「小脳変性症」の初期症状・余命はご存知ですか?医師が監修!
小脳変性症は、小脳の神経に障害がおきて、手足がスムーズに動かせなくなる病気です。
現在、国内には約3万人の患者さんがいると報告されています。
遺伝性と非遺伝性の2種類に分類され病気の原因も複数判明していますが、症状を根治する治療方法は現状ではなく、主に対症療法での治療を進めています。
現代では運動機能を補うことで病状を悪化させるリスクを減らし、長く日常生活の質を維持できるようになってきました。
小脳変性症はどのような病気で、検査や治療方法やリスク・日常生活における注意点について詳しく解説します。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
目次 -INDEX-
脊髄小脳変性症の特徴と原因
脊髄小脳変性症はどのような病気ですか?
- 脊髄小脳変性症(SCD)は、後頭部の下部にある小脳の神経に障害が生じる病気です。
- 小脳の役割である運動と知覚の統合・平衡感覚・筋肉の緊張と動きが阻害されると、歩くとふらついたり手足が思うように動かせなかったり、滑舌が悪い等などの症状が出現します。
脊髄小脳変性症には種類があるのですか?
- 脊髄小脳変性症は「遺伝性」と「非遺伝性(孤発性)」の2種類に分類されます。
- そして非遺伝性は、「皮質性小脳萎縮症」と「「多系統萎縮症」の2種類があります。遺伝性のものは、親から子へ伝わる場合がありますが、非遺伝性は伝わることはありません。
- 患者数は全国に約3万人いると報告されており、そのうち遺伝ではない非遺伝性が全体の2/3を占めています。
初期症状がどのようなものか教えてください。
- 初期症状は、立ちあがるとよろける・指先を使う細かい動作がしづらい・言葉をスムーズに発せられないなどの運動失調が出現し、ゆるやかに進行していきます。
- 非遺伝性の「多系統萎縮症」は、これらの運動失調の他にパーキンソン症状の動作が緩やかになる・関節の曲げ伸ばしがスムーズに動かない・自律神経症状の排泄障害・立ち眩みなどの症状が追加されます。
- これらは一般的に運動失調症の症状です。脊髄小脳変性症と診断されている症状は運動失調以外にも、複数の症状が付加されます。
この病気の原因は何でしょうか?
- 遺伝性の脊髄小脳変性症は、多数の原因となる遺伝子の変異が確認されています。その病因遺伝子の働きや、発症する仕組みに応じて治療方法が発見されています。脊髄小脳変性症のほとんどには、遺伝子に違いはあっても共通する異常や病気の仕組みが認められました。同様の異常を目的とした治療の研究も進められています。
- 脊髄小脳変性症は、運動失調症状の病気ですが、原因は複数あり一部は判明していません。それでもこの病気が発見されていなかった昔よりも、飛躍的に研究や治療法が進められています。
余命や死亡率について教えてください。
- 脊髄小脳変性症の余命は症状によって差はありますが、15年以上生存している方もいます。
- 多系統萎縮症など進行が速い症状の場合は、発症後約3年で杖や補助が必要になり約10年後に寝たきりとなるため、心肺機能や排泄・嚥下機能が低下していき誤嚥性肺炎で死亡する率が高くなります。
脊髄小脳変性症の検査と治療方法
受ける必要がある検査の種類を教えてください。
- 患者様とご家族の問診を行い、血液検査や神経生理学検査で脳波を調べ、脊髄小脳変性症の診断をします。その他に脳のMRI又はCTで画像検査をし、小脳や脳幹の萎縮がないか評価します。
- 遺伝性か非遺伝性であるかは家族構成・症状・検査によって判断できますが、一部の分類しづらいものは遺伝子検査が不可欠です。遺伝性の脊髄小脳変性症であるかは、専門機関の遺伝子検査で判定できます。遺伝子検査は専門性も高く、ご本人やご家族へ心理的な負荷がかかるため専門機関へ相談を行うなど定期的なケアが必要です。
脊髄小脳変性症と診断される患者さんはどれくらいいますか?
