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「虚血再灌流障害」を発症するメカニズム・症状はご存知ですか?医師が監修!

 公開日:2023/05/16
「虚血再灌流障害」を発症するメカニズム・症状はご存知ですか?医師が監修!

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は、臓器が虚血状態すなわち血液循環が止まって酸素・栄養が十分に行き渡っていないときに起きる病態です。

臓器が虚血状態になると、心筋梗塞・狭心症といった日本人のがんに次ぐ死因に繋がります。

その治療において虚血再灌流障害が引き起こされると、臓器不全・不整脈等を誘発してしまう危険があり、非常に危険です。

本記事では、虚血再灌流障害についての基礎的な知識を解説します。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)とは

ハートのカルテ

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)はどのような病気ですか?

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は、心筋梗塞・狭心症といった虚血性疾患の治療の際に必ず考慮しなければならない病気です。治療に伴い、避けて通ることは決してできない合併症のようなものとも表現できるでしょう。虚血再灌流障害を引き起こさないために、心筋梗塞・狭心症の治療が制限される場合もあります。
それほど虚血再灌流障害を引き起こさないようにすることに重点が置かれている病気です。通常、心筋梗塞・狭心症といった病気を発症している際は、一刻も早く酸素・栄養不足の虚血状態を脱しなければなりません。でなければ、心臓組織のなかで細胞が死滅してしまうからです。そのため、血流を回復させて瀕死の細胞を救助することが治療の最大の目的となります。しかし、急激に血流が回復してしまうと、心臓の細胞に大きな負担をかけてしまって逆に死滅させる事態に繋がるのです。これが虚血再灌流障害であり、ひどい場合には心臓組織の半分以上の細胞を死滅させてしまうこともあります。

発症のメカニズムを教えてください。

前述したように、虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は血流が急激に回復してしまう事態がきっかけとなって発症する病気です。具体的な発症のメカニズムはまだ明らかになっていませんが、少しずつわかってきていることもあります。例えば、長らく発症要因となる細胞は活性酸素であるとされてきましたが、2019年には酸化ストレス応答性アポトーシス誘導蛋白(ORAIP)が関与していることが明らかになりました。
つまり、虚血状態になった血中でORAIPの濃度が上昇することで、血流回復時の酸化ストレスによって引き起こされる細胞の死滅を誘導しているのです。ORAIPの濃度をどれだけ下げられるかが、虚血再灌流障害のリスクを減らすキーポイントとなります。

症状を教えてください。

きっかけとなる病気である心筋梗塞・狭心症は胸が締め付けられるような症状がありますが、虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)自体には特に自覚症状のようなものはありません
ただ、細胞死滅を引き起こす虚血再灌流障害が結果的に多臓器不全・不整脈・寿命の減少といった重篤な症状・事態を引き起こすことに繋がります。細胞死滅すれば身体機能が低下してしまうため無視できません。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)の原因を教えてください。

原因は、急激な血流回復による酸化ストレスであるといえます。虚血状態は酸素が不足している状態ですが、急激に血流が回復して酸素が供給されるようになっても細胞はその速度に追いつけません。酸化によるストレスが多大なものとなってしまい、結果的に死滅してしまうのです。
細胞にとっては、酸素が足りない虚血状態でも酸素の供給が多すぎる状態でも非常に大きな負担がかかっていると指摘できます。最新の研究では、酸化ストレスによる細胞死滅を誘引する因子があることがわかっており、活性酸素の他にも酸化ストレス応答性アポトーシス誘導蛋白(ORAIP)の影響が大きいとされています。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)の治療方法

医師

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)はどのような検査で診断されるのでしょうか?

改めて検査を受けるのではなく、検査・治療をしながら「虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)が起こらないようにコントロールが試される」という表現が正しいです。虚血再灌流障害は虚血状態に陥った際に懸念される病気であり、虚血状態を回復させる治療のなかで発症してしまう病気といえます。
そのため、特に改まった検査で診断するわけではありません。例えば急性心筋梗塞の場合、心臓カテーテル治療を行う際には血中の様々な数値に急激な変化が現れないよう、検査を行いながら慎重に血流回復のための治療が行われます。

治療方法を教えてください。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)で細胞が死滅してしまうのは、アポトーシスと呼ばれ、計画的・プログラムされた死によって起きているといわれています。
そしてそのプログラムは、活性酸素・酸化ストレス応答性アポトーシス誘導蛋白(ORAIP)などによって誘引されていることが判明しました。そのため、治療ではこれらを中和させることを目的として行われます。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)の治療薬について教えてください。

現時点では、特効薬的なものはありません。ただ細胞死滅をプログラムさせてしまう酸化ストレス応答性アポトーシス誘導蛋白(ORAIP)を中和させる治療薬が開発されています。
これにより、アポトーシスを有意に抑制する効果が望めるでしょう。他にも乳酸加リンゲル液​​が治療薬として挙げられます。このようにして、虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)を引き起こさないようにする治療が試されています。

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)の予防

計測

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は治りますか?

虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は、発症してしまえば細胞死滅を招き、身体の様々な機能を低下させてしまう事態に繋がります。そのため、治る・治らないの話には当てはまりません。
何よりも​​発症させないことが非常に大切な視点です。

予防する方法はありますか?

細胞死滅の誘引を抑制する治療薬も開発されているため、虚血状態から血流が回復したとしても虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)になるリスクは小さくなりつつあります。しかし絶対ではなく、予防を試みるのであればより根本的な部分に着目しなければなりません。それは、虚血状態に陥らないことです。
つまり、心筋梗塞・狭心症といった血管が詰まったり、血管が狭まったりといった血液循環異常による病気が起きないように気をつける必要があるでしょう。例えば心筋梗塞の場合、高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙が4大因子とされています。遺伝の可能性も否定はできませんが、遺伝・肥満といった要素も絡んでいるのが特徴です。このように、要因は日常生活に強く紐づいているため、常日頃から健康的に生活することが結果的に虚血再灌流障害の予防に繋がるといえるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

日本人の死因としては非常に多い虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)ですが、発症のメカニズムが逆説的であり、なかなか理解が難しいことから大々的に報道されるようなことはありませんでした。そのため、知らない方が多いのが現状です。しかし一度発症してしまえば最後、生命にかかわる事態に繋がる恐ろしい病気です。
治療薬が開発されてきているとはいえ、予防に努めることが最も有効的な治療薬といえるでしょう。心筋梗塞・狭心症などの虚血性疾患の予防に努めれば、結果的に虚血再灌流障害の予防にも貢献できます。常日頃から健康的な生活を心がけるようにしてください。

編集部まとめ

胸が痛い男
虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)は、虚血性疾患の合併症のようなものであり、治療時には決して無視できない病気です。

発症してしまうと通常の病気のように診断・検査・治療の段階を踏めず、そのまま細胞死滅を誘発させてしまうため、何よりも発症しないことに重点が置かれています。

治療薬が開発されてきているとはいえ、完璧に抑え込めるわけではありません。そもそも虚血性疾患にならないように予防することが非常に大切だといえるでしょう。

この記事の監修医師