「骨盤臓器脱」の症状・原因・治療法はご存知ですか?【医師監修】
女性特有の病気にはさまざまなものがありますが、「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」をご存知でしょうか。
はじめて耳にした人も多いかと思います。骨盤臓器脱は昔からみられる女性特有の病気で、中高年の出産経験者のうち約11人に1人が何らかの症状を発症する可能性が高いものです。
別名では「膣のヘルニア」とも呼ばれています。発症してしまうと非常に大変な女性特有の病気なので注意が必要です。
この記事では、大半の女性が何らかの症状を発症するリスクがある骨盤臓器脱について詳しく解説していきましょう。
骨盤臓器脱の症状・なりやすい人・治療方法・予防方法をお伝えしていきますので、ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
骨盤臓器脱の概要となりやすい人
骨盤臓器脱とはどのような状態ですか?
女性の骨盤には、子宮・膀胱(ぼうこう)・腸などの臓器があります。女性の骨盤内の臓器は骨などにより位置を固定されているものではありません。膣管により間接的に骨盤内に保たれている臓器です。
そのため、子宮や膀胱などの臓器自体に問題はなく、膣管を支えている靱帯・骨盤底筋(骨盤の底の組織)といわれる筋膜・筋肉が損傷や弱くなることで発症します。
また、骨盤臓器脱には、脱出してくる臓器によってそれぞれ違う病名で呼ばれることが多いです。病名は以下の通りになります。
- 腟の前側の壁がゆるんで膀胱と一緒に下がるのが膀胱瘤(ぼうこうりゅう)
- 子宮を支える膣管がゆるんで子宮が腟の中に落ち込んでくる子宮脱
- 腟の後ろ側の壁がゆるんで直腸と一緒に下がる直腸瘤
- 腟の上側の壁がゆるんで子宮の上にある小腸が下がってくる小腸瘤
膀胱が下がる膀胱瘤が最も多くみられますが、膀胱と子宮の両方が下がることもよくあります。臓器が脱出してしまうと尿道や肛門を塞いでしまうため、排尿できなくなるなどの困難が起こるのも特徴です。
原因について教えてください。
骨盤底筋群は恥骨と尾骨からハンモックのように膀胱・子宮・小腸・直腸を支えています。しかし、骨盤底筋群の機能が弱くなると骨盤内臓器が支えられなくなり、位置が下がってきてしまうのです。
骨盤底筋群が緩む要因は出産であることがわかっています。出産によって骨盤底筋群を損傷させてしまうからです。
しかし、出産後すぐに骨盤臓器脱を発症するとは限りません。損傷に加え、女性ホルモンの減少や加齢による筋力の低下などさまざまな条件が揃いやすくなる中高年以上になって発症リスクが高くなります。次はどのような症状がみられるのか詳しくお伝えしていきましょう。
どのような症状がありますか?
初期症状ではまだ臓器が腟から脱出してしまうギリギリの段階です。そのため、何かが腟中から下がってくるような「下垂感(かすいかん)」を口にする人が多くみられます。
ほかにも次のような状況で気づくことが多いです。
- お風呂でしゃがんだとき
- トイレでふくとき
- 重いものを持ったとき
- おなかに力を入れたとき
「まるで股の間にピンポン玉のようなものがある」と感じる人が多くいらっしゃいます。
人によっては咳をしたときに膣から何かが出る感覚があったり、性交時に痛みを感じたりすることもあるでしょう。
症状が酷くなると、腰や尾骨の辺りの痛み・頻尿・排便困難・出血・分泌物などが現れます。
骨盤臓器脱になりやすいのはどのような人ですか?
