「氷食症」とはどんな病気?氷を食べたくなる理由も解説!【医師監修】
公開日:2025/10/14


監修医師:
林 良典(医師)
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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
消化器内科
呼吸器内科
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整形外科
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脳神経内科
眼科(角膜外来)
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目次 -INDEX-
氷食症の基礎知識
氷食症とはどのような病気ですか?
氷食症とは、氷をどうしても食べてしまう病気です。
氷をかじりたい衝動が止まらず、1日に製氷皿1トレイ以上食べてしまう、氷が欲しくて我慢できない状態が1日に何度もある、といった状態が2ヶ月以上続いている場合は氷食症の疑いがあります。
氷食症は異食症の一種です。異食症とは、土や紙、チョークなどの栄養にならない、または食品ではないものを習慣的に繰り返し食べる障害を指します。
氷食症はまだ解明されていないことも多い病気ですが、鉄欠乏性貧血との関係が指摘されています。日本小児保健協会の調査では、鉄欠乏性貧血の患者さんの約79%に異食症がみられ、そのうちの約80%が氷食症であったという結果が報告されています。
また、鉄欠乏性貧血だけが原因ではなく、心理的、精神的な要因が関与している場合もあります。
参照:
『鉄欠乏性貧血の治療指針』(一般社団法人日本内科学会)
『鉄欠乏と異食症の関係一第1報 思春期の鉄欠乏性貧血における異食症の実態一』(日本小児保健協会)
『Ask about ice, then consider iron』(Journal of the American Association of Nurse Practitioners)
普通の氷が好きな方と氷食症の方の違いを教えてください
一般的に氷やアイスクリームが好きな方は、冷たさや食感、甘さなどを楽しんでいます。また、ちょっとしたごほうびや気分転換として氷やアイスを食べることもあります。
一方で氷食症の方では、下記のような行動や心理状態がみられます。
- 氷をガリガリとかじらないと落ち着かない
- 1日に何十個も氷を食べてしまう
- 家や職場に常に氷のストックをしている
- 氷が食べたくて目の前のことに集中できない
- 氷を切らすと強い不安にかられる
どうして氷食症の方は氷を食べたくなるのですか?
氷食症の原因としてよくみられるのは鉄欠乏性貧血です。
鉄欠乏性貧血は、貧血のなかでも頻度の高い疾患です。体内の鉄分が不足して赤血球中のヘモグロビンが十分に作られなくなることによって生じます。
鉄欠乏性貧血によりヘモグロビンの量が減少すると、血液が酸素を全身に運ぶ能力が低下します。その結果、動悸や息切れ、めまい、倦怠感や集中力の低下といったさまざまな症状が現れます。
氷を噛む刺激は交感神経を活性化し、一時的に覚醒度や集中力が高まるとされます。そのため氷を欲するようになり、氷をかじる行動が習慣化すると考えられています。
参照:『Pagophagia improves neuropsychological processing speed in iron-deficiency anemia』(medical hypotheses journal )
氷食症で氷を食べ続けたらどうなる?身体への影響とは
氷食症で氷を食べ続けることで歯に悪い影響はありますか?
氷を食べ続けることで、歯や口腔内に下記のような影響が出る可能性があります。
- 歯の破折
- 咬耗(こうもう)
- 知覚過敏
- 顎関節症
氷を食べることは胃腸に悪影響をおよぼしますか?
氷の摂りすぎにより胃腸が冷えて消化機能が低下することがあります。
冷たい刺激で胃腸の血管が一時的に収縮すると血流が減り、胃や小腸の働きが弱まることがあります。そのため、消化がうまく行われず、腹部の違和感や下痢などの症状が現れる可能性があります。
氷を一時的に食べる程度では大きな問題はありませんが、大量の氷を食べる習慣が続くと、慢性的な胃腸の不調につながることもあります。
そのほかにも身体への悪影響があれば教えてください
氷食症の背景にある鉄欠乏性貧血が進行すると、さまざまな全身症状が現れる可能性があります。
鉄分不足により赤血球中のヘモグロビンが減少すると、血液が酸素を運ぶ能力が低下します。身体は酸素を取り込むため心拍数が増加し、少しの負荷でも動悸や息切れが起きやすくなります。
また、筋肉の酸素が不足すると、疲労感や倦怠感を覚えやすくなり、いつも疲れているという状態に陥ることもあります。
さらに、血色が悪くなり赤みがない、あるいは黒っぽくみえる顔色不良や、爪がそり返ってて割れやすくなる匙状爪、味覚障害や舌のヒリヒリ感などの症状もみられることがあります。
鉄欠乏性貧血は、このように全身に症状を引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。鉄欠乏性貧血は初期症状がほとんどなく、静かに進行していきます。
氷食症の治療法
氷食症が疑われるときは何科を受診すべきですか?
氷食症が疑われる際には、まずは内科を受診するとよいでしょう。氷食症は、鉄欠乏性貧血が原因であることが多いため、血液検査で鉄の状態を確認できる診療科が適しています。貧血が確認できない場合は、別の診療科への受診をすすめられる場合もあります。医師の判断に従いましょう。
参照:『II.鉄欠乏 1.日本の現状と病態』(一般社団法人日本内科学会)
氷食症で受診した際の診断や検査の流れを教えてください
氷食症の原因が鉄欠乏性貧血と疑われる場合、まず問診で症状の程度や食習慣、生活への影響を確認します。続いて血液検査を行い、鉄欠乏性貧血の有無を調べます。
鉄欠乏性貧血を診断するには、単に血液中の赤血球の大きさ(MCV)や血清鉄の値だけでは不十分です。正確な診断のため、主に下記の3点を確認します。
- 小球性貧血(MCV<80)
- 血清鉄の低下と総鉄結合能(TIBC)の上昇(TIBC≧360μg/デシリットル)
- フェリチンの低下(<12ng/ミリリットル)
氷食症はどのように治療しますか?
氷食症は鉄欠乏性貧血との関係が深く、鉄分の補充が主な治療方法とされています。
治療の第一選択はクエン酸第一鉄ナトリウムや硫酸鉄などの経口鉄剤です。通常、鉄剤の服用を開始して約6〜8週間で貧血の症状は改善します。
鉄剤の服用により、貧血の自覚がなかった患者さんも「身体が楽になった」「言われてみれば以前はつらかった」と感じることがあります。
ただし、ヘモグロビンが正常化しても鉄剤の服用をすぐに中止してはいけません。体内の鉄を十分に補うためにはさらに3〜4ヶ月間服用を続ける必要があります。また、鉄欠乏性貧血の再発を防ぐために治療後も定期的に血液検査を受け、鉄の状態を確認します。医師の指示にしたがって治療を進めていきましょう。
鉄分補充だけでは改善しない場合は、心理的な要因が関与している可能性があります。強迫性障害やうつ病などの精神的な問題が背景にある場合は、認知行動療法や抗うつ薬などが有効とされています。
参照:
『鉄欠乏性貧血の治療指針』(一般社団法人日本内科学会)
『Ask about ice, then consider iron』(Journal of the American Association of Nurse Practitioners)
編集部まとめ
氷食症は単なる氷好きではなく、背景に鉄欠乏性貧血が隠れている場合があります。鉄欠乏性貧血は特に女性に多く、放置すると日常生活に影響するほどの症状が現れます。
氷食症の疑いがある場合は、まずは内科で血液検査を受けてみましょう。鉄分不足が見つかれば、鉄剤の服用で症状の改善が期待できます。
氷食症は正しい診断と治療で改善できる病気です。ただのクセと思わず、早めに医療機関に相談しましょう。
参考文献
