電車の中や人混みの中などで急に不安や動悸・めまいに襲われ、死ぬのではないかと恐怖感を覚えるパニック発作が繰り返し起こるとパニック障害と診断される場合があります。
パニック障害は患者さんにとって大変つらいものです。周囲の方の患者さんへのいたわりと寄り添いが大切ですが、そこで元気づけようといった言葉がかえって患者さんの負担になるかもしれません。
この記事ではパニック障害の方に言わないほうがよい言葉の例をあげるとともに、パニック障害の原因・症状・治療法を解説します。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
パニック障害の原因や症状
パニック障害とはどのような病気ですか?
突然激しい不安に襲われ、動悸やめまいがする・呼吸が苦しくなるなどの症状が起こることをパニック発作といいます。パニック障害とはパニック発作が繰り返される病気です。場合によっては死んでしまうのではないかという恐怖に襲われることもあります。パニック発作では突然、動悸・発汗・震え・呼吸困難・胸の苦しさ・吐き気・感覚麻痺・冷たい感覚または熱い感覚などに襲われ、10分以内にピークに達します。またパニック障害ではパニック発作の記憶からまた発作が起きたらどうしようという不安にかられることが少なくありません。これを予期不安と呼びます。予期不安があると電車や人混み・一人での外出・エレベーターなどの閉鎖空間を避ける傾向にあります。
原因やきっかけを教えてください。
パニック障害を含む不安障害の原因はまだはっきりとは解明されていません。従来は心理的な要因が主な原因と考えられてきました。しかし近年の研究により、脳内神経伝達物質が関係する脳機能の異常が原因ではとされ始めています。快・不快など心の動きの中枢を担っているのは脳内の扁桃体です。この扁桃体が恐怖などで興奮し、周辺の神経部位に伝わって、心拍数の増加・呼吸異常・交感神経症状などの症状を引き起こしていると考えられます。
誰でもパニック障害になる可能性があるのでしょうか?
パニック障害に代表されるメンタルヘルスの不調は、5人に1人が経験するといわれています。つまりパニック障害は特別な病気ではなく誰でもなる可能性がある病気です。しかし効果が高く副作用の少ない治療薬が開発されたこともあり、パニック障害の患者さんのほとんどが治療により回復して、その後安定したメンタルで社会生活を送っています。
パニック障害の症状を教えてください。
パニック障害には3つの大きな症状があります。パニック発作・予期不安・広場恐怖の3つです。パニック発作は突然激しい動悸・息苦しさ・めまいなどを伴う強い不安に襲われるもので、患者さんは死んでしまうのではないかという恐怖にとらわれ救急車を呼ぶことも少なくありません。このパニック発作はパニック障害の必須症状です。予期不安と広場恐怖は二次的な不安症状です。パニック発作を経験した患者さんがまた発作が起こるのではないかと心配し続けることを予期不安といい、パニック発作がない間も不安にさいなまれ、それが1ヶ月以上続きます。広場恐怖は発作が起きたときすぐに逃げられないと思う状況を避ける症状です。具体的には一人での外出・電車のような乗りものに乗る・人混み・行列・橋の上・美容院や歯科医院に行く・劇場や映画館に行く・会議に参加するなどを忌避するようになります。パニック障害ではほとんどの患者さんがこの症状を伴っており、日常生活の妨げになっています。
パニック障害の人にいってはいけない言葉や寄り添い方
パニック障害の人にいってはいけない言葉はありますか?
パニック障害の方に対して、
責める・焦らせる・決めつける・無理に行動させるなどの言葉は避けたほうがよいでしょう。具体的には以下のようなものです。
- 頑張って
- そんなことでどうする
- 早く治そう
- 気の持ちようだよ
- すぐよくなるよ
否定やアドバイスは患者さんによい影響を及ぼしません。なるべく言わないように気をつけましょう。
パニック障害の人にかけてあげるとよい言葉を教えてください。
パニック障害の方と話をするときには、ひたすら耳を傾け、
安心感をもってもらうことが大切です。言葉をかけるとしたら以下のようなものがよいでしょう。
- ああ、それは大変だったね
- つらいね。つらかったね。
- わたしでもその状況だったらつらいだろうな
- よく我慢したね
- いつでも支えになるから遠慮なく声をかけて
相手を受け入れるような言葉をかけるように心がけましょう。
家族や身近な人がパニック障害になったら、どのように寄り添えばよいですか?
