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「脳震盪(のうしんとう)」の症状・応急処置はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/07/04
「脳震盪(のうしんとう)」の症状・応急処置はご存知ですか?医師が監修!

脳震盪と聞いて、多くの方はスポーツの最中に頭を打った選手がしばらく動けないといった場面を思い浮かべるのではないでしょうか。

中には実際に脳震盪を起こした経験がある方もいるかもしれません。

この記事では意外と知られていない脳震盪について詳しく解説します。

特に仕事やスポーツなどでぶつかったり落ちたりする可能性がある方は、脳震盪の危険性や起きた後の対処法なども学んでおきましょう。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

脳震盪の症状や危険性

頭を抑える男性

脳震盪とはどのような状態ですか?

脳震盪とは脳が激しく揺れた結果何らかの機能障害が脳内に生じている状態であり、れっきとした頭部外傷といえます。
頭部・顔面・頚部への直接的な打撃に限らず、 頭部以外への衝撃が頭部に伝わった場合にも脳震盪は発症します。
つまり、直接頭を打っていなくても起こり得るのです。脳震盪の症状は多くの場合短期間で解消しますが、数分あるいは数時間かけて症状が進行する例もあります。
さらには回復に数週間から数ヶ月を要する場合もありますので注意しましょう。
なお一般的に、小中学生や高校生などの方が大学生や成人よりも症状が長引くことが多いとされています。

脳震盪の症状について教えてください。

脳震盪は非常に多彩な症状を示します。下記にその一部を列挙します。

  • 頭痛
  • 耳鳴り
  • 吐き気
  • めまい・ふらつき
  • 意識消失
  • 記憶障害
  • けいれん
  • 視界がぼやける
  • 情緒が不安定になる
  • 混乱して取り乱す
  • 光や音に敏感になる
  • 質問に対しての正しく答えられない・反応が鈍い
  • 集中力がない
  • 不眠・早朝覚醒

もちろんですが、この症状があるから脳震盪だとかこの症状がないから脳震盪ではないといった判断はできません。
周囲の者が見て「本人の様子がどこかいつもと違う」と感じたら脳震盪かもしれないと疑うことが重要です。

脳震盪の原因は?

脳震盪を説明する際、脳はしばしば容器に入った豆腐に例えられます。
人間の頭蓋骨の中には脳が浮いた状態でいますが、衝撃が頭部へ加わった際に脳が揺さぶられてゆがみが生じることにより脳震盪が起こると考えられています。

脳震盪を繰り返した場合の危険性は?

脳震盪は一時的な脳の機能障害であり、一般的には十分な身体的および精神的休養により回復するといわれています。
しかし脳震盪の症状が残っている状況で2回目の衝撃が脳に加わった場合、軽度な衝撃であったとしてもより重篤な症状を示したり深刻な後遺症が残ったりという可能性が指摘されているのです。
さらにセカンドインパクト症候群と呼ばれる、急性硬膜下血腫などの致命的な脳損傷が引き起こされる可能性すらあると肝に銘じましょう。

脳震盪の診断と治療

カルテ

脳震盪はどのように診断されますか?

脳震盪かどうかの判断は、頭への衝撃が生じた状況・直後の様子・症状などから総合的に診断します。CTやMRIなどの画像検査や一般的な採血検査では異常はみられません。
脳震盪は実に様々な多彩な症状を示すだけでなく、その症状が時間経過とともに比較的早い速度で変化する特徴があります。
このため脳震盪かどうかの判断は熟練の医師でも困ることが多く、そうでない者には「100%正しくは診断できない」前提で「どこかおかしい」と思ったら脳震盪を疑う対応が求められます。
ここで先ほど解説した「回復に数週間から数ヶ月を要する場合もある」件を思い出してください。
例えばスポーツの現場で選手が脳震盪の症状を示したものの速やかに改善し、本人も「大丈夫です、試合に戻ります」などと希望することは珍しくありません。
ここで「試合に戻ってもいいだろう」と判断したくなりますが、これは誤った判断だといえます。

どのような治療が行われますか?

脳震盪に対してはこれといった治療法はなく、症状が治まるまで脳への衝撃や刺激を避け安静にすることが大切です。後述する応急処置や注意点についても確認してください。

脳震盪の応急処置や注意点

スポーツ

脳震盪を起こしているかどうか見極める方法はありますか?

