「変形性膝関節症」を発症した際にしてはいけないことはご存知ですか?
変形性膝関節症は、加齢などに伴い膝関節にさまざまな変化が起こることで発症します。日本の高齢化に伴い変形性膝関節症を発症する人は増えてきています。
誰でも発症する可能性のある病気の一つです。なお、高齢者が要支援や要介護になる原因に変形性膝関節症を含む骨関節の病気は上位に挙げられ、生活の質を低下する一因とされています。
健康寿命を伸ばすためにも、進行を遅らせることが非常に大切です。今回の記事では症状・原因・治療・リスク・注意点についてお伝えします。
変形性膝関節症について正しい知識を身につけて、健康な身体作りを目指しましょう。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
変形性膝関節症の症状と原因
変形性膝関節症はどのような病気ですか?
関節軟骨が擦り減る原因としては、老化・外傷・肥満・遺伝子などが原因として挙げられます。
中でも高齢になるにつれて発症することが多いです。関節軟骨は膝関節の左右についています。そのため、内側の関節軟骨が擦り減ると膝が外側に変形します。
いわゆるO脚変形になることが多いです。男女比では4:1で女性に多い病気になります。とはいえ男性で発症する方もみられるため注意が必要です。
どのような症状がみられますか?
- 痛み
- 腫れ
- 熱感
- 水がたまる
- 変形
- 関節の異常音
上記の症状が膝関節周囲に出現します。痛みは膝関節を中心として、「歩く」など膝に体重がかかる動作のときに起こります。
安静にしていると痛みはないことが多いです。膝が炎症を起こすため、周囲が腫れて熱をもつことが多くなります。
炎症に伴い膝関節の中に水がたまってくるため、触ると「ぷにぷに」と膝に水が入っている感じがわかるようになってくるでしょう。
徐々に病気が進行するとO脚変形が目立つようになり、外見上の変化も出現します。
また膝の関節を動かすと「キシキシ」と軋むような異常音が聞こえるようになります。変形性膝関節症は、進行に伴いさまざまな症状が出現してくるため注意が必要です。
症状に当てはまる部分がないか、セルフチェックを行いましょう。
発症する原因を教えてください。
加齢や肥満により関節の使用頻度が多かったり、必然的に膝にかかる負担が増えたりして関節軟骨が徐々に擦り減っていくことが関係しています。
二次性に関しては外傷が原因になることが多く、骨折・半月板損傷・靭帯損傷などの後遺症として発症します。
スポーツなどで半月板や靱帯を損傷したことがある人は注意が必要です。変形性膝関節症は、さまざまな原因で発症します。発症しないために、一つでも多くのリスクを減らしましょう。
なりやすい人の特徴を教えてください。
- 膝周囲に怪我をしたことがある人
- 筋力が低下している人
- 高齢の人
- 肥満の人
- 女性
上記に挙げた人が発症しやすい人になります。
膝関節は大腿直筋・中間広筋・内側広筋・外側広筋などの筋肉と前十字靭帯・後十字靭帯・外側側副靱帯・内側側副靱帯などの靱帯により骨同士を強固に連結して支えています。
そのため膝周囲の筋力が低下している人や、骨折や靭帯損傷など怪我をしたことがある人は、膝を支える機能が低下しているケースが多いため関節軟骨に負担がかかりやすいです。
また高齢の人は加齢に伴い膝関節の使用頻度が多く、肥満の人は必然的に膝にかかる負担が増えるため、関節軟骨が擦り減りやすくなります。
肥満の基準は「肥満度(BMI)=体重(kg)÷身長(m)2」の値で判断でき、25以下であれば正常値です。
疫学的に女性の発症が多いとされています。発症しやすい人には特徴があるため注意しましょう。
変形性膝関節症の治療方法
どのような検査で診断されますか?
レントゲンでは変形性膝関節症で特徴的な骨硬化・骨棘などの骨に関する変化が起きていないかの評価を行います。
また立った姿勢で撮影するため、膝関節の隙間が狭くなっていないかなど、関節軟骨の変化を間接的に評価することが可能です。
しかし、レントゲン撮影では骨の描写をすることはできても、関節軟骨などの膝周囲の組織を直接的に描写することは難しいことが難点として挙げられます。
一方、MRI撮影では関節軟骨や膝周囲の組織を描写することが可能です。特に、骨の変化や変形に乏しい早期の変形性膝関節症の診断に極めて有効となります。
関節軟骨や周囲の組織を描写することができるMRIは、痛みの原因を探るためにも有用です。
治療方法を教えてください。
- 薬物療法
- 非薬物療法
- 手術
薬物療法は発症初期で痛みが比較的弱い時期において、痛み止めの内服・湿布の処方や、関節の動きを滑らかにするために膝関節内にヒアルロン酸の注射をします。
非薬物療法としては、リハビリによる膝関節周囲の筋力増強訓練や、体重コントロールをして減量を進めます。減量は膝への負担を減らすために重要です。
また膝の動揺を抑えるために膝装具の使用を検討します。薬物療法・非薬物療法でも改善が見られない場合や、痛みや歩くことが困難で日常生活における制限が強い場合は、手術が検討されます。
手術は人工膝関節全置換術(TKA)が代表的ですが、膝関節の摩耗具合によって人工関節部分置換術や骨切り術など状態によってさまざまな手術方法が検討されます。
状態に合わせた選択が大切です。しかし歩くことができない人・寝たきりの人では足の筋力がかなり低下しているため、手術をしても歩く動作を再獲得できない可能性があります。
そのため「痛みが強い」「歩けない」などの症状が強い人は、なるべく歩けなくなる前に手術を受ける必要があるでしょう。手術を受ける際には不安もあると思います。
手術後に目指す生活のレベルは人により違うため、事前に医師へ不安や目標などについて相談しておきましょう。
リハビリは必要でしょうか?
