「リンチ症候群」は「大腸がん」や「卵巣がん」を発症しやすくなるの?医師が監修!
リンチ症候群とは、大腸がんや子宮体がんなどを発症しやすい遺伝性のがん体質です。
原因は遺伝子の変異であり、ご家族にがんの方が多い場合は疑った方が良いと考えられています。
しかし、あまり聞き慣れない病名であり、具体的な症状などを知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、リンチ症候群についてご紹介します。発症する原因・症状・診断基準・治療・診断された場合の注意点なども併せて解説するので、参考にしてください。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
目次 -INDEX-
リンチ症候群とは?
リンチ症候群はどのような病気でしょうか?
- 胃がん
- 卵巣がん
- 膵臓がん
- 膀胱がん
- 十二指腸がん
この病気の特徴は、遺伝性の病気である点です。家族内にも上記のような、がんを発症している方が複数いる可能性があります。また、発症年齢が若い点も大きな特徴です。平均発症年齢は43〜45歳となっており、一般的ながんの平均発症年齢よりも若いです。
さらに同時に複数のがんを発症したり、治療後に違う種類のがんや、同様のがんを複数回発症したりすることもあります。
発症する原因を教えてください。
通常、細胞が分裂する際はDNAのコピーが作成され、分裂する細胞に分配されます。その時、ごく稀にコピーした際にミスが起こることがあり、そのミスを修復するのがミスマッチ修復遺伝子です。
しかし、ミスマッチ修復遺伝子に異常があると、ミスが修復されなかった細胞が蓄積されます。その結果、蓄積した細胞ががん化してしまうためがんを発症しやすい体になってしまうのです。
がんは2人に1人が発症する病気です。しかし若年で発症する場合はこのように遺伝子の変異が考えられ、ご家族にがんの方が多い場合は疑った方がいいでしょう。
どのような症状がみられますか?
また、子宮体がんの場合であれば、不正出血・生理不順・排尿痛などが代表的です。卵巣がんの場合は、下腹部の圧迫感・腹部痛・消化器症状などが挙げられます。その他のがんの場合でも、リンチ症候群の症状として特別なものはほとんどありません。
リンチ症候群の診断と治療
リンチ症候群の診断基準を教えてください。
- アムステルダム基準Ⅱ
- 改訂ベセスダガイドライン
- マイクロサテライト不安定性検査
- 免疫染色検査
- BRAF遺伝子検査
- ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列における病的変異の確認
最初に行うのが、アムステルダム基準Ⅱまたは改訂ベセスダガイドラインを満たすかどうかの確認です。アムステルダム基準Ⅱを満たしているかは、次の項目を全て満たしているかで判断します。
- 3人以上の血縁者がこの病気に関連するがんを罹患している
- 1人の罹患者は他の2人に対して、親・子・兄弟関係である
- 連続する2世代以上で罹患している
- 1人以上の罹患者が50歳未満
- 腫瘍は病理学的にがんであると確認されている
- 家族性大腸腺腫症が除かれている
また、改訂ベセスダガイドラインを満たすかは、次の項目のいずれかが当てはまるかで判断します。
- 50歳未満で大腸がんと診断された
- 年齢に関係なく、複数のがんが見つかった
- 60歳未満で大腸がんと診断され、マイクロサテライト不安定性の組織学的所見を有している
- 親・子・兄弟が1人以上関連腫瘍に罹患しており、最低1症例は50歳未満で大腸がんと診断されている
- 年齢に関係なく、親・子・兄弟あるいは第2度近親者内の2人以上がこの病気と診断されている
アムステルダム基準Ⅱや改訂ベセスダガイドラインの基準のどちらかを満たした場合、次の検査へ進み診断を確定させる流れです。
遺伝子検査について教えてください。
- マイクロサテライト不安定性検査
- 免疫染色検査
- BRAF遺伝子検査
- ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列における病的変異の確認
先述した診断基準を満たした場合に、マイクロサテライト不安定検査や免疫染色検査などの遺伝子検査へと進みます。マイクロサテライト不安定性検査は腫瘍組織を用いて、高頻度のマイクロサイト不安定性が認められるかを確認する方法です。
マイクロサテライト不安定性とは、正常の細胞とは異なる回数の繰り返しを示す現象です。通常DNAには1~数塩基の繰り返し配列が存在します。この病気における腫瘍部分では、繰り返し配列が異常な回数示されることがあり、この現象を認められるかが重要な判断基準となります。
一方免疫染色検査とは、先述したMLH1・MSH2・MSH6・PMS2のいずれかに不活性化が起きているかを確認する方法です。マイクロサテライト不安定性検査や免疫染色検査でMLH1の消失が見られる場合には、BRAF遺伝子検査が選択できます。この検査は、腫瘍組織を用いて行い細胞の増殖にかかわるBRAF遺伝子の変異の有無を調べる方法です。
検査の結果、変異がある場合はこの病気をほぼ否定できるため、次の検査であるミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列における病的変異の確認を行わない選択ができます。
しかしマイクロサテライト不安定性検査や免疫染色検査でMLH1の消失がない場合や、BRAF遺伝子検査で変異が確認できなかった場合には、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列における病的変異の確認を行います。生殖細胞系列に病的変異が確認できた場合、診断が確定する流れです。
検査費用はどのくらいかかりますか?
