「氷食症の原因」はご存知ですか?なりやすい人の特徴も解説!【医師監修】
公開日:2025/10/07


監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
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脳神経内科
眼科(角膜外来)
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氷食症の原因となりやすい人の特徴
氷食症の原因となる病名を教えてください
氷食症の背景でよくみられるのは鉄欠乏性貧血です。鉄不足の原因としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、大腸ポリープやがんなど消化管からの出血、女性では過多月経や子宮筋腫などの婦人科疾患があげられます。
鉄欠乏性貧血や鉄欠乏症の患者さんは全員氷食症になりますか?
鉄欠乏性貧血があっても、すべての方に氷食症が出るわけではありません。鉄欠乏性貧血の方のうち、約20〜70%に氷食症がみられると報告されています。氷を欲するかどうかは、神経や味覚の感受性、心理的な要因、生活習慣などが関与していると考えられます。つまり、氷食症は鉄欠乏のサインのひとつですが、症状がなくても鉄不足が隠れている可能性はあるため、氷を食べないからといって鉄が十分に足りていると判断できるわけではありません。
参照:『氷食症に関する文献的考察』(廣瀬 知二、北医療大デンタルトピックス, 2016, 47 号, p. 1-5)
原因となる病気がないのに氷食症を発症することはありますか?
氷食症は鉄欠乏と関係が深いものの、必ずしも身体的な病気があるとは限りません。心理的なストレスや不安を抱えている方が、その解消の手段として氷をかむようになることがあります。冷たさや硬さの刺激は気分を切り替える作用があり、習慣として続いてしまうのです。
また、摂食障害や強迫性障害など心の病気の一部として氷をかむ行動がみられる場合もあります。この場合は氷をかまないと落ち着かないといった強いこだわりが背景にあります。氷を食べる欲求が生活に支障をきたすほど強い場合には、鉄不足だけでなく心理的な問題も考える必要があります。
氷食症を発症しやすい人の特徴を教えてください
氷食症は鉄が不足しやすい状況や体質をもつ方にしばしばみられます。成長期の子どもや思春期の女性は、発育や月経によって鉄の必要量が増えやすく、鉄欠乏に陥りやすいです。妊娠中や授乳期の女性も胎児や母乳のために鉄を多く消費するため、氷食症につながることがあります。
さらに、胃や腸の手術を受けた方や、慢性的に胃腸の調子が悪い方は鉄の吸収がうまくいかず、不足に陥りやすいです。食事制限や偏食のある方も栄養が偏り、鉄不足を招きやすいです。加えて、慢性的な疲労感や体調不良、強いストレスを抱える方も、身体的・心理的な要因が重なって氷食症をきたすことがあります。
氷食症で氷を食べたくなるメカニズム
氷を食べたくてたまらなくなる理由を教えてください
氷を強く欲する背景には、鉄欠乏が深く関わっていると考えられています。鉄は脳や神経の働きを維持するために欠かせない栄養素で、不足すると頭が重く感じたり、集中力が続かなかったりといった不調が出やすくなります。こうした不快な感覚を和らげる手段のひとつが氷をかむことです。冷たさや硬い噛み応えの刺激が脳を活性化させ、気分がすっきりするため、無意識のうちに氷を求めるようになるのです。
どうして氷を食べているときは安心できるのですか?
氷をかんだときの冷たさや硬さの感覚は、頭をすっきりさせるだけでなく、緊張や不安をやわらげる効果があります。この安心感を何度も経験すると、脳は氷をかむことを落ち着ける行動として覚え、習慣になっていきます。そのため氷を食べることがストレスの解消方法になっていくこともありますが、得られる効果は一時的であり、根本的な解決にはつながらないため、背景にある原因を解決することが欠かせません。
氷を食べると仕事や勉強に集中できる理由を教えてください
氷をかむとお口のなかに冷たい刺激が加わり、交感神経が働いて眠気が抑えられます。さらに、一定のリズムでかむ動作や歯ごたえの感覚が脳を刺激し、頭が冴えて集中しやすい状態をつくります。研究でも、鉄欠乏性貧血の方が氷をかんだときに反応速度や集中力が改善することが示されており、この効果が勉強や仕事に取り組みやすくする要因になっていると考えられています。
参照:『Pagophagia improves neuropsychological processing speed in iron-deficiency anemia』(Hunt MG et al., Med Hypotheses, 2014, 83 巻, 4 号, p. 473-476)
氷食症の対策と治療法
氷食症は治療した方がよいですか?
はい。氷食症は一見ただの癖のように思えますが、実際には鉄欠乏性貧血が隠れていることが多く、その原因として消化管の出血や婦人科の病気が関わっている場合があります。放っておくと貧血が進み、強い疲労感や息切れが出て、仕事や日常生活に影響が出ることもあります。氷をやめたいのにやめられない状態が続くときは、治療すべき病気がないかをチェックするためにも、早めに医療機関で検査を受けることが大切です。
原因となる病気が治ると氷を食べたい気持ちも消えますか?
はい。氷食症の多くは鉄欠乏性貧血に伴って起こるため、鉄不足やその原因となる出血性の病気を治療することで改善します。鉄剤の内服や点滴で鉄を補い、必要に応じて胃や腸の出血、婦人科の病気を治療すると、数週間から数ヶ月のうちに氷への強い欲求は自然に弱まっていきます。
また、鉄欠乏とは関係なく、ストレスや心の不調がきっかけで氷をかむ行動が続くこともあります。そのような場合でも、カウンセリングや行動療法、薬物治療などによって症状が改善するケースがあります。
氷食症を自分で治すことはできますか?
氷を我慢するだけでは改善は難しく、不足している鉄をしっかり補うことが大切です。鉄には大きく分けてヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があり、ヘム鉄はレバーや赤身の肉、あさりなどの貝類、カツオやいわしなどの魚に多く含まれ、吸収率が高いのが特徴です。一方、非ヘム鉄はほうれん草や小松菜などの緑黄色野菜、大豆製品やひじきなどに含まれ、吸収率は低めですが、ビタミンCを一緒にとると吸収効率が高まります。
まずはこうした食品を意識して取り入れることが基本ですが、食事だけで十分な量を補いきれない場合には鉄のサプリメントを活用する方法もあります。ただし、氷食症の背景に治療が必要な病気が隠れていることもあるため、必ず医療機関を受診して原因を確認しましょう。
病院での氷食症の治療法を教えてください
治療はまず血液検査で鉄の状態を調べることから始まります。ヘモグロビンやフェリチン値を測定し、鉄欠乏が確認された場合には鉄剤の内服治療を行います。内服で効果が不十分な場合や胃腸に問題がある場合には、注射による鉄の補充を行うこともあります。また、消化管出血や婦人科疾患が原因とわかった場合には、その治療を並行して行う必要があります。
編集部まとめ
氷をかむ行動が長く続く氷食症は、単なる癖ではなく鉄欠乏性貧血のサインであることが少なくありません。鉄不足の背景には消化管出血や婦人科の病気などの疾患が隠れている場合や、偏った食生活による栄養不足が関わっている場合があります。
治療の基本は鉄剤による補充と、原因となる病気への対応です。普段の生活でも、レバーや赤身肉、貝類、緑黄色野菜や大豆製品など鉄を含む食品やサプリメントを取り入れることが、再発の防止に役立ちます。
氷を強く欲する状態が続くときは、氷食症を身体からの大切なメッセージとして受け止め、医療機関で原因を確認し、治療につなげましょう。
参考文献
