ノロウイルス感染症について、どのような症状がでるのか・潜伏期間がどのくらいあるのか・感染してしまったときにはどのようにすればよいのか、など詳しくご存じでしょうか。
一般的な症状は嘔吐・下痢・腹痛です。有効な治療薬はなく、とても感染力の高い病気です。
本記事では、ノロウイルスに感染してしまったときの対処法や予防法について解説いたしますので、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の原因・症状
ノロウイルスとはどのようなウイルスですか?
見た目の特徴として、表面はカップ状の窪みを持つタンパク質で覆われた形をしています。内部に一本鎖RNA遺伝子があるのも特徴です。ノロウイルスには豊富な遺伝子型があり、培養した細胞や動物実験でウイルスを増やすことができません。そのため、調べたいウイルスを分離して特定することが困難です。特に食品に含まれているノロウイルスを検出するのは難しく、原因や感染経路の特定は困難とされています。診断は臨床症状で判断されることがほとんどです。ノロウイルスに感染したかどうか検査するために、ふん便中のノロウイルスを検査キットで検出する方法があります。3歳未満と65歳以上は健康保険適用検査適応になる検査方法です。しかし、この検査はノロウイルスに感染していても陽性にならない場合もあるので、正確に検査することができません。その代わり、電子顕微鏡・RT-PCR法・リアルタイムPCR法などの遺伝子を検出する方法でウイルスを検出する場合は、精密に診断することができます。ただ、このようなウイルス検出方法は、通常の医療機関では行うことができません。行政機関や研究機関で、食中毒や集団感染の原因究明のために行われるものです。
ノロウイルスに感染する原因を教えてください。
ノロウイルスは
経口感染・接触感染・飛沫感染・空気感染によって感染します。例えば下記のような例が考えられます。
- 人の手を介して感染する
- 家庭や施設で感染者が触れたものをほかの人が触ることで感染する
- 食品を取り扱う料理者がノロウイルスに感染していることで食品が汚染され、汚染した食品を食べて感染する
- ウイルスに汚染されている二枚貝を十分に加熱調理せずに、それを食べることで感染する
- ウイルスに汚染された水の消毒が不十分なまま飲むことで感染する
このほかにも感染する具体的な経路はいくつもあるので注意しましょう。このような状況になったときには、そのまま生活を続けるのではなく手洗いをしたり、触れた物品の消毒を行なったりするようにしましょう。
どのような症状が出ますか?
主な症状は以下のとおりです。
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢
- 腹痛
- 発熱(38度を超えることは稀)
これらの症状は2〜3日続き、自然に治癒します。全体の10〜50%程度は無症状ですが、軽く風邪をひいたときのような症状になることもあります。基本的に後遺症はありませんが、高齢者・1歳未満の小児・免疫抑制状態の方は基礎疾患が増悪し、重症化することもあるので注意が必要です。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎は日本でどのくらい発生していますか?
ノロウイルス感染症に特化した正確な人数を把握することは困難です。この病気は感染性胃腸炎の一部として報告されますが、感染性胃腸炎は全体で年間約800万人から1,000万人が罹患しているとされています。感染性胃腸炎に感染する患者数は11月から3月まで感染者が増加し、流行するのが特徴です。ノロウイルス感染症が患者さんに発症した場合、医療機関には報告の義務があります。しかし、感染性胃腸炎の病原体はノロウイルスだけではなく、細菌・ロタウイルス・腸管アデノウイルスなども含まれています。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の治療法や自宅での対処法
医療機関を受診する目安を教えてください。
下痢・嘔吐・吐き気・腹痛の症状があり、感染が疑われるときには、近くの保健所や病院に相談するようにしましょう。病院を受診するときには、感染予防を行うことが大切です。
医療機関ではどのような治療を行いますか?
