睡眠障害といえば、夜眠れなかったり何度も起きてしまったりといった症状を想像する方も多いかもしれません。
しかし、ナルコレプシーは逆に、ついさっきまで起きて勉強や仕事をしていたのに突然眠ってしまうことを主な症状とする病気です。
今回の記事では、このナルコレプシーについて概要や原因、症状や診断方法などを解説していきます。
実際に診断された場合の治療方法や、ナルコレプシーの患者さんが職場・学校でうまく過ごすためにできることも紹介するので、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
ナルコレプシーの原因や症状
ナルコレプシーとはどのような病気ですか?
ナルコレプシーとは、本来起きているはずの時間帯に強い眠気を感じたり、突然眠ったりしてしまうといった症状が特徴の病気です。睡眠障害の一種で、主な原因は脳内の神経伝達物質であるオレキシンの欠乏とされています。突然眠ってしまったり、急に脱力して意識はあるのに身体が動かず倒れてしまったりと突発的な症状が現れます。そのため、周囲から理解されにくいことに悩む患者さんも多い病気といえるでしょう。完治につながる治療法は確立されておらず、治療の中心は薬物療法と環境調整による症状緩和となります。
原因を教えてください。
ナルコレプシーの原因は、まだ完全には解明されていませんが、脳内の特定の神経伝達物質であるオレキシン(ヒポクレチン)の欠乏が主な要因とされています。オレキシンは、睡眠と覚醒のサイクルを調整する役割を持つ物質です。オレキシンが減少することで、睡眠の制御がうまくいかなくなるのです。ナルコレプシーの多くのケースでは、免疫系が誤ってオレキシンを作り出す神経細胞やオレキシン受容体を攻撃する自己免疫反応が関与していると考えられています。家族内でナルコレプシーがみられることもあり遺伝的な要因も影響していると考えられます。しかし、必ずしもナルコレプシーの患者さんは子どももナルコレプシーを発症するとは限りません。その他、外傷や感染症などが発症のきっかけになることもありますが、すべてのケースに明確な発症の誘因がみとめられるわけではありません。
どのような症状が出ますか?
ナルコレプシーの代表的な症状としては、日中に感じる過度の眠気があります。十分に眠っても、耐えがたい眠気に襲われたり実際に眠ったりしてしまうことが、睡眠不足とは異なる点です。意識せずに突然眠りに落ちてしまうため、仕事や学業だけでなく日常生活にも影響を与えやすい症状といえるでしょう。また、睡眠に関連する症状としては幻覚や金縛りが挙げられます。どちらも入眠時や目が覚める瞬間に起こりやすい症状であり、こうした症状に強い恐怖を感じる患者さんもいます。その他に、はっきりと起きているときに現れることがある症状が情動脱力発作です。情動脱力発作はカタプレキシーとも呼ばれ、怒りや笑い、あせりなどの強い感情が引き金となって突然筋力が低下して身体が動かせなくなる発作です。脱力発作が起こる部位は、瞼や顎のほか膝などです。脱力の程度も患者さんによって異なり、身体の一部に違和感をおぼえる程度の場合もあれば崩れ落ちるように転倒してしまう場合もあります。
ナルコレプシーは大人や子ども関係なく発症しますか?
ナルコレプシーは年齢に関係なく発症する可能性がありますが、10代から20代にかけて好発する病気です。子どもの頃から症状が現れる場合もありますが、思春期以降に症状が目立ち始めるケースが多いでしょう。
ナルコレプシーの診断方法や治療方法
ナルコレプシーで医療機関にかかる場合の診療科を教えてください。
ナルコレプシーを疑った場合は、まず神経内科や精神科で受診しましょう。神経内科と精神科では、睡眠障害や神経系の問題を専門に扱っているため正確な診断と治療を受けられます。また、睡眠外来を設けたり睡眠の問題を専門とする医師がいたりする医療機関でも、ナルコレプシーの診察は可能です。ナルコレプシーは、制御しにくい症状が日常生活にも影響を及ぼすという点で患者さんのストレスになりやすいです。ナルコレプシーが疑われる場合は早期の受診と診断が精神的な負担軽減につながるでしょう。
ナルコレプシーの診断方法を教えてください。
ナルコレプシーの診断は、症状についての詳細な問診と、複数の検査を組み合わせて行います。代表的な検査は、一晩の睡眠状態を測定する睡眠ポリグラフ検査(PSG)と、日中に眠りに落ちる際にレム睡眠になるまでの時間を計測する複数睡眠潜時検査(MSLT)の2種類です。その他に、直接的な原因と考えられているオレキシンの量を調べるために、脳脊髄液の検査を行うこともあります。
ナルコレプシーと間違われやすい病気はありますか?
