「下肢閉塞性動脈硬化症」の初期症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
近年、わが国における動脈硬化を原因とする心疾患・脳卒中の死亡率の割合は23.2%であり、実に総死亡者数の2割にも上ります。
こういった動脈硬化の増加の背景には、欧米化した食事や飲酒・喫煙・運動不足などの生活習慣が原因としてあります。
下肢閉塞性動脈硬化の症状は足だけにとどまらず、悪化すると全身の動脈硬化へも繋がり、治療が更に複雑になるため、日頃からの予防で発生させないようにすることが大切です。
本記事では、下肢閉塞性動脈硬化について、原因や治療などを詳しく解説していますので参考にしてください。
監修医師:
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)
目次 -INDEX-
下肢閉塞性動脈硬化症とは
下肢閉塞性動脈硬化症はどのような病気でしょうか?
あまり聞いたことのない病名という方も多いかもしれませんが、動脈硬化が脳の動脈に起こると脳梗塞、心臓の動脈に起これば心筋梗塞、同様に足に起こる動脈硬化と言えばイメージしやすいでしょう。動脈硬化によって、下肢の動脈に閉塞(詰まり)が生じたり、狭窄(狭くなる)が起こったりします。
それによって、足への血流が悪くなり酸素や栄養の供給が徐々に弱まっていくのです。初期段階においては痛みはありませんが、段階的に歩行に伴う足の裏やふくらはぎが痛みます。更には、動いていないときでも足が痛み始め、刺すような痛みで寝る事ができなくなってしまいます。
やがて足の治癒力も低下し始め、傷が開いたまま治らなくなったり、最悪の場合壊死してしまったりした場合は切断という選択肢を選ばざるを得ません。
発症する原因は何でしょうか?
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 高血圧
- 痛風
- 肥満症
こういった生活習慣病は、食事・飲酒・喫煙・睡眠不足などの生活の乱れから起こります。脂質異常症は血中に過剰となったLDLコレステロールが沈着して、動脈にプラークというこぶができ、高血圧になるものです。
高血圧は血管を傷つけます。喫煙は、一酸化炭素が体内を酸欠状態にするため、心拍数の増加・血管の収縮を起こし、高血圧になります。
そもそも、動脈が硬化するとはどういった原因で起こるのでしょうか。動脈硬化の発症の原因は以下の3つに分けられます。
- アテローム(粥状)硬化
- 動脈の石灰化
- 細動脈硬化
アテローム(粥状)硬化は、若者から高齢者まで、最も多くみられる動脈硬化で、血液中のLDLコレステロールが増加することにより引き起こされます。血管は内側から順番に、内皮細胞と内膜・中膜・外膜から形成されていますが、生活習慣病・加齢により、内皮細胞が弱ったり傷ついたりすることが動脈硬化の始まりです。
血中に増加したLDLコレステロールは、内皮細胞を傷つけたあと、さらに細胞の奥深くの内膜へと入り込みます。酸化LDLとなって毒素を持つようになるため、その毒素を排除するべく免疫細胞マクロファージは、毒素を食べて減らそうとします。しかし、酸化LDLが多すぎて食べきれないと泡沫化細胞となり、死んでしまうのです。<その死骸が動脈硬化の直接的な原因である、プラークと呼ばれるドロドロした粥状の脂質です。
プラークが内膜に蓄積すると動脈が狭く、圧迫されてしまうので、動脈硬化を引き起こします。2つ目は、動脈の石灰化です。糖尿病や加齢の方に多くみられ、動脈の中膜にカルシウム沈着して石灰化して弾力を失ってしまうものです。これによって血管は詰まりやすくなったり、破れやすくなったりします。
3つ目は、細動脈硬化です。先述の2つの動脈硬化が血管の比較的太い場所に起こるのに対し、血管が細い場所に起こります。主な原因は高血圧であり、継続的な高血圧によって細かい末端の動脈が硬化してしまうものです。脳や心臓などの細かい血管の多い場所に起こりやすい事が特徴です。
3つの内、どの動脈硬化が起こっているかは個々の生活習慣病によって様々で、1つだけの場合もあれば複数の場合もあります。下肢閉塞性動脈硬化症では、下肢にこのいずれかの動脈硬化が起こっている状態です。
症状を教えてください。
- Ⅰ度:冷感・しびれ
- Ⅱ度:間欠性跛行(かんけつせいはこう)
- Ⅲ度:安静時疼痛
- Ⅳ度:潰瘍(かいよう)・壊死
分類の数が高くなればなるほど、重症度が増していきます。Ⅰ度は、もっとも軽い症状です。strong class=”main”>冷感・しびれの症状が現れ、無症状の場合もあります。下肢の動脈の狭窄が起こっていますが、歩行には問題がない状態です。長時間の運動により、足の冷感やしびれを感じることがありますが、すぐに治まります。
