氷を食べるとお口の中がひんやりして、気分が落ち着くと感じる方もいると思います。暑い時期や運動の後に氷を口にすること自体は自然なことです。けれども、それが習慣となり、毎日のように氷を食べずにはいられなくなると、氷食症という病気の可能性があります。氷食症は一見すると無害に思えますが、実際には思いがけない健康問題が隠れている場合があり、軽く考えるのは危険です。
本記事では、氷食症の基礎知識や放置した場合のリスク、治療法を解説します。
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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科
氷食症の基礎知識

氷食症とはどのような病気ですか?
氷食症とは、氷を強い欲求で食べ続けてしまう病気です。冷凍庫に氷を欠かさず用意したり、外出先でも氷を買わずにいられなかったりと、日常生活のなかで氷へのこだわりが表れます。勉強や仕事の合間にも氷をかじることが習慣となり、氷がないと落ち着かない状態になるのが特徴です。
医学的には異食症(pica)の一種に分類されます。異食症とは、本来は食べ物ではないものを繰り返し口にしてしまう病気の総称です。例えば、土や紙、髪の毛、石などを無性に食べてしまう場合もあります。そのなかで氷を対象とするものを氷食症(pagophagia)と呼びます。
氷食症の原因を教えてください
氷食症の原因としてよくみられるものは
鉄欠乏性貧血です。鉄は赤血球をつくる材料であり、酸素を全身に届ける役割を担っています。鉄が不足すると疲れやすくなったり、息切れや集中力の低下が起きたりします。さらに味覚やお口の感覚が変わり、冷たく硬い氷を強く欲するようになると考えられています。
鉄不足に至る理由はさまざまです。女性では過多月経や妊娠・出産によって鉄が失われやすく、男性や高齢の方では胃や腸の病気による出血、潰瘍、大腸ポリープ、がんなどが隠れている場合もあります。食生活の偏りや極端なダイエットで鉄の摂取が不足することもあります。
一方で、鉄欠乏がなくても氷食症がみられるケースもあります。氷をかむことで一時的に気持ちが落ち着くため、強いストレスや不安を背景に習慣化することがあるほか、摂食障害など精神的な問題の一部として表れる場合もあります。
氷食症を放っておくことのリスク

氷食症を治療しないと身体はどうなりますか?
氷食症を放置すると、背後にある鉄欠乏性貧血が進んでいきます。鉄は血液の材料として酸素を全身に運ぶ働きを担っており、不足すると身体に酸素が行き渡らなくなります。その結果、軽い動作でも息切れや動悸が出やすくなり、疲れやすさが続きます。
貧血が進行すると、めまいや立ちくらみ、倦怠感といった全身症状が目立つようになります。さらに、爪が反り返る匙状爪(スプーンネイル)、口角炎や抜け毛といった変化が現れることがあります。まれに舌や咽頭粘膜が萎縮して固いものが飲み込みにくくなるPlummer-Vinson症候群をきたす場合もあります。
氷を食べ続けることで生じる健康被害を教えてください
氷は硬く冷たいため、かみ続けることで歯に強い負担をかけます。歯の表面にヒビが入ったり欠けたりし、エナメル質が削れると知覚過敏が起こります。冷たい飲み物や風に触れるだけで歯がしみることもあり、場合によっては歯が割れて治療が必要になることもあります。
さらに冷たい刺激が胃や腸に繰り返しかかると、腹痛や下痢、胃の不快感を引き起こします。冷えに敏感な方では、食欲が落ちて栄養状態に影響することもあります。
氷食症を放置すると太りやすくなるというのは本当ですか?
氷自体は水でできているためカロリーはなく、食べるだけで
体重が増えることはありません。
ただし、鉄欠乏性貧血が進むと、疲れやすさやだるさが強くなり、活動量が減ってしまうことがあります。その結果、消費するエネルギーが少なくなるため、以前と同じ食事量でも体重が増えやすいです。さらに、疲労感があると気分転換やエネルギー補給のために間食をしやすくなり、肥満につながる場合もあります。
氷を食べること自体が直接太る原因にはなりませんが、鉄不足による体調不良が生活習慣に影響し、その結果として体重管理が難しくなることがあります。
氷食症の治療法

氷食症は放っておいても治りますか?
一時的に氷を食べたくなるだけであれば自然に収まる場合もあります。しかし、鉄欠乏性貧血など病気が背景にある場合は放置しても改善しません。鉄不足は時間とともに進行し、息切れや疲労感といった症状が強くなっていきます。
氷食症を根本から改善するには、原因となる疾患を治療することが欠かせません。まずは内科を受診し、必要に応じて消化器内科や婦人科で精査を受けましょう。
氷食症で受診した際の診断や検査方法を教えてください
受診時にはまず、氷をどのくらいの頻度や量で食べているのか、どのくらいの期間続いているのかを確認します。氷食症は、毎日製氷皿一つ分以上の氷を二ヶ月以上食べ続けるような状態を診断の目安とします。
検査では、背景にある鉄欠乏の有無とその原因を調べることが中心です。血液検査でヘモグロビンやフェリチンなどを測定し、鉄不足の程度を確認します。鉄欠乏が見つかった場合は、さらに原因を特定するための検査を行います。代表的なものとして、胃や腸からの出血を確認する内視鏡検査や、女性では過多月経や子宮の病気を調べる婦人科診察があります。
病院では氷食症をどのように治療しますか?
鉄欠乏があるときは鉄剤の内服が基本です。内服で胃の不快感や便秘が出る場合は、少量から始めたり、注射で鉄を補ったりします。あわせて、消化管の出血や過多月経など原因となる病気があれば、その治療も行います。鉄を補うと数週間ほどで氷を強く欲する気持ちが落ち着き、症状が改善に向かいます。
氷食症を自分で治すことはできますか?
前述のとおり、氷食症の背景には鉄欠乏があり、その原因として消化管や婦人科の病気が隠れていることもあります。まずは医療機関で検査を受け、治療すべき疾患がないかを確認することが大前提です。
そのうえで、自分で治す方法としては食事があります。鉄には肉や魚に含まれるヘム鉄と、野菜や豆類に含まれる非ヘム鉄があり、ヘム鉄の方が吸収されやすいのが特徴です。レバーや赤身肉、魚介類、貝類を積極的にとり、ほうれん草や小松菜、豆類などはビタミンCと一緒にとると吸収が高まります。
食事だけでは十分に補えない場合もあるため、その際はサプリメントを利用したり、病院で鉄剤による治療を受けたりしましょう。
氷食症の治療期間と再発防止策を教えてください
鉄剤を開始すると数週間で症状は改善しますが、体内の鉄を十分に蓄えるには数ヶ月の治療を要します。自己判断で中止すると再発しやすいため、医師の指示にしたがって治療を継続することが大切です。再発を防ぐために、定期的な血液検査に加え、鉄を意識した食事を心がけましょう。
編集部まとめ

氷を食べ続けてしまう氷食症は、ただの癖ではなく身体からのサインです。背景に鉄欠乏性貧血が隠れていることが多く、放置すると日常生活に支障が出るだけでなく、全身のさまざまな不調につながることがあります。
治療の基本は鉄剤による鉄の補充と、原因となる病気の治療です。あわせて鉄を意識した食生活や定期的な血液検査を続けることで、再発を防ぐことができます。氷をやめられないと感じたときは、できるだけ早めに医療機関を受診し、原因を明らかにしましょう。