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「トキソプラズマ症」という感染症はご存知ですか?感染経路や症状を解説!

 公開日:2023/09/20
「トキソプラズマ症」という感染症はご存知ですか?感染経路や症状を解説!

私たちの身の回りには、さまざまな微生物が存在しています。その中には、私たちの健康に影響を及ぼす可能性のあるものも含まれています。
トキソプラズマ症は、その中でも特に注意が必要な感染症の一つです。

この病気は、日常生活の中での接触の可能性が高いにも関わらず、その詳細や予防方法について十分に知られていないことが多いのが現状です。この記事では、トキソプラズマ症の原因・症状・治療法・予防方法について詳しく解説していきます。

正しい知識を身につけ、自身と家族の健康を守るための第一歩として、ぜひ最後までお読みください。

竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

トキソプラズマ症の原因や感染経路

布団に乗らず床で寝そべる三毛猫

トキソプラズマ症とはどのような病気ですか?

トキソプラズマ症は、トキソプラズマ・ゴンディイという原虫による感染症で、主に猫を最終宿主として持つ病原体によって引き起こされます。
感染初期には、特に症状が現れないか、現れたとしても風邪のような軽度の症状であることが一般的です。しかし免疫力が低下している人、特にHIV感染者・移植患者・妊娠中の女性が感染すると、脳・眼・その他の臓器に合併症を引き起こすリスクが高まります。
妊娠初期に感染すると胎児に重大な影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。またトキソプラズマ症は非常に一般的な感染症であり、世界の人口の約1/3が一度は感染した経験があるともいわれています。
このことからも、その感染の広がりと重要性が伺えます。

原因となる病原体を教えてください。

トキソプラズマ症の原因となる病原体は、トキソプラズマ・ゴンディイ(Toxoplasma gondii)という微小な原虫です。この原虫は非常に適応力が高く、世界中の多くの動物や人間に感染できます。
特に、猫はこの原虫の最終宿主として知られており、感染した猫が排泄する糞には感染力のあるオーシストと呼ばれる形態の原虫が含まれています。

感染経路について教えてください。

トキソプラズマ症の感染経路は、主に猫との接触・食事を通じた感染・母子感染の3つです。
1つ目の経路は、感染した猫が排泄する糞に存在するオーシストです。具体的には、そのオーシストに直接触れたり、オーシストに汚染された土や水を手につけてその後口に運ぶことで感染する可能性があります。特に、猫のトイレの掃除やガーデニングを行う際は注意が必要です。
2つ目の経路は、食事を通じた感染です。感染した動物の生肉や内臓を調理不足のまま摂取することで、トキソプラズマに感染するリスクが高まります。特に、生肉・刺身・タタキなどの生食品を摂取する際は、十分な加熱や処理が行われているか確認することが大切です。
3つ目の経路は、妊娠中の母親から胎児への垂直感染です。感染した母親が妊娠中に胎児にも感染させてしまう場合があります。これらの感染経路を理解し、適切な予防策を講じることで、感染のリスクを大きく低減できます。

妊娠中の女性が感染すると危険なのですか?

トキソプラズマ症は、妊娠中の女性から胎児に感染する母子感染のリスクがある病気です。日本では、年間130人から1300人程度がこの母子感染によって、先天性トキソプラズマ症に感染していると推計されています。
この母子感染は、妊娠初期に特に注意が必要です。妊娠初期に母子感染すると、胎児に重大な影響を及ぼす可能性が高まります。胎児への感染が起こると、新生児において視覚・聴覚の障害・脳の発育障害・黄疸・発育不全などの合併症が生じかねません。
また、最悪の場合、流産や死産の原因となる可能性もあります。このため、妊娠中の女性は特に感染予防に注意を払う必要があります。

どのような症状が出るのですか?

トキソプラズマ症の症状は、健康な成人の場合、多くは無症状です。症状が現れる場合、風邪のような症状(発熱・筋肉痛・疲れ・リンパ節の腫れ)が現れます。
しかし、免疫力が低下している人では、脳炎・肺炎・視神経炎などの神経系の症状や心筋炎・肝炎などの臓器障害が起こることがあることには注意が必要です。また、妊婦が感染した場合、自身は軽症であっても、胎児への影響が懸念されます。

トキソプラズマ症の診断や治療

看護師 検査

どのように診断されるのですか?

