「じん肺」を発症すると現れる症状・原因・合併症はご存知ですか?医師が監修!
建設現場や解体作業現場で働く人が注意しなければならない病気に「じん肺」があります。
じん肺とは金属の粉や小さな土埃を大量に吸い込み続けた結果、肺の機能が低下してしまう病気です。
じん肺は日本の職業性呼吸器疾患の中で最も患者数が多く、発病すると長期にわたり闘病しなければならないため予防が非常に大切になります。
じん肺とはどのような病気なのか。原因から症状・検査方法・治療方法・予防方法・健康診断までトータルに解説します。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
目次 -INDEX-
じん肺の原因や症状
じん肺の原因はなんですか?
増殖しすぎた線維が硬くなり、肺本来の酸素を取り込む機能が損なわれているのがじん肺の肺です。じん肺を引き起こす原因物質は土埃・金属製の細かい粒子・鉱物性の粉塵などがあげられます。
じん肺は日本の代表的な職業性呼吸器疾患です。発病すると治療以外に職場環境の改善と進行を遅らせるための自己管理が必要になります。
じん肺の分類を教えてください。
- 石炭が原因物質の「炭鉱夫じん肺」
- 遊離珪酸が原因物質の「珪肺」
- 炭素が原因物質の「炭素肺」「黒鉛肺」
- 珪酸化合物が原因物質の「石綿肺」「滑石肺」「珪藻土肺」「セメント肺」
- 酸化鉄が原因物質の「溶接工肺」
- アルミニウムが原因物質の「アルミニウム肺」
- 石炭が原因物質の「炭鉱夫じん肺」
- ベリリウムが原因物質の「ベリリウム肺」
じん肺とはこれらの肺疾患の総称です。じん肺の分類は職種と密接に関連しています。例をあげると炭鉱夫じん肺は炭鉱での採掘作業、珪肺は鉱山作業・隧道工事・窯業などです。
じん肺の症状は?
病状が進行すると息苦しさを感じるようになり、徐々に呼吸困難な状態になっていきます。普段何気なく上がっていた坂道や階段の途中で息切れがしたり、10分で歩けた距離が15分・20分かかるようになったならじん肺のサインです。
また血が混じった痰が出たりひどく咳き込んだりする場合は気管支炎や肺炎を併発している可能性があります。
じん肺の合併症について教えてください。
肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症では咳・痰(場合によっては血痰)の症状が出ますが、じん肺の症状と重なるため自分では合併症と気づきにくいかもしれません。少しでも症状に変化があればかかりつけ医に相談しましょう。
続発性気胸とは肺が破れ空気が胸腔に漏れている状態で突発的な胸の痛みや息苦しさがあります。原発性肺がんは初期ではほぼ自覚症状がなく、じん肺の定期的な胸部レントゲン検査やCT検査で発見されることが多い病気です。
じん肺の検査や治療方法
じん肺の検査ではどのようなことが行われますか?
粉塵作業歴はじん肺の診断では大切な情報ですからできるだけ詳しく申告しましょう。胸部撮影ではレントゲンやCTで胸部を撮影し小陰影や大陰影の有無と状態を調べます。胸部臨床検査はじん肺にかかわる自覚症状の問診と呼吸機能検査で肺活量を測定したり血液中の酸素濃度を測定したりします。
じん肺はどの様に診断されますか?
- じん肺の所見なし
- 肺に少数の小陰影があるが、じん肺による著しい肺機能障害はない
- 肺に多数の小陰影があるが、じん肺による著しい肺機能障害はない
- 肺に著しい小陰影または大陰影があるが、じん肺による著しい肺機能障害はない
- 肺に巨大な大陰影があり、じん肺による著しい肺機能障害がある
- 肺に小陰影または大陰影があり、じん肺による著しい肺機能障害がある
ここでの小陰影は直径が10ミリ以下の陰影を、大陰影は直径が10ミリを超える陰影をさします。また巨大な大陰影とは肺の3分の1以上を占める陰影です。
じん肺の治療方法を教えてください。
著しい肺機能障害がある場合は酸素吸入・在宅酸素療法などで肺内に酸素を流し入れる治療も行います。病状にもよりますが呼吸器感染症の予防としてインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種も有効な方法です。
じん肺の予防や健康診断
じん肺は労働災害が認められますか?
- 療養補償給付
- 休業補償給付
- 障害補償給付
- 傷病補償年金
- 介護保障給付
これらの給付は全てを受給できるのではなく、じん肺の進行程度やご本人の状態により受給できるものが異なります。また万が一ご本人がじん肺により亡くなってしまった場合は、ご遺族の方が遺族補償給付や葬祭料を受給できるケースもあります。
じん肺を予防する方法は?
しかし「粉塵を吸入しない」は個人でもできる予防策です。作業場所では必ず防塵マスクで粉塵の吸入を防ぎましょう。また防塵マスクは顔にしっかりとフィットするように装着し、髪の毛や手ぬぐいが挟まって隙間ができないようにしてください。粉塵作業中に防塵マスクが破損しても問題ないよう予備の用意も大切です。
職場で行われるじん肺健康診断について教えてください。
- 就業時健康診断
- 定期健康診断
- 定期外健康診断
- 離職時健康診断
就業時健康診断は新たに粉塵作業に就くときに実施され、離職時健康診断は離職するとき本人が希望すると実施されます。定期健康診断は常時粉塵作業をしている人と肺に大陰影がある人は1年に1度、以前に粉塵作業をしていた人は3年に1度です。
定期外健康診断は一般の健康診断で「じん肺の所見あり」と診断された場合、可及的速やかに実施されなければなりません。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
また防塵マスクの予備を多めに携帯するなどの個人的な予防手段を積極的に講じることをおすすめします。じん肺は粉塵作業をしなくなっても数年後に発症することもあるため、過去に粉塵作業をしていた方は定期的なじん肺検診を受けるといいでしょう。
編集部まとめ
じん肺は日本の職業性呼吸器疾患の中で最も患者数が多い病気です。
粉塵作業に従事している人や過去に従事していた人は、咳・痰・息切れなどの初期症状を見逃さないようにしましょう。
少しでも体に変化を感じたら速やかにじん肺検診を受け治療を始めることが大切です。
じん肺検診の実施はじん肺法で定められた事業者の義務です。粉塵作業に従事している人は積極的に活用してください。
参考文献