- 多系統萎縮症の中の脊髄小脳変性症と判定されたものも含めて現在、国内では患者数は約3万人が脊髄小脳変性症を発症しているといわれてます。
- 遺伝性ではない脊髄小脳変性症がほとんどで全体の2/3に達します。残りの1/3が遺伝性の脊髄小脳変性症です。その中で痙性対麻痺は脊髄小脳変性症の約5%に及びます。
- 遺伝性の脊髄小脳変性症には遺伝子ごとに番号が振り分けられており、国内の大半がSCA3(マチャド・ジョセフ病)・6・31型・歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)です。
- 遺伝性の脊髄小脳変性症を発症している患者のほとんどの病原遺伝子が確認されています。ただ、現在もわかっていない病気が多数あります。
治療方法が知りたいです。
- 現在は脊髄小脳変性症を治す、病状の進行を止めるための根本的な治療方法は現状ではありません。主に症状を鎮めるための対症療法を行っています。
- 脊髄小脳変性症で現れる症状を鎮静させるには飲み薬で治療し、運動機能を保持するためにはリハビリが効果的です。運動失調には、甲状腺刺激製剤を処方し、足のひきつり・立ち眩みなどそれぞれの症状に対しては薬で治療を行います。
脊髄小脳変性症発症後のリスクと日常生活の注意
診断後、どのような経過をたどりますか?
- 病状はゆるやかに進み個人差はありますが、急に悪化することはありません。徐々に症状が進むと、手足が震える・動作が遅くなるなどパーキンソン症状・排泄障害・立ち眩みなどの自律神経障害が現れます。
- 多系統萎縮症は進行が速いため、発症してから約5年で車椅子が必要な状態となり、約8年後には寝たきりになることがわかっています。
- 症状が進行しても会話は問題なくできるなど、極度に認知機能への影響は及ぼしません。
発症後のリスクを教えてください。
- 小脳失調により、歩行中にふらついて転倒するリスクが高まります。転倒して背骨や手足を骨折してしまうと手術が必要になり、そのまま寝たきりの状態になることもあります。
- そのような転倒リスクを減らすには、運動機能を保持し残った機能を活かし、歩行訓練などのリハビリをしっかり行うことが必要です。
- 病気が長期間続くと食べ物が飲み込みにくくなる、咳き込むなど嚥下障害を起こしやすくなり、食べ物が気管に詰まり誤嚥性肺炎を発症する恐れがあります。
- 咳き込む症状がでるときは、食べやすい柔らかい形状にしたり、とろみをつけると飲みこみやすくなり誤嚥を予防できます。
日常生活で変える必要がある部分が知りたいです。
- 日常生活で立ち上がる動作を行うことが多いトイレや風呂場などの壁に手すりをつけたり、段差をなくしたりバリアフリーにするなど、生活環境を整えて転倒リスクを減らす対策をします。
- 病気が進行して嚥下障害が起こると、口腔内の食べかすや細菌が気管へ入り誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、予防目的での毎日の口腔ケアが大切です。食後に歯磨きやうがいを行い、食べ物の残りかすや細菌を排除することで口腔内を清潔に保ちます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
- 脊髄小脳変性症発症は根本的な治療法がなく、進行は止められないため発症後は運動機能を補うためのリハビリが不可欠です。家族や主治医・ケアマネージャー・専門機関などへ相談して心の負担を和らげ、積極的に病気と付き合っていくことが大切です。
- 保険を使いデイサービスや訪問リハビリを利用して、自宅で一人でできるリハビリを能力に合わせて行いながら、運動機能や日常生活の質をできるだけ保持していきましょう。
編集部まとめ
脊髄小脳変性症とは、平衡感覚や筋肉の緊張を保持して動作をスムーズに行える役割を担っている小脳や脊髄に障害が発生し、運動失調が起こる病気の総称です。
原因には遺伝子の異常が関わっている場合もあり、その遺伝や発症の原因について研究が進んできていますが、まだ不明な点も残されています。
検査は医師が問診・神経生理学検査(脳波)・画像検査(MRI)を行い脊髄小脳変性症の診断をします。
治療は、病状の進行を止める根本的な方法は見つかっていないため、症状を鎮める対症療法を行っているのが現状です。
脊髄小脳変性症発症をすると徐々に運動機能の障害が進行し歩行中に転倒するリスクが高くなってきます。
運動機能を保持するためにリハビリをしたり、家に手すりを取り付けたりするなどの対策を行い、転倒するリスクを減らすことが大切です。
参考文献