ノロウイルスに対する効果的な治療薬はありません。そのため医療機関では症状に合わせて治療を行う対症療法を行うことがほとんどです。乳幼児や高齢者は脱水症状を起こしやすく、体力も消耗しやすいことから、点滴による輸液治療を行うことがあります。症状に対応する治療が行われるのが基本ですが、下痢止めの使用は病気からの回復を遅くさせる可能性があるので、使用しない方がよいとされています。
自宅での対処法を教えてください。
ノロウイルスによる症状が見られたときには、仕事や学校に行こうとせず医療機関にかかるようにしましょう。医師による許可が出るまで、自宅での休養が必要です。症状が落ち着くまで、必要に応じて対症療法を行いましょう。下痢や嘔吐によって、水分も排出されるので、脱水に注意が必要です。脱水になるとお口のなかの乾燥・脈拍の増加・めまいなどの症状が出現します。ノロウイルスは症状が治まっても、しばらくはふん便からウイルスが排出されます。症状が治った後も、感染を広げないよう手洗いや消毒など感染予防を行いましょう。嘔吐の症状が治ったら安静にしつつ、脱水を防ぐためにこまめに水分補給をすることも重要です。症状が回復してきたら、消化のよい食事から摂取するようにしてください。高齢者は嘔吐物が気管に入ってしまう誤嚥という状態を引き起こし、誤嚥性肺炎になってしまうこともあります。発熱や呼吸状態など、体調の変化を観察する必要があります。
治るまでにどのくらいかかりますか?
一般的に症状が出現するのは3〜5日間で、早期に自然治癒します。しかし、症状消失後約1週間は、ふん便からの排菌が続いているとされています。不顕性感染者では、ウイルスの排出期間は13〜15日、子どもでは1ヵ月以上続くとの研究結果があるので注意が必要です。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎の予防方法
ノロウイルスによる感染性胃腸炎を予防する方法を教えてください。
ノロウイルスの付着を落とす手段として有効なのは手洗いです。帰宅後、食事前、トイレ後などこまめに手洗いをしましょう。手を洗うときには石けんを十分に泡立て、爪の間をブラシを使い隅々まで洗うことが重要です。指輪や腕時計を着用している場合は、外すようにしましょう。爪を短く整えておくのも重要です。また、ノロウイルスに汚染されている可能性がある二枚貝を食べるときには、加熱することが重要です。加熱の目安は中心温度が85〜90度で、90分以上加熱するようにしましょう。
罹患した家族の看病をする場合の注意点を教えてください。
自宅療養する場合、ふん便や吐物からの二次感染・人から人への直接感染・飛沫感染を予防することが重要です。床などに飛び散った吐物やふん便を処理するときには、使い捨てのガウン・マスク・手袋を着用し、周囲に飛び散らないよう静かに拭き取りましょう。市販の凝固剤を使用するのも一つの方法です。拭き取った後は次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水で浸すように床を拭き取り、最後に水拭きを行います。使用したタオルやおむつなどは袋に入れて密閉し、廃棄しましょう。破棄するときには、汚染物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水を入れることが望ましいとされています。もしくは、汚染物の入った袋を二重にして破棄しましょう。汚染物が乾燥すると、飛沫として空気中に浮遊するので、素早く処理することも必要です。また、ウイルスに罹患した方が使用していた食器は、85度以上の熱湯で1分以上加熱するか、塩素消毒液に浸して消毒することが重要です。触れた可能性のあるドアノブや家具なども消毒するようにしましょう。このときの消毒にも、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸水を使用します。
編集部まとめ
ここまで、ノロウイルスの症状と予防法について解説しました。ノロウイルスにかかってしまったときには、脱水に気をつけつつ、症状が落ち着くのを待ちましょう。
また、病院を受診することや、看病を行う方がノロウイルスに移らないよう予防することが重要です。正しい汚染物の処理方法を実践し、こまめに消毒をするようにしましょう。
空気が乾燥する季節になるとノロウイルスをはじめとした、感染性胃腸炎の患者さんが増えるとの調査結果もあります。正しい手洗い方法を行う、手に触れるところを消毒するなど感染対策を心がけることも重要です。