Ⅱ度は、間欠性跛行(かんけつせいはこう)といって、歩行するとふくらはぎに痛みを感じ一定時間休むと痛みが治るというのを、繰り返しながら歩行する状態です。歩いた時に、動脈の狭窄によって酸素が足にいきわたらなくなることが原因です。進行するにつれて歩行出来る距離が短くなっていきます。
Ⅲ度では、安静時疼痛の症状であり、安静にしている時でも刺すような痛みが続くようになります。動脈が狭窄だけでなく閉塞も起こって、Ⅱ度に比べて、血の巡りが更に阻害されている状態です。血流を良くするために、足を下げた状態にしているとやや痛みが治まります。Ⅳ度では、足に潰瘍(かいよう)といって皮膚が欠損して穴が出来たり、壊死(かいし)すなわち腐って黒く変色する状態になったりします。
血流が重度に阻害され、回復能力も落ちて傷が出来やすく、治りにくい状態です。
注意が必要な初期症状はありますか?
- 足に冷えを感じる
- 歩くとふくらはぎが痛むが、動きを止めると痛みが治まる
血管の狭窄により、全身への血流が悪くなっていることで冷えを感じるようになります。足の冷えと言えば、女性によくある症状です。冬場で足が冷えているだけ、夏場のクーラーで足が冷たくなっただけと思うかもしれません。
しかし、冬場に足を温めてもずっと冷えている夏場の炎天下でも足が冷たいままといった違和感のある冷えを察知したら注意が必要です。また、歩くとふくらはぎが痛み、歩行をやめると治まるという状態も初期症状の特徴です。高齢の方の場合は、年のせいかもしれないと気が付かない場合もあります。
放置すると重症化してしまうため、違和感を覚えたらすぐに受診する必要があります。
下肢閉塞性動脈硬化症の治療と手術
何科を受診すれば良いでしょうか?
足に動脈硬化がある場合、脳や心臓にも動脈硬化が発症している可能性が高いです。下肢の閉塞性動脈硬化症という範疇を超えて、全身の動脈硬化の治療と認識する必要があるため、循環器内科または心臓血管外科で治療していきます。
どのような検査で診断されますか?
- ABI検査(Ankle Brachial Index)(上腕足関節血圧比)
- 下肢動脈超音波検査
- CT検査
- 血液造影検査
ABI検査(Ankle Brachial Index)(上腕足関節血圧比)は、動脈硬化の進行度を調べる検査です。足首と上腕の血圧を同時に計測します。通常は上腕よりも下肢の方が血圧が高くなります。
従って、下肢÷上腕が1を上回れば正常であり、0.9以下となれば下肢の方が上腕よりも血圧が低くなっているため、下肢の動脈の狭窄や閉塞が疑われるというものです。その他、下肢動脈超音波検査・CT検査・血液造影検査があります。
下肢動脈超音波検査は、血管に詰まりがないか、狭窄していないかを確認したり、血液が流れる速度などが確認できたりする検査です。足首などの動脈部分にエコーを当て、血管の様子をモニターに映し出して確認していきます。CT検査については、装置を使って検査を行うことで、全身の状態が確認できます。
血液造影検査については、X線を使って血管を鮮明に映し出すものです。1~2㎜径のカテーテルを、投影したい血管まで到達させ、投影剤を注入する必要がありますが血管が鮮明に映し出されるので診断には有効です。
治療方法を教えてください。
- 薬物治療
- 運動療法
- カテーテル治療(血管内治療)
- バイパス手術
比較的症状が軽い場合の治療は、薬物治療と運動療法です。薬物療法では、血管を広げる効果のある血管拡張剤や、血液をさらさらにする抗血小板薬を使用して経過観察をします。間歇性跛行の症状が出ている場合、特に効果がみられるのが運動です。薬の服用とあわせて運動療法を行うと、手術を行う必要がなくなる場合もあります。
カテーテル治療とバイパス手術は入院が必要な手術です。カテーテル治療は血管内治療とも呼ばれ、血管内の手術のため、局所麻酔で痛みはありません。詰まりや狭窄が生じた血管に風船のついたカテーテルを通し、風船を膨らませることで血管を広げる手術です。血管を広げて血流を良くする事ができ、風船治療と呼ばれます。
しかし、風船治療だけでは、3~4割の方が再び狭窄を起こしてしまいます。そこで、より確実に血管を広さを維持できるのがステント治療です。ステンレスの網目状の筒を風船治療とあわせて、狭窄部位に留置して通してしっかりと血管を広げます。入院日数は3泊4日程度で、手術時間は30分~2時間程です。血管の狭い部分・血管の長さなどによっては、カテーテル治療が出来ないため、バイパス手術が必要になることもあります。
バイパス手術では、詰まりの生じた血管を回避する迂回ルートを、人口血管や患者自身の血管を用いてつくるものです。全身麻酔により、複数の部位を切り開く必要があり、身体への負担は大きくなりますがその分、足への血流は改善します。
手術することもあるのでしょうか?
