「播種性血管内凝固症候群」という基礎疾患が原因で発症する病気はご存じですか?
播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)は基礎疾患を原因として、全身の血管内における血液の凝固が活性化する後天性の症候群です。
基礎疾患に合併して発症すると、全身にDICによる症状が出現して多臓器不全に陥る可能性があります。
DICは死亡率の高い合併症で、最悪の場合は生命の危機に陥る可能性があるため注意が必要な病気です。早期診断・治療が大切になります。
今回はDICについて、原因・症状・治療・予後などについて解説します。最後まで一読いただき、DICに対する正しい知識を身につけましょう。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
播種性血管内凝固症候群(DIC)の原因や症状
播種性血管内凝固症候群(DIC)とはどのような病気ですか?
DICは原因となる基礎疾患や病気によって、発症する症候群のことをさします。DICを発症すると著しい凝固活性化が出現して、全身の血管内に微小な血栓を大量に発生させます。
細い血管を中心に血栓で閉塞した状態になり、酸素や栄養などを臓器に運べなくなるため臓器障害を引き起こします。酸素や栄養を運搬することは、血液の大切な役割の1つです。
過剰な凝固による血栓の発生を抑制するために線溶系(血液の塊を溶かす)の働きも活発になり注意が必要です。また持続的に凝固活性化が出現すると、血小板・凝固因子(血液を固める作用)が減ってしまい、消費性凝固障害が出現します。
消費性凝固障害と線溶系の作用が相乗して、臓器障害と出血症状が出現します。臓器障害や出血症状が全身に出現すると、生命の危機に陥る可能性があるため注意が必要です。DICは状態によって3つの病型に分類されます。
- 線溶抑制型
- 線溶亢進型
- 線溶均衡型
抑制型は敗血症などの重度感染症に合併して発症しやすく、亢進型は白血病・大動脈瘤に合併して発症しやすいです。均衡型はがんに合併して発症しやすいといわれています。
原因となる病気を教えてください。
- 悪性腫瘍
- 血液疾患(白血病)
- 細菌感染(肺炎など)
- 敗血症
- 膠原病
- 膵炎
- 肝炎
- 産科合併症
- 外傷・熱傷
上記のようなさまざまな基礎疾患が原因になって、DICを引き起こします。悪性腫瘍・白血病・細菌感染などがDIC発症の大半を占めています。
内科的な疾患から外傷まで幅広く、外傷・熱傷などによる発症は稀ですが注意が必要です。基礎疾患をベースとしてDICは発症するため、DICに対する治療より基礎疾患の治療が優先されます。
どのような症状が出るのですか?
- 意識障害
- 呼吸困難
- 動悸
- 息切れ
- 尿閉(尿がでなくなる)
- 黄疸(全身が黄色くなる)
記載した症状などが急激に出現したり、継続したりしている場合は放置せずに早急に医療機関の受診を行いましょう。また出血症状については全身性に出現します。具体的な出血症状は以下の通りです。
- 全身性の内出血(青あざが出現)
- 鼻血
- 血尿
- 下血
- 口腔内の出血
- 結膜の出血
さまざまな部位から出血する可能性があります。上記症状が急激に出現したり、継続したりしている場合も早急に医療機関を受診して医師の指示を仰ぐ必要があります。
妊娠中に起こるのはどのような場合ですか?
- 常位胎盤早期剥離
- 羊水塞栓症
- 非凝固性分娩後異常出血
特に常位胎盤早期剥離は妊娠中に発生するDICの半数を占めており、母子ともに死亡するリスクも高いため注意が必要です。産科分野でのDICには産科DICスコアがあります。
- 基礎疾患の有無(常位胎盤早期剥離・羊水塞栓症・非凝固性分娩後異常出血)
- 凝固機能の低下
- 線溶機能の亢進
上記3点における採血の結果から得られる値に沿って、診断基準が設けられています。チェックシートで点数化されて、合計点数が8点以上になった場合にDICとして治療を開始します。
播種性血管内凝固症候群(DIC)の検査や治療
どのような検査が行われるのですか?