パニック障害は身体の検査を受けても異常値が出ないので、病気である実感がもちにくいです。患者さん本人とともに家族や周囲の方たちがパニック障害の知識と理解をもち、心の病気であることを正しく認識することが大切です。パニック障害の発作のときには、発作では死なないとわかっていても、患者さんは強い不安のなかにいます。そばにいる方が大丈夫などとやさしく声をかけて背中をさすってあげたり身体に触れてあげたりすると、患者さんの不安がやわらぎます。医療機関の受診をためらわれている患者さんがいたら、早期受診を勧めてあげましょう。治療に1度は付き添ってあげるのがよいでしょう。広場恐怖がある患者さんは一人での外出を避けるようになるので、周りの方の付き添いを必要とするケースが少なくありません。しかし付き添いやケアをすべて自分一人でこなそうとするとご自身も疲れてしまいます。ほかの家族や友人、カウンセラーなどに相談し、見守る方もストレスをためないように心がけるのがよいでしょう。
パニック障害の治療法
パニック障害のセルフチェック方法を教えてください。
ほかの方にはなんでもないような、電車の中・長いトンネル・人混みの中などで突然
不安・おびえ・息苦しさを感じる場合にはパニック障害である可能性があります。その状況下で以下のように感じるのでしたら特に注意が必要です。
- 動悸がする
- 息がしにくい・胸がつかえる
- めまいがする
- 汗をかく
- 吐き気がする
- 震えがでる
- コントロールを失って気が狂ってしまうのではないかと思う
- 自分が自分でないような気がする
- 死ぬのではないかと思う
このような感覚に襲われたら、早めに医療機関に相談することをおすすめします。
パニック障害が疑われる場合の診療科を教えてください。
パニック障害が疑われる際には、精神科か心療内科に相談しましょう。パニック発作は心筋梗塞の症状に似ているため、はじめはほとんどの方が循環器科など内科を受診されます。しかしパニック障害ではいくら検査しても内科的な異常は見つかりません。検査で異常が発見されないと、治療にも取りかかれず発作のときに感じるつらさを周りの方に理解されにくくなります。こんなことで受診するなんて、とためらわれる方もいますが、1度精神科あるいは心療内科を訪れることで治療への道が開かれるケースも少なくありません。
パニック障害の治療方法を教えてください。
パニック障害の治療では、薬物治療と精神治療を行います。薬物療法で使用するのは抗うつ剤と抗不安剤です。SSRIと呼ばれる抗うつ剤は、飲み続けることによって徐々に効果が出てくる薬です。治療薬としてよく使われていますが、早い効果を求める場合は抗うつ剤ではなく抗不安剤を投与します。ただし抗不安剤には耐性や依存性があるので、注意が必要です。長期にわたって予防的に使う場合は抗うつ剤、緊急対応的に使うには抗不安剤という考え方が基本的です。精神治療にはさまざまなものがありますが、近年では認知行動療法がよく用いられます。具体的には医師との会話を通じて自分の不安がどのくらい現実的なものなのかを考え、より現実的な行動はどのようなものかを検討するものです。そののち検討された行動を実行に移す際、患者さんが不安になりそうな状況に少しずつ直面していくことを段階的暴露といいます。不安になって症状が出てきていた場面で適切な行動を繰り返すことにより、自信を生じさせ不安を起こりにくくすることが目的です。治療期間の長さは医師とよく相談のうえ、患者さん個人の状態に応じて決定します。特に薬物治療は中断すると具合が悪くなるケースが少なくないため、薬の減量や中断には医師の判断と観察が必要です。
編集部まとめ
突然強烈な不安感に襲われ動悸や呼吸困難が起こり死ぬのではないかという恐怖を覚えるパニック発作が連続するとパニック障害と診断されます。
本人にとっては大変な苦しみですが、内科の検査を受けても異常は見られず、原因がわからずにさらに苦しむケースも少なくありません。電車の中や人混みなどでパニック発作に似た症状が出た場合は、精神科か心療内科の受診をおすすめします。
パニック障害は誰でもなりうる、れっきとした心の病気です。患者さん本人と周囲の方が、そのことをしっかりと理解することが治療への第一歩となるでしょう。
周りの方が患者さんに接するときは、決めつけや安易な慰めを言わず、まずは患者さんの話を傾聴し、安心感を持ってもらうことが大切です。