「壊死性筋膜炎」は命に関わる?気になる原因や症状を医師が解説!
壊死性筋膜炎という病気をあまり聞いたことがないという人が多いでしょう。
壊死性筋膜炎は数時間〜数⽇の間で急速に進⾏し、適切な治療が⾏われなければ命に関わる重症感染症です。
これと似た病気で蜂窩織炎がありますが、どちらも皮膚が赤く熱感を持つためそのような自覚症状があった場合には早急な治療が必要になります。
本記事では、壊死性筋膜炎の原因・症状・診断・治療法などを解説します。注意が必要な病気のため、ぜひ最後まで目を通してみてください。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
目次 -INDEX-
壊死性筋膜炎とは?
壊死性筋膜炎はどのような病気でしょうか?
軟部組織感染症とは、水虫・おできのような表面に限局された感染症・蜂窩織炎・壊死性筋膜炎のように皮下組織・筋層まで感染するものの総称をいいます。軟部組織感染症は幅広く、原因菌や病巣の深さによって鑑別されます。
壊死性筋膜炎は浅層筋膜まで感染が広がり、周囲の皮下血管が閉塞することで皮膚の梗塞や壊死が生じてしまうため注意が必要な病気です。壊死するスピードも1時間に2mmと急速に進展するため、迅速な治療が必要不可欠です。
成人に多く発症しますが、小児・新生児でも発症する場合があります。
初期症状を教えてください。
そして更に時間が経つと血圧低下によるショック状態・血液検査での炎症反応(CRP)の急激な上昇・白血球数の増加もしくは消費による減少・凝固系の異常による播種性血管内凝固症候群が出現し、場合によっては多臓器不全になるというとても危険な状態に陥ります。
この他に、凝固因子の枯渇による凝固機能障害も出現します。特に晩期では凝固機能障害のほうが治療を難渋する原因となるのです。
凝固機能障害播種性血管内凝固症候群とは、小さな血栓が体中のあちこちに出現し細い血管を詰まらせてしまう病気です。その影響で、体中の臓器に十分な血液が行き届かなくなることで臓器の機能が低下する多臓器不全に陥ってしまうのです。
発症する原因は何でしょうか?
ほかにも切り傷・火傷・虫刺されなどの軽い傷でも発症します。基礎疾患を持っている人が発症しやすいというデータがありますが、その疾患は糖尿病・肝障害・悪性腫瘍などです。
基礎疾患で糖尿病を持っている人も発症しやすいですが、コントロール状態のよし悪しで変わります違います。コントロールされた糖尿病の場合であれば起こりにくいです。しかし、コントロールが非常に悪い糖尿病は発症しやすい上、発症した場合あっという間に重症化します。
主な原因菌は数種類あり、A群β溶血性レンサ球菌・緑膿菌・黄色ブドウ球菌・ウェルシュ菌・腸内細菌(大腸菌・肺炎桿菌など)が挙げられます。その中でA群β溶血性レンサ球菌属菌・ウェルシュ菌に関しては、基礎疾患を持っていない健常者でも発症するため注意が必要です。
A群β溶血性レンサ球菌はショックや多臓器不全など重篤な全身症状を引き起こすだけでなく、病気の進行も早いため注意が必要な細菌です。
ウェルシュ菌は汚染度の高い外傷で感染することが多く、消化管にいる常在菌ですが全ての菌が影響を及ぼすわけではありません。
感染経路を教えてください。
もう1つは経口によって侵入した菌が血液を介して全身に広がり、局所の皮膚で症状が出現するパターンです。例えば咽頭炎などの細菌感染症が全身に波及しながら水疱・紫斑・壊死が生じることがあり、外傷と違って目に見えないため注意が必要です。
壊死性筋膜炎の診断と治療
壊死性筋膜炎はどのように診断されますか?
