「急性緑内障発作」の自覚症状や発症しやすい人の特徴はご存知ですか?【医師監修】
公開日:2025/09/08

急性緑内障発作とは、目の中の圧力(眼圧)が突然急上昇し、目や頭に激しい痛みや視力低下、吐き気や嘔吐などを引き起こす緊急の症状です。発作を放置すると数日で失明に至ることもある大変恐ろしい病気ですが、早期に適切な治療を受ければ視力低下を防げる可能性があります。本記事では、急性緑内障発作の症状や経過、原因、治療法を解説します。症状が疑われる場合は、本記事を参考にできるだけ早く眼科を受診することを強くおすすめします。

監修医師:
栗原 大智(医師)
プロフィールをもっと見る
2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
急性緑内障発作の自覚症状と経過
急性緑内障発作の自覚症状を教えてください
急性緑内障発作が起こると、片方の目に突然強い痛みが走り、視界がかすんで急激に視力が低下します。多くの場合、目は充血し、まぶたのあたりに激しい頭痛を感じます。さらに症状が進むと、吐き気や嘔吐など全身の不調を伴うこともあります。痛みや見え方の異常が急速に悪化するため、最初は目の病気だと気付かず片頭痛や脳の病気と勘違いしてしまう方も少なくありません。これらの症状に気付いたら、一刻も早く眼科医の診察を受けてください。
急性緑内障発作が起きた後はどのような経過をたどりますか?
急性緑内障発作では、発作中に眼圧が急上昇し、目の神経(視神経)がダメージを受けることがあります。そのため、発作後に治療で眼圧が下がっても、一度障害された視野や視力は元どおりには回復しない場合があります。特に、発作を長時間放置してしまった場合は、治療後も視野が欠けたままになるなどの後遺症が残ることがあります。早期治療できた場合には痛みや吐き気などの症状は治療開始後まもなく改善し、視力もある程度は回復することがあります。しかし、発作による視野障害は取り戻せないため、いったん発作を起こしてしまうと、その後は見えづらさが残りうる点に注意が必要です。
急性緑内障発作と間違えやすい病気を教えてください
急性緑内障発作は激しい頭痛や吐き気を伴うため、脳卒中や片頭痛などと症状が似ています。特に、頭痛や嘔吐が前面に出るため、「まさか目の病気とは思わなかった」という方も多く、最初に脳神経外科や内科を受診してしまい眼科治療が遅れることがあります。また、ときには腹痛が生じて胃腸の不調と誤解される例も報告されています。急性緑内障発作は放置すれば短期間で失明につながりかねない緊急疾患です。強い頭痛や吐き気に加えて片目の痛みや視界のかすみを感じた場合は、脳や全身の病気だけでなく目の病気を疑うことが大切です。
急性緑内障発作の原因と起きやすい人
急性緑内障発作の原因を教えてください
急性緑内障発作の直接の原因は、目の中の水(房水)の出口である隅角が急にふさがり、房水が目のなかにたまって眼圧が一気に上がってしまうことです。もともと隅角が狭くなりやすい目(狭隅角)の方に発作が起こります。こうした目では、暗い場所で瞳孔が開いたときや一部の飲み薬などをきっかけに虹彩が房水の流れをさえぎり、急激に眼圧が上昇することがあります。特に、抗コリン作用のある薬剤(市販の風邪薬や抗ヒスタミン薬など)は瞳孔を開かせてしまうため、狭隅角の方がこれらの薬を服用したことを契機に緑内障発作が引き起こされることがあります。さらに、年齢とともに進行する白内障も原因の一つです。白内障が進むと水晶体が厚く大きくなるため隅角が狭まり、眼圧が上がりやすくなります。このように、さまざまな要因が重なって隅角が閉塞すると急性緑内障発作が生じます。
急性緑内障発作はどのような人に起きやすいですか?
急性緑内障発作は、中高年以降の方に多く見られます。特に、遠くがよく見える遠視の方は、目の奥の構造が小さく隅角が狭いため発作を起こしやすい傾向があります。この遠視の方は狭隅角である頻度が多いため、急性緑内障発作を起こしやすいとされています。もし条件に当てはまっており、一度も緑内障の検査を受けたことがない場合、ぜひ眼科で検査を受けてみることをおすすめします。
急性緑内障発作が起きたときの対処法と病院での治療
急性緑内障発作が起きたら何をすべきですか?
