現代社会は、ストレス社会といわれるほどストレスに溢れています。心身ともにストレスを抱えることで、精神的に病んでしまう方は少なくありません。
パニック障害は、日常生活の過度なストレスが原因で発作が起きる病気です。
この記事では、パニック障害の原因や症状、パニック発作が起こった場合の対処法や治療法を解説していきます。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
パニック障害の原因や症状

パニック障害の原因を教えてください。
パニック障害の原因については、
はっきりとした原因がわかっていません。パニック障害の原因としては、ストレスや危険を感知する扁桃核という脳の一部分の働きが弱まり、自律神経の過剰な興奮を起こすことによって生じると考えられています。パニック発作は脳の機能障害が引き起こし、以下3つの脳の部分が関係しているという考えがあります。
- 自律神経を統御する脳幹部
- 予期不安は情動などを司る扁桃体を中心とした大脳辺縁系
- 広場恐怖による逃避行動などには前頭葉
本来は命を守るための脳のアラーム(警告)機構が障害されたことで、発作が起こるのではないかという指摘があります。こうした脳の機能異常を引き起こしやすい環境要因は、本人の性格傾向やストレスフルな日常生活、過去のトラウマ(心的外傷)などです。その他にノルアドレナリン・セロトニン・GABA(r-アミノ酪酸)・グルタミン酸などの脳内の神経伝達物質、体質なども発症と関係しているとされています。
パニック発作が起こるとどのような症状が出ますか?
パニック発作では、強い恐怖や不快感に加えて、以下の身体症状と精神症状のうち
4つ以上の症状が突然現れます。
- 胸の痛みや不快感
- 窒息感
- めまい・ふらつき・気が遠くなる
- 死への恐怖
- 正気を失うことや自制を失うことへの恐怖
- 非現実感・違和感・外界への遊離感
- ほてりや悪寒
- 吐き気・腹痛・下痢
- しびれまたはピリピリ感
- 動悸または頻脈
- 息切れまたは呼吸困難
- 発汗
- 振戦またはふるえ
症状は通常10分以内にピークに達し、数分ほどで徐々に改善します。その後は、ひどい発作がまた起こることへの恐怖心が残りますが、医師の診察を受けても身体的な症状はほとんど見られません。
パニック障害の予後不安について教えてください。
予後不安は、パニック障害で見られる症状の1つです。パニック発作になったときの苦しさや怖さから、「また発作が起きたらどうしよう」と
心配になることが多く見られます。予後不安を感じるため、以下のような状況を避けるようになります。
- 電車
- 飛行機
- 高速道路
- 人混み
- 頼れる人がいない状況
- 一人で出かけること
- エレベーター
- 映画館
混雑している場所やすぐ逃げられない場所、一人になる状況を避けるようになる傾向です。
パニック障害の広場恐怖について教えてください。
広場恐怖とは、広場が怖いという状態ではなく、発作が起こるかも知れないと感じる苦手な場所ができてしまった状態のことです。対象となる場所は患者さんによってさまざまで、複数の場所が苦手と感じるケースもあります。電車やバスなどに乗ることや、映画館などのように囲まれた場所、人混みにいることなどに強い不安や恐怖を感じることがほとんどです。広場恐怖の症状が軽い場合は、特定の1つか2つの状況を避けるだけで、問題なく日常生活が送れるケースもあります。症状が重い場合は、ほとんどの交通機関を利用できず、近場の必要な場所にしか出かけられないこともあります。
パニック発作が起こった場合の対処法

パニック発作が起こった場合の対処法を教えてください。
パニック発作が起こった場合の対処法は、
まず焦らず落ち着きましょう。発作が起きるとその恐怖から何とか逃れようとして、誰もが慌てる傾向にあります。一般的には発作は、10分程度でピークになることがほとんどです。ピーク後は次第に不安は軽減し、自然に消えていきます。その後に行う対処法として以下があります。
- 定時薬や頓服薬を服用し1〜2時間は様子をみる
- 呼吸法を実践する
- 自分に適した対処法を試みる
パニック発作が起こった場合の対処法については、主治医や家族とよく話し合って確認しておくことが大切です。
身近な方がパニック発作を起こしたときにいってはいけない言葉はありますか?
パニック発作を起こしたときにいってはいけない言葉は、「早く落ち着いて」や「どうしてこんなに動揺しているの?」など、相手をせかすような言葉は避けましょう。精神論や急かす言葉、相手の緊張を増やす言葉は、病状の悪化につながる可能性があるため注意が必要です。
パニック障害の診断や治療方法

