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「脳動静脈奇形」の症状や原因はご存じですか?脳出血やてんかんを発症?

 公開日:2023/08/16
「脳動静脈奇形」の症状や原因はご存じですか?脳出血やてんかんを発症?

脳の出血は壮年から高齢者に発症するイメージの強い病気ですが、若年層でも脳からの出血リスクが高まる病気が存在します。自覚症状がなく、突然出血することも珍しくないため注意すべき病気の1つです。

今回は脳動静脈奇形(AVM)の症状・検査・治療について解説していきます。脳出血に関する病気の知識として、是非ご活用ください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

脳動静脈奇形(AVM)の原因や症状

指さす男性医師

脳動静脈奇形とはどのような病気ですか?

脳動静脈奇形とは、本来繋がらない脳の動脈と静脈が繋がってしまうことで発生する病気です。本来動脈から送られた酸素やエネルギーは、一度毛細血管を通って栄養を与えた後、老廃物が血管に取り込まれ静脈に送られます。
しかし脳動静脈奇形は細い動脈が静脈に絡まり、通常であれば毛細血管を介して行われるやり取りが行われません。毛細血管が行っている安全の役割が行われないため、結果として脳出血などのリスクが高い状態になってしまいます。
この細い動脈の塊はナイダスと呼ばれることがあり、このナイダスの切除・閉塞が脳動静脈奇形治療では重要です。

原因を教えてください。

明確な原因は、現在解明されていません。発症するのは10-30代の若年層が中心であり、先天的異常によるものだと考えられています。ナイダスが生成されるタイミングは胎児の頃から小児にかけてだと考えられており、発症確率も10万人に1人程度の非常にまれな病気です。
また発症を誘発する遺伝子も見つかっていません。そのため、親族に発症した人がいなくても発生する可能性は十分考えられます。発症期の年齢で頭部CT検査を行う機会が少ないため、発症時より未然に発見されるケースは多くありません。

どのような症状が出るのですか?

症状として代表的なのは脳出血です。その他にはてんかん・頭痛・意識障害などの症状があげられます。脳動静脈奇形は無症状状態が長く続くため、健康診断などで事前に気づくケース以外では発症後に発覚するケースが多いです。
上記の症状が確認された場合、一度脳の検査を受けてみましょう。脳動静脈奇形による脳出血は、一度発症すると再出血の可能性が健康な脳の人と比べて格段に高くなるため危険です。
脳出血は嘔吐・意識障害・頭痛といったさまざま症状を引き起こします。早期発見できた場合は、速やかに手術もしくは治療を受けましょう。治療方法は進行状態・発生箇所・本人の意向によって決定できるため、医師と相談し納得がいく治療法を決定可能です。

発症しやすい年齢層を教えてください。

脳動静脈奇形の発症は10-30代に集中しており、若年傾向が強いです。また男女比は1.1〜2.0:1とやや男性が高くなっています。また前述した通り脳動静脈奇形によりナイダスが形成されていたとしても、初期症状が発症しない無症状の症例も珍しくありません。
ですがナイダスは毛細血管を介した通常の血管と異なり、血流の速度が早く血管への負担が大きい危険な状態です。無症状の状態で事前に発見できた場合は、開頭手術やガンマナイフを用いた患部を焼く手術を用いて治療が推奨されています。

脳動静脈奇形(AVM)の検査や治療

ガッツポーズの男性医師

脳動静脈奇形が疑われたらどのような検査を行いますか?

脳出血・てんかん・耳鳴りなど脳に起因する症状が疑われた場合、まずは脳出血が起きていないかCT検査を行います。しかし脳動静脈奇形の原因となるナイダスは、CTだけでは患部を特定できません。
そのため、造影剤で脳の血管を確認できる3D-CTA・MRAによる検査を行います。3D-CTAはCTと造影剤を利用して脳・頸部の血管を確認する検査で、MRAは磁気によるくも膜下出血や脳動脈の異常を検査するのに有効です。
これらの検査によりナイダスの有無と、発生個所・大きさを確認しその情報を元に治療方針を決定します。