なりやすい人の特徴は以下の通りです。
- 妊娠・経腟分娩の経験がある
- 中高年以上の女性
- 肥満の人
- 便秘、喘息の持病がある
- トイレでいきみがち
- 頻繁に重い荷物を持つ
骨盤臓器脱になりやすい人の特徴は、「腹圧がかかりやすい」ことです。
腹圧がかかると膣管に存在する骨盤底筋群に負荷がかかるため、損傷や緩みにつながります。よく腹圧がかかっている人は注意しましょう。
骨盤臓器脱の受診や手術
医療機関を受診する目安を教えてください。
受診する医療機関は、産婦人科や泌尿器科です。女性泌尿器科やウロギネ外来という、女性特有の骨盤臓器脱や尿もれなどを専門的に扱う医療機関もあります。通いやすい医療機関をみつけてくださいね。
受診の際には必ず医師に「何か下がる感じがする」としっかり伝えることが大切です。
初期症状の場合や午前中などは臓器が腟の中に戻っていることも多く、寝た姿勢で診察すると骨盤臓器脱の発見につながらないことがあります。下垂感を伝えれば、咳払いや力んだりと誘発動作で確認することになります。骨盤臓器脱の早期発見には大切なことなので、恥ずかしがらず医師に状況を伝えていきましょう。
どのような手術が行われるのですか?
手術療法は以下の通りです。
- NTR(前後膣壁形成術)
- TVM手術(メッシュ手術)
- LSC(経腹アプローチ術)
- Robot-assisted LSC (RSC)
脱出している臓器の種類やどの程度出てきているかによって手術方法は異なりますので、医師とカウンセリングを受けることをおすすめします。
手術以外の治療方法もあるのですか?
骨盤底筋訓練は、骨盤底筋を強化するためのものです。おすすめなのはケーゲル体操で、腟・尿道・直腸の周囲にある尿の流れを止めるときに使用する筋肉を対象とした強化運動になります。場所を選ばず座っていても立っていても取り組める体操です。
体操の方法は肛門を閉じるような感覚で力を入れ、腟を締めて上に引きあげる動作を10秒間キープと力を抜いて10秒間静止を繰り返し行うというものです。排尿や排便を止めたりタンポンを入れたりしたときの感覚をイメージするとうまく膣を締めて上に引き上げられるかもしれません。この10秒サイクルを10回繰り返すを1セットとして、1日に4~6セット行うのがおすすめです。
ただし、骨盤底筋の強化効果が実感できるまでには時間がかかります。焦らずじっくりケーゲル体操を続けるようにしましょう。加齢によって筋力が低下していくため、生活習慣に取り入れると苦がなく続けられるのでぜひ試してみてくださいね。
ペッサリーリングは腟の中にリングを挿入する方法です。腹圧がかかると、骨盤臓器をリングが支えてくれるため、骨盤臓器が下方に落ち込むのを防いでくれます。
骨盤臓器脱の予防や自然治癒
骨盤臓器脱の予防方法を教えてください。
詳しい予防方法のやり方については「手術以外の治療方法」で先述しておりますので、そちらをご確認ください。ケーゲル体操を習慣にして、骨盤臓器脱を予防しましょう。
骨盤臓器脱は自然に治癒することはありますか?
また、出産後に一時的に骨盤臓器脱になることもありますが、腹圧がかからないように注意していれば自然に治ることが多いです。
一般的にPOP-Qという方法が用いられ、下垂の程度に応じてI~IV期の4段階に分類されます。最下垂点が膣内にとどまっている場合はステージI、最下垂点が膣外への脱出の程度によってII〜IVにステージが異なるというものです。
ステージIであれば、ケーゲル体操を習慣化すれば自然治癒も可能となります。中等度以上の場合はペッサリーリングもしくは手術が必要となるため、自然治癒は難しいかもしれません。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
場所も体勢も選ばず、道具なしで簡単にできる膣トレーニングで臓器を支えている筋肉や筋膜を鍛えていきましょう。
少しでも膣に違和感を覚えたら、まずは産婦人科に受診してください。
編集部まとめ
昔からみられる女性特有の病気で、中高年の出産経験者のうち約11人に1人が何らかの症状を発症する可能性が高い骨盤臓器脱について解説していきました。
発症する人数だけ見ると怖いと感じてしまいますが、膣トレーニングを取り入れることで自然治癒や発症リスクを低下させられる病気です。
多産経験のある人や加齢で尿漏れが気になり始めたという人はぜひ、ケーゲル体操にチャレンジしてみてください。