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「熱中症で下痢」になる原因はご存知ですか?下痢が何日程度続くかも解説!

 公開日:2025/08/07
「熱中症で下痢」になる原因はご存知ですか?下痢が何日程度続くかも解説!

真夏の厳しい暑さのなか、屋外での活動や蒸し暑い室内で過ごしているときに、突然の下痢に襲われた経験はありませんか。多くの方は冷たいものを飲みすぎたかなと軽く考えがちですが、それは単なる体調不良ではなく、身体が発している危険なサイン、すなわち熱中症の症状の一つかもしれません。

この記事では、医療専門家の監修のもと、熱中症で下痢になったときの特有の症状から、その背景にある複雑な身体のメカニズム、危険なサインを見分けるための受診の目安、そして家庭でできる具体的かつ効果的な対処法まで、医学的知見に基づいてわかりやすく解説します。ご自身や大切な家族を守るため、正しい知識を身につけ万が一の事態に備えましょう。

高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

熱中症による下痢の特徴と原因

熱中症による下痢の特徴と原因

熱中症による下痢の特徴を教えてください

熱中症が原因で起こる下痢は、ウイルスや細菌による感染性胃腸炎とは異なる、いくつかの重要な特徴があります。これらの特徴を正しく理解することが、適切な初期対応への第一歩となります。

まず、便の状態としては、泥状の軟便から、完全に水のような便(水様便)が1日に数回から、多いときには十数回続くことが典型的です。下痢だけでなく、強い吐き気や嘔吐を伴うことも少なくありません。

しかし特に注意すべきは下痢と同時に現れる全身症状です。38度を超えるような体温の上昇、立ちくらみやめまい、立っていられないほどの強い全身のけん怠感が同時に現れるのが、熱中症による下痢の大きな特徴です。これらの症状は、消化器系の問題だけでなく、身体全体の恒常性が破綻し始めていることを示す危険なサインです

熱中症による下痢は何日程度続きますか?

熱中症による下痢の期間は、対処の速さと適切さに大きく左右されます。
適切な対処、すなわち、速やかに涼しい場所へ避難して身体を冷やし、後述する経口補水液などで失われた水分と電解質を正しく補給すれば、ほとんどの場合は1~3日以内に症状は軽快に向かいます。身体の熱ストレスが取り除かれ、体液バランスが正常化すれば、消化管の機能も徐々に回復していきます。

熱中症で下痢になる原因を教えてください

熱中症で下痢が起こるのは、単一の原因ではなく、体内で起きる複数の深刻な生理学的変化が連鎖した結果です。これは、身体が極度の熱ストレスから脳や心臓といった重要臓器を守ろうとする過程で、消化管が犠牲になる生体防御のトレードオフともいえる現象です。
以下のような変化が影響していると考えられています。

  • 発汗による脱水で腸管血流が減少し、蠕動運動が乱れる
  • 深部体温の上昇で腸粘膜が傷つき、透過性が高まる
  • 低ナトリウム血症や低カリウム血症が腸の働きを弱める
  • 冷たい水を一気に飲むと急激な腸蠕動が刺激される

熱中症で下痢になったときの受診サインと病院での治療法

熱中症で下痢になったときの受診サインと病院での治療法

熱中症の下痢がどの程度続いたら受診すべきですか?

ほとんどの熱中症による下痢は自宅での適切な療養で改善しますが、なかには一刻を争う緊急の対応を要する危険な状態もあります。以下のレッドフラッグ・サインが見られた場合は、ためらわずに救急車を呼ぶか、夜間・休日であっても救急外来を受診してください。

  • 意識がおかしい
  • けいれん
  • 血便や黒色便が出る
  • 嘔吐が止まらず、水分がまったく摂れない
  • 尿が半日以上出ていない、または色が濃い
  • 38.5度以上の高熱が続き、身体を冷やしても下がらない

熱中症による下痢の病院での治療法を教えてください

病院での治療は、体内で起きているダメージの悪循環を断ち切るため、身体を冷やすこと(冷却)体液を補うこと(輸液)を二本柱として、迅速かつ集中的に行われます。

病院を受診しても熱中症の下痢が治らないときはどうすればよいですか?