パニック障害になりやすいのはどのような方ですか?
パニック障害になりやすいのは、もともと不安や恐怖心が強いタイプの方がなりやすいです。幼い頃から内気で人見知りが強く、親から離れることに不安を感じていた方や、高所や閉所などを怖がっていた方などがなりやすい性質を持っているとされています。パニック発作は3人に1人が体験するとされており、そのなかで発作を繰り返しパニック障害に至るのは、100人のうち3~4人の割合と推定されています。男女別では女性が多く、男性の3倍です。女性のなかでも年代で変わり、起こりやすい年代は30代で、次いで20代が起こりやすいです。
医療機関で受診する目安を教えてください。
突然の息苦しさや動悸、手足の震えなどの症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。もし身体的に異常なしという結果であれば、パニック障害が疑われます。その場合は、心療内科や精神科の受診を検討しましょう。パニック障害は早期治療により回復が見込めます。強いパニック発作が繰り返されると不安になることも多くなりますが、命に関わるものではありません。
パニック障害の診断基準を教えてください。
具体的な診断基準に基づく医師による評価で診断されます。パニック発作の症状として、重篤な疾患と同じような症状が見られることも多くあります。そのため、まず初めに自覚症状している症状の原因を調べる検査を行い、身体的な病気がないことを確認することが大切です。パニック障害の診断は、次の2つを満たすことが判断基準です。1つ目は予期しないパニック発作を繰り返し起こること、2つ目は少なくとも1回の発作の後1ヶ月以上、以下の状態のうち1つ以上が続くことです。
- さらに発作がおこるのではないかという心配の継続
- 発作または発作に関連する心配
- 発作に関連した行動の大きな変化
発作に関する持続的な心配やパニック発作だけでもさまざまな症状があることから、実際には症状が組み合わさり、患者さんごとに症状の程度が異なります。経過や症状をしっかり聞いたうえで判断され、パニック障害と診断されれば、薬物療法で発作をしっかり抑えていくことが推奨されます。
パニック障害の治療方法を教えてください。
パニック障害の治療方法は、大きく分けて薬物療法と精神療法の2つです。薬物療法は抗うつ薬と抗不安薬を服用することで、パニック発作を抑制し、発作が発生する回数を大幅に減少することが期待できます。精神療法を行わない場合は注意が必要です。薬物療法だけでは、パニック発作を引き起こす状況を患者さん自身が回避するといった、行動の変化をもたらすことが難しいからです。薬物療法ののみの場合、服薬を中止するとパニック発作が再発しやすいため、長期にわたる服薬が必要です。精神療法には、曝露療法や認知行動療法があります。曝露療法は、患者さんが耐えられるレベルの不安な状況に向き合うことから始め、状況に慣れさせていくことで克服していく療法です。認知行動療法は、誤った認知や好ましくない認知があれば、それを治療に役立つ認知に修正する療法です。
編集部まとめ

パニック障害は、日常生活で過度なストレスを受けることで突然強い不安や恐怖に襲われ、動悸・頻脈・発汗・息苦しさを起こす不安障害の一種です。
パニック発作が起きてしまった際には、命に関わらない病気ということを知ったうえで、慌てずにリラックスすることを意識しましょう。
パニック障害は早期治療で回復が可能な病気です。自身や家族で気になる症状がある場合は、早めに医療機関へ受診しましょう。
パニック障害は、日常生活のストレスや頑張りすぎてしまう気質が原因とされています。日常生活のなかで、リラックスして過ごす時間を意識して作り、ストレスを溜めない生活を心がけましょう。