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「適応障害」はどのような基準で「診断」される?診断された後の注意点も解説!

 公開日:2025/10/16
「適応障害」はどのような基準で「診断」される?診断された後の注意点も解説!

適応障害(てきおうしょうがい)は、ストレスがきっかけで心や身体の不調が現れる疾患です。決して珍しい病気ではなく、ストレス社会といわれる現代において、誰にでも起こりうる身近な心の病気です。本記事では、適応障害の特徴や診断基準、治療法、そして診断後に注意したい点まで詳しく解説します。

前田 佳宏

監修医師
前田 佳宏(医師)

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島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局後、東京警察病院、国立精神神経医療研究センター、都内クリニックにて薬物依存症、トラウマ、児童精神科の専門外来を経験。現在は和クリニック院長。愛着障害やトラウマケアを専門に講座や情報発信に努める。診療科目は精神神経科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経内科。 精神保健指定医、認定産業医の資格を有する。

適応障害の概要

適応障害の概要

適応障害とはどのような病気ですか?

適応障害は、明らかなストレス因子に対する反応として、感情面や行動面に著しい不調が現れる精神疾患です。具体的には、憂うつな気分(抑うつ気分)不安感イライラ集中力の低下不眠など精神症状のほか、食欲不振倦怠感動悸といった身体症状が生じることもあります。また職場や学校で問題が出る場合(遅刻や欠勤、集中力低下によるミスなど)もあります。こうした症状により日常生活に支障を来たし、本来その方が持っている社会的・職業的な能力が発揮できない状態を適応障害といいます。

適応障害の原因を教えてください

適応障害の原因はストレス因子(ストレスが強くかかる出来事)です。具体的には、仕事上のトラブル、失業、人間関係の悪化、転居、離婚、介護疲れなどです。本人にとって大きな心理的ストレスとなる出来事であり、単発の出来事であったり、複数の出来事の積み重ねであったりします。症状の現れ方はさまざまですが、基本的には、はっきりと認識できるストレス因子が存在します。また、一見ポジティブな出来事(結婚や昇進、出産など)でも、環境の大きな変化を伴えばストレスとなり、適応障害を引き起こす場合があります。

適応障害の診断基準

適応障害の診断基準

適応障害が疑われるときの診察の流れを教えてください

適応障害が疑われる場合、まず精神科・心療内科での問診(症状の経緯やこれまでの病歴を聞き取る作業)が中心となります。また、身体の病気による症状でないかを除外するために、必要に応じて一般的な身体検査や血液検査が行われることがあります。

病院ではどのようなことを聞かれますか?

医師は患者さんの現在の症状の内容や経過だけでなく、ストレスの原因となっている出来事職場・家庭環境人間関係なども詳しく尋ねられます。きっかけとなった出来事などを、可能な限り具体的に伝えることが重要です。具体的には次のようなことを聞かれます。

まず現在の症状に関して、いつから、どのような症状があるか、その強さや頻度などを詳しく質問されます。さらにその症状が現れた背景となるストレス因子についても尋ねられます。例えば、最近仕事で大きな変化があったか、家庭内で心配事があるか、人間関係で悩みがないかなど、生活上の変化や出来事を聞かれるでしょう。適応障害では、患者さん自身が原因となる出来事をはっきりと認識していることが少なくありません。そういった場合はその出来事を深く掘り下げていきます。加えて、過去の病歴やこれまでの性格の傾向家族の精神疾患の有無なども質問されることがあります。

医師はこうした情報を総合して、適応障害かどうか、あるいはほかの疾患の可能性がないかを評価します。

適応障害の診断基準を教えてください

適応障害の診断は、主に以下に示す、二つの国際的な診断基準に基づいて行われます。

  • 精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版(DSM-5-TR
  • 国際疾病分類第11版(ICD-11

DSM-5-TRはアメリカ精神医学会が作成した基準で、ICD-11は世界保健機関(WHO)が作成した基準です。今回はDSM-5-TRによる診断基準を解説します。

DSM-5による診断基準では、特定可能なストレス因子にさらされてから、3ヶ月以内に精神症状、身体症状が出現することとされています。 さらにその症状は、以下のいずれかもしくは両方を満たす必要があります。

  • ストレス因子に対して、つり合わない苦痛である
  • この症状によって、社会的または職業的機能が大きく損なわれている

また、これらの症状が、ほかの疾患によって引き起こされていないことも重要です。さらに、ストレス因子が除去されると症状は徐々に改善し、ストレスがなくなってから6ヶ月以上は持続しないこと、とされています。なお、最初に適応障害と診断された場合でも、経過によっては後にうつ病など別の病気と診断されることもあります。

適応障害の治療と生活上の注意点

適応障害の治療と生活上の注意点

適応障害を治療しないとどうなりますか?

