでは、脂肪分の少ないタンパク質源を選びます。脂身のない鶏ささみ肉や白身魚などを茹でる、煮込むなどして火を通し、細かくほぐしたものは消化しやすいです。
野菜類も、生野菜や繊維の多いものは避け、人参や大根、カブ、ほうれん草などのやわらかく煮た野菜をスープに入れて食べるとよいでしょう。果物では、バナナやすりおろしたリンゴは食物繊維が少なく消化に優しく、下痢のときにも適しています。また、ヨーグルトなどの発酵乳製品は胃腸への負担が少ない低脂肪のものを適量であれば摂取可能です。
胃腸炎で吐き気や嘔吐が辛いときは何を食べるとよいですか?
脱水を防ぐための水分補給を少しずつ行います。
吐き気が強い間は、水分ですら飲めないこともあります。その場合は、数十分~数時間ほど間隔をあけて嘔吐がおさまってから、スプーン1杯程度の経口補水液や水をゆっくり飲んでみましょう。冷たい飲み物は胃を刺激して吐き気を誘発しやすいので、飲み物は常温に戻しておくのがよいでしょう。吐き気が落ち着いて半日~1日経ち、少しお腹が空いてきた段階で、前述のお粥や煮込みうどん、野菜スープなどの消化によい食事を少量から始めてみましょう。
胃腸炎の際はどのような調理法がよいですか?
ポイントは、油脂を使わず、やわらかく調理することです。具体的には、食材は茹でる、煮込む、蒸す、煮炊きするなど、水分を加えてやわらかく調理します。味付けも塩分控えめの薄味にし、香辛料など刺激の強いものは入れない方がよいです。
胃腸炎になったときはどのような飲み物を飲めばよいですか?
おすすめの飲み物は、電解質(塩分)と糖分を適度に含んだ経口補水液(ORS)です。
市販の経口補水液を用意できるとよいのですが、ない場合はスポーツドリンクでもある程度の糖分、塩分補給が可能です。
ただしスポーツドリンクは糖分が多いため、大量に飲むとむし歯のリスクが指摘されています。そのほか、塩分が少し入った味噌汁の上澄みや薄いスープ、白湯、麦茶なども適した飲み物です。特に温かい汁物は身体を冷やさずミネラルも補給できるのでよいでしょう。
参照:『イオン飲料とむし歯に関する考え方』(日本小児歯科学会)
嘔吐や下痢が激しく、食べられないときの対処法を教えてください
まったく食事が摂れないような場合は、胃腸を休めることが先決です。嘔吐や下痢で水分さえ受け付けない場合、点滴による補液が必要になることがありますので、そうしたときは早めに医療機関で受診してください。胃腸炎のときは「食べられないと体力が落ちるのでは」と不安になるかもしれませんが、症状が強い間は胃腸を空っぽにして休ませることも治療の一環です。
胃腸炎のときは避けたい飲食物や調理法
胃腸炎の際に避けた方がよい食べ物を教えてください
胃腸炎で療養中は、胃腸に負担をかける食べ物はできるだけ避けましょう。具体的には以下のようなものは控えてください。
- 脂肪分の多い食品
- 不溶性の食物繊維が多い食品(海藻、キノコ、ゴボウなど)
- 刺激の強いもの
- 乳製品・甘いもの
胃腸炎になったときに飲まない方がよい飲み物はありますか?
代表的なものはアルコール類とカフェインを含む飲料です。アルコール飲料(ビール、ワイン、蒸留酒など)は胃腸粘膜を直接刺激するうえ、利尿作用で脱水を悪化させるため絶対に避けてください。
また、コーヒー、紅茶、緑茶、エナジードリンクなどカフェイン入りの飲み物も、利尿作用によって脱水を進め、胃腸を刺激するため不適です。炭酸飲料(炭酸ガス入りジュースや炭酸水)は、胃腸を膨らませて刺激し吐き気を助長する可能性があるためおすすめできません。牛乳や乳製品系の飲み物(飲むヨーグルトなど)も、消化に時間がかかり下痢を悪化させることがあるため胃腸炎の急性期には避けたほうがよいでしょう。
胃腸炎の療養中に向いていない調理法を教えてください
主に油を多く使う調理と硬い食感の調理です。まず、揚げ物や炒め物など大量の油脂を使う調理法は、食べ物が脂っこくなり消化に悪いため避けましょう。次に、焼く、乾燥させるなど食材が硬く仕上がる調理も不向きです。療養中はなるべくやわらかく調理することが大事なので、焼き魚より煮魚にし、肉も焼くより茹でる、煮込む調理にするなど工夫しましょう。さらに、味付けの面でも香辛料たっぷりの調理は避けてください。
編集部まとめ
胃腸炎の際は胃腸をしっかり休めつつ水分・栄養補給を行ってください。症状が長引く場合や水分すら摂れないような重症時は早めに受診し、医師の指示に従いましょう。