適切な初期治療を受けても下痢が改善しない場合、医師はいくつかの可能性を考え、追加の検査や治療方針の変更を検討します。

第一に、熱中症と細菌性腸炎(食中毒)の合併です。高温多湿の環境は、カンピロバクターやサルモネラ、O-157といった食中毒菌の増殖にも最適な条件です。熱中症の症状だと思っていたものが、実は食中毒であったり、両者が偶然合併していたりすることも少なくありません。この場合、医師は便の培養検査を行い、原因菌を特定したうえで適切な抗菌薬(抗生物質)による治療を開始します。

第二に、電解質異常の遷延です。点滴治療を行っても、低ナトリウム血症や低カリウム血症がなかなか補正されないことがあります。特に腎機能が低下している場合や、もともと利尿薬を服用している方などでは、電解質の管理が複雑になることがあります。この場合は、点滴の内容や投与速度を再評価し、より精密な調整が行われます。

第三に、熱中症が引き金となった新たな消化管機能不全の可能性です。重度の腸虚血を起こした場合、そのダメージから回復する過程で腸の機能が完全にもとに戻らず、後遺症が残ることがあります。代表的なものに、特定の食品(特に乳製品に含まれる乳糖)を消化できなくなる二次性乳糖不耐症や、腸が過敏な状態が続き、腹痛や下痢・便秘を繰り返す感染後過敏性腸症候群(IBS)があります。これらの状態が疑われる場合は、消化器内科の専門医による食事指導や内服治療といった、継続的なフォローアップが必要になることがあります。

熱中症で下痢になったときの自宅での過ごし方

熱中症で下痢になったときの自宅での過ごし方

熱中症で下痢になったときは何を飲めばよいですか?

下痢を伴う熱中症の際、水分補給は生死を分けるほど重要ですが、ただの水を飲むだけでは不十分、場合によっては逆効果になることさえあります。失われた水分と電解質を、身体が最も効率よく吸収できる形で補給することが絶対条件です。

そのための最適解が経口補水液(ORS)です。経口補水液は、水分、電解質(ナトリウム、カリウム)、そしてブドウ糖が、腸で最も効率よく吸収されるように医学的に計算された、飲む点滴ともいえる飲料です。

私たちの腸の壁には、ブドウ糖とナトリウムがセットでなければ開かないSGLT1という特別な入口があります。ORSを飲むと、ブドウ糖がこの入口の鍵となり、ナトリウムを引き連れて細胞内に入ります。そして、水分はナトリウムに引き寄せられる性質があるため、まるでスポンジが水を吸い込むように、スムーズに体内へ吸収されるのです。この仕組みにより、ただの水を飲むよりもはるかに速く、効果的に身体を潤すことができます。

熱中症により下痢になったときの食べ物を教えてください

下痢をしているときは、消化管がダメージを受けて炎症を起こしている状態です。食事は、胃腸にさらなる負担をかけず、回復を助けるものを選ぶ必要があります。かつてはBRAT食(バナナ、米、リンゴ、トースト)が推奨されていましたが、栄養価が偏るため、現在はより柔軟な段階的な食事法がすすめられています。以下の内容を参考にしてください。

  • 急性期(~24時間):白がゆ、軟らかいうどん、食パン
  • 回復期:バナナ、すりおろしりんご、具なしみそ汁
  • 体力回復期(下痢改善後):湯豆腐、鶏むね肉、白身魚
  • 避ける食品:乳製品、揚げ物、香辛料、生野菜の大量摂取

熱中症で下痢を治すために市販薬を飲んでもよいですか?

下痢止め(止瀉薬)の使用は、極めて限定的な場合にとどめておくほうがよいです。市販のロペラミド塩酸塩を含む下痢止め薬は、以下の3つの条件をすべて満たす成人の方のみ、自己判断での使用を検討できます。

  • 38度以上の発熱がない
  • 便に血が混じっていない(血便ではない)
  • 細菌性の食中毒(食あたり)が強く疑われない

なぜこれほど慎重になる必要があるかというと、発熱や血便を伴う下痢は、O-157などの危険な細菌を体外に排出しようとする身体の重要な防御反応だからです。ここで無理に下痢を止めると、菌や毒素が腸内に滞留し、かえって症状を悪化させ、重症化させる危険性が大変高いのです。

整腸薬(ビオフェルミンなど)は、乳酸菌やビフィズス菌を含み、荒れた腸内環境を整える助けになります。下痢を悪化させるリスクは低く、経口補水液と併用しても問題ありません。

そして、解熱鎮痛薬は頭痛や発熱があるからといって、イブプロフェンやロキソプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を自己判断で服用するのは避けた方がいいです。

熱中症による脱水状態では、腎臓への血流がすでに著しく減少しており、腎臓は大きな負担を強いられています。そこにNSAIDsを服用すると、腎臓の血管をさらに収縮させ、急性腎障害(急性腎不全)を引き起こすリスクが極めて高まります。これは命に関わる副作用です。どうしても解熱鎮痛薬が必要な場合は、腎臓への影響が少ないアセトアミノフェンがよいですが、まずは医師や薬剤師に相談することが基本です。

編集部まとめ

編集部まとめ

熱中症による下痢は、単なるお腹の不調ではなく、体内で起きている深刻な機能不全のサインです。軽視することなく、迅速かつ適切な対応が重症化を防ぎ、命を守る鍵となります。無理をせず涼しい環境で過ごすことを心がけ、厳しい夏を健康に乗り切りましょう。

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