熱中症は、体内の熱がうまく逃げずに体温が異常に上昇することで、さまざまな症状を引き起こす病気です。重症化すると命に関わるため、早めに適切な対処をすることが大切です。しかし、どういったときに熱中症を疑うのか、適切な処置は何か、いざというときに迷う方も少なくありません。素早く適切に行動するには、あらかじめ正しい知識を身につけておく必要があります。本記事では、熱中症が疑われるときにすぐに取るべき応急処置の方法や、緊急受診が必要な症状などをわかりやすく解説します。
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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。
熱中症の徴候があるときの応急処置
熱中症の症状を教えてください
熱中症の
初期症状には、
めまい、立ちくらみ、生あくび、多量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)などがあります。
熱中症の病状が進むと、
頭痛、吐き気や嘔吐、全身倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下などが出現します。
さらに進行すると、
意識障害(意識がもうろうとしている、反応が乏しい)、けいれん発作がみられるようになります。
そのほかにも、
手足がうまく動かせない、ふらつきや手足のふるえ、まっすぐ歩けないなどの神経症状がみられる場合もあります。
そして、
病状が最も重症の段階まで進行すると、深部体温が40度以上に上がり、
意識がほとんどない状態となります。
熱中症かどうかを自分で判断することはできますか?
熱中症は
軽症の段階であれば、めまいや立ちくらみ、たくさん汗が出るなどの症状を自覚できる場合もあります。しかし、
熱中症は病状が進むと判断力が低下し、
意識障害まで至るため、
自分で判断できなくなります。基本的には、熱中症かどうかを自分で判断することは、ごく
初期の段階以外は難しいと意識しておいた方がいいでしょう。
また、
子どもと
高齢の方はその特性から
熱中症のハイリスクグループともされています。
子どもは自分で熱中症であるかどうかを
判断できません。
ご高齢の方も暑さやのどの渇きといった
症状を感じにくい特徴があるとされています。このため、
子どもや高齢の方は熱中症かどうかを自分で判断できないと考え、本人からの訴えがない場合でも周囲の方が様子がおかしいと感じた場合は、熱中症を疑いましょう。
熱中症の症状が現れたときはまず何をするべきですか?
熱中症が疑われたら、すぐに風通しのよい日陰や、涼しい場所へ避難させます。可能であればクーラーが効いている室内などが望ましいとされています。安静にし、衣服を緩めて身体を冷やしましょう。また、水分を自分で飲めそうな場合は塩分の入った水分を補給しましょう。重症の場合は、移動と同時に救急車をすぐに呼び、現場で速やかに身体を冷やし始めることも大切です。
熱中症の応急処置法について
熱中症の応急処置に必要な資材はありますか?
身体を冷やすための資材には、
うちわや扇風機、濡れタオル、氷などがあります。自動販売機やコンビニがあれば、
冷えた水のペットボトル、ビニール袋に入った
かち割氷、氷のうなどを手に入れます。
水分と塩分の補給には、
塩分の入ったスポーツドリンク、経口補水液、食塩水(水1Lに食塩1~2g)がよいとされています。熱中症が起こりうる環境では、これらの資材をあらかじめ準備しておくと、応急処置がスムーズに行えます。
熱中症の応急処置の方法を教えてください
熱中症は放置すると死に至る緊急の病態です。熱中症が疑われたら、
基本となる次の3つを行います。
- 涼しい場所へ避難する
- 衣服を緩め、身体を冷やす
- 水分と塩分を補給する
まずは、
涼しい場所へ避難させます。次に
安静にし、
衣服を緩めて身体を冷やします。具体的には皮膚を濡らしてうちわで扇ぐ、扇風機の風を当てる、氷やアイスパックなどで冷やす、などです。氷などを当てる部分は、
首の両側、両方のわき、太ももの付け根などが効果的です。
身体の表面近くにある太い静脈は、たくさんの血液が全身をめぐって戻ってくる場所です。この太い静脈のあたりを冷やすことで、血液を冷やすことにつながります。氷やアイスパックを首の両側、両方のわき、太ももの付け根などを
中心に広く当てて、全身を冷やしましょう。
そして
水分と塩分の補給もたいへん重要で、
身体を冷やすのと同時に開始します。冷たい飲み物は、身体の中から熱を奪う効果があります。水分と塩分の補給で大切なのは、冷たい飲み物を
熱中症が疑われる本人に持たせて、自分で飲んでもらうことです。呼びかけへの反応が問題なく意識がはっきりしている場合は、冷えた水分を口から与えましょう。呼びかけや
刺激に対する反応に問題がある、
反応しない(意識障害)など
異常があるときは、水分が
誤って気道に流れ込む可能性があります。また、吐いている状況でも
水分を口から摂取できません。こういった場合は
医療機関を受診する必要があります。
なお
重症の場合は、
救急車をすぐに呼びますが、
現場で速やかに身体を冷やし始めることも大切です。例えば全身にホースで水をかけるなどの方法がありますが、2024年のガイドラインでは特定の方法は推奨されていません。現場の状況や利用できる設備に応じて、可能な冷却方法を実施しましょう。
熱中症の応急処置中に観察すべきポイントはありますか?
