PTSDとは、生死に関わるような体験をして強い衝撃を受けた後に生じる精神症状です。
PTSDの症状として、辛かったできごとがフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢として現れたりする症状が挙げられます。また、不安・緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がないといった症状がみられることもあります。
どのようなことをきっかけに症状が現れ、どういった治療をするのか、気になる方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、PTSDの原因やきっかけ、症状、治療法などについて詳しく解説しています。
自分や身の回りの大切な方がPTSDかもしれないと悩んでいる方や、PTSDになりやすい人の特徴が知りたいという方は、ぜひ最後までお読みいただけると幸いです。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
PTSDのきっかけやなりやすい人
PTSDとはどのような病気ですか?
PTSDとは、生死に関わるような辛く怖い体験をした後に、数ヵ月にわたって生じる精神症状のことを指します。これらのような体験をした後、1ヵ月程度はフラッシュバックのように思い出されたり、不安や緊張が持続したり、思い出さないようにして記憶が曖昧になったりすることは通常でもあります。しかし日常生活を送ることが困難な場合には、PTSDと判断されることがあります。
どのような原因やきっかけで発症しますか?
PTSDの原因としては、生死に関わるような衝撃的な体験・辛く怖い体験がきっかけとなりやすいです。具体的には虐待・いじめ・大地震による被害に遭ったり、戦争を体験したりした場合などが考えられます。
PTSDになりやすい人の特徴を教えてください。
生死に関わる体験をしても、全員がPTSDになるわけではありません。また、もともと精神面で何の問題もなく生活していた人もなることがあります。どのような人がPTSDになりやすいかについては、いくつかのことがわかっています。
- 本当に死の危険を感じるような体験(戦闘体験)をした人
- 被害の後に社会的サポートが不足し、生活のストレスが大きかった人
- 恐怖反応の引き金となりやすいアドレナリン分泌の大きいスポーツマンタイプの人
- 常に危機や危険と隣り合わせで誰かを救助する仕事をしている人
- 以前にトラウマ体験や幼少期の虐待体験などの逆境体験がある人
PTSDは誰もがなる可能性がありますが、これらの特徴がある人は、PTSDになりやすいとされています。
PTSDの人はどのくらいいるのですか?
PTSDは日本の総人口の1.3%の人に生じることがあるとされています。PTSDは決して珍しい症状ではなく、誰しもなりうることのある、ありふれた疾患だといえるでしょう。
PTSDの症状
PTSDの症状を教えてください。
PTSDの症状には以下のようなものがあります。
- 突然辛い体験が蘇ったり、悪夢として現れたりする
- 常に緊張や不安があり、不眠が続いている
- 物音にひどく驚いたり、怒りっぽくなったり、神経が張りつめている
- 辛い記憶を呼び起こさないよう、無意識に行動を制限し、通常の日常生活が困難になる
- 辛い記憶を呼び起こすことを避けるため、感情や感覚が麻痺し、人ごとのように感じる
- 記憶が飛んでいたり、記憶の整理がしにくくなったりする
- 必要以上に自分のことを責めてしまう
- 以前は感じられていた幸福感や優しさを持てなくなってしまう
死の危険を感じるような辛く怖い経験をした後、1ヵ月程度はこのような症状が持続するのは自然な反応です。しかし、数ヵ月にわたり上記の症状が持続する場合や症状が悪化している場合には、PTSDの可能性があります。一人で抱え込むのはよくありません。精神科・心療内科などの医療機関を受診するか、行政や警察の窓口での相談をおすすめします。
症状はどのくらい続きますか?
PTSDと診断された場合、辛く怖い経験をした後、数ヵ月以上にわたって症状が続くことが考えられます。数ヵ月後から数年経ってから症状が出現することや月日が経つにつれて症状が悪化する場合もあります。
PTSDの診断や治療方法
PTSDが疑われる場合は何科を受診すればよいですか?
PTSDが疑われる場合、一人で抱え込まず、精神科や心療内科への受診をおすすめします。また、保健所の相談窓口で相談し、信頼できる精神科やカウンセラーを紹介してもらうのもよいでしょう。PTSDの原因となる体験が、犯罪などの被害により引き起こされている場合、警察や犯罪被害者支援センターの窓口で相談できる場合もあります。各窓口にて、専門家によるカウンセリングを受けられるか相談してみるのも一手です。犯罪被害者基本法に基づく医療費の給付制度を受けられる場合もあります。地震などの災害の場合には、救護チームとして精神科医や臨床心理師が派遣されていることがあり、PTSDの治療につなげられる可能性があります。PTSDのきっかけとなったできごとに合わせて相談窓口を探すことが重要です。
どのように診断されますか?
PTSDの原因となるような、死の危険を感じるような辛く怖いできごとの後、1ヵ月を経過してもPTSD症状が持続しているか悪化しており、通常の日常生活を送ることが困難な場合に診断されます。
治療方法を教えてください。
PTSDの治療のなかで効果が期待できるのは、認知行動療法です。認知行動療法では、患者さんの感情や行動に影響を及ぼしている、極端で歪んだとらえ方(認知)に着目し、それらを治療者と一緒に確認していきます。このことにより、患者さんがより現実的で幅広いとらえ方(認知)ができるようになり、必要以上に落ち込んだり不安になったりすることなく生活できるようになることを目指します。PTSD治療における認知行動療法として、代表的なのは持続エクスポージャー療法(PE)・認知処理療法(CPT)・眼球運動脱感作療法(EMDR)です。これらの専門的な治療を行うことも大切ですが、信頼し、悩みを打ち明けられる医師や心理師に出会えることがより重要です。よく話を聞いてもらえ、理解してもらえることだけでも、症状が改善することがあります。またPTSDの薬物療法として、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ剤も有効です。抗不安薬の使用も効果を発揮しますが、一時的な不安を軽減できても、長期的に見てPTSD症状の改善は期待できません。また、長期的な使用により依存しやすい薬剤もあるため医師と相談のうえで使用する必要があります。さらに、呼吸法の実践も、不安の軽減に効果があるとされており、手軽に実施できるのでおすすめです。まずは呼吸筋をほぐすストレッチを行います。その後、ゆっくり息を吐くことを意識して深呼吸を繰り返しましょう。深呼吸を1回5分、1日3セット繰り返すことで効果が期待できます。
PTSDは完治しますか?
PTSDは完治することもあればしない場合もあります。3ヵ月以内に半数以上の患者さんが自然回復するものの、1年以上経っても回復しない場合もあるという研究データがあります。信頼できる医師のもとで、認知行動療法や呼吸法、薬物療法などの治療を根気強く行っていくことが必要です。
編集部まとめ
いかがでしたでしょうか?PTSDの原因・きっかけ・症状・治療法について解説し、PTSDになりやすい人の特徴をみてきました。
PTSDは死を感じるような衝撃的な体験をした後に、数ヵ月にわたって続く精神症状を指します。ときには数ヵ月から数年経ってから出現したり、徐々に悪化したりすることもあります。
気になる症状がある場合には一人で抱え込まず、心療内科や行政や警察の窓口で相談してみることをおすすめします。
治療のうえでは、信頼できる医師や心理師を探すことが第一歩となります。
PTSDの専門家に辛い気持ちを話すことや、個々に合った治療を受けることによって症状が楽になることも考えられます。
この記事が、自分や大切な人がPTSDかもしれないと悩んでいる方にとって少しでも参考になることを祈っています。