- 日常生活の指導
- 減量
- 運動療法
日常生活の指導では、運動を含んだ自己管理プログラムをお伝えします。
日常生活で痛み・疲労の軽減・運動時間の増加・膝の可動域改善・日常生活の改善などに効果があります。
減量に関しては、膝への負担を減らすためにも非常に大切です。BMI25以下に近づけるように体重コントロールを行います。
運動療法では膝関節周囲の筋力トレーニングや有酸素運動が有効的です。
膝関節周囲の筋力トレーニングは、膝への負担を減らした状態で運動を行い、膝の筋力アップを目指します。
有酸素運動と聞くとジョギングやウォーキングを想像することが多いと思いますが、膝への負担を考慮すると自転車エルゴメーターが効果的です。
自転車エルゴメーターとは、地面にタイヤが固定された電動バイクのことです。膝への負担を減らした状態で全身運動ができます。
ただし膝関節が高度に摩耗している場合には症状を悪化させる可能性があるため、膝の状態によっては自転車エルゴメーターではなくプールでの歩行などが推奨される場合もあります。
膝の状態によって運動方法を相談することが大切です。リハビリに関しては多くの運動が検証され、有効性が認められています。変形性膝関節症と診断されたら医師の指示に従い、リハビリを検討しましょう。
変形性膝関節症のリスク
完治するのでしょうか?
しかしリハビリや日常生活の工夫などにより、症状を和らげることや進行を遅らせることはできます。
そのため、症状や病気に合わせて対処する必要があります。主に前述した治療方法に沿って、医師と相談しながら治療方針を検討することが大切です。
変形性膝関節症を発症しても、諦めずに症状の緩和を目指しましょう。
変形性膝関節症と診断されたらしてはいけないことはありますか?
膝に痛みがあると、どうしても動くことが億劫になり必要以上に動かなくなる方が非常に多いです。
しかし動かないことにより膝周囲の筋力が低下し、関節軟骨の擦り減りを助長させるるなどの悪循環を引き起こしてしまいます。
「立つ」「歩く」などの体重をかける動作では痛みが強いですが、痛みは徐々に落ち着いてくるため、出来るだけ苦痛を感じない範囲で身体を動かすことが大切です。
一方、膝関節が腫れ・熱感・赤みがあるときは炎症を起こしている状態なので、この場合は無理に運動しないことがポイントです。
炎症が強く「立つ」「歩く」が難しい時期には、座った状態で膝の運動をすることも予防や進行の抑制に繋がります。
なお、生活する上で膝への負担を減らす工夫を以下に挙げます。
- 椅子の座面は高くする
- 必要に応じて杖などの福祉用具を検討する
- 膝を冷やさない
上記が生活する上での工夫点です。膝を冷やしていると血管が収縮して血液循環が悪くなり、筋肉が硬くなってしまいます。少しの工夫が日常生活の質を高めることに繋がります。
放置するとどうなるのでしょうか?
変形や痛みが影響して歩くことが困難になり、最悪の場合は寝たきりになります。寝たきりになった後では筋力が落ちてしまい、手術しても再び歩く動作の獲得が難しくなるため注意が必要です。
寝たきりにならずに健康寿命を伸ばすためにも、放置せずに医療機関を受診しましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
早期から治療方針を決めることが大切です。病気の進行に合わせて治療を選択し、いつまでも動ける身体づくりを目指しましょう。
編集部まとめ
変形性膝関節症は、主に加齢に伴い発症する病気です。痛みを中心にさまざまな症状が出現します。
病気の進行に合わせて薬物療法・非薬物療法・手術療法を医師と検討し、治療を進めていきましょう。
痛みが強いからと動かないでいると、寝たきりになる危険性もあります。医師や理学療法士などに相談して運動指導を受けること、日常生活の工夫をすることが膝の負担を減らす上で大切になります。
いつまでも健康な身体を作るため、早期より医療機関を受診して、適切な治療を受けましょう。
参考文献