- 広範な浅筋膜と周囲組織の壊死
- 精神症状を伴う中等度もしくは高度の全身性中毒症状
- 筋層が侵されない
- 創および血液中にクロストリジウム鋼が証明されない
- 大血管の閉塞がない
- 病理組織検査で高度の白血球浸潤や筋膜と周囲組織の壊死・微小血管の血栓
上記の項目を満たすことで壊死性筋膜炎の診断がつきます。壊死性筋膜炎のような軟部組織感染症は、病歴と身体所見が診断をつける上で重要なことなのです。
また似たような病気である、蜂窩織炎との鑑別も注意しなければなりません。
治療方法を教えてください。
24時間治療が遅れてしまうと死亡率が急上昇するといわれているため、速やかな治療は必要不可欠です。手術で開いた傷は24時間閉じない状態のまま観察をして、完全に壊死組織が除去できたことを確認した時点で傷を閉じます。
抗菌剤の投与に関しては、血流を介した壊死組織へ薬が十分量行き届かないため、抗菌剤投与だけでの治癒は不可能です。原因菌が判明した場合には適切な薬剤を投与できますが、複数の細菌によって感染していることもあるため注意が必要です。
切断が必要な場合もあるのでしょうか?
感染部位は急激に細菌感染が広がり、壊死する範囲も広がるため皮膚・皮下組織・筋肉などの十分な壊死組織の除去がとても重要です。そのため症状の程度によっては、切断を余儀なくされることもあります。
壊死性筋膜炎の治療期間を教えてください。
手術を始めた後に除去した部位の経過観察を行いますが、術後12〜36時間以内に更に追加で除去することが必要になる場合が多いです。そして完全に除去できたあとは、術後の皮膚管理や再建術を行います。
術後数日は数時間毎に感染もしくは壊死の拡大がないか、こまめに観察する必要があります。そして感染が沈静化してやっと再建術を行い、高圧酸素療法といった補助療法も行うことがあるため数ヶ月の治療が必要です。
壊死性筋膜炎の進行と致死率
発症した場合、進行は早いのでしょうか?
糖尿病だけでなく、手術や化学療法で免疫が落ちている人、ステロイドを内服している人は特に感染しやすいため注意が必要です。
もし外傷の後などで皮膚の紅斑や局所の疼痛など、当てはまる症状があった場合には直ちに皮膚科で受診しましょう。
致死率が高いと聞きましたが…。
一方アメリカでの1998年〜2010年の統計では、致死率はこの12年間に9.0%から4.9%に低下したというデータもありますが、やはり致死率は高いといえるでしょう。
予防する方法を教えてください。
糖尿病の人は内服・インスリンを使って症状をしっかりとコントロールすることが重要です。また基礎疾患を持っていない人でも罹患する可能性があるため、外傷の対処を正しく行うことである程度予防することができます。
出血や滲出液が出ている部位はしっかりと水で洗い流した後に清潔なガーゼで保護することが大切です。また火傷やちょっとした傷でもすぐに処置し、皮膚に傷がある時はプールや海に入らないようにすることで、ある程度予防することができます。
創傷部位を毎日観察し、必要な時には皮膚科で受診してください。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
治療期間も長く数ヶ月を要し、広範囲で皮膚や組織を切除するため心身へのダメージも大きいでしょう。基礎疾患がない健常者の人でも傷の処置を怠ってしまうと罹患する可能性があります。
壊死性筋膜炎に罹らないようにするためにも日頃から傷の処置には注意が必要です。また免疫力が落ちている術後や化学療法中の人は、感染予防をしっかりと行いましょう。
少しでも当てはまる症状があったら早めに医療機関で受診してください。
編集部まとめ
ここまで壊死性筋膜炎の病態・症状・治療法などについて解説しました。壊死性筋膜炎は、発症する確率は低いですが、発症すると命に関わるため注意が必要な病気です。
皮膚の紅斑や局所の疼痛だと蜂窩織炎のように違う病気の可能性もありますが、どの病気であっても早期に診断・治療することが重要です。
発症予防のために正しい傷の対処法を知り、基礎疾患のコントロールをしっかり行いましょう。気になることがあれば早めに医療機関で受診してください。