「日射病」とはどんな病気かご存知ですか?症状や応急処置も解説!【医師監修】
公開日:2025/08/26

暑い季節になると熱中症が話題になりますが、かつては強い日ざしが原因でおこる体調不良を日射病と呼んでいました。この記事では日射病とはどのような病気か、熱射病との違い、熱中症との関係などを解説します。また、日射病の症状や応急処置の方法や受診の目安などについても取りあげますので、暑い季節を安全に乗り切るための参考にしてください。

監修医師:
江口 瑠衣子(医師)
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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。
目次 -INDEX-
日射病の定義の変遷
日射病とはどのような病気ですか?
かつて、体温の著しい上昇により、意識や運動を司る脳の機能に異常を来した状態を熱射病と呼んでいました。この熱射病のなかで、特に太陽光が原因で起こるものを日射病といいます。ただし、現在では熱射病や日射病などの用語は、すべてを含めて熱中症と呼ばれています。今でも日射病という呼び方が使用される場合もあります。
熱中症は、気温や湿度が高い、風が弱い、日差しが強いなどの環境下で、身体に熱が蓄積されてしまう病気です。体温が上がり、病状が進行するとさまざまな症状がみられます。重症度が定められており、Ⅰ~Ⅳ度に分類されます。予防できることもある一方で、重症化すると命に関わる病気です。
日射病と熱射病の違いを教えてください
熱射病は、体温の著しい上昇により、中枢神経機能に異常を来した状態を指し、その原因を問いません。一方で、日射病はこの熱射病のうち、太陽光が原因で起こるものをいいます。
なお、現在は日射病と熱射病という言葉は基本的に使用されなくなっています。もともとは、高温の環境下で起こる熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病、日射病などの名称が使用されていました。1999 年 に熱中症の重症度分類が提唱され、その後2008年に日本医学会が用語整理を行いました。その際に、熱中症は高温の環境下で生じる障害の総称とされ、そのうち重症の病態で中枢神経障害を伴うものを熱射病と呼ぶこととなりました。日射病は熱射病のうち、太陽光が原因となったものと定義されました。さらに、その後、2015年の熱中症診療ガイドライン2015で用語は完全に熱中症に統一され、熱中症のなかでⅠ~Ⅲ度で分類されることとなりました。そして最新の熱中症診療ガイドライン2024ではⅣ度が追加された新しい分類に変わりました。
なぜ日射病になるのですか?
日射病の発症には環境、からだ(体調)、行動の3つの要因が大きく関わっています。特に環境要因は、日射病の場合は太陽光が体温上昇の直接的な原因となり、さらに気温や湿度などの条件が重なることで発症リスクが増大します。それぞれの条件の具体的なものは以下のとおりです。
- 環境:太陽光に直接当たる、気温が高い、湿度が高い、風が弱い
- 身体:高齢者、乳幼児、脱水、体調不良
- 行動:激しい運動、慣れない運動、長時間の屋外作業、水分が補給しにくい環境
日射病の症状と後遺症
日射病の症状を教えてください
日射病の症状について、現在使用されている熱中症の重症度分類を参考にみていきましょう。熱中症の症状は軽症から重症まで段階的に現れます。かつて日射病と呼ばれていた病態は、多くの場合熱中症分類のなかのⅢ度に当てはまると考えられます。
熱中症のなかで重症の段階であるIII度になると、意識がもうろうとして呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けないなどの重い神経症状が出現します。そのほかにもけいれん発作が起こることもあります。
| 重症度 | 症状 |
|---|---|
| Ⅰ度 | めまい、立ちくらみ、生あくび、多量の発汗、筋肉痛 |
| Ⅱ度 | 頭痛、吐き気や嘔吐、全身倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下 |
| Ⅲ度 | 意識障害、けいれん発作、手足の運動障害など神経症状 |
| IV度 | 深部体温が40度以上に上がり、意識がほとんどない状態 |
日射病の後遺症や合併症を教えてください
日射病の後遺症や合併症について、熱中症の病態を参考に解説します。日射病になると、中枢神経の障害がみられます。中枢神経障害では次のような症状がみられます。
- 意識障害(ぼんやりしている・返事がおかしい・呼びかけに反応しない)
- けいれん
- 手足の運動障害がみられる
- まっすぐ歩けない(小脳症状)
日射病の応急処置と受診の目安
日射病の初期症状が疑われるときの応急処置法を教えてください
日射病の初期症状が疑われるときは、すぐに風通しのよい日陰や涼しい場所へ移動させることが大切です。可能であれば、エアコンの効いた室内が望ましいとされています。安静にさせたうえで衣服をゆるめ、身体を冷やしましょう。自力で水分が飲めそうな場合は、塩分の入った飲み物(経口補水液やスポーツドリンクなど)を少しずつ摂取しましょう。
日射病ですぐに受診した方がよいサインはありますか?
熱中症診療ガイドラインでは頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下がみられるときは、医療機関の受診が必要とされています。また、自力で水分を摂取できない場合も、医療機関を受診する必要があります。意識がもうろうとしているなど重症の場合は、速やかに救急車を呼びましょう。
なお、軽症と判断して応急処置を開始した場合でも、水分を自力で摂取できない、症状が改善しないなどの場合は速やかに医療機関を受診します。
日射病になったときの自宅での過ごし方を教えてください
日射病になったときの自宅での過ごし方について、まず、室温は28度以下を保つようにしましょう。環境省では熱中症予防の目安として室温28度を推奨しています。冷房を使って室内を適切に冷やすことが重要です。ただし、冷房の設定温度ではなく、実際の室温が28度以下になるように調整する必要があります。安静を保ち、風通しのよい涼しい部屋で過ごしましょう。
また、入浴は体調が回復するまで控える方がよいでしょう。浴室は高温多湿で熱がこもりやすく、体温が再び上昇する可能性があります。さらに、大切なのが水分補給です。経口補水液やスポーツドリンク、食塩水などがすすめられています。汗をかくと塩分も失われるため、水分だけではなく塩分などの電解質も含む飲み物を摂取しましょう。
日射病と診断された後、倦怠感や吐き気、頭痛などの症状が残る場合は無理をせず、安静にします。症状が改善しない、または再び悪化する場合には、医療機関に相談しましょう。
病院ではどのように治療しますか?
軽症の場合は、病院でも全身を冷やしながら塩分と水分補給する治療を行います。涼しい環境で安静にして、身体を冷やします。水分摂取が可能なら、経口補水液や食塩水を摂取し、経口摂取が難しい場合には点滴が行われます。また、血液検査で電解質などの異常所見があれば、それを補正する治療も行われます。
日射病は、分類としては熱中症の重症に相当する場合があります。重症の場合は、まずはできるだけ早く深部体温を下げる必要があります。積極的に身体を冷却するActive Coolingと呼ばれる治療を開始します。これは、患者さんの身体を外側から、あるいは体内から積極的に冷却する方法のことです。同時に脱水に対する点滴も行われます。重症例ではActive Coolingを含めた集学的治療が必要です。呼吸の状態、血圧などの循環動態、肝臓や腎臓などの臓器の障害、DICの状況に応じてそれぞれに対する治療が行われます。
編集部まとめ
太陽光の影響によって引き起こされる日射病は、現在では熱中症として分類されています。意識障害などの神経症状を認め、病状が進行すると命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。強い日ざしのなかで起こる体調不良を甘く見ず、正しい知識と対処法を身につけておくことが、暑い季節を安全に乗り切るために必要です。万が一のときに慌てず行動できるよう、日頃からの備えを大切にしましょう。