急性緑内障発作が疑われる症状が出たら、一刻も早く眼科医の診察を受けることが重要です。目の激痛や吐き気を感じたら、ただちに眼科を受診してください。夜間や休日であっても、開いている眼科あるいは救急外来で診てもらいましょう。「少しよくなってきたから」と様子を見るのは危険です。発作中は眼圧が大変高い状態が続くので、自己判断で放置せず早期に適切な処置を受けることで、視力低下や視野障害の進行を抑えることができます。自力での来院が難しいほど痛む場合は、無理をせず周囲に助けを求め救急車を呼ぶことも検討してください。
急性緑内障発作かどうかわからないときの診療科を教えてください
激しい頭痛や吐き気があると内科や脳神経外科を受診したくなるかもしれませんが、目の痛みや視界のかすみを伴う場合は迷わず眼科を受診してください。急性緑内障発作の場合、眼科での専門的な検査および治療が不可欠です。万が一、総合病院の救急外来など眼科以外の窓口を受診した場合でも、「目が痛い」「視力が急に落ちた」など目の症状を必ず伝えましょう。医師が急性緑内障発作を疑えば、必要に応じて眼科医の診察につなげてくれます。頭痛や吐き気だけで判断せず目の異常の有無に着目することが重要です。
急性緑内障発作に対して病院ではどのような治療を行いますか?
眼科では、まず眼圧を下げる緊急処置が行われます。具体的には、瞳孔を縮めて隅角を開く縮瞳薬の点眼を頻回に行い、併せて高浸透圧薬の点滴によって眼圧を速やかに下降させます。場合によっては、眼圧下降のための内服薬やそのほかの点眼薬も使用します。眼圧が十分下がらない場合や再発予防のために、レーザー虹彩切開術といって虹彩に小さな穴を開ける治療を行います。レーザーで虹彩に穴を開けると房水の流れ道が確保され、詰まった房水を逃して眼圧を下げることができます。通常はまず発作が起きた目にレーザー治療を行い、状態が落ち着いた後に反対側の目にも予防的にレーザーで穴を開ける処置を行います。レーザー治療が難しい場合や、根本的な治療を目指す場合には白内障手術による治療も選択されます。白内障手術を行うことで厚くなった水晶体を薄い人工レンズに置き換えます。白内障の程度が軽くても、急性緑内障発作の再発予防目的で行われることもあります。いずれにせよ、病院で適切な治療を受ければ眼圧は徐々に正常化し、強い痛みや吐き気も治まっていきます。
急性緑内障発作を治療した後の経過を教えてください
急性緑内障発作の治療後は、まず発作そのものは落ち着きますが、発作中に障害された視神経はもとに戻らないため、残念ながら視力や視野に障害が残ることがあります。ただし、早期治療できた場合には視力低下や視野障害が最小限で済み、その後の日常生活に大きな支障が出ずに済むこともあります。治療後は再発防止と視機能の維持のため、継続的な眼科での経過観察が必要です。発作を起こした目では、その後も眼圧が上がりやすかったり、緑内障が慢性的に進行したりする可能性があります。また、反対側の目にも同様の発作が起こるリスクが高いため、必要に応じて前述のレーザー治療や手術を行います。治療後は医師の指示のもと、点眼薬の継続や定期的な視野検査などで視野障害の進行を抑制する治療を続けることが大切です。特に、発作で視力や視野を失ってしまった場合、その部分は回復しないため、それ以上悪化させないようコントロールしていく必要があります。
編集部まとめ
急性緑内障発作は、突然起こる目の救急疾患です。片目の激しい痛み、急な視力低下や視界がかすむ、吐き気を伴う頭痛などの症状が現れたら、脳の病気と迷うことなくまず眼科を受診してください。発作を放置すると短期間で失明する危険がありますが、早期に治療すれば視力を守れる可能性があります。急性緑内障発作は予防や治療が可能な病気です。異変を感じたら迅速に専門医の診察を受け、大切な視力や視野を失わないようにしましょう。