適応障害は適切な対処によって回復が期待できる疾患ですが、治療せずにストレスにさらされ続けると、症状が長引いたり悪化したりする場合があります。また、自殺企図(自殺しようとする行動)や自殺のリスクが高まることがあることも知られています。これは重要な問題であり、早期の治療介入が必要です。

適応障害の治療法を教えてください

適応障害の治療はセルフケア、そして精神療法薬物療法を組み合わせて行われます。

セルフケア まず原因となっているストレスから可能な限り離れることが大切です。仕事が原因であれば休職を検討し、学校が原因であれば学校を休むことを検討するなど環境調整を行います。ストレス因子そのものをなくすことが難しい場合でも、仕事の量を調整する、人間関係を見直す、配置転換を行うなど、ストレスの影響を軽減するための対策をとります。こうした調整によってストレス刺激を減らしつつ、心と身体をしっかり休ませることが回復への第一歩です。

そのうえで、健康的な生活を送ることに努め身体的健康の維持を目指します。また、マインドフルネスと呼ばれるアプローチが取られることもあります。マインドフルネスとは、五感を使って現在に意識を集中させることをいいます。判断をせずに、今この瞬間に注意を向けます。マインドフルネスを取り入れたセルフケアでは、心に深い傷を負った方が感じやすいストレスや孤独感、怒り、悲しみ、無気力などのつらさを和らげることを目指します。

精神療法 適応障害の治療として、精神療法が行われることがあります。ただし、現時点ではその効果の科学的な根拠は限られています。精神療法は、医師や臨床心理士などとのやり取りを通じて、患者さんが自分の感情や考え方を見直し、問題を理解することで対処法を見つけ、克服しようとする治療法です。

薬物療法 症状に応じて薬物療法が用いられることもあります。ただし、適応障害そのものを治す薬はなく、薬物療法の効果についても科学的根拠は限られています。不眠や強い不安感、抑うつ気分などに対する対症療法として、医師の判断で薬が処方されることがあります。

適応障害は完治しますか?

適応障害は、完治が期待できる病気です。診断基準でも、原因となったストレス因子がなくなれば通常は6ヶ月以内に症状は消失するとされています。適切な治療を行えば、症状は改善し、元の状態に戻ることが少なくありません。実際、多くの方はストレス因子から離れ、十分な休養を取ることで、徐々に回復します。ただし、適応障害は完治が見込める病気ですが、再発のリスクもあるため油断せずに治療を継続し、ストレス対策を講じることが大切です。

適応障害と診断された後の注意点を教えてください

定期的な受診を続ける 適応障害は通常、ストレス因子が取り除かれることで症状が軽減します。症状が軽くなったからと自己判断せずに、きちんと定期的な受診は続けましょう。また、6ヶ月以上症状が持続する場合は、うつ病などほかの疾患の可能性もあります。症状が続いたり悪化したりする場合には、医師と相談のうえ治療方針の見直しが必要です。

症状が和らいでも、無理に元の生活ペースに戻さない 症状が改善し、もう大丈夫だろうと思って急に元の生活ペースに戻すと、再発や悪化を招くことがあります。仕事の復帰などの方針は必ず医師と相談して決めましょう。

健康的な生活を維持する 生活習慣の改善やセルフケアも重要です。十分な睡眠とバランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、過度な飲酒は摂取は控えます。趣味やリラックスできる時間を持つのもよいでしょう。

希死念慮や自殺企図があるときは、すぐに専門機関に相談する 適応障害はうつ病よりは軽度とみなされる場合があるものの、自殺のリスクは高いといわれています。希死念慮とは漠然と死にたいと考える気持ちのことです。希死念慮や自殺企図などがみられる場合は、ためらわず医療機関や相談窓口に連絡してください。

編集部まとめ

編集部まとめ

適応障害は、明確なストレス因子によって、身体症状や精神症状が出現する病気です。適切な治療とサポートによって症状が改善する可能性があります。異変を感じたら、一人で抱え込まず、病院を受診しましょう。特に、希死念慮や自殺企図がみられる場合は、すぐに精神科への相談が必要です。自分や大切な方の変化に気付いたら、早めに対応しましょう。

この記事の監修医師