また、検査内容によっては保険が適用外になる場合があります。そのため、詳しい費用は専門の医療機関に相談して聞いておきましょう。
どのような治療を行うのでしょうか?
- 手術
- 化学療法
- 放射線療法
この病気を発症して、すでにがんができている場合は手術が行われます。特に大腸がんを発症している場合には、大腸全摘除術も視野に入れて最適な手術を選択します。
また、他の部位のがんについては、一般的な発症ケースと同様の治療を行う流れです。手術が必要であれば、がんの進行状況に併せて適切な手術方法を行います。化学療法も治療方法の1つです。抗がん剤などを使用してがん細胞を攻撃する方法であり、手術前や手術後に行われます。
治療方法には、放射線療法も挙げられます。放射線を照射してがん細胞を破壊する治療方法です。手術後にがん細胞が残っている場合や再発防止などを目的に使われることもある方法です。
これらの治療方法は、がんの種類・進行度・患者様の年齢・健康状態などに合わせて選ばれます。複数を組み合わせて治療を進める場合もあるため、具体的な治療方法は、医師に相談して確認しましょう。
リンチ症候群の注意点
リンチ症候群と診断された場合に注意することはありますか?
- 遺伝カウンセリングを受ける
- 定期的な検査を受ける
- ご家族の検査も行う
1つ目の注意点が、遺伝カウンセリングを受ける点です。遺伝カウンセリングでは、この病気のリスクや治療方法などを教えてもらえます。リスクや治療方法などの情報は、先述したような様々な検査を受けるかどうかの判断に必要であるため、しっかりとカウンセリングを受けた上で判断しましょう。
2つ目の注意点が、定期的な検査を受ける点です。この病気は、一般的な方よりもがんが発症しやすい体質が特徴です。そのため、放置していると気づかないうちに悪化しているケースも少なくありません。定期的な検査を受けていればがんの早期発見ができるため、がんによるリスクを抑えられます。
3つ目の注意点は、ご家族の検査も行うことです。この病気は遺伝性の病気であるため、ご自分やご家族の誰かが罹患した場合には、家族内にも罹患者がいる可能性が高いです。そのため、必ずご家族にも病気のことを説明して検査を行いましょう。
家族にも遺伝するのでしょうか?
お子様に遺伝しなかった場合には、その後は受け継がれることはありません。ご家族に遺伝が考えられるため、医師に相談しながら早めに検査しましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
また、検査の際にはしっかりと遺伝カウンセリングを受けましょう。病気のリスクや治療について正しく把握して、医師と連携して治療を進めることが非常に大切です。
編集部まとめ
リンチ症候群は遺伝性の病気であるため、ご家族の中で頻繁にがんを発症する方がいる場合には、すぐに疑って検査を受けた方が良いです。
症状が現れてからでは、発見が遅く治療方法が限られるかもしれません。また、ご自分にこの病気が判明した場合には、ご家族にも遺伝している可能性があります。
万が一に備えて、ご家族の検査も早めに受けましょう。この病気は疑わないと診断されにくいとされているため、早期発見のためにも正しい情報を把握することが大切です。