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「サルコペニア」という筋力が低下していく病気はご存じですか?医師が監修!

 公開日:2023/09/14
「サルコペニア」という筋力が低下していく病気はご存じですか?医師が監修!

サルコペニアをご存知でしょうか。筋力が減り、身体能力が低下する病気のことです。転倒しやすくなったり、手足が細くなったりと変化を感じてきたら要注意です。

歳だからしょうがないと思ってる方も、実はサルコペニアかもしれません。症状に気づき、早めに対策をすることで改善・進行を抑えられます。

原因・予防方法について詳しく解説していきますので、ご自身や大切な方たちのためにも参考にして頂けましたら幸いです。

竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

サルコペニアの原因や自覚症状

手すりをもつ女性

サルコペニアとはどのような状態ですか?

加齢に伴い筋肉量が減少し、筋力が低下していく症状です。歩行・立ち上がるのが億劫になり、日常生活の動作に影響が現れ始めます。放置すると歩行困難になり、介護が必要になる場合もあります。
サルコペニアの特徴は、65歳以上の15%が罹患している・加齢に伴って増加する・女性より男性の方が罹患の割合が高いということです。
一見、年のせいだからと思ってしまいがちな症状ですが人並み以上に筋肉量が低下し、寝たきり・死亡にも関わるため病気として2016年10月に国際疾病分類に登録されました。

原因を教えてください。

活動量の低下・栄養不良・糖尿病などの慢性疾患が関係していると考えられています。筋肉は動かさないと減ることは知られていますが、そのメカニズムは今まで明かされませんでした。
近年、運動不足により筋肉内のカルシウム濃度が減ることで筋肉量が減るという研究結果が報告されています。筋肉量が減少すれば、運動能力が低下しあらゆる病気にかかりやすくなります。
そして運動能力の低下からさらに運動をしなくなる悪循環になるのです。また、栄養不良についてはエネルギー摂取量・栄養素摂取量の低下があげられ、タンパク質・良質な脂質・ビタミンDの摂取量が不足していると考えられます。
これらは筋肉・骨の合成に必要な栄養素です。高齢者だけでなく、10〜20代の女性も過度な紫外線対策によりビタミンDが不足している方が増えており、転倒・骨折に注意が必要です。
糖尿病の高齢者はサルコペニアに罹患する確率が約2倍であるといわれていますので、慢性疾患の予防が大切になります。

自覚症状はあるのですか?

筋肉は40歳頃から減り始め、70歳過ぎるとあらゆる自覚症状が現れる方が多くみられます。主に以下のような症状です。

  • 手足が細くなった
  • 椅子から立ち上がりづらい
  • つまづきやすい
  • 転びやすくなった
  • 重い荷物が持てない

歩行速度が遅くなったり、握力の低下により物を持ちづらくなったりします。立ち上がる時に手をつくようになる・頻繁につまづく場合は症状がかなり進行していると考えられます。
実は25〜30歳から進行は始まっており、年齢とともに症状が現れるようになるのです。

フレイルとの違いを教えてください。

フレイルは、加齢により心身ともに疲れやすく老い衰えた状態をいいます。
フレイルを経て要介護状態へ進むようになり、次の5項目のうち3項目以上当てはまるとフレイルであるといえる基準になります。

  • 体重減少
  • 疲れやすい
  • 歩行速度の低下
  • 握力の低下
  • 身体活動量の低下

体重減少は意図せず年間4.5kg以上、または5%以上体重が減少した場合です。疲れやすさの基準としては、週に3日以上何をするのも億劫・面倒に感じる状態をさし、サルコペニアは身体のみの変化に対し、フレイルは気力低下などの精神状態にも影響が現れるようになります。
サルコペニアは筋力・筋肉量が減少した身体状態、フレイルはサルコペニアを含む心身機能の低下した状態をいいます。

サルコペニアの診断方法や治療

検査室

サルコペニアの診断方法を教えてください。

以下の3つの項目から診断されます。

  • 両手足の筋肉量
  • 握力
  • 歩行速度

両手足の筋肉量を判定するために測定器を使用します。DXA法またはBIA法にて行われます。
DXA法は元々骨密度の計測に使用されてきた機械で、サルコペニア診断では筋力の測定に使用され、最もスタンダードな計測法です。BIA法は、微弱な電流を人体に流してインピーダンスを測定し、筋肉・骨・脂肪などの体組成を計測する機械です。
DXAやBIAがない施設でも身体機能の測定代用として、5回椅子立ち上がりテストを行うことで診断しています。