手術する上で尚、Fontaine分類がⅢ~Ⅳの場合はカテーテル治療などの手術を行わない限り、治癒させることができません。
下肢閉塞性動脈硬化症のリハビリ
重症化するとどうなりますか?
下肢閉塞性動脈硬化症の治療をしている時に、脳梗塞を引き起こしてしまうこともあります。全身の動脈硬化に対する対処と、進行を止めるための治療が必要となります。
リハビリについて教えてください。
また、レジスタンストレーニングという筋肉トレーニングも行います。その他、取り入れられるトレーニングは、腕立て伏せ・レッグプレス・レッグエクステンション等です。8~10回程度行える負荷で始め、12~15回程度出来るようになると負荷を上げていきます。エアロビクスと同様、やや辛いぐらいをキープして週に2~3回行う事が大切です。
回復期以降になると自分で歩くイメージをつけるために、ドレッドミル(ランニングマシン)を用いて、1日に30~60分の有酸素運動を行います。入院中は毎日行い、退院後は週3~5回行います。こういった運動療法と薬で回復して退院した方は多くいるため、運動は動脈硬化には有効です。症状が重症下肢虚血の場合は、症状が軽快してから運動療法をしていきます。
日常生活の注意点を教えてください。
これらの原因は、LDLコレステロールの過剰摂取や喫煙などの生活習慣が原因です。この根本的な原因となる生活習慣病を予防するための心がけが、日常生活では大切です。具体的には以下の様なことがあげられます。
- 食生活
- 運動習慣
- 喫煙
- 飲酒
食生活においては、LDLコレステロールを増やす食品である脂っこい肉や揚げ物などの脂質の高い食品や、食べすぎを控える事が大切です。また、有酸素運動はLDLコレステロールを減らす効果があります。
アルコールの過剰摂取は脂肪肝や高血圧を引き起こすため、適量を守りましょう。喫煙は血圧上昇をまねくため、動脈硬化の原因となりますので、禁煙をすることが大切です。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
糖尿病や高血圧の生活習慣病が根底にある事が多いので、その原因を見直す必要があります。5年以上患っている方も多くいて、長期的な治療となることもあります。冷感や間欠性跛行と思われる足の痛みなどを感じたら、早期に受診することが重要です。日頃からの予防に心がけ、バランスの取れた食事や運動習慣を取り入れるようにしましょう。
編集部まとめ
街を歩くと、ビュッフェや様々な国の料理にハンバーガー、美味しい食事に満ち溢れています。また、ファストフードや揚げ物のお惣菜は、忙しい家庭の食卓を支えています。
しかし、こういった便利で美味しい食事は、過剰摂取による危険性も秘めており、節度を持って取り入れる事が大切です。
身体を防衛するための免疫細胞マクロファージの死骸が積み重なり、皮肉にも動脈硬化を引き起こすプロセスは、まさに諸刃の剣といえます。
身体がこのような危険信号を出す前に、日頃から運動習慣とバランスの取れた食生活を心がけ、動脈硬化から身体を守ることが大切です。