ナルコレプシーは、ほかの睡眠障害や神経系疾患と間違われることがあります。特に間違われやすいものとしては、特発性過眠症や睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。特発性過眠症の症状はナルコレプシーとよく似ていますが、情動脱力発作が現れません。ただし、ナルコレプシーのなかにも情動脱力発作を伴わない症例があるため、判別には症状の問診だけでなく前述のMSLTによる精査が必要です。また、睡眠時無呼吸症候群は睡眠中の呼吸が妨げられ十分な休息が取れないため、日中に強い眠気を感じることがある病気です。その他、うつ病による慢性的な疲労感や過眠、パーキンソン病などもナルコレプシーと間違われる可能性がある病気といえるでしょう。
ナルコレプシーの治療方法を教えてください。
ナルコレプシーの根本的な治療法は見つかっていませんが、薬物療法により症状の軽減が期待できます。例えば、中枢神経刺激薬により過度の眠気を抑えやすくなるほか、幻覚や麻痺・脱力発作に対しては抗うつ薬が効果を示す場合もあるでしょう。また、オレキシン受容体に作用する薬の開発も進められています。一方、ナルコレプシーの症状は環境や感情の影響を受けやすいことがわかっています。そのため、薬物療法と並行して生活習慣の改善や刺激の少ない環境の調整、行動療法などを行うことが症状改善につながるケースも少なくありません。症状を完全になくすことはできずとも、早期の診断と適切な治療により生活への影響を軽減できるため、気になる症状があれば早めに受診することをおすすめします。
ナルコレプシーの予防や対処法
ナルコレプシーを予防する方法はありますか?
現時点ではナルコレプシーを予防する方法はみつかっていません。発症には自己免疫や遺伝のほか、外傷や感染症など複数の要因が関わっており、生活改善や感情のコントロールなど自分でできる対策が限られているためです。ただし、ナルコレプシーの症状軽減につながるとされる睡眠の質の向上や生活習慣の調整が、発症の予防と関わっている可能性はあるでしょう。
学校や職場での対処法を教えてください。
ナルコレプシーの患者さんは、起きているべき時間帯に頻繁に眠ってしまうため周囲から「やる気がない」「怠けている」といった評価をされてしまう場合があります。こうした誤解が強いストレスの原因になる場合もあるため、まずは教師や上司に自分の状況を説明し、理解を得ることが大切です。ナルコレプシーの特性を理解した方が仕事や学業の場にいることで、環境の調整や発作への対応もしやすくなるはずです。もし説明の方法に迷ったら、自分だけで悩まずに医師に相談して、症状や対処法に関する情報を整理してみるのもよいでしょう。
編集部まとめ
ナルコレプシーは周囲から誤解されることも多い病気であり、また診断に至るまでは患者さん本人も「なぜ気付くと眠ってしまっているのだろう」といった疑問や不安があるはずです。
しかし、ナルコレプシーの症状は患者さんの気持ちのゆるみから出現するものではなく、脳の神経伝達に起因する病気です。
周囲の方に症状を正しく理解してもらい勉強や仕事を続けやすい環境を整えるためにも、気になる症状があればまずは神経内科や精神科などに相談してみましょう。
ナルコレプシーの根治は難しいとされていますが、それでも診断を受けることは無駄ではなく、症状を和らげたり生活上のアドバイスを受けたりできるはずです。