診断基準について教えてください。

2019年に日本サルコペニア・フレイル学会で新たに診断基準が改訂されました。確定診断には先ほどあげた、両手足の筋肉量・握力・歩行速度の3つの測定が必須になり、3つのうち2項目該当した場合サルコペニアと診断されます。また、全て該当した場合は重度のサルコペニアと診断されます。
四肢の骨格筋量指数(SMI)の測定で、男性は7kg/㎡未満・女性は5.4kg/㎡未満で筋肉量が一定以上の低下、握力は男性で28kg未満・女性で18kg未満が基準値です。
歩行速度は1秒で1m未満が基準です。DXAやBIAがない施設でも身体機能の測定代用として、5回椅子立ち上がりテストを行うことで診断できます。

治療する方法はあるのですか?

現在はサルコペニアに対する特効薬などはありません。運動療法食事療法が予防・改善の一番の近道です。
年々、筋肉量は減少し一般的に50歳以降になると年に1〜2%も筋肉量が減少するといわれています。そのため、加齢とともにサルコペニアになる条件を満たしやすくなるのです。目的の骨格筋に負荷をかけるトレーニングと、水泳・ウォーキングといった有酸素運動を組み合わせると改善・予防に非常に効果的です。
次に食事療法について解説します。高齢になると筋タンパクの合成量より分解量が上回るため、筋肉が落ちやすいといわれています。
筋肉の合成量を増やすためにもおすすめなのが、BCAAを多く含んだ食材の摂取です。これは筋肉の分解を抑え合成を促進させる働きがあると研究データで明かされた栄養素で、マグロの赤身・サンマ・アジ・カツオ・鶏むね肉・卵・大豆・牛乳に多く含まれています。サプリメントで補うのもおすすめです。
新たな治療法の開発が望まれている中で、老化に伴う腰痛といった神経の痛みを訴える方に、牛車腎気丸という漢方は痛みを緩和させる効果があることが報告されています。

サルコペニアによる悪影響や予防方法

つまづく人

サルコペニアは生活にどのような悪影響を及ぼしますか?

つまづきやすくなる特徴があり、65歳以上では3人に1人が年に1回以上転倒するというデータがあります。特に転倒が急増する75歳以上は、足の付け根の骨折が多く報告されています。転倒により、骨折・外傷性脳出血といった怪我につながりやすくなるので注意が必要です。

サルコペニアの予防方法を教えてください。

サルコペニアの原因に、活動量の低下と栄養不良があります。意識的に活動量を増やすことと栄養量を増やすことで予防が可能です。
骨格筋の萎縮が主な問題ですが、筋肉の萎縮を抑制するビタミンDが高齢者の9割に不足していることがわかっています。ビタミンDを投与すると、筋肉合成を促進してくれるBCAAの分解を抑制する働きがあり、筋肉が回復したという報告もあります。運動と食事が最も効果的な予防法です

最後に、読者へメッセージをお願いします。

高齢になると食事が上手に食べられなくなったり、飲み込めなかったりする嚥下障害が起きやすくなり、サルコペニアとともに問題になっています。
これは喉の筋肉量が低下することで起き、低栄養になる原因のひとつです。骨格筋の低下が嚥下障害につながり、栄養不良に陥る悪循環です。
このような負のサイクルにならないように、予防が大切になります。長生きの時代にできるだけ健康に生きるためにも、生活習慣を整えていきましょう。

編集部まとめ

会話する看護師
20代・30代から既に筋肉量の減少が始まっていることを知り、運動不足がいかに将来に影響するのか考えさせられる病気です。

いくつになっても自分の足で、自分の力で健康的に日常生活を過ごしていきたいものです。食事で補えない栄養素をサプリメントで積極的に摂るのも良いでしょう。

サルコペニアの症状に気づき、対策が早いほど改善がしやすくなる病気です。高齢でも、歳だから…と諦める前にまずは専門医に相談してみましょう。

この記事の監修医師