トキソプラズマ症の診断に用いられる主な検査は、血液検査です。この血液検査では、トキソプラズマに対する抗体の有無や量を測定することで、感染の有無や感染時期を推定します。
特に、IgM型とIgG型の抗体の動向を確認することで、新規の感染か過去の感染かを判断できます。また妊婦や免疫機能が低下している患者の場合、PCR検査を行うことで、トキソプラズマのDNAを直接検出することも可能です。これにより、より迅速かつ正確な診断が可能となります。

トキソプラズマ症を治療する方法はありますか?

トキソプラズマ症の治療は、健康な成人にとってはほとんどの場合が不要です。しかし、成人であっても症状が現れた場合や、新生児・乳児が感染している場合には抗原虫薬が使用されます。
特に、ピリメタミン・スルファジアジン・ロイコボリンの組み合わせが一般的に用いられる治療法として知られています。この治療の目的は、トキソプラズマ原虫の増殖を抑制し、感染の進行を防ぐことです。

トキソプラズマ症を予防するための注意点

病気の治療をする女性

普段の生活で注意するべきことはありますか?

トキソプラズマ症を予防するために、猫の糞に注意することが重要です。感染経路でも触れたように、トキソプラズマ症への感染は、猫の糞に含まれるオーシストが体内に入り込むことによって生じます。
そのため、オーシストが体内に入らないようにするために、次のような対策をしましょう。

  • 猫の糞を処理する場合には手袋を使用する
  • 手洗いを徹底する
手洗いの徹底に関しては、猫の糞を処理した場合だけでなく、公園や庭などで作業を行った後も実行しましょう。公園の砂場や庭で猫が知らず知らずのうちに糞をしている可能性があります。
これらの対策を日常的に実践することで、トキソプラズマ感染のリスクを低減させられます。安全に猫との生活を楽しむために、正しい知識と注意が必要です。

調理時に注意するべきことを教えてください。

調理時には、特に生肉の取り扱いに注意が必要です。トキソプラズマは生肉に存在することが知られているため、肉を十分に加熱して調理することで感染のリスクを低減できます。
具体的には、中心部までしっかりと火を通すことが大切です。また生肉を扱った後は、まな板・包丁・手などをきちんと洗浄し、十分に消毒しましょう。生肉と他の食材を同じまな板や包丁で扱わないようにし、十分な衛生管理を心掛けることが大切です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

トキソプラズマ症は、日常生活の中での簡単な予防策を取ることで、感染のリスクを大きく減少させられます。
特に妊娠を希望する女性妊娠中の女性は、感染によるリスクが高まるため、日常の生活習慣や食事の取り扱いに注意を払うことが重要です。
健康を守るためにも、正しい知識を持ち、日常の予防策を実践していきましょう。

編集部まとめ

キッチンにいる妊婦と男性
トキソプラズマ症は、トキソプラズマ・ゴンディイという原虫によって引き起こされる感染症であり、世界の1/3以上の人々が一度は感染した経験があるといわれています。

多くの健康な成人では症状が出ないことが多いものの、免疫が低下している人や妊娠中の女性にとっては、重篤な症状や合併症のリスクがあるため注意が必要です。

感染の主な経路は、生肉の摂取や猫の糞を介した経路が知られています。特に妊娠中の女性は、新生児への感染リスクを避けるため、生肉の摂取や猫の糞の取り扱いに注意が必要です。

治療に関しては、特定の薬剤を用いることで効果的に治療することが可能ですが、予防が最も重要です。日常生活での基本的な衛生管理や食事の取り扱いに注意を払うことで、感染のリスクを低減できます。

最後に、トキソプラズマ症に関する正しい知識を持ち、日常の予防策を実践することで、私たち自身と大切な家族の健康を守れます。この記事を通じて、トキソプラズマ症についての理解を深め、予防の大切さを再認識していただければ幸いです。

この記事の監修医師