応急処置中は、次のポイントを観察しましょう。まず
意識の確認です。意識がはっきりしているか、呼びかけへの反応が問題なく普段どおりかを確認します。
応答がおかしい、反応が鈍い場合はすぐに救急車を呼びましょう。
次に大切なのが、
自分で水を飲めるかどうかの確認です。飲めない、吐いてしまうなど自力での水分補給ができないときは、
早急に医療機関への受診が必要です。
また、熱中症は
急激に病状が悪化し重症化することがあります。応急処置を開始して、
状態が改善してくるかどうかをきちんと観察しましょう。
熱中症で緊急受診が必要なケース
どのような症状が現れたら緊急受診すべきですか?
熱中症診療ガイドラインでは
頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下がみられる場合は、医療機関での診察が必要とされています。また、
自力で水分を経口摂取できないときも、脱水の補正が困難であるため医療機関を受診する必要があります。
なお、
軽症と判断して応急処置を開始した場合でも、
水分を自力で摂取できない、症状が改善しないなどの場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
救急車を呼んだ方がよい症状を教えてください
熱中症の症状で
重症が疑われる場合は、
一刻も早く病院で治療を開始する必要があります。熱中症で救急車を呼んだ方がよいかどうかの判断のポイントは、
意識がしっかりしているか、自分で水を飲めるか、の二つをまず確認することです。具体的には次のような症状があれば、すぐに救急車を呼びましょう。
- 意識障害(ぼんやりしている・返事がおかしい・呼びかけに反応しない)
- けいれん発作
- 手足の運動障害がみられる
- まっすぐ歩けない(小脳症状)
また、
表面体温で40度以上、もしくは皮膚に明らかな熱感が感じられる場合も、
重症である可能性があるため、意識の状態などを確認し、救急車を呼びましょう。
子どもや高齢者の熱中症は緊急受診の目安が異なりますか?
子どもや高齢の方は熱中症になりやすく、重症化しやすいといわれています。また、
子どもは異変を上手に伝えられず、自分自身で予防できないため、
周りの大人が注意を配ることが大切です。元気がない、食欲がない、よくあくびをする、汗を大量にかいている、体温がとても高いなど、普段と違う様子があれば注意が必要です。
高齢の方も喉の渇きを感じにくく、初期の症状に気付きにくいので、軽いめまいやふらつきでも症状が進行してきている場合があります。
ガイドラインでは重症度や受診の目安について、すべての年齢で
共通の基準が示されています。ただし、
子どもや高齢の方の特性からは、
早めの受診を検討するなど慎重に対応すべきとされています。あくびや汗をたくさんかくなどの初期症状であっても、
いつもと様子が違う、元気がないなど異変を感じた場合は、
速やかに医療機関を受診することを検討します。なお、
子どもの場合、
意識の状態が少しでもおかしい場合は救急車の要請を検討しましょう。
編集部まとめ
熱中症は早期発見と適切な対応がたいへん重要です。めまい、立ちくらみなどの軽症から、意識障害やけいれんなどの重症まで症状は多岐にわたります。熱中症は自分で気付きにくいこともあるため注意が必要です。また、子どもや高齢者は特にリスクが高く、周囲の方々が気を配る必要があります。呼びかけに反応しない、自力で水分を摂取できないなどの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。熱中症は何よりも予防が大切ですが、起こってしまった場合には冷静に状況を判断し行動する必要があります。日頃から正しい知識を身につけておくことが、いざというときに自分や周囲の方々の命を守る助けになります。