治療方法を教えてください。

治療方法は開頭による手術や開頭を行わない治療を含め、以下の3種類から選択することが主流です。

  • 開頭による摘出手術
  • ガンマナイフ
  • 血管内治療

またこれらの治療方法を複合して行う場合もあります。開頭による摘出手術はナイダスに関係する血管を切断し剥がす治療で、根本治療になるため確実な治療法です。
ガンマナイフは比較的小規模なナイダスに効果がある治療方法です。放射能を頭部に照射し、閉塞させます。そのため覚醒下での治療が可能であり、体への負担は殆どありません。更に治療期間も短く、1泊2日や病院によっては日帰り入院も可能です。
血管内治療はカテーテルを利用した治療法で、カテーテルから薬剤を注入しナイダスの塞栓を行います。根本的治療にはならないため、摘出手術の前段階として良く使われる治療方法です。

手術が行われるのはどのようなケースですか?

脳動静脈奇形は手術により、根本的治療を行えます。しかし全てのケースで手術を行うことが最適というわけではありません。
開頭手術は体・頭部への負担が他の治療と比べて大きいです。更に大きさや発生個所によっては手術難易度も大きく異なるため、優秀な執刀医が必要なケースも存在します。
難しい場所に発生した場合は、ガンマナイフや脳血管内手術といった治療法で閉塞させる方法を取ることも珍しくありません。また体力面や入院期間は、ガンマナイフ・脳血管内手術の方が負担が少ないです。
治療法によってメリット・デメリットが存在するため、医師と相談して納得できる治療法を選択しましょう。

脳動静脈奇形(AVM)の危険性や後遺症

女医

出血が起こる危険性は年間にどのくらいですか?

脳出血・くも膜下出血など脳からの出血が発生する確率は、1年間に1〜2%ですが調査によっては確率が高く出ることもあり不明確です。
1度の出血での死亡確率は10%と高いため、てんかんや頭痛が発生した時点で脳検査を行いましょう。更に1度出血した脳動静脈奇形は再出血する確率が高くなり、1年以内の再出血は6%です。
更に再出血での死亡確率は16%と、1回目よりも高いです。若年層によるくも膜下出血では、脳動静脈奇形がまず疑われます。

出血によって後遺症が残ることはありますか?

出血してしまった場合、手足のマヒ・言語障害・失語症などの後遺症をもたらすことがあります。そのため、てんかんや頭痛といった症状のうちにMRA検査などで発見することが重要です。
これらの後遺症は脳出血によるものであり、一度発症してしまうと一生残り続けてしまうことも珍しくありません。リハビリの成功や、周囲の協力でこれまで通りの生活を送れるケースも存在します。
自身や周囲の人が体調の変化に気づくことが、早期治療に最も効果的です。頭痛・吐き気などの些細なサインを見逃さず、異変を感じたらまずはかかりつけ医に相談しましょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

脳動静脈奇形は早期発見が難しい上、発見が遅れると重篤な後遺症が残ってしまうことも珍しくありません。しかし現在治療法は複数存在し、開頭手術以外の治療も可能です。発症年齢は若年層に多いため、てんかんや脳に起因する症状が出た場合は脳の検査を受けましょう。
脳動静脈奇形の診断を確定するには、3D-CTA・MRAによる検査が重要です。また遺伝しない病気のため、親族やご家族の方が発症しても病気が遺伝したと思い悩む必要はありません。
医師と相談し、正しい知識を持ってサポートを行いましょう。

編集部まとめ

指さす笑顔の女医
発症確率が低い病気ですが早期発見できなかった場合脳出血のリスクが高まるため、てんかんなどの症状が出た場合はまず専門の病院で診断を受けましょう。

開頭手術のような根本治療から、ガンマナイフをはじめとした閉塞を目的とした治療も選択できます。ガンマナイフ治療であれば入院期間も短く、開頭手術のように一部の髪を切る必要もありません。

医師と相談し、自身のライフスタイルに合わせた治療方法を決定しましょう。そして治療が終わった後でも、脳出血のリスクは健康な人と比べ高い状態が数年間持続します。

治療が終わったからと安心せず、体調の変化に気を配ることが重要です。

この記事の監修医師