脳振盪の症状は刻々と変化するため診断は非常に複雑で難しく、即座に脳振盪かどうかを見極めることは不可能だと考えてください。
しかしスポーツの場においてはその場にいる人間が素早く脳震盪が疑われるかどうかを診断する必要があり、その方法として次の3点を確認します。

  • 症状
  • 記憶
  • バランス

まず先ほど列挙したような症状のいずれかが認められる場合、真っ先に脳震盪を疑いましょう。次に記憶についてですが、以下のような質問をして正しく答えられるかを観察してください。

  • 「今はどこの会場・競技場にいますか?」
  • 「今は試合の前半ですか?後半ですか?」
  • 「前回の試合の相手はどこですか?」
  • 「前回の試合は勝ちましたか?」
  • 「この試合で最後に点を入れたのは誰ですか?」

最後にバランスですが、以下の手順で行います。

  • 利き足を前に置き、そのかかとに反対の足のつま先を付けて立つ
  • 体重は両足に均等にかける
  • 両手を腰に置き目を閉じる

この姿勢を20秒間保持できるか測定し、目を開ける・姿勢が乱れる・よろけるなどのエラーが6回以上ある場合や5秒間保持できない場合には脳震盪を疑ってください。
なおここで紹介した確認方法は「SCAT5(Sideline Concussion Assessment Tools 5)」と呼ばれる脳振盪の評価ツールを参考にしていますが、こちらは医師や医療従事者が使用するものであり評価に時間がかかります。
一般人は「CRT5(Concussion Recognition Tool 5)」 と呼ばれるツールを用いた評価を行うのが一般的ですので、未成年スポーツの指導者などは事前に入手しておくことをおすすめします。

脳震盪の応急処置について教えてください。

脳震盪が疑われる場合の応急処置は以下の手順で行ってください。

  • 仕事や運動を中断させる
  • 安全な位置に移動させる
  • 1人にしない

当然ですが、脳震盪を起こした同日の業務や競技への復帰は禁止です。また可能であれば全ての事例において当日または数日内に専門医を受診することが望ましいといえます。

脳震盪を起こした後の注意点を教えてください。

脳震盪を起こした後は以下のような点に注意しましょう。

  • 嘔吐・めまい・痺れ・強い頭痛などの症状がある場合には医療機関を受診する
  • 受傷後2日程度はテレビ・スマートフォン・読書などの眼や脳への刺激を避け安静にする

なお、過剰な安静によりかえって脳震盪の症状があらわれる可能性が指摘されています。症状が悪化しない範囲で、適度に日常生活への復帰を目指しましょう。

脳震盪で後遺症は残りますか?

本来、脳震盪の症状は時間の経過に従って消失するものです。
しかしながら脳震盪の症状が残っている状態で再び脳に衝撃を与えることによって、回復が遅延したり恒久的脳機能障害につながったりする可能性が考えられます。
さらに脳震盪は「癖」がつきやすいという特徴があり、3回以上繰り返した場合には癖がついている可能性を疑いましょう。
脳震盪を繰り返すことで以下のような後遺症が残る可能性があります。

  • 軽い衝撃で頭痛やふらつきを自覚する
  • 若くして認知症になる
  • 怒りやすくなるなど性格が変化する

さらには重度の機能障害に陥ることや、最終的には頭蓋内の出血などが原因で死に至ることすらあるのです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

これまで脳震盪は、特にスポーツの場においてやや軽視される傾向にありました。ラグビーの試合や練習時、気を失った選手にやかんの水をかけて起こす「魔法の水」などがその典型例です。
しかし現代においては脳震盪の危険性が認知されつつあり、発症が疑われる選手の同日中の復帰は禁止とする対応が一般的になっています。
この記事を読んだ皆さんも「脳震盪はときに一生を左右する危険な疾患だ」と認識してください。

編集部まとめ

女医
ここまで脳震盪について詳しく解説して参りました。

脳震盪はあくまで一時的なものであり、回復したらすぐに仕事や試合に復帰して問題無いと考えていた方も多いのではないかと思います。

しかし今後は以下の2点をしっかり肝に銘じ、安易な判断は避けてください。

  • 脳震盪の回復には数時間から数ヶ月を要する場合がある
  • 脳震盪の症状が出ている状態で繰り返し衝撃を与えると様々な後遺症が残る可能性がある

本記事により、脳震盪の恐ろしさが1人でも多くの方に伝われば幸いです。

この記事の監修医師