- 血小板数
- フィブリン数
- プロトロンビン時間
- APTT
- FDP
- Dダイマー
血小板数・フィブリンの低下、プロトロンビン時間・APTTの延長、FDP・Dダイマーの上昇はDICにおける指標になります。さらに詳しく評価をするために凝固・線溶系の検査が必要です。凝固・線溶系検査では以下の因子について検査を実施します。
- トロンビン-アンチトロンビン複合体:TAT
- プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体:PIC
TATは凝固活性状態を示す指標、PICは線溶活性状態を示す指標になります。上記検査の値をもとに先述した抑制型・亢進型・均衡型の病型に分類されます。
どのように診断されますか?
- 急性期DIC診断基準
- 日本血栓止血学会DIC診断基準
- 国際血栓止血学会DIC基準
上記のような診断基準が代表的です。各診断基準も得意不得意があるため、状態に合わせて使い分ける必要があります。その中でも急性期DIC診断基準は感染症などに合併したDICの診断に効果的です。
急性期DIC診断基準では以下の項目をもとに診断します。
- 全身性炎症反応症候群の有無
- 血小板数
- プロトロンビン時間(血液凝固全般の評価)
- FDP(線溶系の指標)
上記の4項目を点数化して、4点以上でDICと診断します。
治療方法を教えてください。
基礎疾患に対する治療と並行して、凝固活性化に対応した治療が進められます。凝固活性化の治療に関しては、抗凝固療法が用いられます。一方で抗凝固療法は、血液の凝固を抑制するため出血傾向に注意が必要です。
出血傾向を対策するために、新鮮凍結血を輸血にて補充する場合もあります。DICの治療薬を使用している場合は出血がないか確認することが大切です。
播種性血管内凝固症候群(DIC)の予後や予防
播種性血管内凝固症候群(DIC)の予後について教えてください。
DICを合併すると全身の臓器に血栓が出現することで、酸素・栄養を運ぶことができないため臓器が壊死を起こして多臓器不全に陥ります。さらには出血症状などが相まって、全身に影響が出現します。
そのためDIC合併についての早期診断・治療が大切です。
予防のために気を付けるべきことはありますか?
免疫力を高めるために規則正しい生活・バランスのとれた食事・適度な運動などを心がけましょう。高齢者で免疫力が低下している方・糖尿病・透析などの基礎疾患を患っている方は感染しやすいため、特に感染対策には注意を払う必要があります。
また悪性腫瘍・血液疾患については人間ドックや定期的な健康診断を受けて早期発見に努めることも大切です。基礎疾患を予防することがDICの予防に繋がります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
感染対策・人間ドック・健康診断などで基礎疾患の早期発見による予防に努めてください。また基礎疾患発症後もDICの合併の有無について、適切な検査を実施して早期診断・治療を行うことが非常に大切になります。
DICは怖い病気ですが、知識を身につけることで早期から対処可能な病気でもあります。
編集部まとめ
DICは基礎疾患をもとに全身の血液が凝固活性化する病気です。全身の臓器などに血栓が出現する可能性もあるため注意が必要になります。さらに進行すると出血症状も引き起こします。
検査では採血検査で血液凝固系の状態を確認して、急性期DICスコアなどを用いて診断されることが多いです。
治療は基礎疾患の治療が最優先です。基礎疾患の治療と並行してDICの治療も進めていきます。DICの治療時には出血傾向には注意をしましょう。
DICは血液異常の特異性から治療に難渋することが多く、予後不良といわれている病気のため早期に発見して、適切な治療へ進めることが必要です。
DICを発症しないためにも、感染対策や人間ドックで基礎疾患の予防に努めましょう。自分の身体は自分で守ることがDIC予防には大切です。